よくあるチートで異世界最強

木嶋隆太

第十五話 謎島





 1




 体を引きずりながら。空を見上げため息をついた。
 太陽がさんさんと輝いている。


(おい、戻り方は?)
(それは教えられないんじゃよ)
(……ちっ)


 海斗は全身を見やる。
 第九部隊の制服はボロボロであったが、ネックレスに損傷はない。
 右手にあるナツキの剣も、傷はない。
 ホッと胸を撫で下ろしてから、海斗はステータス画面を開く。


 58ポイントだ。
 気を失っていたが、前の分のポイントが入っていた。
 現在、海斗に注目していない神様はいない。
 海斗はもうすぐ二ヶ月も生きることになる。これは久しぶりだ。
 すでに神たちの多くは、海斗という存在を、毎日楽しみにしている。
 多くが、不可能であろう人間への進化も期待している。


 それから、各種スキルをみて首を捻った。
 鑑定、鍵開け、経験値五倍、熟練度五倍、魔物操作、デコイLv5、自己治癒Lv5、サンダーボルトLv4、ファイアーボールLv3、肉体強化Lv6、探知Lv5、格闘術Lv4、剣術Lv4。
 すべてのスキルが成長していた。
 ゴゾッガと戦う前は、これらすべてが一つ近く低いものであった。


 強敵との命のやり取りは人を大きく成長させるのかもしれない。
 そう結論付けて、画面を閉じて周囲を見やった。
 木々が生い茂り海が遠くに見える。
 明るい空がどこまでも続く――わけではなかった。
 海斗は途中でぶつりと切れている空模様に首を捻るしかなかった。


(なんだよあれ)
(じゃから、ここは分かたれた世界なんじゃよ。不安定な……別次元にある世界じゃ)
(……なるほどな)


 長居をしてはいけない場所かもしれない。
 だったら行動あるのみだ。
 海斗は探知の魔法を使い、島の探索に向かった。




 2




 何もいない。
 魔物もいなければ、人もいない。
 探知に引っかかる者は何もなく、たまにある木の実で空腹を満たしていく。
 森がダメならば海、川、空……それらどこにも生命の反応はない。
 もちろん、微生物などはいるだろうが……目的はそんなものではない。


「ちっ、なんだよここは」
(あ、わしそろそろ寝るんじゃよっ。これ以上は返事はしないからの? というか、このままじゃと神たちの興味も薄れてしまうから、さっさと事件を起こすんじゃよ)
(事件って)


 海斗は無茶振りなアオイに嘆息する。
 一人で起こせる事件などたかがしれている。
 せめてもう一人でもいれば、そりゃあ問題は起こし放題だが、一人ではどうにもならない。


 例えば、服を脱ぎさり裸になったとしても、それを犯罪、変態と断定する者はここにはいない。
 やらないよりかはマシか。
 海斗はもうやけくそな心境で上下の服をばっと脱いだ。
 ワーウルフの筋肉がおしげもなくさらされ、息子もしっかりと世界に顔を見せている。


 一応ある太陽に全裸を見せる。
 普通の生活をしていて、外で真っ裸というのはなかなか体験できないものだ。
 そう考えれば、この時間というのはとても貴重で、他の誰にも体験できないもの。


「なにやってんだ俺は!」


 自分に向かって怒鳴りつける。
 海斗はまだまだおかしい頭を数度殴りつけてから、空を見る。
 ――太陽?
 そう疑問を持たずにはいられなかった。
 はっとなって、時間を確認する。
 二十二時十二分。


 太陽など、本来ならあがっていないような時間だ。
 そう思った瞬間から、とても気持ちの悪い感覚に襲われた。


 狐にでもつままれたような気分で、すぐに周囲を探す。
 海も森の木々も普通だ。
 空に浮かぶ雲は……時間の経過などないかのように、まるで動かない。


 時間さえも曖昧な世界、という認識で良いのかもしれない。
 異常さに包まれた世界に、気分が悪くなっていく。
 海斗はいよいよどうするか思考していると、木々が揺れた。


