オール1から始まる勇者

木嶋隆太

妹視点 第二十二話



 桃お姉ちゃんを含めて三人で食事をとった。
 それから一時間くらいは三人で話をしていたような気がする。


 ダンジョンの話であったり、学校のことであったり。
 話題自体はころころ変わっていたけど、それがまた楽しい。
 高校も、冒険者の人が来たんだ。それから三時間程度三人でだらだらしていた。
 桃お姉ちゃんが帰ったのを確認してから、あたしたちは部屋で最後の確認をしていた。


 第二十階層に挑む。明日でもよかったが、今日できるなら今日のほうがいい。
 いつも通りゴブッチで様子をみて作戦を練る。
 今日で無理なら明日にでも挑戦すればいいし、無理は必要ない。


 あたしたちはそれぞれの装備を確認してから第十九階層へと向かう。戦闘のほとんどは走って逃げる。


 やるだけ無駄だ。すぐにあたしたちは第二十階層につながる階段を見つけて、駆け込む。背後まで追いかけて来ていた魔物たちは、あたしたちが階段に入ると途端にさっきまでの行動を忘れるようにどこかへと歩いていく。
 やがては消滅して次の人間を待つことになるんだろう。


 階段をおりていき、踊り場で一度腰をおろす。
 乱れた脈を戻すように休憩を挟んでから、再び階段をおりていく。


 緊張……わずかにしている。これが最後の階層になるんだと思うと、敵の強さを考えたり、最後はどうなっているのか、もう考えることがたくさんだ。
 それら全部をまとめるように、足を動かす。深く考えたって始まらないからね。


「さて、準備はできてるかい?」


 最後の一段をおりて、あとはまっすぐに少し歩けば二十階層だ。
 どこのボス部屋とも変わらない、殺風景な部屋はもう一望できる。


「あたしはいつでも大丈夫だよ。ゴブッチ、よろしくね!」
「うーす。死なない程度に頑張るっす!」


 ゴブッチは一番前に立つことが多い。手に入れた盾も使っての完全な前衛として、敵の攻撃を引き付けてくれるからね。


 危険が多いのだ。場合によってはあたしの魔法に巻き込まれるからね。いや、あたしは撃ち抜くつもりはないんだけど。
 全員の覚悟は決まった。お互いに顔を見合わせて頷いた。


 第二十階層に入り、ゴブッチが先頭をいく。
 ボスはすぐに出現する。
 普段の階層との大きな違いはやはりその歪みだ。
 先に見えたのは大きな剣だった。


 それを握っている生物は……トカゲ、だろうか。


 初めはその印象をもったのだが、どうやら違うようだ。
 アナライズを使用すれば、その魔物の名前はすぐにわかる。


 アイスドラゴニュート。
 全身はまるで、氷で作ったような青色で、光を反射するそのさまは美しささえも持っていた。
 体を支える両足、武器を持つ腕、それらすべての中心である体。


 フンガのような圧倒的な体による威圧感はない。
 けれど、その両目に睨まれれば、嫌でも強敵であると理解させられる。
 怯んだ、一瞬だけ。けど、あたしはリーダーとしてそんなのはすぐに払う。


「ゴブッチ! とりあえず分身で攻撃! 咲葉はちょろちゃろして気を散らせて!」


 固まっていた二人に指示を出す。
 そうしながら、あたしは用意しておいたアクアスライサーを放つ。
 敵の弱点は火属性だから、使わないだろうアクアスライサーはさっさと使用してしまう。
 あたしの一撃を、ドラゴニュートは剣で切りさく。
 弾けた水の飛沫が地面を濡らす。


 黒い三体のゴブッチ分身が囲む。それらをみて、ドラゴニュートは軽く口角を釣り上げたように見えた。


 次の瞬間、咆哮が襲いかかる。耳が割れたかと思った。
 発動前に、敵の胸が膨らんだけど、あんなのに反応できるわけがない。


 あたしは幸い離れていたから、被害も少ない。だが、真正面にいたゴブッチの動きだしが遅い。慌てた様子で盾を出す。
 ドラゴニュートの剣が盾にぶつかる。ゴブッチは器用にそれをそらしたが、ドラゴニュートもそれをわかっていたかのように尻尾を振り回す。


