スマホとワンコと異世界旅

木嶋隆太

第十七話 新たな仲間と剣の扱い



 町の外に出た俺は南側のフィールドに出た。
 こっち側のほうが、ゴブリンなどの弱い魔物が多いという話だ。
 俺は常に剣へと手をあてながら、意識を周囲に向ける。


 たまに岩や木々がある程度で、視界は開けている。気を抜きさえしなければ、魔物から奇襲されることもないはずだが……。
 しばらく周囲をみていると、ゴブリンが二体ほど歩いている姿を目撃する。
 どうするか……。
 普段ならば逃げる必要はない敵だが、今は一人だ。


 一瞬でも気を抜けばやられる。
 いや、迷っている暇はねぇよな。
 どれだけの間カナリーがこの町にいるのかはわからない。


 とにかく、たくさん経験を積まないと。
 ゴブリンへと接近する。
 駆け込みながら剣を振りぬこうとするが、両手で踏ん張りながらでなければ強い一撃は放てない。


 ゴブリンへの先制攻撃には成功したけど、致命傷は与えられない。
 おっちゃんが言っていた言葉を思い出せ。
 素人なら、どっしりと構え、体の力を意識して戦う。
 剣を振るのなら、腕だけで振ろうとするな。下半身で支え、上半身のすべてを使って剣を触れ、と。


 ようは、動きながら戦闘をするなってことだろう。確かに、中途半端な剣になっちまうな。
 ゴブリンが飛び掛ってくるのを後退しながら剣で牽制する。
 ……これは、いいな。
 間合いの範囲を理解し、敵を近づけないように立ち回る。
 剣を強く振る必要はなく、突くように使ってもゴブリンは警戒して後退する。


 顔を見合わせ、ゴブリンは苛立ったように鼻を鳴らす。
 ……戦闘は派手さばかりが売りじゃないよな。
 じっくりと時間を稼ぎ、敵の集中力をかき乱していく手段だってある。
 思えば、ヒーニアとの戦いで、俺は焦りすぎていた。
 ヒーニアもわざわざ時間がないと言っていたのだから、そこを意識し、もっと時間を稼ぐように立ち回ってもよかった。


 反省の間にもゴブリンたちは掴みかかってくる。
 今度は最低限のダメージは覚悟しているというところだろうか。
 隙はあるが、下手な攻撃をすれば、俺もダメージを受けることになるだろう。
 ゴブリン二体の攻撃を一度剣で受け、浅く斬ってすぐに後退する。


 ゴブリンたちは、その特攻でまるで傷つけられなかったことに苛立ちまじりに跳ねた。
 ……戦闘は、単純な腕前だけじゃないんだな。
 魔物であっても、ここまで露骨に感情を見せてくる。
 人間であれば……相手の弱みを握ることが出来れば、それが一番の刃となる。


 ヒーニアの弱みを調べてみるのも、戦闘での勝利の可能性をあげる一つの手段として良いかもしれない。
 ゴブリンは連携というにはあまりにも稚拙な攻撃を繰り返している。
 そのおかげで、ゴブリンたちはどんどん崩れていく。
 俺はさらにそれを崩すように立ち回り、完全崩壊した瞬間に、剣を振りぬく。


 下半身、上半身の両方を意識した一撃は、うまくゴブリンの背中をとらえ、一撃で戦闘不能へと陥らせる。
 さらに、もう一体。
 落ちついたタイミングで、横薙ぎに剣を振りぬくと、ゴブリンは怯んだ様子を見せた。
 近づいてトドメを刺そうとすると、そのタイミングでスマホが輝いた。


 ゴブリンに注意を払いながら、スマホを見ると、捕獲しますか? という文字が見えた。


「……捕獲?」


 それについて調べようとしたが、ゴブリンが起き上がろうとしたために一度操作をやめる。
 剣でゴブリンの肩を貫き、もう一度倒す。
 その状態にして、捕獲してしまう。
 スマホから光が現れ、ゴブリンの体を包んでいく。
 やがて、ゴブリンの首元に不思議な首輪がつけられ、俺の携帯へと飲み込まれた。


「……なんだ、これ?」


 首をひねりながら、スマホを操作する。
 魔物管理アプリを開き、捕獲というものを調べてみると、すぐにわかった。
 『魔物使いであるあなたは、生物の捕獲をすることができます。ただし、条件があります』


