魔法転生 転生したら魔法だった
第二話 死
魔法には、ゲームでいうレベルのようなものがある。さすがに表示されるわけではないが、ある程度経験値を獲得するとランクアップして強い魔法へと進化できるのだ。
美少女との契約を勝ち取るには、ひとまず弱い魔法といわれた現状を脱却しなければならないだろう。
そのために、まずは自分の能力の確認を行うことにする。
一番大事な魔法の威力を調べるために、魔物を探す。俺の魔法はエネルギーショットと呼ばれるものだったはずだ。
店主が何度か俺を勧めているときに、そんな名前を言っていた気がする。どの客も、そんな雑魚魔法はいらないって突っぱねていたけどなっ!
恐らくは最弱の魔法なのだろう。さてさて、どの程度の威力なのだろうか。
いくら弱いっていっても、一応は魔法だ。地球人に当てれば一撃必殺くらいの威力はあるだろ、さすがに。魔物にだって、数回当てれば勝てるはず……。
店での盗み聞きが情報源だが、魔法を上手く使いこなせて、初めて冒険者は冒険者として認められるのだ。それだけ、魔法はこの世界で貴重なものだ。
俺は自信の満ちた心で、魔法を構成する。
「ガルル……っ」
ウルフは魔力が集まることを感じたのか、俺のほうを見て吠える。
現在の俺は前世の身長――約180cmの高さをぷかぷかしている。ウルフの攻撃は届かないと高をくくって、魔法を放つ。
『エネルギーショット!』
と言った瞬間、俺の身体が真っ直ぐに飛ぶ。マジか。
そういや俺魔法だったな、とウルフに向かって飛んでいく。なかなかの速度だ。銃弾にだって勝てそうだ。
ウルフはタイミングよく前足を振るう。切り裂かれる俺。全身が痛くてたまらない。
自爆的な攻撃であったが一応は当たった。
……無傷、だな。爪くらいならば削ったかもしれないが、その程度だ。俺は痛む体を起こして、とにかく高い位置に逃げようとするが、180cmの高さが限界だった。
ま、まあ大丈夫だろ、と思っていると、ウルフが大地を蹴って俺を切り裂いた。
今度は一瞬で意識がなくなった。ああ、ここで俺の人生は終了するのか……。来世は記憶なくてもいいから人間になりたい。
○
そんなあっさり来世が来てはくれなかった。
ぱちりと目が開く。実際に目があるわけではないのだが、目を閉じると真っ暗になるのだから似たような機能が備わっているのだろう。
飛び込んできたのは魔石による明かりだ。
俺は無事な体を見て、首を捻る。少しばかり力がなくなったように感じるが、外傷はない。
ウルフに真っ二つにされたのだから無傷ということはおかしいのだが。
……考えられるとしたら、俺は死ぬたびに魔力を失っていくのかもしれない。それがゼロになるまでは、何度でも生き返られる、のだろう。
ゲームのデスペナルティみたいな感じか。俺の力が死ぬたびになくなっていくのだから、強くなりたいならばどれだけ死なないかが重要だな。
自殺して来世に期待というのもありだが、難しいな。何度も全身を切り裂かれる痛みとか味わいたくない。
……やはり、強い魔法になって就職活動をしないとな。就職先は美少女のもとだ。
俺がどうして捨てられたのか理由もはっきりした。あんな弱い魔法では契約してくれるのは酔狂な奴くらいだ。
……どうやって魔物を狩るか。
どうしたって俺一人では狩れないだろう。
ぷかぷかと徘徊していると、冒険者とウルフが戦闘を行っているのに遭遇する。
現在俺がいる迷宮は地下一階層だ。
どこかの制服と思われる人々が、それぞれ指示を出して戦闘を進める。
あの制服は可愛いし、それを着こなす女性たちも美少女が多い。俺あの制服の学園に行きてぇな。
パーティーは女性のみだ。これにもちゃんと理由があるが、今は戦闘に集中する。流れ弾に当たるとかは絶対に避けたいし。
「左からくるわよ!」
「おっけー、あたし魔法の用意するから! 守ってね!」
「わかったわ」
返事した女性が魔法を構える。女性が多い理由はこれだ。
魔法と契約できるのは、女性だけだ。男性は魔力だけを所持しているので、それを利用して俺たち魔法を作るのだ。
この世界の人間の体には、魔力を生み出す器官と魔法を精製する器官があるらしい。男には前者、女には後者のみがあるのだ。
……たまに天才といわれる奴が両方を所持しているが、まあそれは例外だ。
戦いの行方を見守っていると、俺は不意に影に包まれる。
太陽があるわけないのに、途端に暗くなったことに疑問を抱く。
「い、一階層の主だ!」
……まさかな。俺はひくひくと体の一部がひきつる。
「逃げるわよ!」
冒険者たちが口々にいって、ウルフを無視して逃走する。ウルフは冒険者を追おうとするが、俺の方を見て怯えたように去っていく。
俺に怯えるわけないよな。ならなぜ逃げたのか。
俺は嫌な予感に体を震わせながら、そっと振り返る。赤く大きなウルフが、俺を睨んでいた。
『……見逃してくんね?』
返事は鋭い爪だった。
真っ二つにされた俺は、今日二度目の死を味わうのだった。
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