スマホとワンコと異世界旅
第十八話 世の中の難しさ
ゴブリンを十体討伐したところで、休憩する。
リンゴのような力強さはなく、一撃で決められるわけではないため、戦闘時間が長い。
スマホをみて、おおよそ五時間ほど経っていることがわかった。
ゴブリンを倒してから次のゴブリンを見つけるまでにも時間がかかる。
「……とりあえず、ゴブリン狩りは終了でいいか」
『捕獲は一体だけですが、よいのですか?』
「これから、一体捕獲までの訓練をしてみるんだよ」
汗を拭いながら俺はスマホの画面を操作していく。
『ゴブリンの召喚ですか?』
「ああ」
捕獲したゴブリンを試しに召喚すると、ゴブリンは俺をみて主と認識してくれ、こちらをしっかりと見てくれている。
おまけにかなり従順だ。下手をすれば肩でも揉みだしそうな勢いである。
「ゴブリン、近くに魔物はいるか?」
「ゴブゴブ!」
首を振るゴブリン。しかし、結構近くに魔力反応がある。
俺が傷つけた体も完全に治っている。
とはいえ……今のままだとフィールドにいるゴブリンと能力はさほど変わらない感じか。
ゴブリンがやがて近づいてきて、ゴブリンが警戒態勢をとる。
「……ゴブリン、俺に合わせて動けるか?」
「ゴブゴブ!」
いや、ちょっとだけ知能はついているようだな。
俺はゴブリンと連携し、ゴブリンに注意を向けた魔物を切り伏せる。
弱った魔物のゴブリンを押し倒し、その両腕を突いてから捕獲してみる。
「……よし」
ゴブリンをしまい、二体のゴブリンの確保ができた。
特に意味があるわけではないが、スマホの新しい機能にもなれた。
『捕らえた魔物については、しっかりと管理しておきます』
「なんか、わかりやすいようにレベルとかって表示できないのか?」
『それはできませんね。取得しているアビリティをみることなどはできますが……今はどちらのゴブリンも所持しておりません』
「そうか」
とりあえず、一度戻るか。
町へと戻り、ギルドでゴブリンの素材の精算を行う。
宿へ戻る頃には陽も傾き始めていた。あと一度だけ狩りに行きたいんだけど……。
扉を押し開けると、体を起こしたリンゴと目が合う。
『浩介、どうだった?』
「思っていたよりは戦えているかな」
たぶん、ここまでなんだかんだ前衛で頑張ってきたからだ。
敵の動きを予測し、体を動かし剣を振るえている。
それに、カナリーがいたから俺が前に出なくちゃという感情もあった。色々な要因があって、今の俺が出来ているようだ。
「これから薬草摘みと、麻痺耐性を持つパライドモスの討伐に行きたいんだけど、大丈夫か?」
『ちょうど、体を動かしたいと思っていたところだ』
「それとな、あと新しい仲間が出来たんだよ!」
『女か? 何歳だ?』
「何疑ってんだよ! こいつだ!」
スマホを突き出すようにリンゴへとむける。
しかし、リンゴは今さらといった反応でしかなかった。
『今までも共に戦ってきたであろう。どういう意味だ?』
「こいつ、実は結構おしゃべりなんだよ。ほら、スマホ」
しかしさっきまでのようにメモ帳が開かれることもなければ、画面が突然光ることもない。
「……おい?」
『馬鹿なことをしていないで、ほらさっさと行くぞ。夜になる前に終えたいだろう?』
「まあ、そうだけどさ……。と、その前にリンゴ服着るぞ」
ぴくりとリンゴが動き出し、逃げようとしたがその体を抱きしめて捕らえる。
『や、やめろ! そんなものは着たくない!』
「こうでもしないと俺まで疑われるだろ? この町を出るまでの辛抱だ」
『ならもっとこう……かっこいい服にしてくれれば良いだろう! どうしてこのようなものを……』
リンゴが文句をいうが、それでも無理やりに着せていった。
