なぜかウザカワ後輩美少女に惚れられました

木嶋隆太

第二十一話 そういう相手



 次の日。
 言われた通り俺は女子寮近くまで来ていた。
 やべぇよ。女子生徒たちが続々と学校へと歩いている。ちらちらとみられているのはたぶん、気のせいじゃない。


 まあ、ここ最近有名になってきているからな。
 さすがに寮近くまで行くのは目立つし、怪しまれるかもしれないので、寮の入り口が見えるあたりで待機する。電柱の陰からこっそり覗いてみる。うん、ますます変質者度があがったな。


 藤村にさっさと来いとメッセージを送りつけるが、彼女からの返信はない。
 ……あの野郎。以前俺が気づかなかったふりしたのを根に持ってるんじゃないだろうな。人が嫌がることをするんじゃないっ! 見事なブーメランだな。


「あれ? 確か、夏樹の彼氏さんだっけ?」


 女子生徒が声をかけてきた。
 見ると女子は二人。一人が明るい調子で声をかけてきて、もう一人は少しこちらを伺うような視線だ。


「ああ、そうだけど」


 いえ、違いますが。という言葉はすっと飲み込んだ。
 二人のつけている校章は一年のものなので、藤村の友人ではないだろうか。


「やっぱり。それにしても、夏樹がまさか誰かと付き合うとは思わなかったなー」


 と、もう一人の女子に声をかけていた。


「そうそう。いつもあんまりそういう話好きじゃなかったし」
「ね、一杯告白されてるのに、全部拒否ってたしね」


 二人だけで勝手に会話を始めて盛り上がっている。
 そんなときだった。一人がこちらを見てきた。ちょっと視線が鋭いのが気になる。


「金剛寺、先輩でしたっけ?」
「ああ」
「……夏樹と本当に付き合っているんですか?」


 ぎくり。
 俺は嘘なんてつけない善人なんだ。一体どう答えればいいんだ?


「わざわざそれを聞きに来たのか?」
「……だって、二人をみていると、なんというか仲の良い兄妹みたいに見えるんですもん」


 ……どこかでみていたようだ。まあ、外にいる間、藤村は天使の仮面を外さないから大丈夫だとは思うが。
 それにしても。


 あれが妹なんて嫌だ。俺はもっとかわいらしいおしとやかな妹がほしい。ほら、よくいる二次元の妹みたいな。


「家族のように見えるってのは、それだけ近しい関係というわけじゃないのか? ほら、結婚したら家族なんだし」
「なんていうか、そういうのには見えなかったんです」


 この子、よく見てんな。確かに兄妹っぽいと思われるのもわからんでもない。
 藤村が好き勝手いって、俺も好き勝手いって、どっかでどちらかが折れて話に一区切りをつける。


「まだ、付き合い始めて短いってのも理由の一つじゃないのか?」


 努めて本気であることをアピールする。
 ……藤村から何度か演技指導を受けてるからな。このくらいなら誤魔化せるだろう。


「……それなら、いいですけど」


 ほっとしたように彼女が息を吐く。何か心配している様子だった。


「何かあったのか?」
「……別に、なんでもないですけど」
「そんな気にしないでください金剛寺先輩。ちょっと恋愛の話がしたかっただけですから」


 もう一人が誤魔化すように笑っている。


「そんじゃいっか」


 今度はちょっと彼女が驚いている。
 なんだ、人が流したらその反応か?


「なるほど……夏樹が気に入った理由が少しわかったかもですね」
「何がだ?」


 つーかあいつ気に入ってないと思うぞ? 手ごろな奴隷が欲しかっただけだぞ?
 全部暴露してやりたかったが、俺は口を閉ざした。


「夏樹の迎えに来たんですよね? 夏樹、今日は一緒に行けないって言ってましたけど、こういう理由だったんですね」
「ああ、それは悪いことしたな。一緒に通うか?」
「えー、さすがに二人の邪魔はできないですよ」


 本心で言っているわけではなさそうだ。
 彼女の表情を見ていればよくわかる。
 それから彼女は、少し目を輝かせる。


「夏樹、どうですか?」
「どうって……なんだ?」
「ほら、色々あるじゃないですか? 体つきは結構いいですし、見た目カワイイし……色々してるんじゃないですか? よく部屋に遊びに行っているって聞きますし」


