召喚先は魔王様の目の前だった

木嶋隆太

第二十二話 奪還2

「……あなたのねらいは何ですか? 金、宝石? それとも上玉のエルフ?」


 ……俺とテーレたちの関係はばれていないみたいだな。
 なら、シラを切るだけだ。


「はっはっはっ、俺はお人よしなんだ。近くの森でエルフたちが苦しめられていると聞いたら黙っていられなくなってな。ここを管理しているあんたを潰しにきたってわけさ」
「……なんですと」


 男はあからさまに焦ったような顔を見せる。
 焦っている……。それはつまり、この大男がやられた場合、彼には俺を超える戦闘能力がないのかもしれない。
 なんだ。思っていたよりもラクにことが進みそうだ。
 鼻をかるくかいてから、男へと突っこむ。
 くっと表情をゆがめた男であったが、すぐに笑みを浮かべる。


 何かあるだろう。俺は剣に魔力を集めながら、横に転がる。
 そのまま進んでいれば間違いなくやられていただろう、火魔法がその場に展開される。
 ……あぶねぇな。
 その背後から、大男の一撃が振り下ろされる。


「私だけじゃないぞ!」


 一気に有利になったからか、男は高らかに笑う。
 大男と男の魔法を避けていく。
 時に体がねじ切れそうなほどの捻りで、直撃しそうな大剣を横に逸らして距離をあける。
 ……だいたい分かったな。
 大男が剣を振るとき、男の右手に魔力が集まっている。
 たぶんだが、あの指輪のどれかに大男を操るためのコントローラーがあるんだろうな。
 近づいていくべきか。


 想像以上に、今の俺は余裕を持っていた。
 魔王との訓練のせいか、この程度の動きならば全然目で捉えられるのだ。
 それに、長時間の戦闘のおかげか、男の魔法が発生するタイミングを肌で感じ取れるようになってきた。
 出来ることは確実に増えているが、俺がやることは同じだ。
 大男を――いや、男の指輪を奪取することだ。
 大男との剣戟に、やがてエルフたちが外に出てくる。
 それらには、明らかに怯えの色が見えた。人間が、なぜか自分たちを管理している者と戦っているのだ。
 エルフ達からすれば人間も敵であるはずだし、困惑は大きいだろう。


「ちっ、いつまで逃げているつもりだい!?」


 男が激しく腕を振り上げる。
 確実に、大きな攻撃が来る。これまでの経験から容易に予測でき、俺は一気に大男へと突っこむ。
 振り下ろされた大剣をかわし、そのまま大男を駆け抜ける。
 放たれた火魔法を体をねじってかわす。あちち、ちょっと当たったっての!
 だが、これで――


「こん、ばんは!」


 振り下ろした剣が男の足をかすめる。
 浅く切ったつもりだが、それだけでも男はまるで、断末魔のような悲鳴とともに足を押さえた。
 そのまま背中に肘をぶつけ、彼の指の宝石すべてを奪い取った。


「や、やめろ!」
「これで、大男を操っていたんだろ? どれどれ」


 指にはめて軽く腕をあげる。動け、と念じると大男が体を動かした。その場で軽くダンスをさせると、糸が切れたように止まった。


「……魔力が必要なのか」


 俺にも魔力があるらしいが、まだ自分の意思で使うことはできない。
 指輪は色を失い、大男もその場で倒れた。近くの民家に倒れこんでしまい、盛大に破壊したが……被害は出ていないようだ。
 小さな騎士たちも動かず、テーレとメイド長も解放される。


「た、タイガ!」
「おお、よかった。まだ無事か二人とも」


 テーレが勢い余って俺にタックルをかましてくる。それを受け止めると、彼女の肩が思っていた以上に震えているのがわかった。
 生意気なことをいうことはあっても、根は臆病だしなぁ、テーレは。


「……どうしてここが?」
「そりゃあ、俺の嗅覚凄まじいからな……ってひくなひくな。魔王様が持っているドラゴンが、魔力を探知できるんだよ。エルフ……というか、近くの森にある魔力を調べさせたら、すぐにわかったんだよ」
「……そう」
「さぁ、戻ろうぜ……って思ったがこの状況だ。どうすっかねぇ……」


 エルフたちが、警戒した様子でこちらに鋭い視線を向けてきていた。
 中には、包丁を構えているものたちもいる。
 良く見ればエルフたちのほとんどが、首輪や腕輪をつけている。……いや、つけさせられているというほうが正しいのか。


