オール1から始まる勇者
第五話
「行ってくるよーだ!」
沙耶は不満全開といった顔で、玄関を勢いよくしめる。
立て付けが悪くなるから、ものに当たるなっての。
家を飛び出した彼女に嘆息をこぼすしかない。
「……なんであいつはあんなに迷宮に入りたがるんだよ」
「でも、たぶん沙耶さんくらいが、標準なんじゃないですかね? ていうか、勇人くんもきっと異世界に行ったことがなかったら、一人で興味本位で入っていたと思いますよ」
……そんなわけあるかよ。
俺はもっと冷静で賢い。
このような危険な状況になれば、まず自分の命を第一に考え、そんなことはきっとしない。
「勇人くんもなんだかんだ子どもっぽいですからね。レベルアップとか、魔法のようなあの力を見て、興奮を抑えられるはずがありません」
「そんなわけないだろ」
「あると思いますよ。ほら、小学生の頃にあったじゃないですか。近くの森でお化けが出るって聞いて、楽しそうだからって私と沙耶を連れて行って森の中で迷子になったときとか」
「それは子どもの頃だから別にいいだろ! 今はそんなことしねぇよっ」
「そうですか?」
「……ああ、もちろんだ。それよりも、今は世界中にある迷宮についてだ。……俺はこの世界にあんな異常を入れたくはなかったんだけどな」
「勇人くんのせいではないでしょう。……もしかしたら、こうなるのは決まっていたのかもしれません。勇人くん、大精霊に聞いてみてはどうでしょうか?」
「それが、何度やっても大精霊から返事がねぇんだよ」
「……何かあったのでしょうか?」
「じゃなきゃ、居留守だろうけど……俺にそんなことしたらただじゃ済まねぇぞ」
大精霊と俺が通話できるのは、色々な契約上の関係が大きい。
異世界にいる俺の恋人アーフィとも、主従契約を結んでいる。そういうプレイではなく、アーフィは眷属を作ることで、その眷属に力を与えられる。
だから俺は、彼女の眷属になり身体能力を大幅に向上した。
そして、アーフィは異世界でも特別な種族で、本来精霊とは相いれない存在だ。
眷属になった俺も精霊に嫌われるような存在なのだが、精霊の力と眷属の力がうまく混ざり合ったことで、一つ別の生命体になったらしい。
半精霊といった感じか。そういうわけで、大精霊は俺に目をつけて、何かと頼みごとをするようになった。
この世界は平和であってほしい。だから俺は、この迷宮についての原因を追及するところから始めたい。
「勇人くん。異常事態ですし、ここは普段とは違うことをして落ち着いたほうがいいかもしれません」
「普段とは違うことってなんだよ?」
「ほら、私とデートしましょう」
「そりゃあ楽しそうだ。悪いが、アーフィがいるから無理」
「もう、そんなことは気にしないでください。しばらくこちらにはこれないはずですし、浮気くらいばれませんよ」
「アーフィにばれたら何をされるかわかったもんじゃねぇよ。そもそも、やる気もおきねぇ」
俺は羽織った制服の上着を脱いだ。
今日は学校は休みだ。というか、しばらくは休みにするかもしれない。
「どうするんですか?」
「迷宮を、とりあえず五階層まで攻略してくる。魔物が出ないようにしておけば、沙耶が勝手に入っても大丈夫だからな」
「そうですね」
それに、宝箱とか色々あるんだろ? ちょっと探してみたい。
これは別に子ども心をくすぐられているわけではなく、例えば罠とかないのか心配になっただけだ。
「つーわけで、俺は今日は欠席にするから、じゃーな」
「いえ、私も休みますよ」
「……は?」
「そういえば、一緒に迷宮攻略をするなんてほとんどしなかったですからね。……それに二人きりになれますし、うっかりラッキーハプニング……ふふ」
「後半ぼそぼそ言っているみたいだけど、丸聞こえだぞ」
「聞こえるように言ったんです。どうです、意識しちゃいますか」
「いや、さっぱりだ。……本当についてくるのか?」
「たまには体を動かさないとお肉がついちゃうんです。触ってみます?」
「遠慮しておく」
とりあえず、二人で行くことは決まりだ。
……まあ、迷宮の一階層を見た感じ俺一人でも大丈夫だと思うが、桃がいたほうが心強いのは確かだ。
異世界召喚はクラスメートたちも一緒であったため、クラスメートの桃ももちろんそうだ。
だから、それなりに優秀なステータスを持っている。
とりあえず、装備品とステータスの確認か。
といっても、武器も防具も身に着けられないし、そもそも霊体があることで防具を身に着けることはほとんどないからな。
武器がまるでないのは問題だ。