やがて完成したのは、どこかの雑誌に載っていそうな可愛いワンコだった。
「これなら、オスにも告白されるかもな」
『いやに決まっているだろう……。ったく、とにかくさっさと行くぞ』
苛立ったような声をあげて、リンゴが先導していく。
リンゴの後ろを追って町を歩いていく。
と、スマホが光りだし画面を見る。
『夜になると凶暴化する魔物もいますので気をつけてください』
「おまえ、なんでさっきは何も反応しなかったんだよ?」
『あの犬はあまり好きではありませんから』
「……おいおい。一応は一緒に戦う中なんだ。もっと仲良くやってくれよ」
『……』
スマホはそのまま勝手に画面を閉じた。
ポケットにしまいなおし、町の外へと出る。
「敵は蛾みたいな奴だっていうが……臭いはわかるか?」
『嗅いだことのない魔物が何体かいるな』
「じゃあ、案内してくれ」
リンゴがいるとフィールドでの移動に割く意識が減らせて本当に助かる。
一人で移動することの危険と怖さは十分堪能したからな。
それでも最低限の警戒をしながら歩いていく。少しばかり坂のようになったそこをあがったところで、
『……地中か? 来るぞ!』
リンゴが叫ぶと同時、俺は横に転がる。
「ちょっと反応遅いんじゃねぇか?」
『……悪かったな。地中を移動しているとは思わなかったんだ』
リンゴが唸りながら、現れた二メートルほどのヘビを睨む。
体を起こすようなポーズでこちらへ威嚇してくる。
足元を見ると、体を支えるようにくねりがあるため、全長はもっとあるだろう。
「こいつは……確かポイズンスネークだ! 毒の霧を吐いて来るから気をつけろ!」
『なんだと?』
と、言った瞬間にこちらへ紫の霧を吐き出してきた。
後方へと下がり、どうにか霧から離れる。
……魔法のようなもののようで、一定時間でそれらは霧散した。
剣を抜きながら、俺とリンゴは視線を合わせる。
「俺が前で気をひく。リンゴが後ろをとって攻撃でいいか?」
『了解だ』
剣を振るったり、近くに転がっている小石を拾って投げつけたりすると、ポイズンスネークはすぐに俺へと意識を向けてくる。
起き上がらせていた体を低くし、地面を這うように移動してくるポイズンスネーク。
移動は結構速い。というかこのサイズのヘビが寄ってくるのは気持ち悪い!
剣を振り切ったが、かわされる。器用に体をひねりやがったな。
胸の辺りが膨らんだため、すぐに横へと転がる。
また、毒霧が襲ってきたが、回避は難しくない。風向きを意識し、相手が有利にならないように立ち回る。
攻撃の後の隙へ、リンゴが飛び掛り、その体を切り裂く。
俺はスマホを右手にもち、ポイズンスネークへとかざす。
と、スマホが光りをあげる。……やはりリンゴも一応支配下に入っているのか。
「……捕獲!」
弱っていたポイズンスネークにリンゴが乗っていたが俺が声をあげると、ポイズンスネークはすぐに吸い込まれた。
……捕獲ではあるが、討伐した場所にポイズンスネークも入っており、装備するかどうか選択できるようになる。
ポイズンスネークで使える技能は、毒霧だ。……ちょっと、不安になってきたな。
現在これで、俺の魔物装備欄には、マーネプラント、ウルフ、ポイズンスネーク、ゴーレムが入っている。
この中から削除するなら、特に意味のないウルフかな。リンゴがいる限り、下位互換だし。
『……な、なんだ?』
リンゴが首を捻っている。それもそうか。
「スマホの新しい力だ。魔物を捕らえて、支配下に置くことができるんだよ」
『それは便利だな。……というと、もしかして俺も支配下に置かれているといった感じなのか?』
「たぶんな。捕獲した魔物も魔力さえあれば進化できるのだろうか……」
『できますよ』
と、俺のスマホに文字が現れる。
