オール1から始まる勇者
第五十一話 二十二日目 恋
部屋へと戻ってくると、腕を組んで俺たちの部屋の前に待機している人間がいた。
カレッタだ。
彼はずっと俺らのことを待っていたのだろう。暇な奴だ。他に友達いないのか。
「まさか……僕が予定していた場所が破壊されているなんてね」
「……す、すみません。やはり……ああいったことは」
むっとしたようにカレッタが腕を組む。
「君たちはばっちり見たらしいじゃないか! ベルナリアといえば、確かアジダの家とそれなりに仲が良い家だったな。その美しい令嬢の裸となれば、一体どれほどの価値があるか!」
……おまえ、まだ通路なんだぞ。
幸い周囲に人がいなくて助かった。カレッタがしばらく治まる様子はない。
人の怒りがそう長く続くわけでもない。落ち着くまで部屋にでもいてもらうことにする。
彼を無理やりに部屋にいれると、カレッタはぐちぐちとしばらく椅子に座って文句をつけてくる。
彼が静かになったのはそれから十分後のことで、俺はようやくアジダと話をすることができる。
「おまえ、ベルナリアのことが好きなのか?」
「……す、好きではない! ただ……昔ちょっと彼女には酷いことをしてしまった。……だから、どうしても償いをしたいという気持ちはあるんだ」
……アジダは視線を下げる。
「昔、か」
「気になるか?」
問われて俺は首を振る。
「そうだな。気にならないといえば嘘になるが、わざわざ聞きたいってほどでもないから、話したくないならそれでも良い」
「僕は気になるね」
カレッタが言うと、アジダは迷ったように視線をさまよわせた後、小さくうなずいた。
「昔……その、ベルナリア様の家とは仲が良く、俺も良く彼女の家に行っていたんだ」
「将来はアジダと結婚する! とかそんな感じか?」
「そ、そんなことはなかったっ」
顔を真っ赤にしているアジダでわかりやすい。
彼は誤魔化すように首を振って、続ける。
「俺はまあ、そのときから貴族としてはそれほど良い身分ではなかったから、騎士として生きていくことになるのだろうなというのは分かっていた。それで、ベルナリア様のもとで雇うとかそんな話もあったとか」
「そりゃあ良いコネがあったな」
俺の言葉にアジダは苦笑を浮かべる。
「昔の話だ。今はそんな話もあがってはいない。……昔、ちょっとした問題があってな」
「……ベルナリア家といえば、確か昔に誘拐事件が起きたね。それと何か関係があるのかい?」
「ええ、まさにその通りです」
「そうかい。あれの犯人は体内に魔器を埋め込んでいたとかで少しだけ話題になったからね。僕も良く知っているよ。事件の細部まで話を聞いて、それから僕自身もここで披露できるだけの記憶がある。よかったら、再現してあげようか? まあ、演劇としては下の下の内容だけどね」
「いや、いいよ。見たくもない」
つまらない演劇と自分で言っているカレッタだったが、少々悲しそうに目を伏せた。
「アジダはその事件に関係あるのか?」
「ああ。多いにな。俺は……当時彼女と一緒に遊んでいた……そこで突然にその男は現れた。俺が彼女を外に誘い、貴族街だから安全だろうと近くまで遊びに行ったときだったな。魔器を持った男によって、ベルナリア様は連れて行かれてしまった」
「おまえは無事だったのか?」
「……ああ、無様にな。助けなければ……と思っても、体は動いてくれない。ベルナリア様の悲しそうな両目は……今でもたまに夢に見るほどだ」
アジダは握りこぶしを固めていた。カレッタが何かを言おうとしたが、結局はやめた。
彼にとっては、魔器に対しての興味しかないのだろう。アジダにかける言葉も見つからない様子だった。
間違いはない。
ただ、あまりにも残酷だ。
果たしてカレッタは悪かったのか? 憎むべき相手が違うのではないのだろうかと、俺は思う。
俺だって、そんな小さい頃に例えどれだけ好きな人であっても震えていたであろう。
