なぜかウザカワ後輩美少女に惚れられました

木嶋隆太

第十三話 スーパー





 とりあえず、今日のミッションは達成だ。
 校門でいつものように待ち構えていた藤村が俺の隣に並ぶ。


「……まさか、先輩が一日かからず浅沼先輩と仲良くなるとは思っていませんでした」


 校内で噂になっていたし、彼女もその話を聞いたのだろう。
 俺がぶいっとピースサインを返しておいた。


「俺はやればできる子なんだ。それじゃあ、今日はちょっと用事あるから、じゃーな」


 首根っこをつかまれ、俺はおえっと声をあげる。


「どこ行くんですか?」


 まさか追及されるとは思わなかった。


「エッチな店だ」
「どこ行くんですか?」


 今度の質問は拳のおまけつきだ。素直に答えなければえぐられるだろう。


「……スーパーに寄ってから帰るつもりだ」
「何買いに行くんですか?」


 い、いえん。藤村が買ってくれたお菓子をすべて食べつくしたなんて。
 部屋で映画を見たり、ゲームをしたりと遊んでたら――いつの間にかお菓子の袋が空になっていたのだ。
 誰が一体食べたんだろうか……? 俺の部屋に妖精さんでも住み着いているのだろうか? いるとするなら黒い妖精さんだな。カサカサ動く奴。


「いろいろとな。たまには自炊でも、と思ってな」
「そうなんですか? あっ、それでしたら今日は私が作りに行きますよ。先輩、どうせロクな料理できないですよね?」
「……いや、別にいいよ。はずかちー」
「先輩、何か隠してますね?」


 こいつの洞察力は名探偵並だな。
 俺はふっと笑って、究極の必殺技を放つ。


「すみませんでした。菓子全部食っちゃいました」


 俺の言葉に藤村は目をぱちくりとさせてから、俺の肩をつかんで揺らしてきた。


「……はぁ!? 楽しみにしてたのに! 今日、食べにいこうと思っていたんですよ!?」
「勝手に予定を立てるな! 今日補充に行く予定だったんだからな!」
「勝手に食べたのはそっちでしょ!」


 藤村が鋭くこちらをにらんでくる。ま、まあまた買ってくるんだから、別にいいじゃないか。


「……これから買いに行くんだしいいだろ?」
「わかりましたよ。それじゃあ、アイスを買ってくれたら許します」
「……いや、別に許しをもらう必要はないんじゃないか?」
「何か言いました?」


 身勝手な奴め。
 俺たちは並んでスーパーへと足を運ぶ。


「夕食は先輩の部屋で食べるというのは変更なしで。何か作ってほしいものがあったら言ってください」
「……毒殺、か」
「今ここでやられたいですか?」
「カレー食べたい」


 俺の言葉に、藤村はにこりと近くの肉をかごに入れていった。
 藤村がカレーの具材と思われるものを買っていく。レトルトなら食べたことあったが、一から作ったことはなかったな。


「先輩って苦手な食べ物ありますか?」
「人間はなぜ食事をすると思う?」
「なんで先輩って質問に質問を返すんですか? 頭悪いんですか?」
「いや、なんとなくだ。とにかく、人間がなぜ食事をするのかといえば、カロリーがないと動けないからだ。簡単にいえば、カロリーさえ確保できれば、生きていられる。……まあ、もちろん栄養バランスもあるんだろうが。何が言いたいかといえば、腹に入れられればなんでもいいってわけだ。聞いたか? 食べられるものなら、生だろうがなんでもいいってわけだ」
「先輩は、私の料理にどんだけ不安を覚えているんですか?」


 いや、だって……おまえが料理しているのをみたことないし。以前の料理は冷凍食品とお米炊いただけだろ?
 俺だってそんくらいならできるってんだ。


「先輩って私とカップルになってからも、一定以上距離を詰めてこないですよね?」
「そりゃあ、あんまり踏み込んだらおまえの間合いでやられるだろ」
「私は剣豪かなんかですか……なんていうか、変な人ですよね。本当に、周りに興味ないんですね」


 少しばかり藤村は不服そうである。面倒くさい性格してるな。
 自分に興味を持たれすぎるのは嫌なのに、あまりにも無関心だとそれはそれで嫌なようだ。


「まあ、周りを見ているのは楽しいし好きだが、自分に降りかかるのはちと面倒だな」
「私も面倒ってことですか?」
「まあ、それなりには。俺が当事者じゃなくて、他人として見ている分にはよかったんだがな」


