スマホとワンコと異世界旅

木嶋隆太

第九話 一攫千金のために頑張ろう

 
 アクスラ町を出て、北へと真っ直ぐに向かう。
 平野は段々と坂のようになっていき、山が見えた。
 その周囲には木々があり、洞窟への入り口もわかる。
 サブリーダーたちが山へと入り、それから俺たちもゴブリン狩りへ向かう。
 次々に入っていく冒険者たちから、少し離れた場所へと歩き出そうとしたところで、残っていた冒険者の嘲笑が耳に届いた。


「おまえ、気持ち悪いんだよ」


 どうしたのだろう、喧嘩かな?
 なんて視線を向けると、そいつらは俺を見ていた。
 周囲を見た後、俺は一つ頷く。


「きっと気のせいかな。カナリー、リンゴ――」
「おまえだよおまえ! 吸血鬼とか、犬をひきつれて、おまけに奴隷契約しているわけじゃねぇんだろ?」
「別にしていないけど、ダメってわけじゃないんだろ?」
「気味が悪いってんだ。吸血鬼なんて、いるだけで害なんだよ。きづいていないのか?」
「なら、今すぐ離れるから――」


 面倒に巻き込まれるだけ、時間の無駄だ。
 カナリーの目がつりあがる前に歩き出そうとしたところで、男に腕を掴まれる。
 彼の顔はにやりと笑っていた。


「おまえ、冒険者だよな? 昨日登録したばかりの」
「よくみているんだな。もしかして、惚れられた?」


 場を濁そうとしたけど、男はまるで反応しない。


「おまえ、勝負しねぇか?」
「は?」
「勝負に勝ったら、その気持ち悪い吸血鬼を殴らせな。俺の故郷は吸血鬼に荒らされて、うざいったらねぇんだよ。かといって、奴隷として買ってまで、怒りをぶつけるのももったいねぇしな」
「やる価値がねぇだろ、俺たちに」


 ていうか、早くゴブリン狩りに行って少しでもお金を稼ぎたいんだけど。


「勝負の内容は?」


 なにやる気になってんのカナリー。
 ずいっと前に出てきた彼女に、リンゴが呆れたように首を振る。
 俺は嘆息しながら、スマホの録音を使用する。


「ゴブリンをどちらが多く狩れるかだ」
「……なんでそんな勝負になるんだよ。俺たち、初心者冒険者だぜ? 勝てるわけねぇだろ?」
「吸血鬼、どうするんだ?」
「……なら、勝ったらあなたたちが集めたゴブリンの素材すべてをもらう」


 カナリーが睨みつけて、言い放った。
 ……いいのか?
 俺が視線を向けるが、カナリーはふんとそっぽを向いた。


「いいぜ。……言ったな? ぼこぼこにしてやるよ。逃げるんじゃねぇぞ! おまえら、聞いたな!?」


 まだいた冒険者たちに、男が言い放つ。
 愉快そうな笑い声とともに首肯がいくつも返ってくる。
 男たちが山へと入っていき、俺たちも歩き出したところで、


「あんたら、馬鹿な相手に勝負挑んだなっ! さすが吸血鬼! 人間とは比べ物にならないアホだ!」
「……うるさい」


 カナリーが視線を鋭くして睨む。


「さっき挑んだ相手は、ランクCの冒険者たちだぜ!? おまけに、つい先日とある大型の魔物を討伐したっていうんで、今評価をあげている奴らだぜ?」
「……」
「そんな実力者達に吸血鬼がボコボコにされる姿をみれるってのは、俺としても気分がいいからな。後でまた見に行くぜ」


 なんて、残っていた冒険者がケタケタと笑って去っていった。
 ……吸血鬼って嫌われているんだなぁ。


「カナリー、いいのかよ? 負けたらおまえボコボコにされちゃうぞ?」
「……別に。負けるつもりないから」
「なんで?」
「この山の中で、魔物を探し出すの。誰が一番得意か知っている?」
「そうだな……ところでカナリー。聞きたいことがあるんだけどいいか?」
「なに?」
「なんか魔法とかでさ、声を録音というか記録するものってあるのか?」
「あるけど、なんで?」
「いや、なんでもないよ。リンゴ、すぐにゴブリンの臭いを探してくれ」
『もうすでに終えている。今から案内してやる』


 リンゴに従って歩き出す。カナリーの顔を覗きこむ。


「カナリー、全部計算していたのか?」
「……あー、うん」
「今考えたんだな?」
「うざかったから」


 カナリーが俺の顔をしばらく見て、それから歩き出した。
 俺は興味のない人間に何を言われようともどうでも良い。
 だから、カナリーがどうして人間にあそこまで反発するのかが、分からなかった。
 ……昔は、人間のことが嫌いじゃなかったのだろうか。


 ハーフって言っていたし、母か父が人間なんだよな。
 やや傾斜になっている山での戦闘であるが、そこまでの苦戦はない。
 ゴブリン三体を見つけ、俺が駆け込んで近くに転がっていた木を叩きつける。
 ふらついたそこで拳を放ち、魔力を奪う。


「リンゴ、近くにゴブリンは!?」 
『ああ、ここからあっちに行った所に五体ほどいる!』
「そんじゃ、進化させっから、こいつらを一掃してからすぐにそっちへ向かってくれ」