物置のスコップでも持ってこようかと考えたが、まあ俺の場合は素手でもいいか。
「桃、どうしたんだ?」
「……いえ、その久しぶりにステータスを確認したら、なんか全体的に異世界にいたときの半分くらいになっているのですが」
「……まさか」
俺は自分のステータスを開いた。
Lv20 ハヤト・イマナミ 職業 ものまねLv1 メイン 勇者Lv1 サブ 斧使いLv1、剣士Lv1、探索者Lv1
HP1
筋力1307 体力1 魔力1 精神1 技術810
火1 水1 風1 土1 光1 闇1
職業技 筋力アップ 技術アップ 迷宮移動
俺は他の人とは違い、ものまねという他人の職業をコピーする能力を持っていた。
コピーした職業をサブとメインで合計四つ装備することで、レベルアップ時のステータスアップボーナス、さらに職業技を獲得することができる。
メイン職業は、レベルアップ時のステータスアップにかかわり、サブ職業は職業技、という感じだ。
職業技は、職業ごとに獲得できる技だ。レベルが上がれば増えるのはもちろんだが、長く装備していても
獲得できる場合がある。
勇者をサブ職業にセットすれば優秀な技をいくつか使用できるのだが……職業技の発動はHP消費だ。
……つまりまあ、俺の場合HP1による職業技しか使えない。それでも使用できる迷宮移動だけは入れてあるという感じだ。
俺のステータスでもっとも優遇されているのは、ステータスポイントというレベルアップ時に成長した分の数値をすべて、自分で割り振ることができるという点だ。
おかげで、HPが1という状態で、筋力、技術だけに振り分けられるようになっている。
筋力は攻撃力、技術は剣の扱いなどにかかわってくる。
……異世界から戻ってきたときの数字そのままだ。
桃は、というと見せてもらうとすべて200前後しかない。
確かに、彼女の数字はもっと高かった、と思う。……霊体は大精霊に与えられた力だ。
中身のステータスや、職業はその人の中に眠っている力を表しているらしいのだが……つまり与えた大精霊に何か起きているのかもしれない。
だとしたら、俺に何も起きないのはなぜだ? やはり、半精霊化したせいでちょっとばかり異常をきたしているのかもしれない。
「桃、やめた方がいいんじゃないか?」
「けれど、まあこれでも異世界に召喚されたときよりも高いですからね。足手まといにはならないと思いますよ」
「……まあ、そうなんだけどな」
一人で迷宮に入るよりかは、二人のほうが楽なのは確かだ。
「桃、とりあえず一度着替えてくるか?」
「わかりました」
「ここで脱ごうとするな! 一度帰るか別の部屋で着替えろ!」
「構わないですよ、見てしまっても」
「いいから、さっさと別の部屋で着替えてこい!」
脱ぎかけている彼女の背中を押して、部屋へと入れる。
「もう強引ですね」
それが彼女の返事となり、するすると服を脱いでいく音がする。
いかん、これを聞いて想像が膨らみそうになっている俺は変態なのではないだろうか。
たぶん桃は、学校のジャージにでも着替えるつもりなのだろう。
俺は、家で良く着るジャージにでもしようか。
自室に戻り、服を脱いでいく。着替えていると、若干空いたドアの隙間からぎょろっと顔が出てくる。
「なんでおまえそこで見てるんだよ」
「いえ、勇人くんの体を見たかっただけですよ」
スマホをこちらへと向けようとしてきたので、俺はさっさと着替えを終了する。
女子は着替えとか遅いイメージがあったのだが、桃の奴早かったな。
なんだか迷宮に入る前にどっと疲れがたまってしまった。
嘆息をつき、玄関から靴を持ってきて沙耶の部屋に入る。
迷宮への入り口であるドアは、依然として変わらず威風堂々とそこに鎮座している。
まずは、この異常をどうにか払わないといけない。
世界の異常を調べるのは、そのあとだな。
「……これは、私の知っている迷宮の入り口とは少し違いますね」
「まあ、そうなんだけどな。それでも、中はそんなに変わりはなかったし、たぶん」
少なくとも、昨日一階層を見た程度では。
冷歌が飛び出してきたのには驚いたが、本当にそれだけだ。
普通の迷宮のように魔物が出現し、それを倒せば素材が手に入る。
「確か、五階層ですか。……まあ、そこまででしたら武器も必要ありませんかね?」
「中で宝箱から回収できる可能性もあるらしいぜ」
「やっぱり勇人くんも楽しみにしているんですね」
「いや、それはあれだ……危険を退けるために致し方なく調べただけだっての」
くすり、と桃が笑い、俺は頭をかく。
……別に、期待してみたわけじゃないんだけどな。