 ゴブッチの体が弾かれらたが、その脇から咲葉が飛び出す。
 あたしもそれに合わせて、サークルフレイムをドラゴニュートの背後に展開する。
 咲葉は乱斬を放つ。彼女なりに改造した乱斬は、剣を振り抜くと同時に斬撃が空中に残る。


 それを彼女は爆発させる。ドラゴニュートが片腕で受けたがふらついた。
 隙だ。ただし、そこに仕掛けるにしても、誘われている可能性もある。
 それでも、魔法を放つしかない。サークルフレイムがあがり、ドラゴニュートの体を焼く。


 いままでの魔物であれば、火に恐れ暴れていた。
 ドラゴニュートにその様子はない。体を焦がす火をみながら、そしてすぐに剣を地面に刺す。
 魔法が来るのはわかった。あたしがリトライアローを放つが、ドラゴニュートの魔法展開が速い。


 火を包むように氷が生まれ、熱が吸収される。


 あたしの魔法が破壊したのは、ドラゴニュートの氷だけだ。
 ゴブッチが複数の影を作り出して仕掛けながら、咲葉たちはこちらへと戻ってくる。
 とりあえず、一度の交戦は終了だ。


「沙耶、どうな?」
「魔法も通ってるからあたしはいけるよ。二人は?」
「あっしはまあ、最悪命はるっすよ」
「私も問題なくついていけると思う。危険と感じた場合はいつも通り、ゴブッチに任せて逃げればいいだろう」
「ふー、あっしに任せるっすよ」


 ゴブッチは疲れたようなな親指をたてる。ほんと、ゴブッチさまさまだよ。


 ドラゴニュートは何度か尻尾で地面を叩く。
 地面を蹴り、こちらへと超役してくる。


 分かれるようにして飛びながらもすぐにゴブッチが合流する。
 ドラゴニュートの狙いはあたしだ。
 ドラゴニュートが口を開くと、氷の粒が吐き出される。


 ゴブッチがうけてくれようとしたが、あたしが叫ぶ。


「魔法は全部あたしが撃ち落とすよ!」


 ドラゴニュートの氷めがけて、あたしはヒートバレットを展開する。
 火の弾をいくつも生み出し、襲いかかる氷めがけて撃ち出す。


 氷と火がぶつかり、一瞬の輝きを残して消え去る。
 連続の魔法の雨はあたしも対抗して展開する。


 あたしのほうが、展開は早い。それだけを鍛えて来たんだから、当然だ。
 近接での火力はないけど、それは二人に任せるよ!


 ドラゴニュートの背後から咲葉が斬りかかる。
 ドラゴニュートはこちらにばかり意識をさいていたためか、その一撃を受ける。
 魔法がなくなる。あたしのビートバレットは何の邪魔もなく、ドラゴニュートの体へと突き刺さる。


 ドラゴニュートの体が傾く。
 何にも優先したのは、咲葉たちへの攻撃だ。
 大きく飛び上がりながら、尻尾を振るう。


 咲葉はそれを剣で受け流す、やっぱり、剣の扱いがかなり上達している。
 ドラゴニュートが着地と同時にあたしがサークフレイムを発動する。
 地面に剣が突き刺さり、鋭く尖った氷がいかつも展開される。
 あたしへと這うように迫って来たそれに、リトライアローをはなつ。