「おっ、ほらリンゴ見てみろ!」
『なんだ? 突然スマホの画面など見せてきて……何がしたい?』
「……え? おい、スマホ! おまえなんでリンゴには話したがらないんだよ!」
スマホの画面に文字は浮かび上がらない。
『……大丈夫か? 疲れているようだし休んだ方が……』
「俺を危ない人みたいに扱うなっ」
……まったく、スマホはよく分からない。
頭をかきながら、ポイズンスネークを取りだす。
長いヘビは俺を見ると楽しそうに体を揺らす。ヘビって尻尾を振って威嚇する奴もいるけど、これは愛情表現なのだろうか。
こうされると使い捨てるというのが心苦しくなるからやめてほしいんだけどな……。
「あっ、もしかしてこの捕らえた魔物を殴って魔力回収は……」
『それはできません。魔物たちに敵意を向けた瞬間、奴隷の首輪で魔物を縛りつけることができなくなります。正し、奴隷の首輪を破壊したあと、魔物が魔力を所持していれば可能ではあります』
「……緊急時なら仕方ないけど、保険って感じかな」
『そうなりますね』
『……おまえ、一人でブツブツ何を言っているんだ?』
そこでしばらく戦闘を行っていると、不思議な花を見つけた。
「あれは……確かネムネムバナとかいう眠り系の状態異常を使ってくる魔物だな」
『……まだこちらに気づいていないようだが、どうする?』
「念のため、俺が突っこんで攻撃する。万が一俺が眠ったら、リンゴ頼むぞ」
『喉元をかっきければ良いか?』
「よーし、リンゴ突っこめ!」
リンゴがやれやれといった様子で右に左にフェイントを入れながら近づく。
青い霧のようなものが出現するが、リンゴは一切呼吸せずにそのまま一気に噛み切った。
ネムネムバナのアビリティは眠り粉だ。
おいおい。状態異常耐性がほしいんだよこっちは。ゴーレムみたいに防御+とかないのか?
とはいえ、眠り粉も便利だろう。自分に使えば、快眠間違いなさそうだし、今の中で必要ないウルフと入れ替えるか。
肩を落として剣をしまっていると、リンゴがぴくりと耳を動かす。
視線をある方へと向けたリンゴが、再び吠える。
『もう一つ、何かが来るな』
「……おっ、あれか!?」
いたいた。
巨大な蛾を彷彿とさせる気持ちの悪い色をした魔物がこちらへと近づいてきた。
黄色と茶色のまざったそいつは、いやな羽の音を鳴らしてこちらへと近づいてくる。
そして、俺たちの近くで泊まると、羽を何度も強く振ってくる。
慌てて叫ぶが、風向きが悪い。ちょうど、俺たちの顔へと風が吹いてくるために、俺はすぐに状態異常回復ポーションを取りだす。
「お、おい! 吸わないように!」
『くっ!』
このままだとまずい。
「ゴブリン二体! ポイズンスネーク一体! 三体で連携して時間を稼いでくれ!」
ゴブリンたちも呼び、魔物たちに協力を頼む。
同時に麻痺粉を吸ってしまい、体がぴりぴりと痺れる。
それでも、ちょっとくらいなら動く。ゆっくりとポーションを口に運びながら視線をあげる。
ゴブリン二体が連携し、ポイズンスネークが下からパライドモスへと襲い掛かる。意外な連携に、パライドモスはどんどん攻撃を受けている。
……いや、強くね? 俺たち必要ねぇだろ。
すぐにリンゴにも飲ませる。
パライドモスが完全に弱ったところで、俺が捕獲を行う。
パライドモスが追加され、そして魔物装備欄からどれを削除するかということになる。
……ゴーレムを消し、その効果を調べる。
パライドモス、麻痺粉。
「……マジか」
対策の一つとして考えていたことが、崩れ去ってしまった。
そう都合よくいかないもんだな。
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