沙耶は不満全開といった顔で、玄関を勢いよくしめる。
立て付けが悪くなるから、ものに当たるなっての。
家を飛び出した彼女に嘆息をこぼすしかない。
「……なんであいつはあんなに迷宮に入りたがるんだよ」
「でも、たぶん沙耶さんくらいが、標準なんじゃないですかね? ていうか、勇人くんもきっと異世界に行ったことがなかったら、一人で興味本位で入っていたと思いますよ」
……そんなわけあるかよ。
俺はもっと冷静で賢い。
このような危険な状況になれば、まず自分の命を第一に考え、そんなことはきっとしない。
「勇人くんもなんだかんだ子どもっぽいですからね。レベルアップとか、魔法のようなあの力を見て、興奮を抑えられるはずがありません」
「そんなわけないだろ」
「あると思いますよ。ほら、小学生の頃にあったじゃないですか。近くの森でお化けが出るって聞いて、楽しそうだからって私と沙耶を連れて行って森の中で迷子になったときとか」
「それは子どもの頃だから別にいいだろ! 今はそんなことしねぇよっ」
「そうですか?」
「……ああ、もちろんだ。それよりも、今は世界中にある迷宮についてだ。……俺はこの世界にあんな異常を入れたくはなかったんだけどな」
「勇人くんのせいではないでしょう。……もしかしたら、こうなるのは決まっていたのかもしれません。勇人くん、大精霊に聞いてみてはどうでしょうか?」
「それが、何度やっても大精霊から返事がねぇんだよ」
「……何かあったのでしょうか?」
「じゃなきゃ、居留守だろうけど……俺にそんなことしたらただじゃ済まねぇぞ」
大精霊と俺が通話できるのは、色々な契約上の関係が大きい。
異世界にいる俺の恋人アーフィとも、主従契約を結んでいる。そういうプレイではなく、アーフィは眷属を作ることで、その眷属に力を与えられる。
だから俺は、彼女の眷属になり身体能力を大幅に向上した。
そして、アーフィは異世界でも特別な種族で、本来精霊とは相いれない存在だ。
眷属になった俺も精霊に嫌われるような存在なのだが、精霊の力と眷属の力がうまく混ざり合ったことで、一つ別の生命体になったらしい。
半精霊といった感じか。そういうわけで、大精霊は俺に目をつけて、何かと頼みごとをするようになった。
この世界は平和であってほしい。だから俺は、この迷宮についての原因を追及するところから始めたい。
「勇人くん。異常事態ですし、ここは普段とは違うことをして落ち着いたほうがいいかもしれません」
「普段とは違うことってなんだよ?」
「ほら、私とデートしましょう」
「そりゃあ楽しそうだ。悪いが、アーフィがいるから無理」
「もう、そんなことは気にしないでください。しばらくこちらにはこれないはずですし、浮気くらいばれませんよ」
「アーフィにばれたら何をされるかわかったもんじゃねぇよ。そもそも、やる気もおきねぇ」
俺は羽織った制服の上着を脱いだ。
今日は学校は休みだ。というか、しばらくは休みにするかもしれない。
「どうするんですか?」
「迷宮を、とりあえず五階層まで攻略してくる。魔物が出ないようにしておけば、沙耶が勝手に入っても大丈夫だからな」
「そうですね」
それに、宝箱とか色々あるんだろ? ちょっと探してみたい。
これは別に子ども心をくすぐられているわけではなく、例えば罠とかないのか心配になっただけだ。
「つーわけで、俺は今日は欠席にするから、じゃーな」
「いえ、私も休みますよ」
「……は?」
「そういえば、一緒に迷宮攻略をするなんてほとんどしなかったですからね。……それに二人きりになれますし、うっかりラッキーハプニング……ふふ」
「後半ぼそぼそ言っているみたいだけど、丸聞こえだぞ」
「聞こえるように言ったんです。どうです、意識しちゃいますか」
「いや、さっぱりだ。……本当についてくるのか?」
「たまには体を動かさないとお肉がついちゃうんです。触ってみます?」
「遠慮しておく」
とりあえず、二人で行くことは決まりだ。
……まあ、迷宮の一階層を見た感じ俺一人でも大丈夫だと思うが、桃がいたほうが心強いのは確かだ。
異世界召喚はクラスメートたちも一緒であったため、クラスメートの桃ももちろんそうだ。
だから、それなりに優秀なステータスを持っている。
とりあえず、装備品とステータスの確認か。
といっても、武器も防具も身に着けられないし、そもそも霊体があることで防具を身に着けることはほとんどないからな。
武器がまるでないのは問題だ。
物置のスコップでも持ってこようかと考えたが、まあ俺の場合は素手でもいいか。
「桃、どうしたんだ?」