「それ以降……彼女は俺を嫌うようになった。それどころか、人間は信頼できないといってしまうようになられてしまった。……だから、俺は……これからは強くありたいと思った」
顔をあげたアジダは、過去にとらわれながらも、前に進もうという顔をしている。
決して消えることのない過去。それでも、彼はそれを糧に成長している。
実際かなり強くなっただろう。プライドが彼を支え、プライドによって彼は出来上がっている。
貴族として出来ることを、アジダは完璧にやろうとしている。平民を守り、さらには想っている人さえも助けられるようなそんな存在に彼は憧れているだろう。
それからアジダは、俺をちらと見て、気にくわなそうに鼻を鳴らす。
「……貴様が羨ましいものだ。この前の闘技場での事件……あのときおまえはすぐに、リルナ様を助けにむかったらしいじゃないか。よくもまあ表彰されなかったものだ。それだけの功績で、どうして上に評価されなかったのか、疑問が残るほどだ」
「褒めているのか?」
「……当たり前だ。俺は例え、好きな人だとしても、霊体を纏えないような環境では、飛び出すことはできないだろう」
俺は彼とは立場が違った。
力がない状態ではなかったから、行動に移せただけだ。
……仮に俺が霊体も何もなかったら――。
身近にいる大切な誰かが傷ついていても、俺は行動できないかもしれない。
とにかくだ、ベルナリアは大きな勘違いをしている。
今もまだ、自分に過ちがあったと思っているアジダに真実を伝え、事実に気づかせる必要があった。
「まずはベルナリアに現実を教えてやったほうがいいな」
「どういうことだ?」
ベルナリアを慕っているのか、ベルナリアが間違いなのではないか、といった発言にアジダは過敏に反応する。
そこが彼の良いところであって、欠点でもあるのだろう。
もっと柔軟な思考が出来れば、アジダはさらに成長できるはずだ。
「まだ両手で数えられるようなガキが、暴漢に襲われてそれでどうにか出来ると思うか? 例え、霊体が成長しても、心は育たない。その現実を知らずに、ベルナリアはおまえを嫌っている。これは少々傲慢だと俺は思うね」
「具体的に何か考えているのかい?」
アジダが俺の言葉を否定する前に、カレッタが口を挟む。
ナイスアシスト。
自分ひとりでいつまでも抱えている必要なんてない。
俺は腕を組み、こくりと強気に頷いてみせる。
「とりあえず、明日の遊園地で一緒に遊んでこい。昔みたいにな。……そうすりゃ、お互いに相手を知る良い機会になる。安心しろ、セッティングならたぶん出来るしな」
相手の護衛二人とは運よく知り合いだ。
カレッタと比べはるかに友達の多いリルナに頼めば、何かしらの助言ももらえるかもしれない。
「ま、待て! 俺はそんなつもりはないからな! 今さらどんな顔で会えば良いんだ!」
「顔なんてそのままで十分さ」
カレッタが褒めると、アジダが照れたように頭をかく。
それからはっと気づいて顔を真っ赤にする。
「そうではないのです! 俺はもう……ベルナリア様を傷つけただけの人間でしかないんです。今さら、彼女に謝罪するとしても――」
「謝罪の必要性を感じないな。というか、今さらそんな過去を掘り返しても無駄だ。これからのおまえが、ベルナリアを守っていけるようになればいいんじゃないか?」
俺がいうと、アジダは首を振る。
「簡単に言ってくれるな。……おまえは強いから分からないかもしれないが、俺にはまだ」
「強さは関係ない。今言っているのは気持ちの問題だ。もう昔ほど子どもじゃないんだ。戦い方だって知っている。必ずしも勝つことだけが守ることでもないはずだ」
アジダはそれでもまだ迷っているようで、あれやらこれやらの言葉を引っ張り出そうとしてくる。
まあ……アジダについては後でいくらでも相手すれば良いだろう。
それよりも……これから夕食だし、騎士学科のレキナたちに話をしておきたいものだ。