 スマホに魔力をぶつけ、リンゴの進化を行う。
 リンゴの体が膨らみ、巨大な姿をとる。
 ゴブリンが俺へと突進してくるが、それを紙一重でかわす。
 倒れたゴブリンの体がカナリーの炎で焼かれる。


「サンキュー、カナリー!」
「隙だらけ」
「戦闘なんて慣れてないの。リンゴ、後よろしく!」
『それじゃあ、行ってくる』


 リンゴがサクッとゴブリンの首を噛み千切り、さらに魔物がいるというほうへと向かう。
 駆けるリンゴを横目に、俺は解体用ナイフを取り出して、ゴブリンの死体を捌いていく。
 角と魔石を回収し、袋につめていく。どうせ後で取りだす必要があるため、最初から袋に入れる予定だ。
 リンゴが倒したものをカナリーが捌いていく。


『ほれ、こいつらだ』
「はぇな……っ」


 リンゴが持ってきた五体のゴブリンも捌き、袋に入れていった。
 このペースってのは、どうなんだ?
 他の冒険者たちと依頼受けたことないから良くわかんねぇな。


「ペースをあげたほうがいいか?」
「……念はいれたほうがいいかもしれない」
「よし、すぐ行くぞ!」


 カナリーがボコボコにされたら大変だからな。
 勝手にカナリーが引き受けちゃったけど、受けたからには負けたくはない。
 お金をたくさん稼げるのだしね。
 森の中をまわっていき、ゴブリンと戦っていく。


 俺たちの臭いに反応して襲い掛かってくるような、ウルフなどの魔物がいないため、常に先手をとり、ゴブリンだけを狙っていくことができた。
 いい加減、袋が重たくなってきた俺は、それでも気合で森の中をめぐっていく。
 やがて、空にいくつもの魔法があがる。
 サブリーダーの戦闘が終了した合図だ。俺たちはそれを確認してから、森の外を目指す。


「カナリー、リンゴー! 荷物持ち手伝ってくれよー!」
「私、か弱いから」
「全然か弱くないよね。結構重たそうな死体とか放り投げてたよね」
『俺はカナリーを背負うので大変だから』
「カナリーが自分で歩けばいいだろ? その背中に乗っけてやるから」


 というと、カナリーがリンゴの頭を軽く撫でてすたすたと歩いていってしまう。
 い、いい根性してやがるぜ。
 森の外が見えてきた。着々と冒険者たちも集まっており、俺たちもそこを目指して外へと出た。


「おいおい、吸血鬼さんたちよ――」


 声をかけてきた男の口が止まる。
 ていうか、彼らの荷物少ないな。
 みんな、片手で持てる程度の荷物しかない。
 俺は両手でもって、おまけに肩に乗せるようにしてるのにだ。
 それこそ、サンタさんがプレゼントを配って回るような量なんだぞ?


「お、おまえ! それなんだよ? 今回の敵はゴブリンだけだぞ!? ばっかじゃねぇの!?」


 大爆笑してきた男が、周囲を巻き込むように声をあげる。
 俺たちの姿をみて、ケタケタと笑う者が多い。
 ……ここで言い返してもどうにもならん。


「……本当、人間はすぐに馬鹿な解釈で勝手なこと言って、大嫌い」
「まあまあ。結果はギルドに戻ってからはっきりするんだから、いいだろ?」


 笑い者にされることがたまらないようで、カナリーは仏頂面のままだった。
 やがて、ギルドサブリーダーのパーティーが戻ってきて、私語をやめる。


「今回の狩りは、みんなの協力ですぐに終わった! みんなも随分と素材を手に入れたようだが……おお? そこの青年たち、凄い量だな」


 俺たちのほうを見て、サブリーダーが楽しそうに頷いた。


「サブリーダー、そいつらのはゴブリンだけのものじゃないですよ?」
「ゴブリンと別の魔物も見分けつかない。馬鹿な奴らなんですよ?」


 ぶわっはっはっと笑ったところで、サブリーダーが顎に手をやる。
 それから、その両目を軽く開き、ほぉっと唸った。


「この中に、観察魔法をもっている人はいなかったのか?」


 問うと、静かになった。
 サブリーダーがにやりと笑い、俺へと手を向けてきた。


「彼が持つ素材のすべてが、ゴブリンのものだ。その数は五十近くといったところか? 他のものは、精々十体くらいだろう? いやいや、凄いことだね。優秀な探知魔法でも持っているのかい?」


 サブリーダーが近づいてきて、にこりとカナリーの前でしゃがむ。
 吸血鬼が嫌いじゃないタイプの人か。


「……まあ、そんなところ」


 カナリーもわざわざリンゴのことを言うつもりはないようだ。


「そうかい。今日のお昼は暇かな? 一緒に食事にでも……」


 とサブリーダーが言いかけたところで、遅れてきた女性が頭を叩いた。


「ロリコン。今は仕事の途中です、しっかりしてください」
「はいはい。それじゃあ、みんな。これからギルドに戻って、清算や依頼協力の報酬を払うからね。帰りも油断しないように、しっかりと戻るよ」


 サブリーダーがそういって、俺たち冒険者たちも帰っていった。
 カナリーは周りの冒険者たちの態度が一変したことに、少しばかり調子よさげな様子だった。





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