オール1から始まる勇者

木嶋隆太

妹視点 第六話

「反省点を出して行こうか」


 反省点……ないよ、だなんてとても言えない。
 身体能力では決して負けていなかった。
 けど、あらゆる面で足りていなかった。
 特に思ったのは戦闘開始までの流れだ。


「動きだしが遅かったよね」
「それはあったね。つい、身構えてしまったよ。あとは?」
「あたしは視界が狭かったかな」
「それは、私もかな。ボアピグの一撃のときは魔法を当てたことの興奮のほうが強かったね。……それで、前しか見れなかったよ」
「あたしも。なんとなくそんな感じだったよ……」


 反省点がボロボロでてくる。
 魔法にしてもそうだ。最初のヒートバレットは魔力をこめすぎた。
 次のサークルフレイムに関しては、逆に込める魔力が少なかった。
 魔法を把握しきれていないんだ。自分が何ができて、何をするべきなのか。そこをもっと考えないとダメだ。


「魔法の威力も問題だね、武器に関する魔法は体の動きをサポートしてくれるんだけど、自ら動こうとしたほうが威力はあったし、あとはこめる量かな。やり方によって、魔法も色々と変わってくるみたいだね」
「そうだね……」


 あとは何かあっただろうか。
 連携に関してはそれなりにできていたと思う。
 問題はどれだけ体をすぐに動かせるようになるかだ。
 これは命がかかった戦いでもある。次の行動が遅れると、それだけあの世が近づく。


「あとは経験を積むしかないね」


 彼女が腕時計で時間を確かめる。もう一戦くらいできるかな?
 今まではスマホで確認していたけど、万が一の時壊しちゃうかもしれないからね。
 これからは彼女のアイテムボックスに入れられるけど、腕時計のほうが簡単に見れるんだよね


「まだ戦闘はできそうだね。早速行ってみるかい?」
「その前に、お互いにやるべきことを決めておこうよ。戦闘のときに、ちょっとは迷いも減るんじゃないかな?」
「ふむ……それじゃあ私が前衛で敵を足止め、かな?」
「それじゃ、あたしは魔法で援護?」


 咲葉は悩むように顎へと手をやる。


「どっちがフィニッシャーになるかだね。私よりかは、咲葉の広範囲魔法とかのほうがいい気もするけど」
「確かに、サークルフレイムが一番当てやすいね」
「次の戦闘は、サークルフレイムで仕留める、というので行こうか」
「そうだね。……ああ、あたしも剣で戦いたいよぉ」
「なら、前衛で剣も魔法も使ってみたらどうだい?」


 咲葉は、揺れる髪を後ろで縛っていく。
 ポニーテールにまとめて、よし、とこちらを見る。本気モードだね。
 魔法と剣の両立かぁ。正直難しい。
 魔法は、練り上げる必要があってそっちに集中していないとダメだ。
 そうなると、ファングラビットのような動きの速い魔物が対応できないと思う。
 ……やっぱりまだ後衛から援護に徹しようかな。


「あたしはまだ、さすがに両方は難しいよ。剣の魔法はすぐに使えるの?」
「そうだよ。そのかわり、再使用までに一定時間が必要みたいだ」
「だから、連発しなかったんだね」
「これは事前に調べておく必要があったよ」


 戦闘中に気づいたのかな。
 咲葉が疲れた様子で肩を落としている。


「とにかく、新しい魔法はできる限り試しておくってことかな?」
「それも、大切だね。魔物がでてこないからと、私たちは少し冷静さを欠いていたようだね」
「それはまあ、仕方ないよ。落ち込まないで」


 あたしとしては、咲葉もそういうときがあるんだって思えて嬉しいからね。
 咲葉は照れたように頬をかいている。


「さっきの様子だと、第四階層は三対二の状況が多くなると思うから、二人でうまく引きつけて戦っていこうか」
「そうだね」


 咲葉が一人でどうにかできればあたしが魔法に集中できるんだけど、さすがに無理だと思う。あたしが咲葉の立場でも絶対できないからね。
 まあ、あたしは天才だから、咲葉よりも長く耐えられる自信はあるけど。
 あたしが腕を組んで少しだけドヤ顔をしてやると、咲葉が嬉しそうにこちらをみてくる。


「ああ、くそ。カメラがないと撮れないじゃないか。……沙耶のドヤ顔フォルダを潤わすせっかくのチャンスだったのに……」
「変なの作らないでよ!」


 あたしがむくれると、また悔しそうにしている。
 反省してよ!


「それにしても、魔物三体か……」
「やっぱり大変?」
「そうだね。せめて、もう一人、前衛がいればどうにかなるかもしれないけど、お兄さんを誘うのはどうだい?」


 からかうように目元を緩める。あたしはすぐに首を振る。
 兄貴の性格はよく知っている。
 仮にダンジョンに乗り気でも、あたしと一緒には絶対入らない。
 あたしのこと心配しすぎて、入れてくれないと思う。
 今ままで、兄貴の背中に隠れていたから仕方ないけどね。


「むりむり。兄貴、基本的にやる気ないし、そもそもダンジョンに否定的だし」


 まあ、一番はこれなんだよね。
 基本的に兄貴は面倒ごとは嫌いだ。桃お姉ちゃんに尻を叩かれないと何もしないような人だ。
 あたし、そこだけは兄貴をリスペクトしてる。
 そのせいか、咲葉に尻を叩かれることが多い気がするんだよね。