カレッタに視線を向けると、彼も理解したようで頷く。
それから俺はアジダをカレッタに任せて部屋を出る。
「アーフィ……とベルナリアさん」
扉の前で片手をあげてノックしようとしていたアーフィとその後ろに隠れていたベルナリアの姿を見つける。
彼女はなにやら厳しい目でこちらを見て、それからふんとそっぽを向く。
「ベルナリアでいいから。あんた、アジダと一緒の部屋だっけ?」
「ああ」
ふーんと伸びた声をあげるベルナリアは腕を組んで歩き出す。
ついてこいということだろうか? 俺は彼女をおい、横に並んだアーフィに問う。
「……アーフィ、おまえどういう関係だ?」
「さっき知り合ったのよ。おまえの部屋に用事があるからっていうから案内したんだけど……。ちなみに私はあなたに会いに来たくてここにきたのよ」
からかうように顔を近づけてくるアーフィから視線をそらす。
「こんな顔を見ても良いことないだろ」
「私にとっては、元気付けられる顔よ。それで、どうしたの? ……まさか、また女!?」
「……あれは、アジダの女だ」
俺がぼそりと伝えると、アーフィは小首を捻る。
それから、口元を手で隠し、目を輝かせる。
「こ、恋ね!?」
「……まあ、まだアジダの片思いの可能性は高いけどな」
しかし、気になるのはどうしてベルナリアがここに来たのかだ。
俺に用事があった? それは今日のことでさらに言及したいことがあったのだろうか?
ベルナリアは何も言わずにただただ歩いていく。
貴族学科の人間にとっても、彼女はなかなかに接しにくいのか、見かけた相手が道をあけていく。
俺をみると、二度見してくるしな。
どういう関係なの? と呟いているのが聞こえる。
……まったく、俺が女といるとすぐにみんながあれこれ変な噂を流すのだからたまらない。
やがて到着したのは一室だ。ベルナリアが扉をあけて、中を顎で示す。
俺とアーフィは顔を見合わせて中へと入っていった。
カレッタだ。
彼はずっと俺らのことを待っていたのだろう。暇な奴だ。他に友達いないのか。
「まさか……僕が予定していた場所が破壊されているなんてね」
「……す、すみません。やはり……ああいったことは」
むっとしたようにカレッタが腕を組む。
「君たちはばっちり見たらしいじゃないか! ベルナリアといえば、確かアジダの家とそれなりに仲が良い家だったな。その美しい令嬢の裸となれば、一体どれほどの価値があるか!」
……おまえ、まだ通路なんだぞ。
幸い周囲に人がいなくて助かった。カレッタがしばらく治まる様子はない。
人の怒りがそう長く続くわけでもない。落ち着くまで部屋にでもいてもらうことにする。
彼を無理やりに部屋にいれると、カレッタはぐちぐちとしばらく椅子に座って文句をつけてくる。
彼が静かになったのはそれから十分後のことで、俺はようやくアジダと話をすることができる。
「おまえ、ベルナリアのことが好きなのか?」
「……す、好きではない! ただ……昔ちょっと彼女には酷いことをしてしまった。……だから、どうしても償いをしたいという気持ちはあるんだ」
……アジダは視線を下げる。
「昔、か」
「気になるか?」
問われて俺は首を振る。
「そうだな。気にならないといえば嘘になるが、わざわざ聞きたいってほどでもないから、話したくないならそれでも良い」
「僕は気になるね」
カレッタが言うと、アジダは迷ったように視線をさまよわせた後、小さくうなずいた。
「昔……その、ベルナリア様の家とは仲が良く、俺も良く彼女の家に行っていたんだ」
「将来はアジダと結婚する! とかそんな感じか?」
「そ、そんなことはなかったっ」
顔を真っ赤にしているアジダでわかりやすい。
彼は誤魔化すように首を振って、続ける。
「俺はまあ、そのときから貴族としてはそれほど良い身分ではなかったから、騎士として生きていくことになるのだろうなというのは分かっていた。それで、ベルナリア様のもとで雇うとかそんな話もあったとか」