「へ、変態ですね」
「わたくしたちの領域に無断で入り込んだあげく、全裸になるなんて! 酷い方ですわ!」
「サーファ! この方をつぶしましょう」


 ポニーテールの女性がいえば、


「そうですわねシフォン! アレをやりますわよ」


 ツインテールの女性も続く。
 二人は似たような容姿である。
 双子、と判断しながら、服を着ていく。


「ま、待てっ。俺は別に危害を加えるつもりはねぇよ!」


 慌てて叫ぶと、二人は動きを止める。
 お互いが手で口元を隠すようにして、二人は顔を近づけてくる。
 整った顔に覗かれ、うっと息をもらす。
 目の前の二人は、海斗と同年代くらいの異性だ。
 それも、並以上の容姿を持っている。


「あんなことを言っていますがサーファ、どう思いますか?」
「さぁ? わかりませんわ。ただ、久しぶりの外の生物ですわ。ここで問答無用で殺すのは暇つぶしにもならないと思いませんこと?」
「そうですね。ちょうど外の世界について知りたいと思っていたところでしたし」


 シフォンとサーファは顔を見合わせ、ばっと手を向けてくる。
 シフォンがポニーテールを揺らしながら左手を、サーファがツインテールを揺らしながら右手を。
 お互いの空いているほうの手はきっちりと結ばれている。


「彼は魔族ですかね?」
「人間のような心を持っていますわよ?」
「ということは、魔族人間?」
「それでいいですわね」
「ということで、服を着てください」
「そうすれば、わたくしたちはあなたの話を、弁解を聞いてやらないこともありませんわよ」


 受け入れるように二人は笑みを浮かべる。
 とはいえ、シフォンはジト目をやめない。


「わかった……。服を着るからちょっと待ってくれ」


 警戒しながら、探知の魔法を使用する。
 レベルがあがったことで、広範囲を正確に調べることができるようになっている。
 しかし……それでも彼女たちの姿を捉えることはできなかった。
 探知が通用しない。
 今までに出会ったことがなかった。


「手が止まっていますわよ」
「手伝って欲しいのですか?」
「いやーですわよ。わたくしたち、そんなメイドのようなことはしませんの」
「同意見です。欲望を外にぶちまけたいのですか? そのようなことをするのでしたら、私たちの目の届かない場所でお願いします」
「欲望ですの? なんですのそれ?」
「つまりですね――ごにょごにょ」
「な、なんて破廉恥なっ! 男っ、もしもそのようなことをするのでしたら、わたくしが潰しますわ」
「……何をだよ。つーか、何もしないから……攻撃姿勢をとらないでくれ」


 さっさとズボンをはき、上着を羽織る。
 今さらボロボロの服を着るのも気分が良くないが、仕方ない。


「ボロボロですね。趣味ですか?」
(んなわけあるかい)
「この世界に迷い込む前に激しい戦闘があってな……それでボロボロなんだよ」
「ということは、新品なものがあれば着ますの?」
「ああ」
「でしたら、シフォンわたくし能力を使いますわね」
「わかりました。どうぞ」


 そういって、シフォンがサーファの手の甲にキスをする。
 途端サーファの体から魔力が膨れ上がる。
 ゴゾッガの最後のときに匹敵するような爆発的な魔力。
 ぱちんとサーファが指を鳴らすと、海斗の服が光をあげて……新品そのものになる。


「……お、おまえらは……なんだ?」


 異常な力を見せられ、海斗の警戒はより強まる。
 ニヤリとシフォンが笑みを浮かべ、おーっほっほっとサーファが笑ってみせる。


「わたくしたちは」
「精霊王です」
「違いますわっ。システムの管理ですわよ!」
「えー、精霊王の方がかっこいいです」
「いーや、世界の支配者のほうがいいですわっ」
「変わっています」


 二人がにらみ合い、殴り合いが始まる。


(精霊王……システムの管理……世界の支配者?)