 それこそ、ゲームでもしている感覚くらいがちょうどいいな。
 人とはたまにかかわるくらいがちょうどいいんだ。


「そうなんですね」
「あれ、怒ってるのか?」
「……別にー?」


 藤村、怒ってるなこれ。なんとなくそのくらいはわかるようになった。


「……こっちは先輩とそれなりに楽しく接しているんですけど?」
「そうなのか?」
「はい。先輩はどうですか?」


 ぶすっとした表情は変わらない。


「俺もそれなりに楽しんでるかもな。今までにいないタイプの奴だし」
「……そうですか? なら許してあげますね」


 相変わらずの上から目線だ。けど、機嫌は直ったようだ。
 スーパーをしばらく歩いているときだった。
 お菓子コーナーで浅沼を発見した。じっと、お菓子を手にとって見比べている。


「浅沼、買い物か?」
「え!? あ、あーそうね」


 彼女のレジかごはお菓子ばかりだ。
 まあ、食事は食堂で済ませられるからな。


「浅沼先輩、こんばんはです」
「え、ええ……えーと確か」
「はい、一年の藤村夏樹ですっ! 浅沼先輩とお話しできて光栄ですっ」


 きらきらと目を輝かせる藤村。
 誰この人?


「そうかしら? けど、私もあなたと同じただの一生徒よ、普通に接してくれたら嬉しいわ」


 ふっと髪をかきあげ、微笑む浅沼。
 ……誰この人?


「でも、『優秀生』じゃないですか」
「ええ、そうね。嬉しいことにね」


 ……やべぇ、こいつら仮面被りっぱなしじゃねぇか!
 ただ、浅沼はどこか頬のあたりが引きつっているし、藤村も何やら疲れたような顔をしている。


 ふむ……。浅沼も藤村も、猫かぶりモードのエネルギーが切れかけているんだろうな。
 となれば、だ。
 面白いことを思いついた!


「浅沼。これから、俺の家でカレーパーティーを開くつもりだ。一緒に食べないか?」
「ふぇ!?」
「なあ、いいよな藤村?」
「え、えと……その――」


 藤村も珍しく困惑しているな。それが見れただけで満足ともいえる。
 俺は基本その場のノリで行動しているからな。その瞬間だけ楽しければあとは結構、どうでもいい。


「せっかくの先輩との――」


 二人きりですし、とかいうつもりなんだろ? させんぞ。
 その言葉をすべて言わせてしまうと、浅沼がそれに便乗するだろう。


「浅沼も藤村と一度話してみたいだろ? こいつ、交友関係広くて、色々楽しい話が聞けるかもだぜ。藤村も浅沼は『優秀生』で、何か参考になるだろ?」
「……交友関係、広い……」


 ぼそり、と浅沼が羨ましそうに藤村を見やる。
 よし、食いついた。
 藤村は眉間を一瞬だけ歪め、俺を睨みつけてきた。下手に誘ってボロが出たらどうするんですか? とこちらを睨みつけてきている。


「藤村さん、私も一緒に行っても、いいかしら?」


 小さな一歩。しかし、浅沼は今確実に勇気を振り絞り、その一歩を踏み出したはずだ。
 浅沼の事情を知らない藤村は、本気で驚いている様子だ。


「せ、先輩? まあ、浅沼先輩がいいなら、私は構いませんけど――」
「ええ、お願いするわ。それで、カレーだったかしら」


 そう呟いた瞬間、浅沼の腹がぐーっとなった。
 彼女は唇を必死にぎゅっと固め、澄ました顔を作っていたが、耳まで真っ赤だった。


「浅沼、カレー好きなのか?」
「……そうね」
「腹が鳴るほど好きとはな、藤村頑張って作らないとだな」
「こ、金剛寺くん! さっきのは聞かなかったことにしてくれないかしら!」


 真っ赤になって、声を荒げる浅沼に俺が笑っていると、


「……先輩って、誰ともそんな風に接することができるんですね」


 ぼそりと藤村がそんなことを言っていた。


「なんだ?」
「……別に」


 ちらと藤村を見ると、すでにお菓子に目を向けていた。


「それじゃあ、浅沼先輩。カレーのあとは、お菓子を食べながら映画でも見ましょうか!」
「そ、そうね……えーと…………藤村、さんは何か好きなお菓子とかってあるのかしら?」
「私はチョコが大好きですねっ。浅沼先輩はどうですか!?」


 浅沼は多少詰まりながらも、一生懸命に会話していた。
 まあ、これで浅沼が言っていた友達になってほしいという頼みにも、少しは協力できるだろう。







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