オール1から始まる勇者
第十六話
「勇人、一週間ぶりだな!」
快活と冷歌が我が家へとやってきた。
それは土曜日の朝だった。午前八時を回ったところで、桃が作った朝食がちょうど終わった時間だ。
玄関で一人出迎えにいった俺だったのだが、彼女のあまりにも元気な声に奥にいた二人までもきてしまう。
……少しまずい状況だ。
「あっ兄貴が女連れてきた……あれ?」
キッチンの水道がとまった。なにいってくれているの、このバカ妹は。
すたすたと桃が近づいてきて、リビングからすっと顔を出す。
二人がじろーとこちらをみてきて、俺の前にいた冷歌も不思議そうにそちらをみている。
桃の両目は鋭い。いやおまえにそんなに睨まれるいわれはない。ここにアーフィがいたら大変なことになっていたかもしれない。
物騒な思考をされるまえに、俺は親指で背後をくいっと指差す。
「こいつは、冷歌だ。向こうでまあ、そのいろいろお世話になったんだよ」
桃にはそれで伝わるだろうが、沙耶は首をひねっている。
俺が学園に行ったことは沙耶には内緒にしてある。
ずるい、とか思われそうだし、心配されるかもしれないからな。
余計な心配をかけないためにも、俺は沙耶には伝えるつもりはない。
「冷歌だぜ。えーと、ご兄妹?」
「まあ、そんなところで」
小さく声をかけてきた冷歌にとりあえず同調する。
しかし。そこに待ったをかけてきたのが桃だ。
「こちらの沙耶さんは確かに勇人くんの妹さんです。そして、私の義妹でもあります。でも、私と勇人くんは兄妹でありませんから」
「あいつの言葉は無視していいから。それじゃ、行こうぜ」
「……勇人。いいのか? なんか凄い目であたしにらまれてるけど」
桃のほうを見ると、笑顔だ。
……どうやら俺が見ていないところで般若のような顔をしているのだろう。
「気にするな。それより、今日で行かないといけないんだ。無駄な時間を過ごしている場合じゃないだろ?」
「そうだなっ。あたし、この一週間でかなり鍛えたんだぜ」
「まあ俺もな」
自宅の迷宮に潜って素材を集めてとにかく食べまくった。
俺の人間としての肉体は十分に強化されただろう。眷属としての力も合わされば、今の肉体だけでも十分に戦える。
冒険者たちが拠点としている建物へと向かい、そこから学園のワープポイントへと移動した。
好奇の視線がいくつかある。
部外者がこんなところにいるのだから、その視線は仕方ない。下手なことを言われる前に、さっさと迷宮に入ってしまおう。
学園から校庭へと出て、左へと歩いていく。そちらに作られた簡素な建物の中にある、迷宮に用事があるんだ。
「勇人は、自宅の迷宮を申請してないだろ?」
「……ばれたか」
それをまさか聞かれるとは思っていなかった。
……というか、申請自体が面倒なのだ。あれから調べたのだが、一日で終わらない可能性もある。
今はそれに時間をかけている場合ではない。
他にやらなければならないことがたくさんあるのだから、迷宮申請は後に回してしまった。
俺が困っていると、冷歌はジト目を作って覗いてくる。
その顔から視線を外していると、彼女は腰に手をあてて嘆息をついた。
「まあな。こっちで迷宮の把握はしてるんだからな。事情はわかってるから、あたしも黙ってるけどよ、全部終わったらちゃんと申請しておいてくれよ?」
「了解だ」
「そんときは、あたしが調査に行ってやるからな」
「お手柔らかにな」
冷歌は楽しそうに迷宮へと向かう。そのまますぐに中へと入り、他の冒険者と関わる前にさっさと中へと進んでいく。
第四十八階層まで移動して、今日はそこの調査からだ。
……第四十八階層も構造自体は変わらない。ただ、迷宮内が広い。
何より入り組んだ造りをしている。