 とにかく、とてつもなく巨大な者たちであることは判明した。




 3




 サーファがテーブルと椅子を作り出し、海斗は席に腰掛けて二人を見る。
 異常な能力だが、海斗も多少は慣れた。


 海斗からみて、右にシフォン、左にサーファが座っている。
 先ほどの喧嘩はあったが、それでも二人の仲はとても良いのか、今も手を繋いでいる。
 二人は互いの体温が伝わるようにくっついている。


 丁寧で、冷静、何よりポニーテールが似合うのがシフォン。
 自信にあふれ、お嬢様っぽい雰囲気、ツインテールの女の子がサーファ。
 海斗はちらと二人に鑑定を使用する。


 しかし、サーファ、シフォンという名前しか表示されない。
 スキルや職業、レベルについては『?』としか表示されない。
 鑑定が通用しない相手……探知にも引っかからない。
 二人の存在が激しく気になっていた。


「……おまえたちは、結局なんなんだ? ここで、何をしているんだ?」
「その質問は私たちがしたいものです」
「そうですわ、そうですわ。わたくしたちはこれでも、今おまえを生かしてあげていますのよ? 先にあなたの存在がはっきりしないと何も答えたくありませんわ」
「そうですそうです。サーファが体を許すのはそれからです」
「そんなことしませんわよっ。さぁ、おまえは何者で、どこからどうやって来たのか、詳しく話してくださいまし」


 サーファが腕を組むと、シフォンも同じように組んだ。


「……俺は、魔族の国から迷いこんだんだよ」
「迷い込むにしても、普通ではありえません」
「敵との戦闘中だったんだよ。……大きな魔力爆発が起こったんだ」
「なるほど、それでしたらおかしくはありませんわね」


 シフォンの手の甲にサーファがキスをする。
 今度はシフォンの魔力が膨れ上がり、シフォンが指を鳴らす。
 空間に穴が開いた。
 あっさりとやってのける彼女に、あいた口が塞がらない。


「これが、魔力爆発による時空の歪み穴です」
「よっぽど強烈でなければ、まずできないことですわ。おまえ、なかなか強い相手と戦って生き延びましたのね」


 サーファの余裕のある言い方に、汗が浮かぶ。
 二人は簡単に時空へと穴を開けるほどの魔力量。
 怒らせるようなことをすれば、二人を相手にすることになる。
 さすがにそれは骨が折れる。


「それで、カイトさん。これからどうするのですか?」
「……俺はもとの世界に戻りたいんだが……出来るか?」
「そうですわね……まあ、出来ないこともありませんわね」
「本当か……?」


 ほっと息を吐いた。
 この世界からの脱出方法がまるでわからなかったため、一気に目の前が明るくなった。
 しかし、シフォンとサーファは顔を見合わせ、何かを企むように笑顔を浮かべる。


「……ですが、ただでとはいきません」
「ええ、そうですわね」
「何を要求するんだ?」


 あるのは自分の身と、武器、ネックレス、服くらいなものだ。
 シフォンがピースを作り、サーファが敬礼をするようにポーズをとる。


「わたくしたちは、あるモノを求めていますのよ」
「はい、サーファは男に飢えています」
「違いますわよっ。そう、わたくしたちは……師、が欲しかったのですわ」
「師?」


 何も教えられるようなことなどない、というのが最初に思ったことだ。
 彼女らのほうが明らかに実力は上だ。


「ええ、私たちはここでの暮らしが長いですからね。もう百年くらいでしたか?」
「そうですわねっ。ですから、あなたの世界についての情報もまるでありませんの」
「ああ、なるほどな」


 海斗だって詳しいことは話せない。
 とはいえ、彼女らが本当に百年ここで暮らしていたのならば、まだ海斗のほうが知識は新しい。


「わかった、それで引き受けてやる」
「やりました。交渉成立です」
「やりましたわっ。いえーい!」


 シフォンとサーファがハイタッチをして、喜び合う。
 海斗は二人をみながら息をはく。
 もっと聞きたいことはいくらもあったが、彼女たちを見ていると昔を思いだしてしまう。
 どうにも、この今ある幸せを邪魔したくはなかった。
 その幸せがいつまでも続くわけではないから。
 少しでも長く、今の時間に浸っていたかった。



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