 魔法の破壊ができたが、ドラゴニュートもそれはわかっているようだ。
 咲葉とゴブッチが、同時に剣を叩きつける、


 それぞれの魔法を食らいながらも、ドラゴニュートはまるで怯まない。ダメージが入っていないような錯覚を抱きそうになるけど、それこそドラゴニュートの思うツボだよね。


 咲葉たちが押しているように見えるが、徐々に動きか鈍っている。
 あたしたちが全力で戦える時間は限られている。
 ドラゴニュートと二人の動きが悪くなっているのを理解しているようだ。
 ……だからこそ、ドラゴニュートもまたこちらの体力をけずるように動いている。わざとらしく大きく離れたり、攻撃を誘ったり。


 体力に相当な自信があるんだろうね。あたしの代わりにマラソン大会で走ってもらいたいよ。


 こちらが完全に削られる前に、あたしが仕留めるだけだ。
 最強の魔法の一つは用意してある。けど、それだけでは心もとない。
 だから、いま二つ目の構築をしている。


「二人とも、あと少しお願いね!」


 汗を拭うようにしながら、咲葉が頷く。ゴブッチが吹き飛ばされながら剣を掲げる。


 咲葉の体に光がまとわれる。彼女のブレイブボディだ。
 あの能力は非常に強力だか、効果時間は短い。


 咲葉の剣が、ドラゴニュートの腕を持ち上げる。
 がらあきの胸元へと剣できりつけ、その体を蹴りとばす。


 普段ならそこで終わっていたけど、まだ効果は続く。魔法の構築を自分で行ったのだろう。
 彼女の顔が苦痛で歪んだ。負担がかかっているのだろうことは、それで十分にわかった。
 ドラゴニュートの体が浮き上がり、最後に思い切り剣で切り飛ばしてから、咲葉は剣をしまうようにして後退する。
 息が乱れている。体は苦しそうであり、ゴブッチが入れ替わりにドラゴニュートへと向かう。
 ……魔法の準備は終わった。


 ゴブッチを簡単に蹴り飛ばしたドラゴニュートがあたしの方を見る。
 あたしは、即座に用意したサークルフレイムを放つ。


「クワリ、ゴブッチをお願い」
「わかりましたわ」


 ゴブッチを巻き込むわけにはいかないので、クワリに頼んで戻してもらう。
 サークルフレイムで足場を奪い、ドラゴニュートがぴくりと動こうとした瞬間に、あたしは作り出したヒートバレットを展開する。


 ヒートバレットはドラゴニュートの周りでくるくると回り続ける。お互いがぶつからないようにしながら、その圧倒的な数はドラゴニュートの体が隠れるほどだ。


 ドラゴニュートの顔はあたしが展開した無数の火の弾であまりみえない。
 だけど、一瞬だけみえたその顔にはもう余裕なんてものはない。


 敵も魔法を準備している。あたしはそれを放たれる前にすべての魔法を起動した。
 魔物足場から火があがり、ただよう火の弾がドラゴニュートへと叩きつけられていく。
 ドラゴニュートが逃げようとしたが、動けばそれだけ火の弾の餌食となる。


 あたしのヒートバレットは、無限のようにあふれていく。
 ドラゴニュートは、ヒートバレットの籠に入れられたようなものだ。


 時間にして二十秒ほどが経ち、あたしの魔法が完全に消滅する。……さすがに、ちょっと疲れたよ。
 煙の中で影が揺れる。ドラゴニュートがふらふらと動き、それから倒れた。


 耐えられるはずかない。あたしの魔力の半分を使って展開した二つの魔法なんだから。
 耐えられたらあたしが困る。困るどころか泣いてやるっての。
 一度、呼吸をしてゴブッチを呼び出す。咲葉もこちらへとやってきて、あたしたちはイエーイ! と声をあげてハイタッチをする。


「やった、二十階層突破だよ!」
「そうだなっ」


 咲葉がぎゅっと抱き着いてくる。顔をすりすりと胸のあたりに押し付けてくるけど、今は許してやろう。
 ゴブッチもあたしにくっついて喜んでいる。


「クワリ、この先だよね!?」
「そう、ですわ!」


 彼女も興奮のまざった顔でそちらへと向かう。
 すでに、二十階層の先の扉は開いていた。







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