よくあるチートで異世界最強
第六話 進化
1
約一ヶ月が経過した。
これだけ異世界で人間が生きたということで、海斗のポイントはどんどん溜まっている。
神たちからすれば、小説が一ヶ月更新されなくてもたいしたことではない。
時間の感覚が人間とは大きく違う。週刊雑誌が一ヶ月も刊行されなければ、大問題だろうが、神たちは気にしない。
人生を小説にしているという考えがあるため、たまに修行期間などというものがある程度は問題ないのだ。
現在所有ポイントは54ポイント。
それも今獲得できるスキルのすべてを獲得した上でだ。
進化に必要なポイントは50。
もう条件だけは達成しているが、進化先は三つあり、悩んでいた。
海斗はスキルをみる。
最近は冒険者に接近しての情報収集はしていないため、新たに覚えたスキルはない。
鑑定、鍵開け、経験値五倍、熟練度五倍、魔物操作、デコイLv1、自己治癒Lv2、サンダーボルトLv2、ファイアーボールLv1、肉体強化Lv2、探知Lv2、格闘術Lv2、剣術Lv1。
海斗の獲得したスキルはざっとこれだけだ。
魔物操作は自分未満の魔物しか操れなく、特殊な魔石が必要なため、今後も使うことはないかもしれない。
スキルは使用しなければ育たないため、ファイアーボール、デコイ、剣術はあがっていない。
ファイアーボールよりか、サンダーボルトのほうが使い勝手がいい。
デコイを使う暇があれば、サンダーボルトを使ったほうが燃費が良い。
いつでも問題なく使用できる探知は、暇さえあれば使用しているため、そろそろレベル3にあがりそうな気がする。
一応、いまレベル1のスキルも2レベルに近づいている。
そして、隣にいるナツキは、街の出入りもそれなりにしているため、綺麗な服に身を包んでいた。
ナツキ・アルフェルド Lv3 冒険者
剣術Lv3 肉体強化Lv3 経験値五倍 熟練度五倍
ギルドに登録して冒険者にもなっている。
ナツキは日常生活も、最低限ではあるが一人でこなせるほどになっている。
たまに詐欺にあい、大泣きするが、金は魔物の素材を売ればいくらでも作れる。失敗して覚えていけばいい。
ナツキは常人よりも五倍成長が早いが、普通の人間よりも訓練にあてる時間が多いため、並みの冒険者を大きく越えるだろう。
一日魔物狩りをしていても飽きなく、海斗が探知によって無駄なく魔物を探せる。
冒険者の中には一日中探し回り、一体の魔物としか出会えないこともあるくらいだ。
「カイト、ご飯作ったわよ!」
自慢げに彼女は料理を見せる。
街で買った火魔法が書き込まれたフライパン。
そこに適当に野菜と肉をのせて作るだけの豪快な料理。
ゴブリンの味覚はそこまできちんとしていないため、ぱくぱくと食べる。
まずい、という感覚だけはわかる。
「金に余裕が出来たら調味料を使うといいんじゃないか?」
「うーん、そうね。……それより、今日はどうする? かなり西のほうにゴーレムが出たらしいわよ?」
「そうか……遠出になるが、行ってみる価値はあるかもしれないな」
「けど、危険もあるわよ? 途中にいる魔物で、オークも出てくるし。カイトは、まだ進化しないの?」
「進化先がな……」
武器ゴブリン、スケルトン、ウルフ。
この三つが、ゴブリンの進化先だ。
「図書館で簡単に調べたけど人間に戻るには、呪いをかけた人を倒すか、魔物が進化するしかないんでしょ?」
「ああ」
「で、魔物が進化したものは魔族って呼ばれているのよ。……つまり、完璧な人間には戻れない。呪いを解除するまでは」
「……何がいいたいんだ?」
「別に進化はなんでもいいんじゃない? 安心しなさいよ。いつかあたしが強くなったら、あんたに呪いをかけた奴を倒してあげるから!」
「わかったよ。それじゃあ、明日ゴーレムを倒しに行くっていうのでいいか?」
「何? 進化するの!?」
「ああ。それで、新しい体を使いこなすことに専念するって感じだ」
「そうね。出来ることをしっかりと確認しないと危ないもんね」
ふんふんとナツキは頷く。
腹を満たしたところで、海斗はステータスを開いた。
2
候補は三つ。
簡単にではあるが、説明が出る。
武器ゴブリン。
ゴブリンの進化系。ゴブリンを一回り強化したような魔物。武器の部分に選択した武器の名前が入る。ただし、武器は別に必要。
スケルトン。
骨だけ野郎。ただし、魔力は多め。
ウルフ。
ペットにする人もいるよ。可愛いけれど、その牙は鋭いんじゃ。
恐らくはアオイの解説だ。
アオイはこれが良い、とかここに行けなどは神様的なルールで言えないが、こういった少しの解説はできる。
だいたいこれで、アオイがスケルトンを嫌いなのは理解した。
そして、ウルフを滅茶苦茶押している。
海斗も武器ゴブリンはそもそも興味がなかった。
どうせならば、別の魔物を試してみたかった。
武器ゴブリンがバランス、スケルトンは魔法タイプ、ウルフはスピードタイプだ。
個人的にはウルフを選択し、逃げながらサンダーボルトを連発したい。
とはいえ、ウルフの魔力が極端に少ない可能性もある。
それに、四足歩行の魔物になると今後が心配だ。
「ナツキは、ゴブリン、スケルトン、ウルフどれがいい?」
「うーん……カイトがウルフになったら可愛いと思うわね」
「ウルフの評価が高いんだな」
「……でも、ウルフってあんまり強くないわね。スケルトンって冒険者はそれなりに相手するのが嫌いっていうのもいるわよ」
「理由は?」
「あいつら、地面の中から驚かすように出てくるんだって」
「……なるほど」