仕方なく、持ってきたメモ帳で地図を作りながら先に進んでいく。
「あの、桃って奴はあんたの彼女か?」
からかうように彼女がこちらを見てきた。
……まあそんな風に誤解されても仕方ないよな。
桃がいたら面倒なことになっていただろう。俺は首を振る。
「いや、あいつはただの幼馴染だ。仲は……かなりいいけどな」
「へぇ、なんだ勇人にはそういう気持ちはないのか?」
「まあ、な」
欠片もないわけではない。
ただ、どちらかといえばそれは友達としての気持ちのほうが強いと思う。
しばらくそんなことを考えていると、眼前に魔物が出現する。
第四十八階層、出現モンスターは、ソルジャースケルトンヘビーだ。
骨の……蛇だ。蛇だけ読み方がそのままだが、この表示は大精霊がくれた霊体の力の一つだ。
大精霊がヘビーとしたのには何かしらの理由があるのかもしれない。
いや、ないか。
「ラミアを、白骨化したって感じか?」
俺の言葉に、ああと納得する。
「なるほどなっ、どっかで見たと思ったらそれだぜ」
「ラミアって本当にいるのか?」
「ああっ、ここの第二十……いくつだったかに出たぜっ。上半身がかなりの美女ってこともあって、男子のやつらが戦いずらそうにしてたんだよ。まったく、冒険者なら誘惑に惑わされるってんだ」
俺も一度見てみたいものだな。
スケルトンは、彼女の言う通り、上半身は人間の姿をした骨であり、下半身は蛇のような形をした骨だ。
それは這うようにしてこちらへと迫ってくる。
両手にもった鋭い片刃の剣は、刀に似ている。俺たちへと振りぬいてきて、いつも通りに冷歌が後方へと下がる。
訓練の成果、といっても俺のやることは変わらない。
刀が流れるように振りぬかれる。俺はそれを長剣で受けた。
スケルトンのほうが攻撃速度はある。初めから、受けきれるとは思っていない。
抜き放たれた一撃を後方へと下がってかわす。カウンターをするつもりであったが、スケルトンはぴくりと反応して口を開く。
放たれたのは複数の骨だ。骨が矢のように襲いかかる。……距離をあけた場合の対処も持っている、か。
冷歌が氷を作り出す。スケルトンの背後に氷は生まれていき、その一撃が槍のように抜ける。
スケルトンは、背中に目があるかのように刀でそれを切り裂いた。
驚きに冷歌が目を見開きながらも、その先の対応を怠らない。
砕けた氷へと魔力を流したのだろう。その破片を武器に変えて攻撃する。
美しい氷の連撃に、スケルトンはさすがにいらだった様子であった。俺はその隙を見逃さない。
先ほどまでの受ける剣ではなく、攻める剣へと変化させる。
加速と同時に長剣を振る。
スケルトンも片手で煩わしそうに俺の剣へと合わせる。
お互いの剣がぶつかり、それから俺は弾き上げる。
スケルトンの片手で振りぬいた一撃にさすがに負けるつもりはなかった。
ただ、俺は全力を出して弾き飛ばすのが精々だ。
魔物の肉体という異常なまでのアドバンテージがうらやましい。
慌ててスケルトンが体をくねらせて逃げようとしたが、その足場はすでに氷が発生している。思うようにスケルトンは動けないようだ。
氷が体へとまとわりつき、さらに冷歌が氷の浸食を加速させる。
もはやスケルトンに打つ手はない。俺が近づいて、スケルトンの体に長剣を振り下ろす。
一瞬の抵抗のあと、魔物を真っ二つにする。
だいぶ、俺自身の肉体も強化されたな。
毎日肉や迷宮でとれた果物ばかりを食べまくった。
肉を大量に集め、戦闘の合間にはなっている木の実などを食べまくった。
そのおかげで、眷属の力と合わせれば肉体だけでも十分な戦闘力を得られた。
しばらく果物と、肉は遠慮したいと思うほどに、この一週間はひたすらそれだけを食べ続けたのだ。
「勇人もだいぶ強くなったな」
「そりゃあ、こっちのセリフだ。援護に徹してくれてありがとな」