「そういうのは、最初に言っておけよな! 魔物の捕獲ってなんだよ! おいこらスマホ」


 叫びながら条件をさらに見る。
 『その一。魔物の体力を10%以下まで削ること』
 『その二。敵を倒し、相手よりも優位にいる状況にする』
 『その三。あなたの支配下にある仲間以外が戦闘に参加している場合、捕獲はできません』


「最後のせいで、今俺滅茶苦茶怒っているからね? つーか、捕獲とは関係ねぇだろ!」


 というか……前半はリンゴが一撃でしとめてしまって気づかなかったし、途中からはカナリーも一緒にいたから気づけなかったのか。
 スマホを叩きつけるが、まるでボールのように跳ね返ってきて顎を打ち抜かれた。
 このスマホはもはや一つの武器、あるいは防具として使えるだろう。
 そして、スマホを初めてみたときのことを思い出す。


「おまえ、ほかにまだ隠していることねぇよな?」


 と、スマホはメモ帳を開き、文字を書いてきた。


『……』
「わざとそれを表示するんじゃねぇよ。不安になるだろうが。まだあるなら今出してくれ。俺はもうわらにもすがりつきたい気分なんだよ……。力が他にあるなら、今出してくれ」
『あとは、もう一つありますが、現段階では使うことができません』
「……どういうことだ?」
『最後の機能はカメラを使用します。カメラを使うことで、素材を撮り、その素材を使って完成品を作りだすことができます』
「……どういうことだ?」
『まず、体力回復ポーションをカメラで撮ってみてください』


 いわれたとおり、スマホからアイテムを取り出して写真をとる。
 すると、体力回復ポーションを作る素材が表示された。


「瓶と、薬草と魔力水か」
『実際は薬草をすりつぶすためのアイテムも必要ですが、ここでは問題ありません。次に、瓶、薬草、魔力水の三つを撮るとします。今回はまあ、撮ったという過程で話を進めますが、この撮った素材を使い、完成品を魔力を消費して作り出すことができます』
「……無から、有を作るってことか? 凄いなおまえ」
『ふふん、凄いのです。ですが、これはそこまで優秀ではありません。まず、今使えないといったのは、調合できる人、または魔物がいないのです』
「……アビリティか」
『はい。ポーションであれば、支配下に調合のアビリティ。武器などの製造であれば、鍛冶師のアビリティ持ちが必要になります。あと、一番大事なのですが魔力というか……充電を消費してしまいます。ちなみに、ポーションを作る場合はたぶん、10%程度の充電魔力が必要になります。おまけに調合中は、他の機能の一切が使用できません』
「……なるほどな」
『この魔力消費については、素材があればあるだけ減らせます。まあ、武器の製造などは、ある程度の素材を集め、足りない部分だけを私に任せてくださいって感じですね』
「それだけでも十分だけど、とりあえずは仲間がいないとどうにもならなそうだな」


 今の俺には意味がない。
 そりゃあ、街を探せばそういう能力を持っている人もいるかもしれないが、信頼できない人を支配下に入れるのは厳しい。


「ていうか、人も支配下登録できるのか」
『人間も魔物みたいなものですからね。ほら、男は狼というではありませんか、あんな感じです』
「よくわからんが……それは具体的にどうやるんだ?」
『相手に声をかけて、相手が了承の返事をすればそれで支配下登録ができますね』
「だいたい、こんなところか?」
『そうですね。これで、すべての機能の説明を終えました。あとは派生のようなものですね。さらなる進化や奴隷として捕獲した魔物を育てるなどです。それ以上の機能はありません』
「おまえ、急に優しくなったな。良い子だよしよし」


 スマホを操作しながら、捕獲したゴブリンを確認する。


「……で、これどうするんだ?」
『捕獲した魔物はその場で召喚することができます。ただし、召喚した魔物が死んだ場合二度と召喚することはできません』
「……なるほどね」
『他に聞きたいことは? へいへい』
「へいへいじゃねぇよ。おまえ急に良く喋るな」
『だって犬も結構インパクトありますしね。似たような部分あるのでずっと黙っていました。今、あの犬っころがいないというので、チャンスと思いました』