魔物ごとに、特性みたいなのもあるかもしれない。
土の中に隠れられれば、スケルトンはかなり使える。
魔法の威力もあがるだろう。
海斗はスケルトンを選択する。
「……うっ」
体がうずく。
全身を光が包む。
「キャッ!? だ、大丈夫!?」
「あ、ああ……」
痛みが全身に広がり、やがて体が作りかえられていく。
酷い熱が全身を包み、呼吸が乱れる。
やがて、光が治まる。
海斗は手をみやり、そこに骨の手があるのがわかる。
目線も高くなり、生前のものと同じ――180ほどはある。
おかげで、木の中が狭い。
最近ナツキの成長に合わせて上にも削っていたが、もっと掘り進める必要がありそうだ。
「……スケルトン、カイト大丈夫?」
「ああ、大丈夫だ」
「ど、どこから声が出てるのよ?」
「わからんが、普通に聞こえるか?」
「うん、びっくり」
完全に体はスケルトンだ。
ナツキが買ってきたバケツを持って外に出る。
中の水をみると、どこかのお化け屋敷にでもおかれていそうなスケルトンがいる。
結構リアルであり、一瞬驚く。
アオイが否定的な解説をしていたのもこれが理由だ。
「ねぇ……あんた、お面つけてでっかいフード被れば……街の中に入れるんじゃない!?」
「さすがに無理だろ。……これで顔だけでも人間に進化できれば、な」
「そうよね……動くたびにからからうるさいもんね」
スケルトンの体であっても、力はゴブリンのときよりかはある。
おまけに魔力が膨れ上がっている。
一ヶ月の訓練で、ゴブリンのときでもサンダーボルトを二連発できたが、今ならば三連発はできる。
「カイト、準備はできた?」
ナツキは剣を振りながら顔を向けてくる。
暇があれば剣を振るように伝えている。スキルはこういった訓練でも十分あがっていく。
「ああ、魔物を狩りに行こう」
安全な大木から離れ、海斗たちは魔物を狩りにいった。
3
レベルアップしたあとのナツキが調子に乗るのもわかる。
進化しただけで、今まで肉体的に厳しかったウルフでさえ、格闘だけで倒せるようになった。
ゴブリン、ウルフ、ソードゴブリン、スライム……これらすべて簡単に倒せてしまう。
最近始めたオーク狩り。
眠っているオークを攻撃するだけだ。
今日も行う。
ナツキがオークの近くにいったところで、海斗がサンダーボルトを放つ。
まずそこから違った。。
ゴブリン時代では喉や目などの柔らかい部分でしか通用しなかったサンダーボルト。
そのサンダーボルトがオークの腕を弾き飛ばした。
おまけに三連発できる。
三連発だ。
足を二つ吹き飛ばし、ナツキが距離をあける。
オークは一定の体力に到達したところで、咆哮を使ってくる。
回避がとれる位置で聞こえるが、海斗とナツキには攻撃ではなく悲鳴にしか聞こえなかった。
そもそも、回避など必要ないようなものだ。
生きているだけで不思議なくらいのオークに、ナツキがトドメを刺した。
「余裕だったわね!」
「……だな。これで、これからの経験値稼ぎはオークを中心に回していくことができるな」
「ね、最近ゴブリンとかが減ってきているって冒険者ギルドでも言われていたわよ」
「……減らしすぎるとまずいのか?」
「別に。むしろ、この機会に全滅させようって考えもあるわよ? ま、どうせまた別の土地から移り住んで来るんだろうけどね」
のんびりとフィールドを歩いていく。
と普段ならば、魔力がある限り使用していた探知を怠っていたせいか、冒険者とばったり出会ってしまう。
「げっ」
「……っ!」
冒険者たちは、目を合わせると同時に即座に逃げだした。
「……す、スケルトンだ!」
「に、逃げろ!」
「ギルドに戻って報告だ!」
相手が初心者冒険者でよかった。
殺すことも考えたが敵は四人。サンダーボルトでは狩りきれない。
それに、ナツキにはさすがに刺激が強い。
なによりこれは、探知魔法を使わなかった海斗のミスである。
海斗は額に手をやる。
「……カイトも調子に乗ってたの?」
からかうようにナツキが目を細めてくる。
「ああ、たぶんな……」
人に散々説教しておいてこれなのだからその羞恥は大きい。
人間の顔であれば真っ赤になっている。
ゴブリンであれば、見つかってもむしろ冒険者が襲い掛かってきた。
僅かな新鮮さだ。ここでは感じたくなかったものでもあった。
「……どうするの? たぶん、討伐依頼が出るわよ?」
「そうだな……。俺はこの街を離れる」
ナツキももう一人で生活できるほどになっている。
魔族とともにいる、となればナツキに対する不審も高まることになるだろう。
ちょうど良い頃合だったかもしれない。
「え? ひ、一人で、行くの?」
不安そうにナツキが震える瞳を向けてくる。
まだ一人、という言葉に恐怖があるのは見て取れる。
「それは……自分で決めてくれ。悪いが俺は……あんたを面倒みるとは言いきれない。なんせこんな体だしな。……それでもいいなら、選択してくれ。俺とついてくるか、この住み慣れた街で冒険者になるか……、どっちにする?」
「……ちょっと、考えてもいい?」
「……なら、頼んでいいか? さっき言っていたみたいに、姿を隠せる道具を買ってきてほしいんだけど」
「わかったわ。……うん、街から戻ってきたら、伝えるから」
海斗はすみやかに住処に戻り、ナツキは街へ向かう。
旅にあたり、特に必要なものは別にない。
大木の前で、スキルを強化するために体を動かした。
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