スマホとワンコと異世界旅

木嶋隆太

第八話 道を確認できる依頼を受けよう





「カナリー、ひとまず、故郷に戻るまでの金を貯めようと思う」


 次の日の朝。寝惚け眼のカナリーと向かいあいながら、声をあげる。
 朝は嫌いなようで、カナリーは今も窓から差し込む光を睨みつけていた。
 その流れのまま、俺に厳しい目を向けてきた。


「すぐに戻りたい」
「戻るには、途中にあるレード洞窟を通る必要があるんだけど、中はかなり暗いから魔石ライトが必要になる。カナリーはここに来るまでどのルートできたんだ?」
「……よく、覚えていない」
「そっか。俺が聞いたルートで一番近いのはそこだ。あとは、洞窟じゃなくて山のほうを越えていくって手段かな。それと、かなり大回りになるけど街から街を馬車で移動していくんだ。これが一番安全だって話だけど、たぶん一ヶ月近くかかる」
「……」
「逆に、山のルートは一日じゃあ突破ができなくて、どこかで野宿する必要があるんだけど……山に住む魔物は集団で行動するのが多くて、夜は危険だ。その点、洞窟の魔物はゴーレム、オオコウモリくらいしか出てこないんだそうだ。道さえわかっていれば、一日かからずに突破できる」
「……うん」
「その洞窟突破後にある村で、一泊するための予算。洞窟内の地図とかの、洞窟を越えるために必要な装備品を整えるために金を集める。まあ、他のルートで行くにしても馬車の移動とかで金はかかる。だから、これが一番いいと思うんだけど」
「……あなた、ついてくるの?」
「ついでに、いくつか村、町にも寄れるからな。俺は旅がしたいんだ」


 実際、地球に戻るにはあちこちを見て回ったほうが良いだろう。
 それに、ここはまだ俺が召喚された国に近い。
 出来る限り、離れておきたい。


「……今日は、依頼を受けに行く?」
「そんな感じかな。それと、洞窟までの道順を確かめるって感じかな」
「わかった。朝ご飯食べに行く」
「よし、行くか」


 お互いに立ち上がり、一階へとおりる。
 カナリーが野菜を残そうとしていたので、無理やりに食わせながら、今夜の宿代も払ってから外に出る。
 ギルドへと向かい、ギルド職員に依頼の相談をする。


「……フィリーナ村まで、洞窟を使って向かうのですか。レード洞窟についてはどのくらい知っていますか?」
「全然わかんねぇかな……」
「そうですか。あそこは一応魔石による明かりがありますが、それでも暗いのでまず、魔石ライトをいくつか用意していく必要がありますね。闇に紛れるようにオオコウモリが奇襲してきますので、誰か探知魔法を使えるものもいると安全です」


 それは、リンゴで大丈夫そうだな。


「他に、洞窟を越えるのにあったらいいアイテムとかってあるのか?」
「簡易結界ですね。万が一、洞窟の中で休憩する場合、簡易結界があれば安全に行えます。旅をする場合、一つは絶対に持っておいたほうが良いアイテムです」
「簡易結界か。それって魔力とか必要なのか?」
「……え、知らないのですか?」
「あはは、まあ」
「魔力は必要ありません。もともと、魔石に魔力がこめられており、スイッチを押す形で使用できます。中の魔力を使い、魔物が嫌う魔力を外に作ることで、おおよそ六時間程度は効果を発揮することになりますね」
「了解だ」


 さらに話を聞いていき、食事、傷を癒すポーションなどをいくつか持っておいたほうが良いといわれた。


「そんじゃ、金を集めていくとするか!」
「……戦闘は得意なほうですか? 今、ちょうど集団でゴブリンの群れと、ゴブリンリーダーを退治してもらう予定になっているんですが」
「え!? それって報酬は結構もらえるのか!?」
「はい。ゴブリンを討伐した数に応じて、支払われることになっています。通常よりも討伐報酬は高くなっていますので、悪くはないと思います」
「それってどうやって数えるんだ? 魔石の回収か?」
「はい。魔石とゴブリンの証である角を回収してくれれば、こちらで確かめることができますので。もちろん、嘘をつこうとしてもすぐにわかりますから、ずるはしないでくださいね?」
「わかった」
「敵は、レード洞窟近くの山を根城にしているため、洞窟までの道の確認もできると思いますよ」
「おっ、そりゃあラクでいいな」


 ギルド職員の話を聞いていたカナリーたちも納得した様子で頷く。


「それじゃあ、その依頼を受けてもいいか?」
「はい。……それじゃあ、装備を整えてから訓練場に来てください」
「装備? 俺たちはもうこれで十分だけど……」
「え? いやいや、あなた剣も何ももっていないじゃないですか」
「俺は拳で戦うからな」
「だったら、せめて篭手くらいつけたほうがいいんじゃないですか?」
「……うーん、それを買う余裕はないからなぁ」


 というか、武器、防具の必要性を感じていなかった。
 敵に触れる必要がある俺は、あまり鎧に身を包むとかすると、魔力を奪うための攻撃に支障をきたす可能性がある。
 リンゴは、そもそも武器が牙と爪だしいらない。
 カナリーも魔法くらいしか使わないからな。


