召喚先は魔王様の目の前だった

木嶋隆太

第十二話 すれ違い









 次に目をあけると、なぜか体がすーすーとした。
 視線を下げるとなぜか体には何もなかった。バルナリア家で借りたせっかくの服が……っ。


「ど、どういうことだ!?」
「あぁ、やっとおきましたかぁ? 私もうあがる時間なんですけどぉ?」
「お、おまえ俺に何したの!?」
「少し、体を調べさせてもらっただけですよぉ? あなたの魔力や、体のつくりとか……やはり魔族と少し違っている部分がありましたね。あと、魔力は多くもなく少なくもないって感じでしたねぇ」
「……ああ、なんだそんなことか。満足はしたのか?」
「うーん、どうですかねぇ? 勇者として、これからさらに魔力とかが増えていくかもしれませんしぃ、また訓練をしたら見ましょうかねぇ?」
「ま、別に良いけどさ」
「……へぇ、体いじくりまわされても良いんですかぁ?」
「……ま、まあ害がない限りは」
「そうですかぁ。ならまた今度いじくらせてくださいねぇ?」


 治癒師はクスクスと含みのある笑い方をした。
 ……まあ、たぶん体に違和感もないし、大丈夫か。
 全身を確認した後、折りたたまれた衣服に身を包んでいく。
 と、ちょうど扉がノックされる。姿を現したのは、バルナリアだ。


「……不本意ですが、一緒に帰りますよ」
「おうっ」


 バルナリアの元へと急ぎ足で向かい、城を離れる。
 屋敷までの道中で、俺は昨日あったことをバルナリアに話した。


「……それで、何ですか? 関わるなと言っているのだから、それで良いでしょう?」
「……い、いや! 雇っているんだし、何かあったら嫌だろ?」
「なら、メイド長をクビにしましょうか」
「そうじゃなくてっ。困っているんだし、何か話を聞いてみたらどうだ?」
「私は城のほうで忙しいのです。そんなどうでも良いことに構っている暇はありません。あなたの件についても、さっさと片付けたいくらいなのですが」


 無関心、ということなのだろう。
 確かに彼女の考えは正しいのかもしれないが、俺には合わない。
 だからって、それで彼女を叱責するのは間違っている。それぞれ、やりたいやり方をすれば良いだけだ。


「じゃあ、バルナリアは自分に迷惑がかからない限りなら何でも良いってことか?」
「そうですね。ぶっちゃけ、メイド長が何を企んでいようとも、私の不利益にならないのならば放置しておくつもりです」
「よーしわかった。じゃあ、俺がメイド長に勝手に何かしても良いよな」
「……ええそうですね。あなたが事件を起こしてくれれば、私も処分しやすいので」


 バルナリアがふんと馬鹿にしたように笑う。
 本当に人間が嫌いなようだ。
 ……って考えると結構バルナリアは優しいほうだよな。魔王に命令されたとはいえ、大嫌いな人間の面倒を見て、さらに目立った事件がない限り処分はしない。
 屋敷につき、食事をとる。メイドたちと一緒に食べようと誘うと、嫌々ながらも一緒にいさせてくれる。
 この屋敷にいるメイドは、全部で六人だ。
 現在ここには、都合よくメイド長とテーレがいない。四人に色々と聞くチャンスである。


「なあ、あんたたちっメイド長さんの秘密とか知らないのか?」
「……なんですかいきなり? 変態ですか?」
「どんな思考したんだよ」
「弱みを握って、メイド長にエッチな悪戯をしようとしているんですよね? 不潔です」


 じっとメイドたちが信じられないと見てくる。信じられないのは君たちの発想だ。


「……じゃあ、聞き方が悪かった。今この環境に文句はないのか?」
「そうですね。言えば変わると思いますか?」


 四人が顔を見合わせる。全員が頷いている。
 ……まさか、何かあるのだろうか。
 そこで浮かんだのが、テーレのことだ。彼女たちがテーレを嫌っているのは知っていたので、今さらだったが……直接聞くのは少しつらいものがある。


「何があるんだよ?」
「あなたですよ。人間と同じ環境にいるだけで嫌なのですが? 一緒に食事したのも、これを言うためなんですよ?」
「うぐっ。……わかっている。俺が受け入れられないのはさ。……そういえば、どうして人間って嫌われているんだ?」


 魔族たちに嫌われてはいたが、どうしてなのか理由はまるで知らなかった。
 俺の発言に再び驚いた目を向けてくる。
 それからメイドたちは首を振る。


「……人間がここまで愚かな生き物だとは思いませんでした。まさか、自分たちがしでかしたことを、忘れているのですか?」
「な、なんだっけ?」
「……歴史も何も知らないんですか?」
「……俺、若干記憶に問題があってさ。その辺りちょっと詳しくないんだよ」


 ……嘘をついたため、少しつらい。
 俺の言葉に、多少メイドたちはポカンとしたが、それから口を開いた。


「……昔は、魔族も人間も一緒に暮らしていました。しかし、生活に必要七つの精霊石はさすがに知っていますよね?」
「……悪い。知らない」
「精霊石がない土地では、作物は育ちませんし、例えば水の浄化作用もなくなってしまいます。風が吹かない場合もありますしね。……とにかく、なければ生活ができません」
「凄いエネルギーを持った石で、生活必需品か……」
「まあ、国に一つあれば十分です。そして、七つの精霊石のうち三つずつ、人間と魔族で持っていました。そして、一つは人間と魔族が共存する国にありました」
「……それで?」
「ですが人間は強欲なんですよね。共存していた国では、魔王様と人間の王様が集まっていました。……そして、人間たちは魔王様を殺し、その国を奪い、さらに計画していたようにいくつもの魔族の国を襲撃していきました。何とか、魔族たちは踏ん張り、こうしてこの大国を作り……そのトップがカーリナ様となっています」
「……精霊石は今、どうなったんだ?」
「現在は、この国に三つがあり、二つが人間の国にあり……残り二つは行方わからずとなっています」