 びしびし、と彼女が肘でつついてくる。
 色々ねぇ。ここ最近を思い出す。
 ……お、おお。俺たちいつも適当な会話しかしてねぇ。


「ま、それなりには」


 藤村的にどんな解答が良いのかはわからないので適当に誤魔化しておく。


「あー、やっぱりそうなんですね。夏樹、カワイイからあれですよ? 気をぬくと誰かに取られちゃいますよ?」


 どうぞ引き取ってください。


「気を付ける」
「そうですよ、しっかりしてくださいね」


 ……なんていうか、しっかり繋ぎとめておけよ、と言われている気がした。
 彼女の笑顔の裏側にはそんな感情も多少はあるのかもしれない。
 藤村がこちらへと来ているのがわかった。俺たちに気づくと、少し駆け足になる。


「あれ、美柑みかんもも。どうしたの二人とも?」


 明るい女子が美柑で、先ほど付き合っているかどうか聞いてきたのが桃というようだ。


「いや、たまたま彼氏さんがいたからどんな人なのかと思って。別に変なことしてないからー。それじゃごゆっくりー」


 ごゆっくりするほど時間の余裕はない。
 美柑と桃と呼ばれた二人はさっさと学校へと歩いていく。
 藤村は少し警戒しているようで、彼女らの背中を見送っていた。


「先輩、何か言われたんですか?」
「あっちの桃って子に……俺と付き合っているかどうか聞いてきたぞ。心配してくれるいい友人だな」


 そういうが、藤村の表情はあまり冴えない。


「いえ……たぶんそうじゃないです。桃は前、男子に告白したみたいなんです。けど、その相手が……私のことを好きだったみたいで。断られたんですよね」
「なるほど。人の心をもてあそぶ悪魔め!」
「そんな気まったくないです! そういうのが嫌で、先輩と付き合っているんですから。……確認したのは、もしかしたらそういった部分かもしれませんね」


 なるほどな。
 また藤村に誰かをとられるかも、と桃は思っているのかもしれない。


「それにしても、みんな色恋に忙しそうだな。俺にはよーわからん」
「先輩って好きな人とか作る気ないですよね? あれですか。実は私といつまでもこうしていたいとかですか? キモイですね」
「笑顔で言うな。俺はどうも、自分のこととして考えることができないんだよ。周りの恋愛とか聞くのは好きなほうだがな。さっきの子に、どんな風に告白断られたのか聞いてみたいくらいだぜ」
「それ普通に最低ですからやめてくださいね」


 恋愛の話は好きだ。だから、ラブコメというジャンルも好きなんだしな。最近は特に読む量を増やしている。藤村対策だ。
 見ているのは好きだ。ただ、自分ではいいかな、って感じ。


「それにしても、以前話したのに、まさか直接聞かれるなんて」
「あれだろ。藤村の演技がへたくそなんだろ」
「どちらかというと先輩ですね」
「なんでそんな自信にあふれているんだ。演劇部にでも入っていたのか?」
「そうじゃないですけど。私、それなりに先輩のことは気に入っていますからね。ですから、一緒にいても普通に接することはできていると思ってます。あっ、気に入っているというのは友人としてですから変な勘違いしないでくださいよ?」
「するかボケ」


 確かに、前も気にせず話ができるとか言っていたしな。


「話していたのはそれだけですか?」
「あとは……おまえとのカップル、しっかりしろよって言われたくらいだな」
「あー、なるほど。それ、言ったの美柑ですよね?」
「よくわかるな」
「……あの子も、察するの得意ですからね」
「どういう意味だ?」
「別に。なんでもないです」


 確かに場の空気を整えるは得意そうだったな。
 って、いつまでものんきに話している場合じゃないな。


「さっさと、学校行くか。女迎えに行って遅刻なんて恥ずかしいからな」
「いい理由じゃないですか」
「どこがだ」
「あんまり酷いこと言ってますと、繋ぎとめておけませんよ?」
「それはつまりお前にとって魅力ある相手が現れたってことだろ? そうすりゃ今の関係は全部なくなるんだ。わかりやすくなっていいだろ」
「わからないですよ? そういう相手が現れても、変わらないかもしれません」
「どんな状況だそれは」
「ちょっと考えてみたらわかるかもしれませんよ?」
「……わからん」


 わけのわからんことを言う奴だな。



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