「……み、みんな! 彼は……敵ではないわ」


 メイド長が両手を広げ、俺とエルフたちの間に入ってくる。
 エルフたちの中で、一人が前に出てくる。


「……それでは、そいつは何者だ?」
「か、彼は……その……」


 メイド長が言いあぐねてしまい、俺は彼女を押しやるようにしてニヤリと笑った。


「俺はただの人間だよ。けど、ちょっぴり優しい心を持っていてね。あんたたちはこれからどうしたいんだ?」


 警戒されていたので、軽い調子で伝える。


「……自由をくれるというのか?」
「そうだ。あんたたちが自由に生きたいっていうなら、俺はもう何も関わるつもりはねぇよ。この男だって好きにしてくれて構わねぇ。でどうするんだ?」
「……自由には生きたいが、この首輪と腕輪を外さない限り、どうにもならない」
「鍵、でもあるのか?」
「……あるらしいが、その男の家に厳重にしまわれている。エルフの私たちでは触れられないよう、魔法処理も施されている」
「案内してくれ」


 時間が惜しいが、彼女たちを自由にしてからでなければまずいだろう。
 駆け足で男の家に向かう。森の中とはいえ、立派な一軒家だ。


「……はぁ、これはあんたたちが作ったのか?」
「不満しかなかったがな」


 エルフの一人がそこで立ち止まる。


「鍵が……ない」
「……ちょっと離れてろ」


 あの男の家ならば良いだろう。
 剣を軽く振ってドアを破壊して、さっさと中にはいる。
 明かりがつけられたところで、すぐに宝箱を見つけた。


「……おっ、なんだこりゃ?」
「この中に鍵が入っている……。エルフが触ろうとすると……こうだ」


 エルフが手を伸ばした瞬間に、ばちっと強い衝撃が走る。
 だが、俺が手を伸ばしても効果はない。


「エルフたちが取りたくてもとれないという状況にして、あの男は楽しんでいたんだ」
「なるほどな。……でも、やっぱり鍵が必要みたいだな」


 宝箱を開けようとしたが、動かない。
 仕方ない。さっきから荒っぽいが、剣を何度か叩きつける。段々と変形してきて、最後に魔力をのせた一撃で完全に破壊する。
 中には大量の鍵があり、エルフに投げ渡す。
 ……どの鍵がどれか分からないため、時間はかかりそうだがこれで大丈夫だろう。


「……ほ、本当に、良いのか?」
「ああ。俺はあんたたちについては、何もするつもりもなかったしな。……テーレとメイド長は、ちょっとここで待っててくれないか?」


 男をすまきにしたあげく、エルフたち全員が何度も拳を入れたために、酷い有様であった。
 ここに集められているエルフの多くが、無理やりにつれてこられたか、奴隷であったものたちだ。
 男への不満は随分と溜まっていたようだ。


「町に戻るのではないの?」
「まぁな。まだ行かないといけない場所があるんだよ。それが終わったら、迎えに来るよ」


 テーレが不安そうにこちらを見てくるが、すぐに首を振る。


「……だ、大丈夫よ。あんたこそ……何か、頑張って」
「おう。了解だ。じゃあ、そういうことだ。エルフさんたち、しばらくお願いするな」


 剣を背中にしまってから、走り出す。
 こちらにたくさんの視線があったので、とりあえず片手をあげて振っておいた。




 ○




 森をがむしゃらに抜けると、すぐにドラちゃんが降りてきた。


「次に向かう場所はあっちのほうだ!」


 地図で見た場所をドラちゃんに伝えると、すぐに頷いた。


『ずっと前から、大量の魔力は感じ取っている。魔族軍と、人間の軍が……恐らくあと少しでぶつかるだろう』
「はぁ!? 森があるんじゃなかったのか!?」
『見てみろ』


 ドラちゃんが指差した方角を見やる。
 暗い夜空で何かが舞っている。
 目を凝らしてもよくはわからなかったが、ドラちゃんが言う。


『あれはワイバーンだ。足が衰え、地上を歩くことのできないドラゴンの偽者だ』
「……偽物なのか?」
『地上、空中、海中……すべてで生きられてこそ、ドラゴンだ。我はちなみにどこにでも適応している』


 海にもは凄いな。


「……ワイバーンに乗って移動していたってのか?」
『恐らくはな。だが、魔族軍が気づかないのも無理はない、な。敵の強力な隠蔽魔法がかかっているようだ。……あれほどの魔法……、普通の人間には使えない』
「……勇者、か」
『そうなるな。このままでは、魔族軍は空中から一方的にやられるだろう。こちらも、何体か竜を用意しているようだが――ワイバーンはむかつくが空中では確かに強い。我以外の竜では、厳しいだろう』


 ……つまり、ドラゴンってバランスタイプってことか。
 ワイバーンのように、空中にだけ特化されてしまうと、少し厳しくなるのか。
 ドラちゃん以外は微妙じゃねぇかそれ。


『と、交戦したようだな』


 魔法だろうか。
 光が生まれては消えていく。怒号が空を破り、静寂の夜空を駆け抜ける。


「ハリードラちゃん!」
『良く意味はわからないが……その焦りよう。急げということか? 悪いが、これでもう全力だ』
「おせぇよ! ファイト!」
『ば、馬鹿にするな! 他のドラゴンならば、我の三倍はかかるぞ!』