「まあ、勇人と組むなら、あたしはそっちに徹したほうがいいと思ってな。今まで、サポートなんてあんまりしてこなかったから、この一週間でそっちを磨いたんだぜ」
やれやれと冷歌は肩をすくめるようにして、それからブイとピースをした。
「とにかくだ。この階層の敵もなんとかなりそうだな!」
「そうだな。あとは、さっさと次の階層を見つけられればいいんだけど……」
「それも、あたしが対策を考えたんだぜ!」
彼女はにやりと笑い、それから一度大声をあげる。
声が遠くまで響き、それから氷を放つ。
放たれた氷に、魔法を何か発動した。
「魔力消費が多いから、あんまり一緒には使いたくなかったんだけどさ。これを持ってきたんだよ」
冷歌は今日はネックレスをつけていた。
それを示すようにして、彼女は膝をつきながら、少し辛そうに顔をこちらへ向ける。
「……なんだそれは?」
「これは簡単にいえば、カメラの機能を魔法に与えるような感じかな。あたしが放ったスキルが通った場所の景色を見ることができるんだ。……これ、脳の負担もそうだし、魔力も結構消費するからあんまり好きじゃないんだぜ。……それに、普段は一人で潜ることが多いから、ゆっくり使ってもいられないしな」
「そうか。おまえにばっかり悪いな」
俺も魔法が使えればいいんだけどな。
「いいって。はっきりいって、あたしは魔法以外じゃ勇人の足元にも及ばないんだ。だから、役割分担だってわけだっ」
「……そうだな。任せろ、魔物が出たときは教えるからな」
「戦えよなっ。よし、見つかったぜ!」
俺の背後に氷の破片が戻ってきていた。
……もう迷宮内をぐるっとみてきたってわけか。彼女はついていた膝をあげたが、ふらりと傾く。
「大丈夫か?」
「ああ、こんくらいどってことない! ありがとな」
冷歌がにこっと明るく笑い、一人で歩いてみせる。
……まあ、とりあえずは大丈夫そうか。
快活と冷歌が我が家へとやってきた。
それは土曜日の朝だった。午前八時を回ったところで、桃が作った朝食がちょうど終わった時間だ。
玄関で一人出迎えにいった俺だったのだが、彼女のあまりにも元気な声に奥にいた二人までもきてしまう。
……少しまずい状況だ。
「あっ兄貴が女連れてきた……あれ?」
キッチンの水道がとまった。なにいってくれているの、このバカ妹は。
すたすたと桃が近づいてきて、リビングからすっと顔を出す。
二人がじろーとこちらをみてきて、俺の前にいた冷歌も不思議そうにそちらをみている。
桃の両目は鋭い。いやおまえにそんなに睨まれるいわれはない。ここにアーフィがいたら大変なことになっていたかもしれない。
物騒な思考をされるまえに、俺は親指で背後をくいっと指差す。
「こいつは、冷歌だ。向こうでまあ、そのいろいろお世話になったんだよ」
桃にはそれで伝わるだろうが、沙耶は首をひねっている。
俺が学園に行ったことは沙耶には内緒にしてある。
ずるい、とか思われそうだし、心配されるかもしれないからな。
余計な心配をかけないためにも、俺は沙耶には伝えるつもりはない。
「冷歌だぜ。えーと、ご兄妹?」
「まあ、そんなところで」
小さく声をかけてきた冷歌にとりあえず同調する。
しかし。そこに待ったをかけてきたのが桃だ。
「こちらの沙耶さんは確かに勇人くんの妹さんです。そして、私の義妹でもあります。でも、私と勇人くんは兄妹でありませんから」
「あいつの言葉は無視していいから。それじゃ、行こうぜ」
「……勇人。いいのか? なんか凄い目であたしにらまれてるけど」
桃のほうを見ると、笑顔だ。
……どうやら俺が見ていないところで般若のような顔をしているのだろう。
「気にするな。それより、今日で行かないといけないんだ。無駄な時間を過ごしている場合じゃないだろ?」