「そりゃあ良いコネがあったな」
俺の言葉にアジダは苦笑を浮かべる。
「昔の話だ。今はそんな話もあがってはいない。……昔、ちょっとした問題があってな」
「……ベルナリア家といえば、確か昔に誘拐事件が起きたね。それと何か関係があるのかい?」
「ええ、まさにその通りです」
「そうかい。あれの犯人は体内に魔器を埋め込んでいたとかで少しだけ話題になったからね。僕も良く知っているよ。事件の細部まで話を聞いて、それから僕自身もここで披露できるだけの記憶がある。よかったら、再現してあげようか? まあ、演劇としては下の下の内容だけどね」
「いや、いいよ。見たくもない」
つまらない演劇と自分で言っているカレッタだったが、少々悲しそうに目を伏せた。
「アジダはその事件に関係あるのか?」
「ああ。多いにな。俺は……当時彼女と一緒に遊んでいた……そこで突然にその男は現れた。俺が彼女を外に誘い、貴族街だから安全だろうと近くまで遊びに行ったときだったな。魔器を持った男によって、ベルナリア様は連れて行かれてしまった」
「おまえは無事だったのか?」
「……ああ、無様にな。助けなければ……と思っても、体は動いてくれない。ベルナリア様の悲しそうな両目は……今でもたまに夢に見るほどだ」
アジダは握りこぶしを固めていた。カレッタが何かを言おうとしたが、結局はやめた。
彼にとっては、魔器に対しての興味しかないのだろう。アジダにかける言葉も見つからない様子だった。
間違いはない。
ただ、あまりにも残酷だ。
果たしてカレッタは悪かったのか? 憎むべき相手が違うのではないのだろうかと、俺は思う。
俺だって、そんな小さい頃に例えどれだけ好きな人であっても震えていたであろう。
「それ以降……彼女は俺を嫌うようになった。それどころか、人間は信頼できないといってしまうようになられてしまった。……だから、俺は……これからは強くありたいと思った」
顔をあげたアジダは、過去にとらわれながらも、前に進もうという顔をしている。
決して消えることのない過去。それでも、彼はそれを糧に成長している。
実際かなり強くなっただろう。プライドが彼を支え、プライドによって彼は出来上がっている。
貴族として出来ることを、アジダは完璧にやろうとしている。平民を守り、さらには想っている人さえも助けられるようなそんな存在に彼は憧れているだろう。
それからアジダは、俺をちらと見て、気にくわなそうに鼻を鳴らす。
「……貴様が羨ましいものだ。この前の闘技場での事件……あのときおまえはすぐに、リルナ様を助けにむかったらしいじゃないか。よくもまあ表彰されなかったものだ。それだけの功績で、どうして上に評価されなかったのか、疑問が残るほどだ」
「褒めているのか?」
「……当たり前だ。俺は例え、好きな人だとしても、霊体を纏えないような環境では、飛び出すことはできないだろう」
俺は彼とは立場が違った。
力がない状態ではなかったから、行動に移せただけだ。
……仮に俺が霊体も何もなかったら――。
身近にいる大切な誰かが傷ついていても、俺は行動できないかもしれない。
とにかくだ、ベルナリアは大きな勘違いをしている。
今もまだ、自分に過ちがあったと思っているアジダに真実を伝え、事実に気づかせる必要があった。
「まずはベルナリアに現実を教えてやったほうがいいな」
「どういうことだ?」
ベルナリアを慕っているのか、ベルナリアが間違いなのではないか、といった発言にアジダは過敏に反応する。
そこが彼の良いところであって、欠点でもあるのだろう。
もっと柔軟な思考が出来れば、アジダはさらに成長できるはずだ。
「まだ両手で数えられるようなガキが、暴漢に襲われてそれでどうにか出来ると思うか? 例え、霊体が成長しても、心は育たない。その現実を知らずに、ベルナリアはおまえを嫌っている。これは少々傲慢だと俺は思うね」