「そうなのかい。やっぱり、沙耶とは違って危険な部分を考えているんだね」
「あたしだって考えているよ!」
「そうなのかい? あとは、桃さんはどうだい? 事情を話したら、協力してくれるかもしれないよ」
「うーん、あんまり巻き込みたくないかな。桃お姉ちゃんもどっちかといえば兄貴側だし、こっそり教えちゃいそうだよ!」


 ていうか、あたしならうっかり話してしまうとおもう。


「そうなると、結局二人だね」


 咲葉の両目は恍惚といった感じで細められている。
 兄貴の部屋にあったエロ漫画のキャラクターみたいに、彼女は息を乱してこちらに視線を向けてくる。
 ……咲葉に対してあたしは寛容的だけど、この顔は危険だ。
 距離をあけながら歩いていく。


 第四階層に下りたけど、すぐに魔物は出ない。
 しばらく探索をして、発見した桃を口へ運ぶ。最初の頃は一つ、二つ食べればレベルアップしていたけど、いまはもう上がらない。
 食べ物の経験値は微々たるものとして考えたほうがいいかも。


「沙耶、魔物だよ」


 空間がゆがみ、今度はあたしたちの準備が先だ。
 そもそも、さっきは登場のタイミングも悪い。
 空間のゆがみは三つで、たぶん出現モンスターは三体。


「さっきの組み合わせかな?」
「決めつけない方がいいよ。こういうものと思って行動すると、思わぬしっぺ返しがあるからね」


 咲葉はどこか言い聞かせるような口調だ。
 さっきの咲葉は、魔物というものの行動をある程度予想していたのかもしれない。


 出現したモンスターは、ボアピグ一体とゴブリンが二体だ。
 ボアピグをパワータイプと考えるなら、ゴブリンはバランスだ。
 戦闘に慣れていないあたしたちからすると、俊敏なウサギがいないこの組み合わせのほうが良い。


「沙耶、指示はどっちが出そうか?」
「……うーん」


 あたし、全体を見て考えるとかは難しい。けど……遠距離のあたしがやったほうが良いのかな?


「あたし的には、咲葉にやってもらいたいけど……」
「とりあえず、それなら今回は私がやってみようか」


 と返事をしたが、咲葉はあまり気が進まなそうだ。
 剣を構えると、魔物たちの唸り声が届く。
 咲葉に先ほどの迷いはない。まっすぐに突っ込んでいく。


「沙耶は範囲魔法の用意をしてくれ……魔法の場所は指定できるよね?」
「うんっ」


 ……ああそうか。
 あたしはアナライズでおおよそ仲間の持っている魔法などがわかる。
 もっといえば、初見の魔物であっても弱点がわかるんだ。


 すべてを把握しやすいあたしがパーティーに指示を出したほうがいいのかな。
 咲葉が剣を小さく振っていく。
 両手で持って、必死に体が流れないようにしている。


 ゴブリンたちは、どうやら攻撃の軸をボアピグにしたようだ。
 ボアピグが地面を何度か踏みつけたところで、その体を光がまとう。
 ……さっきも、あの光はあったかも。
 アナライズを発動すると、それが突進系統の魔法であることがわかる。


 うん、こうやって相手の情報を逐一把握できるのは、あたしだけが使える有利だ。
 ボアピグの突進が咲葉へと向かう。
 咲葉はそのタイミングに合わせて、乱斬を発動する。


 ボアピグの体が一瞬止まるが、痛みを押し切るようにして走り出す。
 咲葉は地面をけって、大きく転がる。


「沙耶、ボアピグにお願い!」
「……わかった!」


 魔力は十分込めた。
 攻撃範囲、威力……そのどちらもボアピグを倒せるように片手を振る。


「サークルフレイム!」


 魔法陣が展開され、火の波が生まれる。その範囲にいたボアピグと、突っ込んで来ようとしたゴブリンを焦がす。
 ゴブリンはすぐに離れたが、ボアピグは逃げ出す前に体力を失った。
 次はゴブリンだ。咲葉が剣を構えなおし、じりじりと詰める。


 ゴブリンが、咲葉にとびかかる。右手に持った剣が振り下ろされる。
 相変わらずボロボロの剣で切れ味はなさそうだけど、剣の腕はそれなりだ。
 咲葉がどうにか打ち合っているが、その脇にいたゴブリンの一体が片手を向ける。


 ……まさか、魔法?
 ゴブリンが片手に生み出したのは土だ。
 アナライズで調べると、少量の土を生み出す魔法のようだ。
 それを投げつけられれば、一瞬意識がそっちに向いてしまう。


「咲葉! 奥のゴブリンが土を投げてくるよ!」
「……了解!」


 あたしはサークルフレイムの用意をする。
 あたしのような一般的な魔法には詠唱としてのチャージ時間。
 咲葉のような武器に関係する魔法はクールタイムが必要、なんだね。


 チャージを終えたあたしは、咲葉とゴブリンの戦闘をじっくりと観察する。
 二対一でも、咲葉が戦えているのはやはりこれまでのレベルアップが影響している。
 ゴブリンの一体が後方へと下がろうとしたのを見て、あたしはそちらにサークルフレイムを放つ。
 バックステップをしたゴブリンが燃える。
 咲葉があたしの魔法を確認してからすぐ、打ち合っていたゴブリンの体を弾いた。
 咲葉は人の考えを察するのが上手だから、こういうときに本当に助かるよ。
 二体のゴブリンがあたしの魔法で燃えつきたのを確認してからちかづkう。


 ……うん、さっきに比べれば危なげのない戦いだったと思う。
 咲葉がそれを見届けたところで、剣を地面にさして息をはく。
 けど、前衛が一人だとこの階層は少し大変そうだ。

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