世界で唯一の男魔導士

木嶋隆太

十六話 魔導人機訓練



 ニローに後のことは任せ、調整室を出る。
 すっかり凝り固まった体をほぐすように伸びをして、廊下を歩いていく。
 校舎から出たところで、エフィが「ねえ」と視線を声をかけてきた。


「この後どうする?」
「そうだな……デバイスの操作訓練をしてぇんだが、出来る場所ってあるのか?」
「それなら訓練場を借りるしかないわね。まあ、たぶん使えると思うわよ。行きましょうか」


 強くなるためには、技術の向上も必要になってくる。
 エフィとともに校庭を歩く。
 ざっざっと砂を踏みしめる音、それに混ざるように校庭ではあちこちから声があがる。


 部活動だ。女子や男子生徒など、それぞれ体を動かしている。
 野球やサッカーと思われる競技。どこの世界でも似たような競技が行われるものだと思いつつ、それを横目に校庭の先に行く。


 そこから先は、途端に景色が変わる。
 広大な土地は、最低限の整地こそされていたがそれまでだ。
 とてもではないが校庭とは呼べない。しいていうのならば空き地だ。


 そこでは、魔導人機同士の戦いが行われていた。
 一定のスペースごとに区切られたその校庭では、あちこちで激しい音があがり、いろいろな色が飛び交っている。


 みんなが乗っている魔導人機は似たような造りだ。
 それはアリリアが使用していたものに良く似ている。
 一緒についてきたエフィに顔を向ける。


「あれって……訓練機か?」
「そうね。訓練機とも、量産機とも呼ばれているわね」
「訓練機ってのは、専用機と比べると、オリジナルの技がない、だったよな?」
「そうよ。だから、専用機と訓練機だと大きな差が出るものよ」


 啓はエフィの言葉に口をぐっと閉じる。
 その差があってしても、アリリアに勝つことはできなかった。
 本来ならば勝たねばいけなかった場面だ。


 あのときのアリリアの顔を思い出していると、ずいっとアリリアの挑発するような顔が割り込んできた。


「まあ、私優秀ですからー? どんまいどんまいです」
「うるせぇよ。次にガチでやるときはまけねぇよ」
「負けず嫌いですねぇ。まあ、そっちのほうが面白いです。一生懸命なあなたをぼこぼこにして泣かせてやりましょう!」
「泣かねぇよ、くそっ!」


 舌打ちしつつ、アリリアから視線をエフィに向ける。


「それでエフィ。どこで訓練やるんだ?」
「このあたりでいいかしらね」


 大きな広場の中は、体育館のコートのように区画ごとに分けられている。
 それぞれ、線のようなものが地面に書かれている。
 軽く足で踏みつけるが消えないものだ。


「この結界装置さえ使用すれば誰でも簡単に訓練ができるわ。ただし、調整士がいないから過剰な攻撃は禁止されちゃうけど」
「ガチでやりたかったら、調整士を連れてこいってことだろ? とりあえずは、操作訓練をしてぇだけだから、大丈夫だ」


 ケルにまかせっきりだった部分を少しでも自分で行えるようにしなければならない。
 アリリアが結界装置の操作を行い、エフィとともに中へと入る。


「ケイはぜんぜん操作できていなかったわよね」


 アリリアとの戦いのときを思い出しているようだ。
 啓は唇を結んでこくりと頷く。


「まずは、基本的な動きについて勉強したほうがいいわね」


 そういってエフィは魔導人機を纏う。
 四肢を覆うようにオレンジ色の装甲が展開されていく。
 その腰には大きめのハンドガンと、剣が刺さっている。
 装備の終わったエフィが軽く髪を払うように手を動かす。
 細かい作業も見事にこなしている。


「ほら、ケイも魔導人機を使用してみてよ」
「了解だ」


 そう返事をして、魔導人機を使用するために剣を振る。
 軽いイメージとともに起動を行うが、何も始まらない。


「お、おい……ケル意地悪してんじゃねぇよ」
『意地悪ではない……そのマスター。どうやら我は一つ気づいてしまったようだ』
「何がだ?」
『マスター……戦闘を始める前の魔力では足りていないのだ』
「はぁ? ならなんで今まで使用できていたんだよ?」


 今までも起動に時間のかかる部分はあったが、どうにか使用できていた。
 魔力がなければ、起動さえもできないはずだ。
 啓の言葉に、ケルは大剣の刀身を光らせて返事をする。


『我は固有の技として、魔力吸収を持っている』
「ああ、それはアリリアのときに聞いたな」
『魔力吸収は、大剣から行うことができる。相手との打ち合いで魔力を作り出して吸収できるというのが、我の最大の強みだ。それはもう自慢話である』
「そりゃわかったよ。んで、それがどう関係しているんだよ?」