 似たようなところねぇ。
 確かに、犬とスマホが突然こんなに話しかけてきたら、俺は状況の異常さについていけなかったかもしれない。
 今になったおかげで、落ち着いて対応できているのだろう。


「……なあ、おまえに聞きたいことがあるんだけど……いいか?」
『なんでしょうか?』
「おまえや俺、リンゴに力があるのは……どうしてなんだ?」


 わかるとは思わなかったが、スマホはなんだそんなこととばかりに答えてきた。


『それについては簡単です。あなたにもともと異常な力があったからです』
「へ? ていうか、おまえ凄いよく知っているのな」
『私は気を失わずに転移していましたからね。一瞬再起動しましたけど』
「気失っているんじゃねぇのかそれ?」
『失っていません。私はそんな柔ではありません』
「……わかったよ。それで? じゃあ、俺に異常な力があったってなんだよ?」
『私も確証はありませんが……異世界転移した際にあなたの眠っていた力が目覚めたようです。あなたから力が流れ込んできましたからね』
「……えーと、つまり?」
『私は目覚めたあなたから、魔力と頑丈さをもらいました。後は、魔物使いとしての才能ですかね。あの犬っころは、あなたから力や嗅覚、敵への気配察知などをもらったようです。水鉄砲も頑丈さをもらったようですね』
「……なるほど、よーくわかったぞ」


 つまり、だ。
 俺はまるで才能がない無能者ではなかったというわけで……。


「おまえらに搾り取られまくったせいで、こんな状況になっているってことだな?」
『てへ』
「ぶっ壊すぞおいこら!」
『ならまずはあの犬っころを』
「おまえだ! あいつは色々助けてくれたってのに、おまえなんで今まで黙っていたんだよ!?」
『仕方ないじゃないですか。きちんと力が馴染んできたのが今なんですからね。本当はもっと早くにお助けしたかったのですが……』


 そんな文章が出てきて、俺は頭をかいてしまう。
 スマホにもなんだか色々あるようだ。


「わ、わかったよ。……それじゃあ、これからはサポートを期待していいのか?」
『お任せください。搾りかすしか残らなかったマスターをしっかりサポートしていきます!』
「……それ、あんまり言わないでくれる? 悲しくなってくるから……」
『残り物マスター! きっと良いことありますよ!』
「ぶっ潰すぞテメェ!」


 スマホを放り投げようとしても、手に張り付いて離れない。


「……他に何かできることってあるのか?」
『私は魔法関連には強いですから、魔器など、魔法が関わっている道具ならなんでも任せてください! ホラ見てください。あの空に飛んでいる飛行船も、魔器を使ったものですので私は自由に操作することができます』
「へぇ……」
『まあ、ある程度近くまで行く必要はありますけどね。あとはマッピングくらいですね』
「おまえ俺が一生懸命お絵かきしたの知ってる? 苦労したんだよ?」
『優しく体を撫でられました』
「その文章はちゃんと消去しておけよ」


 しっかりと保存をして別のメモを開いた。


「おい、こら……っ」


 削除しようと弄ってもスマホが妨害してくる。


『とにかくです。このくらいが私の限界です。地図アプリに、一度通ったフィールドや、地形関係などは記録しておきました。また、先ほどのレード洞窟をダンジョンとし、地図も記録しておきました。優秀でしょう?』
「遅いんだよ!」


 何もかもが!
 声を荒げたが、よく考えれば俺は一人だ。
 周囲をみたが、誰もいなくて助かった。


「なあ、今の俺が結構困っているのはわかっているよな?」
『はい。あのちっちゃいのが誘拐され、仲間を取り返すために特訓中ですね。犬は疲労のおかげでここにいない状況ですね』
「よくわかってんな。それで、おまえ機械だし計算とか得意だよな? 俺がヒーニアに勝てる可能性ってどのくらいだ?」
『そんなアプリはありませんが、ざっと見た感じ今のままでは勝てませんね』
「……まあ、わかってるけどズバッというな」
『今のままでは、です。それに、救出が目的なら別に戦闘する必要もありませんからね。やり方はたくさんあるということです』 


 確かにそうだな。
 俺には変装の魔物もいる。
 あれをうまく使えば、戦闘を回避しながらカナリーを救出して逃げ出すこともできるだろう。
 

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