「そうだなっ。あたし、この一週間でかなり鍛えたんだぜ」
「まあ俺もな」
自宅の迷宮に潜って素材を集めてとにかく食べまくった。
俺の人間としての肉体は十分に強化されただろう。眷属としての力も合わされば、今の肉体だけでも十分に戦える。
冒険者たちが拠点としている建物へと向かい、そこから学園のワープポイントへと移動した。
好奇の視線がいくつかある。
部外者がこんなところにいるのだから、その視線は仕方ない。下手なことを言われる前に、さっさと迷宮に入ってしまおう。
学園から校庭へと出て、左へと歩いていく。そちらに作られた簡素な建物の中にある、迷宮に用事があるんだ。
「勇人は、自宅の迷宮を申請してないだろ?」
「……ばれたか」
それをまさか聞かれるとは思っていなかった。
……というか、申請自体が面倒なのだ。あれから調べたのだが、一日で終わらない可能性もある。
今はそれに時間をかけている場合ではない。
他にやらなければならないことがたくさんあるのだから、迷宮申請は後に回してしまった。
俺が困っていると、冷歌はジト目を作って覗いてくる。
その顔から視線を外していると、彼女は腰に手をあてて嘆息をついた。
「まあな。こっちで迷宮の把握はしてるんだからな。事情はわかってるから、あたしも黙ってるけどよ、全部終わったらちゃんと申請しておいてくれよ?」
「了解だ」
「そんときは、あたしが調査に行ってやるからな」
「お手柔らかにな」
冷歌は楽しそうに迷宮へと向かう。そのまますぐに中へと入り、他の冒険者と関わる前にさっさと中へと進んでいく。
第四十八階層まで移動して、今日はそこの調査からだ。
……第四十八階層も構造自体は変わらない。ただ、迷宮内が広い。
何より入り組んだ造りをしている。
仕方なく、持ってきたメモ帳で地図を作りながら先に進んでいく。
「あの、桃って奴はあんたの彼女か?」
からかうように彼女がこちらを見てきた。
……まあそんな風に誤解されても仕方ないよな。
桃がいたら面倒なことになっていただろう。俺は首を振る。
「いや、あいつはただの幼馴染だ。仲は……かなりいいけどな」
「へぇ、なんだ勇人にはそういう気持ちはないのか?」
「まあ、な」
欠片もないわけではない。
ただ、どちらかといえばそれは友達としての気持ちのほうが強いと思う。
しばらくそんなことを考えていると、眼前に魔物が出現する。
第四十八階層、出現モンスターは、ソルジャースケルトンヘビーだ。
骨の……蛇だ。蛇だけ読み方がそのままだが、この表示は大精霊がくれた霊体の力の一つだ。
大精霊がヘビーとしたのには何かしらの理由があるのかもしれない。
いや、ないか。
「ラミアを、白骨化したって感じか?」
俺の言葉に、ああと納得する。
「なるほどなっ、どっかで見たと思ったらそれだぜ」
「ラミアって本当にいるのか?」
「ああっ、ここの第二十……いくつだったかに出たぜっ。上半身がかなりの美女ってこともあって、男子のやつらが戦いずらそうにしてたんだよ。まったく、冒険者なら誘惑に惑わされるってんだ」
俺も一度見てみたいものだな。
スケルトンは、彼女の言う通り、上半身は人間の姿をした骨であり、下半身は蛇のような形をした骨だ。
それは這うようにしてこちらへと迫ってくる。
両手にもった鋭い片刃の剣は、刀に似ている。俺たちへと振りぬいてきて、いつも通りに冷歌が後方へと下がる。
訓練の成果、といっても俺のやることは変わらない。
刀が流れるように振りぬかれる。俺はそれを長剣で受けた。
スケルトンのほうが攻撃速度はある。初めから、受けきれるとは思っていない。
抜き放たれた一撃を後方へと下がってかわす。カウンターをするつもりであったが、スケルトンはぴくりと反応して口を開く。