「……いえ、その久しぶりにステータスを確認したら、なんか全体的に異世界にいたときの半分くらいになっているのですが」
「……まさか」
俺は自分のステータスを開いた。
Lv20 ハヤト・イマナミ 職業 ものまねLv1 メイン 勇者Lv1 サブ 斧使いLv1、剣士Lv1、探索者Lv1
HP1
筋力1307 体力1 魔力1 精神1 技術810
火1 水1 風1 土1 光1 闇1
職業技 筋力アップ 技術アップ 迷宮移動
俺は他の人とは違い、ものまねという他人の職業をコピーする能力を持っていた。
コピーした職業をサブとメインで合計四つ装備することで、レベルアップ時のステータスアップボーナス、さらに職業技を獲得することができる。
メイン職業は、レベルアップ時のステータスアップにかかわり、サブ職業は職業技、という感じだ。
職業技は、職業ごとに獲得できる技だ。レベルが上がれば増えるのはもちろんだが、長く装備していても
獲得できる場合がある。
勇者をサブ職業にセットすれば優秀な技をいくつか使用できるのだが……職業技の発動はHP消費だ。
……つまりまあ、俺の場合HP1による職業技しか使えない。それでも使用できる迷宮移動だけは入れてあるという感じだ。
俺のステータスでもっとも優遇されているのは、ステータスポイントというレベルアップ時に成長した分の数値をすべて、自分で割り振ることができるという点だ。
おかげで、HPが1という状態で、筋力、技術だけに振り分けられるようになっている。
筋力は攻撃力、技術は剣の扱いなどにかかわってくる。
……異世界から戻ってきたときの数字そのままだ。
桃は、というと見せてもらうとすべて200前後しかない。
確かに、彼女の数字はもっと高かった、と思う。……霊体は大精霊に与えられた力だ。
中身のステータスや、職業はその人の中に眠っている力を表しているらしいのだが……つまり与えた大精霊に何か起きているのかもしれない。
だとしたら、俺に何も起きないのはなぜだ? やはり、半精霊化したせいでちょっとばかり異常をきたしているのかもしれない。
「桃、やめた方がいいんじゃないか?」
「けれど、まあこれでも異世界に召喚されたときよりも高いですからね。足手まといにはならないと思いますよ」
「……まあ、そうなんだけどな」
一人で迷宮に入るよりかは、二人のほうが楽なのは確かだ。
「桃、とりあえず一度着替えてくるか?」
「わかりました」
「ここで脱ごうとするな! 一度帰るか別の部屋で着替えろ!」
「構わないですよ、見てしまっても」
「いいから、さっさと別の部屋で着替えてこい!」
脱ぎかけている彼女の背中を押して、部屋へと入れる。
「もう強引ですね」
それが彼女の返事となり、するすると服を脱いでいく音がする。
いかん、これを聞いて想像が膨らみそうになっている俺は変態なのではないだろうか。
たぶん桃は、学校のジャージにでも着替えるつもりなのだろう。
俺は、家で良く着るジャージにでもしようか。
自室に戻り、服を脱いでいく。着替えていると、若干空いたドアの隙間からぎょろっと顔が出てくる。
「なんでおまえそこで見てるんだよ」
「いえ、勇人くんの体を見たかっただけですよ」
スマホをこちらへと向けようとしてきたので、俺はさっさと着替えを終了する。
女子は着替えとか遅いイメージがあったのだが、桃の奴早かったな。
なんだか迷宮に入る前にどっと疲れがたまってしまった。
嘆息をつき、玄関から靴を持ってきて沙耶の部屋に入る。
迷宮への入り口であるドアは、依然として変わらず威風堂々とそこに鎮座している。
まずは、この異常をどうにか払わないといけない。
世界の異常を調べるのは、そのあとだな。
「……これは、私の知っている迷宮の入り口とは少し違いますね」
「まあ、そうなんだけどな。それでも、中はそんなに変わりはなかったし、たぶん」
少なくとも、昨日一階層を見た程度では。
冷歌が飛び出してきたのには驚いたが、本当にそれだけだ。
普通の迷宮のように魔物が出現し、それを倒せば素材が手に入る。
「確か、五階層ですか。……まあ、そこまででしたら武器も必要ありませんかね?」
「中で宝箱から回収できる可能性もあるらしいぜ」
「やっぱり勇人くんも楽しみにしているんですね」
「いや、それはあれだ……危険を退けるために致し方なく調べただけだっての」
くすり、と桃が笑い、俺は頭をかく。
……別に、期待してみたわけじゃないんだけどな。
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