 ……魔族が人間を嫌う理由は、十分だった。
 ずっと仲良くしてきた相手が突然裏切り、そして次々に魔族を殺していった。
 話を終えたメイドは、鋭い目を向けてくる。
 俺はそれを避けるわけにもいかず、頬をかくしかない。
 いや、人間を代表して謝るとかも考えたけど、まるで意味ないしな。


「……なんていうか、大変なんだな」
「魔族の寿命は長いですからね。それはここ百年で起こったことですが、しっかりと覚えている人たちはいます」
「……バルナリア、とかか?」
「バルナリア様の父は、特に人間との共存を訴えている方でした。この家は代々魔王様に仕えているそうで、バルナリア様の父もそうでした……殺された魔王様を、最後まで守ろうとしていた方だそうです」
「わかったよ。……はー、俺はやっぱりこの家にいないほうがいいのかな? 悪いことしちまってたのか」


 俺を見るたび、彼女は憎しみがわきあがっていたかもしれない。
 椅子に深く腰かけながら、ぽりぽりと頭をかく。


「……出て行けるのならば、そうするのも良いかもしれませんね」
「……出て行けないんだよな。これあるし」


 奴隷の証を上にかざしてから、深いため息を吐く。


「とりあえず、何も知らずにあれこれ言っていたし、バルナリアに謝ってくるかね」
「意味ないですよ。あなたの謝罪に何の意味があるんですか?」
「……そうだな。よし、考え方を変えよう」


 バルナリアは人間が大嫌いだ。
 これは別に変えろ、とは言わない。けれど、例外を作ってくれても良いではないか。


「これからもたぶん俺はここに残るんだ。だから、バルナリアにせめて視界に入れても恨まれない程度に好かれるにはどうしたら良い!?」
「なんですかそのネガティブなのか、ポジティブなのか良く分からないのは」


 メイドたちの訝しんだ目に、さらされながら俺は出来る限り笑顔を浮かべる。


「過去はどうもできねぇけどさ。これからならどうにかなるんだし、まずは……バルナリアと普通に会話できるようにしようっ」
「……そうですか」


 メイドたちはなんとも複雑そうな顔であった。


「……それで、相談なんだけど、何したら良いと思う?」
「そんくらい、自分で考えたらどうですか?」
「わ、わかんねぇんだから、教えてくれよな? おまえら、どうしたら人間を許せる?」


 メイドたちも魔族なのだから、それを聞くのが一番だろう。
 期待した目を向けると、


「すべてをなかったことにできるのならば、許せるかもしれませんね」
「人間すべてが奴隷になる」
「精霊石すべてを捧げ、王様たちが死ねば」
「……も、もうちょっと現実的なことで。ほら、じゃあ俺を嫌いにならないようにするには!」


 と、そこでメイドたちは戸惑った様子を見せた。
 ……それから一人のメイドが、ぽつりと呟いた。


「テーレ。あの子のことで、少し頼まれてくれませんか?」
「……へ?」


 意外な言葉だった。
 彼女らは不安げな顔を作り、ちょっとばかり驚いた。強気な態度を崩さないと思っていたからだ。


「……彼女はエルフです。何か、よからぬことを企んでいるのではないかと思うと、怖いのです」
「エルフは……私たちがもっていない力を持っています。彼女も、それを使って私たちに何かをするのではないか、と」


 ……テーレが何かを企んでいるとは思えない。
 けど、まだ言い切ることもできないし、そもそも俺はエルフについても知らないことばかりだ。


「ちょっと、エルフの歴史も教えてくれないか?」
「エルフは、精霊石がなくても生活できるように、機械を作っていました。少し、精霊石の話をしますが……精霊石はもともと大精霊様が残したものなんです。精霊石、魔力以外のエネルギーは必ず災いを引き起こす、と大精霊様が言葉を残したのですが……エルフは機械を発明しました。機械がもたらすエネルギーは莫大なものですが……大精霊様の言い伝えどおりでは、いつか災いが来るはずです」


 ……なるほどな。
 この世界では、精霊石、大精霊様というのが大事にされているんだな。
 エルフはそれを破った。
 だからこそ、魔族に、そして恐らくは人間にも迫害されているのだろう。
 ……そして、メイドたちがテーレを恐れているのは、その教えがあったからだ。
 世界的に見れば、メイドたちのほうが正しいってわけか。


「テーレを追い出す手伝いをしろってか?」
「……テーレが、メイドとして一生懸命に仕事はしています。その姿勢を見て、感じるものはありますが……心を許すには怖いのです。だから……できれば、テーレの本心を引き出せるような機会を、用意してほしいのです」
「本心か。……そのときに、おまえたちも思いのたけをぶちまけるってのか?」
「……そう、ですね。もしも彼女が、我々と同じような考えをもっているのならば、私たちも今までのことを謝罪し、ともにメイドとしてバルナリア様に仕えたいと思います」


 何にせよ、テーレと仲良くなって、テーレをみんなと結び付けないといけないよな。


「……わかった。頑張ってみる。あ、その代わりテーレが買出しにいくときとか、テーレが一人で仕事をしているときに、俺に声をかけるように言ってくれないか?」
「そうですね。あなたがメイドとして仕事をできるのかどうかは疑問がありますが」
「そ、それは……まあ、頑張る」


 メイドたちとの話を終えて、俺は短く息をつく。
 一番知りたかったことはメイド長のことだが、それよりも片付けるべきことが出てきてしまった。



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