 ケルはさっきとは打って変わっての小声でいった。


『マスターが魔力がなくとも、我は魔導人機を起動することができる。それは、敵からこうやって戦闘の間に魔力を奪うからだ』
「魔力吸収の条件は敵との戦闘なのか?」
『そうだ。我は敵との戦闘の間に生まれたエネルギーや余剰部分を吸収するっことができるんだよ。その効果があるからこそ、我は英雄のデバイスなんて呼ばれるようにtなったのだ』
「……まあ、英雄が使っていただけのデバイスくらいにしか思っていなかったが」
『マスターは我を甘くみすぎだ。仮にも英雄のデバイスだぞ? ……そして、問題があってな。この固有技が大変我の領域を圧迫してしまい、我は魔力をチャージ……つまりは充電する力が他のデバイスの数倍かかるんだ』
「つまり……最初は魔力がロクになくて起動できない、と」
『まあ、普通の女なら魔力はあるが……マスターは普通の女ではないからな』
「おい、土をかけられてぇのか?」


 ケルを睨みつけると、苦笑するような声が聞こえた。


『とにかくだ。魔力がないから、戦闘をする必要があるんだ。今までも、大剣を敵に叩きつけて、魔力を奪っていただろう?』


 まだ数えるほどしか戦っていないため、はっきりとはしていない。
 ただ、ひとまずけるの言葉をまとめると、


「魔力を奪うから、俺は魔導人機を解放することができていたんだな」
『そういうわけだ。つまり、今回も起動をしたかったらエフィと一度軽い戦闘を行う必要があるというわけだ』


 そうはいうが、実行するにはなかなか難しいものがある。
 魔力がないということがばれないように出来ればよいが。


「……よし、ケル、ちょっと設定を変えるぞ」
『どういうことだ?』
「おーい、エフィ。軽く大剣で切りかかるけど、気にしないでくれよ」
「え? どういうことよ?」
「どうやら、今初めて知ったんだが、ケルを使うには大剣を敵に叩きつける必要があるみたいなんだよ」
「……なるほどね。英雄のデバイスって結構大変なのね」


 エフィがちらと自分の大剣へと視線を向けて、それから剣を抜く。
 啓も大剣を両手でしっかりと持つ。
 初めにくらべ、随分と馴染んだ気がした。


 柄を握り締め、エフィに向かって走り出す。
 彼女の出した剣に振りぬく。
 剣と剣がぶつかった瞬間、激しい音の後にケルが光る。


 おそらくはそれが魔力を吸収したということなのだろう。
 オレンジの光は、エフィがまとっている魔導人機を表しているかのようだった。
 ケルの体がさらに強く光をあげると、啓の四肢にも黒い装甲が展開される。


 軽く首を回すようにして、両脚で着地する。
 視界はいつもよりも鮮明で、事細かな情報も表示される。
 細かい部分はまだわからないところも多い。


 表示されるすべての情報をまだ把握してはいなかった。
 それについても教えてもらおうと考えていると、エフィがこちらをじっと見てきた。


「……魔力を奪うって、反則並の力ね」
「けど、そんなに奪えはしないみたいだよな?」


 啓の視界に歯、エネルギーの残量を示すパーセントゲージが表示されている。
 それは今も5パーセントと心もとない。
 スマホを良く使っている啓としては、5パーセントなどに等しいものだ。


「あたしも……そうね、ほとんど減っていないわね」
『我が奪えるのは、相手に与えたダメージの僅かと、戦闘の際に生じた強い魔力の合計だからな。今ほどの攻撃ならばそれはもちろんすくない』
「使いにくいな……」
『つ、使いにくいとは酷いぞマスター! 我の力は長時間の戦闘でもっとも効果を発揮するのだ! その昔、一代目とでも呼ぼうか。英雄レヴァンは一日中戦い続けたといわれているが、それも我の能力のおかげだっ。どうだ、少しは褒めたらどうだ!』
「ケルも確かに凄いけど……寝ずに一日戦っていられるレヴァンも化け物だな」
『うっ、それはもちろんそうだが、我がいなければそれもできなかったんだぞ!』


 顎に手をあて、エフィがしたり顔で呟く。


「いや、ケルはしっかり使えるようになってやるっての、安心しろ」
『マスター……それならば我も精一杯頑張ろう』


 ケルを慰めていると、エフィが驚いたような顔をしていた。


「……持久戦になればなるほど、この数字は大事になってくる、ってことね」
『さすがだな。我の正しい使い方はそれだ』


 エフィの問いに、ケルが頷いた。


「ていってもな……今のところ大剣しか使えねぇからな。さすがに、魔力がたくさんあっても俺の体力がもたねぇよ」
「でも、確か英雄ってもっと色々な武器を使っていたような気もするんだけど。伝承ではそう残っていたはずよ」
『そうだった……ようなきもするが。我もいかんせん、眠りすぎていてな。……それに伝承は所詮伝承だ。いくらにでも歪むものではないか?』
「そうね。最近になって、歴史で有名な魔導士の人の名前が違ったとかも発見されたし……」 


 啓もそれには同じ気持ちだった。
 歴史の授業でも、色々と変化があったとも聞いたことがある。
 自分の親が習っていたときに比べると、細かいものから大きなものまで、変化が様々あった。


「とりあえず、魔導人機の展開はできたとして……色々と聞いていきたいんだが、いいか?」
「ええ、もちろんよ」
「まだ結界張らないですよね? 私も暇なんで話しに混ぜ混ぜしてくださーい」


 とてとてと結界装置の操作に飽きた様子のアリリアが、走ってくる。
 アリリアは眠たそうにあくびを一つして、自分たちの前までくる。
 それから、体を動かしつつ、勉強を行っていった。







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