「具体的に何か考えているのかい?」
アジダが俺の言葉を否定する前に、カレッタが口を挟む。
ナイスアシスト。
自分ひとりでいつまでも抱えている必要なんてない。
俺は腕を組み、こくりと強気に頷いてみせる。
「とりあえず、明日の遊園地で一緒に遊んでこい。昔みたいにな。……そうすりゃ、お互いに相手を知る良い機会になる。安心しろ、セッティングならたぶん出来るしな」
相手の護衛二人とは運よく知り合いだ。
カレッタと比べはるかに友達の多いリルナに頼めば、何かしらの助言ももらえるかもしれない。
「ま、待て! 俺はそんなつもりはないからな! 今さらどんな顔で会えば良いんだ!」
「顔なんてそのままで十分さ」
カレッタが褒めると、アジダが照れたように頭をかく。
それからはっと気づいて顔を真っ赤にする。
「そうではないのです! 俺はもう……ベルナリア様を傷つけただけの人間でしかないんです。今さら、彼女に謝罪するとしても――」
「謝罪の必要性を感じないな。というか、今さらそんな過去を掘り返しても無駄だ。これからのおまえが、ベルナリアを守っていけるようになればいいんじゃないか?」
俺がいうと、アジダは首を振る。
「簡単に言ってくれるな。……おまえは強いから分からないかもしれないが、俺にはまだ」
「強さは関係ない。今言っているのは気持ちの問題だ。もう昔ほど子どもじゃないんだ。戦い方だって知っている。必ずしも勝つことだけが守ることでもないはずだ」
アジダはそれでもまだ迷っているようで、あれやらこれやらの言葉を引っ張り出そうとしてくる。
まあ……アジダについては後でいくらでも相手すれば良いだろう。
それよりも……これから夕食だし、騎士学科のレキナたちに話をしておきたいものだ。
カレッタに視線を向けると、彼も理解したようで頷く。
それから俺はアジダをカレッタに任せて部屋を出る。
「アーフィ……とベルナリアさん」
扉の前で片手をあげてノックしようとしていたアーフィとその後ろに隠れていたベルナリアの姿を見つける。
彼女はなにやら厳しい目でこちらを見て、それからふんとそっぽを向く。
「ベルナリアでいいから。あんた、アジダと一緒の部屋だっけ?」
「ああ」
ふーんと伸びた声をあげるベルナリアは腕を組んで歩き出す。
ついてこいということだろうか? 俺は彼女をおい、横に並んだアーフィに問う。
「……アーフィ、おまえどういう関係だ?」
「さっき知り合ったのよ。おまえの部屋に用事があるからっていうから案内したんだけど……。ちなみに私はあなたに会いに来たくてここにきたのよ」
からかうように顔を近づけてくるアーフィから視線をそらす。
「こんな顔を見ても良いことないだろ」
「私にとっては、元気付けられる顔よ。それで、どうしたの? ……まさか、また女!?」
「……あれは、アジダの女だ」
俺がぼそりと伝えると、アーフィは小首を捻る。
それから、口元を手で隠し、目を輝かせる。
「こ、恋ね!?」
「……まあ、まだアジダの片思いの可能性は高いけどな」
しかし、気になるのはどうしてベルナリアがここに来たのかだ。
俺に用事があった? それは今日のことでさらに言及したいことがあったのだろうか?
ベルナリアは何も言わずにただただ歩いていく。
貴族学科の人間にとっても、彼女はなかなかに接しにくいのか、見かけた相手が道をあけていく。
俺をみると、二度見してくるしな。
どういう関係なの? と呟いているのが聞こえる。
……まったく、俺が女といるとすぐにみんながあれこれ変な噂を流すのだからたまらない。
やがて到着したのは一室だ。ベルナリアが扉をあけて、中を顎で示す。
俺とアーフィは顔を見合わせて中へと入っていった。
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