 ふんと顔をそっぽに向けるドラちゃんだが、しっかりと前を飛んでいく。
 俺でも見える。
 地上では人間と魔族が武器を交え、空中からの攻撃に次々とやられていく。
 ……いや、魔族たちからは戸惑いのようなものも感じ取れる。


「まさか、まだ隠蔽されているのか?」
『そのようだな。というか、我は魔力探知が得意だから隠蔽魔法を見破れるが、タイガはどうして見えている?』
「え、ドラちゃんが何かしてくれてんじゃねぇのか?」
『いや……そのようなことはしていないが。と、来るぞ!』


 ワイバーンたちがこちらへ気づき、俺は一応剣を掴む。魔力を十分にためて、一応援護ができるくらいにはする。
 ワイバーンとともに、槍を持った騎士が襲い掛かってくる。
 ドラちゃんは器用にかわし、尻尾ではたく。……ワイバーンはうたれ弱いようで、すぐに姿勢を崩す。
 騎士がかぶと越しでもわかる迫力のある睨みとともにワイバーンの背中を蹴る。
 根性を振り絞ったワイバーンが突っこんできて、ドラちゃんは真っ向から受け止める。
 と、騎士が跳びかかってきて槍を振るう。
 剣で受け、そらし、懐へと突っこんで剣を貫く。
 ……肉の感触だ。目を逸らしたくなったが、自分で選んだことだ。最後までしっかりと受け止める。
 剣を抜いて蹴り飛ばす。
 ワイバーンの背中へと戻った騎士は、ワイバーンとともに落ちていく。


「……死んじゃったかな」
『生きているほうが奇跡だろうな。……殺すのは初めてか』
「前の世界じゃ、人殺しなんて罪に問われちまうからな」
『そうか。人の命を大切にしているのだな。人間の気持ちは良くわからないが、悲しいものか?』
「……そうだな。けど深くは考えないようにする」


 謝罪や後悔は全部終わってからだ。
 俺は俺のやりたいことをやるために、邪魔な奴を消す。もしもここでためらえば、友人を失うかもしれない。
 ……俺は俺の助けたい命のために、命を奪う。それが、俺の選んだ道だ。


『そうすると良い。悲しくなったら我がそばにいてやろう……。まあ、ひとまずは、生きて帰るところからだろうな』


 大量のワイバーンがこちらへと向かってくる。全部で三十だ。よくもこれだけの数を用意できた。


『勇者はいないようだな』
「下で戦っているみたいだな」


 俺でも探知できるほどの魔力の大きさだ。


『ほぉ。少しは魔力探知が出来るようになったようだな。それじゃあ、下に降りるか?』
「骨折れちゃうだろ。ゆっくり下ろしてくれないか」
『ならば、飛び降りると良い。我が魔法で綺麗に着地できるようにしてやろう』
「マジで? ならかっこよく飛び降りるからな?」


 パラシュートのように、風魔法か何かで浮き上がらせてくれるのかもしれない。


「……というか、ワイバーンたちを任せても良いのか?」
『くははっ! 所詮は竜もどきの種族だ。本物のドラゴンに勝てるわけがなかろう』
「そうか。なら俺も目的を達成しに行って来る!」


 ドラちゃんの背中から勢いよく飛び降りる。着地のときはどのようなポーズをしてやろうか。
 下での戦闘の一つ一つが良く見える。
 上からのワイバーンや魔法による援護がなくなったのは、ドラちゃんが頑張っているからだろう。
 っていうか。全然落下速度が落ちないんだけど!
 間近に地面が迫ってくる。バルナリアの魔力が探知できた。やばい、助けてバルナリア!
 片手をそちらに向けた瞬間、全身を風が包んだ。
 ……お、遅いよ。
 俺は潰されたゴキブリのような姿勢で、顔だけをあげる。


 短剣を持つバルナリアと、周囲に転がる死体の山。
 バルナリアと向かい合っているのは一人の女性。
 黒髪、黒目……この異世界で初めて見たそいつは勇者、なのだろう。
 煌びやかな衣装に身を包み、右手には豪華そうな腕輪が密着している。
 手に持っている剣も人間たちに有名な名匠とも呼べる人間が作ったものだろう。
 だが、その顔は、一切の表情がなかった。
 人を殺す前で、俺たちのような一般人が何の感情も見せないはずがない。


 やはり、操られているそう確証を得るのに時間はかからなかった。


「美奈! 俺だ忘れたか!?」
「……」


 返事はない。
 ただ、彼女は目の前にいるバルナリアを殺そうと剣を持ち上げる。
 即座に地面を蹴る。まだ風が残っていたのか、加速は一瞬だった。
 舞うようにバルナリアと美奈の間に入り、剣を振りぬく。


「久しぶりの再会で、無視はひっでぇな! もう翔との仲をとりもってやんねぇぞ?」


 ぎりぎりという剣の押し合い。
 女とは思えない剣の重さは、魔王に通ずるところがあった。



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