「昨日の魔物の素材も……全部その状態で集めたのですか?」
「まあな」


 ふふんと腕を組む。
 武器といえば、解体用のナイフを一本購入はしたくらいか。
 ただ、戦闘で使えるはずもないんだけど。
 捌くのはカナリーのほうが得意で、教えてもらいながら素材の分解をしたんだけど……と考えていると、ギルド職員は頬をひきつらせていた。


「他に、魔法とかは?」
「俺は魔法も使えないんだよ。けど、ゴブリン相手なら十分戦えるのわかってるし、大丈夫だろ?」
「いや、まあいいんですけど……怪我とかしないでくださいよ?」
「わかってますよ。美人なあなたに会えなくなるなんて、そんなの苦しいからね!」


 なんていうと、ギルド職員は頬をひきつらせながら頷いた。
 それから依頼の内容について簡単に説明を受けてから、ギルドを出た。


『相変わらず、巨乳の美人なお姉さんタイプの人には目がないんだな』
「そりゃあそうだろ。夢は掴むものなんだから、つかめるものがないとダメだろ?」
「人間って……特に男は最低」


 カナリーがリンゴにまたがりながら、こちらにジト目を向けてくる。


「安心しろってカナリー! 俺は優しい包容力のある女性が好きなんだから、おまえに絶対手を出すつもりはない。一緒に旅しても怖くないだろ?」
「それは安心できるけど、堂々と言わないで。周りに見られるから」


 リンゴの頭を撫でながら、カナリーたちはどんどん進んでいってしまう。
 やがて訓練場へと到着すると、冒険者たちが続々と集まってきている。
 三十人くらいだろうか。
 やはりみんなが装備に身を包んでおり、公園で遊んでいたままの格好の俺は浮いている。
 服もそろそろ買わないといけないな、なんて考えていると、冒険者たちがこちらをちらちらと見てきた。


「……おい、あれ吸血鬼だぞ」
「本当だ。ばい菌がうつりそうだから、近づかないでほしいわね」
「奴隷じゃねぇのか? つーか、奴隷だとしてもあの男のセンスを疑いたくなるね。気持ち悪い」


 なんて声が聞こえてくる。
 カナリーが苛立ったように睨んでいるが、俺は押さえつけるように頭を掴もうとして叩かれる。


「面倒事起こすなよ」
「……あなたも、馬鹿にされているけどいいの?」
「なんだ、俺の心配してくれるのか?」
「あなたは馬鹿だからいいのか」
「あのくらい、馬鹿にされているうちに入らねぇからいいの。言葉なんて耳塞げば聞こえない。危険なのは、暴力になったときなんだからな。俺弱いから、下手に暴れないの。おまえだって、痛いの嫌だろ?」
「……あんなの、黙っているほうがむかつく」
「いいじゃんか別に」


 カナリーはリンゴをもふもふしながら隅のほうへ行く。
 俺も近くに腰かけながら、地面に絵をかいて暇つぶしをしている。
 ざわざわと人々の視線がある方へと集中していく。


 集まっていた冒険者たちの前に、一人の男が進んでいく。
 槍を持ったその男が、地面を一度叩くと会話は次第に消えていく。今回の冒険者たちをまとめる人だろうか。
 それから、彼は口元に魔石を持っていく。


「みな、俺はこの街のギルドのサブリーダーをしている、レンドだ。今日ここに集まってもらったのは、レード洞窟近くのレード山にゴブリンたちが住むついている情報があったからだ。ゴブリンの数は多く、それらを指揮しているゴブリンリーダーの姿も見られている。こちらで編成したメンバーでゴブリンリーダーの討伐を行う予定だ。みんなには、ゴブリンたちを討伐していってもらいたい!」


 周囲に置かれていた魔石から声が出る。
 マイクとスピーカーって感じか。
 この世界では科学こそないが、それに似たことを魔石で行えるようになっているようだ。


「まずは、俺を中心にしたパーティーが山に入る。それから少し待機してからゴブリンの討伐に向かってくれ」


 ゴブリンリーダーの相手を俺たちはしなくていいのか。
 なら、かなりラクな依頼になるんじゃないか?


「ゴブリン討伐については、それぞれ自由にパーティーを組んでくれて構わない。一人でやってもいいし、一緒に依頼を受けたメンバーでも構わない。ただ、山には他の魔物もいる。それらは、今回の討伐対象ではないから、討伐報酬金は増えない。そのあたりは依頼を受けるときに了解してもらっているはずだ」


 そんなことを話していたな。
 山の魔物は種類が多いため、ゴブリンを狙って討伐することは難しい。
 そこは、リンゴがいるから問題ないんだけどな。
 ついでに、薬草採取の依頼も受けてきている。戦闘の合間に見つけたら、コツコツ集めていけば良いだろう。


「それでは、これよりゴブリン頑張って討伐しまくるぞ作戦を実行する!」


 レンドが叫び槍を掲げる。
 冒険者たちの声が重なり、そして訓練場から移動していった。
 

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