放たれたのは複数の骨だ。骨が矢のように襲いかかる。……距離をあけた場合の対処も持っている、か。
冷歌が氷を作り出す。スケルトンの背後に氷は生まれていき、その一撃が槍のように抜ける。
スケルトンは、背中に目があるかのように刀でそれを切り裂いた。
驚きに冷歌が目を見開きながらも、その先の対応を怠らない。
砕けた氷へと魔力を流したのだろう。その破片を武器に変えて攻撃する。
美しい氷の連撃に、スケルトンはさすがにいらだった様子であった。俺はその隙を見逃さない。
先ほどまでの受ける剣ではなく、攻める剣へと変化させる。
加速と同時に長剣を振る。
スケルトンも片手で煩わしそうに俺の剣へと合わせる。
お互いの剣がぶつかり、それから俺は弾き上げる。
スケルトンの片手で振りぬいた一撃にさすがに負けるつもりはなかった。
ただ、俺は全力を出して弾き飛ばすのが精々だ。
魔物の肉体という異常なまでのアドバンテージがうらやましい。
慌ててスケルトンが体をくねらせて逃げようとしたが、その足場はすでに氷が発生している。思うようにスケルトンは動けないようだ。
氷が体へとまとわりつき、さらに冷歌が氷の浸食を加速させる。
もはやスケルトンに打つ手はない。俺が近づいて、スケルトンの体に長剣を振り下ろす。
一瞬の抵抗のあと、魔物を真っ二つにする。
だいぶ、俺自身の肉体も強化されたな。
毎日肉や迷宮でとれた果物ばかりを食べまくった。
肉を大量に集め、戦闘の合間にはなっている木の実などを食べまくった。
そのおかげで、眷属の力と合わせれば肉体だけでも十分な戦闘力を得られた。
しばらく果物と、肉は遠慮したいと思うほどに、この一週間はひたすらそれだけを食べ続けたのだ。
「勇人もだいぶ強くなったな」
「そりゃあ、こっちのセリフだ。援護に徹してくれてありがとな」
「まあ、勇人と組むなら、あたしはそっちに徹したほうがいいと思ってな。今まで、サポートなんてあんまりしてこなかったから、この一週間でそっちを磨いたんだぜ」
やれやれと冷歌は肩をすくめるようにして、それからブイとピースをした。
「とにかくだ。この階層の敵もなんとかなりそうだな!」
「そうだな。あとは、さっさと次の階層を見つけられればいいんだけど……」
「それも、あたしが対策を考えたんだぜ!」
彼女はにやりと笑い、それから一度大声をあげる。
声が遠くまで響き、それから氷を放つ。
放たれた氷に、魔法を何か発動した。
「魔力消費が多いから、あんまり一緒には使いたくなかったんだけどさ。これを持ってきたんだよ」
冷歌は今日はネックレスをつけていた。
それを示すようにして、彼女は膝をつきながら、少し辛そうに顔をこちらへ向ける。
「……なんだそれは?」
「これは簡単にいえば、カメラの機能を魔法に与えるような感じかな。あたしが放ったスキルが通った場所の景色を見ることができるんだ。……これ、脳の負担もそうだし、魔力も結構消費するからあんまり好きじゃないんだぜ。……それに、普段は一人で潜ることが多いから、ゆっくり使ってもいられないしな」
「そうか。おまえにばっかり悪いな」
俺も魔法が使えればいいんだけどな。
「いいって。はっきりいって、あたしは魔法以外じゃ勇人の足元にも及ばないんだ。だから、役割分担だってわけだっ」
「……そうだな。任せろ、魔物が出たときは教えるからな」
「戦えよなっ。よし、見つかったぜ!」
俺の背後に氷の破片が戻ってきていた。
……もう迷宮内をぐるっとみてきたってわけか。彼女はついていた膝をあげたが、ふらりと傾く。
「大丈夫か?」
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