なぜかウザカワ後輩美少女に惚れられました

木嶋隆太

第五話 彼氏彼女?



 付き合い始めてから三日。
 現在、登校と下校を共に過ごしているのだが。


 今ばかりは藤村が不機嫌そうにこちらを見てきていた。


「……先輩。どういうことですか」
「なにがだ」
「先輩は、今までに一度でも誰かに私との関係を聞かれたことはありますか?」
「ないが」
「それが原因なんですよ! どんなぼっちですか! 普通私と付き合っているなんてなれば、どんなぼっちでも声をかけられるもんですよ!」


 おまえはぼっちを更生するための特効薬か何かか? まあ、確かに彼女のような有名人とかかわれば、前よりは目立つかもしれない。
 鳩船高校限定だが、芸能人並の扱いを受けているんだからな。


 彼女が陽のものとしてトップクラスだとしたら、俺は陰のトップだ。
 他者の視線を気にし、今まで以上に影を薄くして生活してきたのだ! それゆえに、以前と変わらない生活を送っている。この学校がマンモス校というのもよかった。
 あと最近、藤村と一緒の時以外はマスクをつけている。影の薄い人間が顔の半分も隠していたら気づかれないのだ。


「訓練されたぼっちってのはな。そのくらいじゃ動じないんだ」
「そんなもんを訓練する暇があるなら、リア充の訓練をしたらよかったんじゃないんですか?」
「目立つのも騒がしいのも嫌いなんでな。一人が大好きなんだ、俺は」


 最近ではぼっちを極めたいという思いさえ出てきている。けっして、なるべくしてぼっちになったわけじゃない。
 藤村がじっとこちらを見てくる。


「まず、その猫背をやめたらどうですか?」
「無理やり伸ばそうとするな。痛いだろ」


 藤村がえいえいと背筋を叩いてくる。


「おじいちゃんですか。あとは、その目つきですね。もうちょっとどうにかできませんか? 別に顔は悪くないんですし、あとは雰囲気を変えればいいんですよ。そうすれば、先輩もちょっとはマシになるんじゃないですか?」
「良いんだよ、俺は。今のまま、影薄く生きさせてくれ。それに、俺がリア充になったら困るんじゃないのか?」


 藤村は確かに、といった様子で息をはく。


「……はぁ。わかりました。それじゃあ、少しやり方を変えます。このままだと、私たちの噂も掻き消えそうなんで」


 やり方を変える? 今でも十分派手にやっているだろう。
 これ以上、一体何をどうするのだろうか。
 俺が首を傾げ、答えを求めるようにじっと見ていたが、彼女は企んだように笑うだけである。


「それより先輩。帰りはどこに行きますか?」
「家に帰らないか?」
「それじゃあ、先輩の部屋に行きましょうか。ていうか、なかなか大胆な選択をしてきますね。アピールするには悪くないかもですが」
「誰も誘っていないんだが?」


 ただただ、帰宅したいだけなんだが?


「いいですから。彼女が彼氏の家に行くのなんて普通でしょ? 女子寮だと男子を入れるのはまずいですけど、逆の場合は結構許されているみたいですしね」
「……そうなのか?」


 基本どっちも行き来は禁止じゃなかったか? まあ、見つかっても軽い小言程度で終わるとかなんとか、誰かが話していたかも。
 俺の情報源は他人の盗み聞きからである。


「藤村」
「なんですか?」
「おまえが俺と付き合っているのは、女子に好かれたいからか?」
「……へぇ、私のことしらべたんですか?」
「ああ」
「先輩も、少しは私に興味を持ってきたみたいですね。いい傾向です。私くらい可愛い子に興味を持たないはずがありませんからね」


 言えない。実はただ教室でスマホ弄っていたら情報が転がってきたなんて。
 それにしても、こいつは大変ナルシストではないのだろうか。


「だいたい正解ですね。私、モテるんでそれに対して嫉妬してくる人が結構いるんですよ。それでも、なるべくうまく立ち回ろうとしていたんですけど、これが難しくて」
「けど、誰かと付き合うつもりはなかった」
「はい。だって、本当に誰かを好きになったことってないですし、面倒じゃないですか」


 そういうときの彼女は少しばかり目つきが真剣だった。


「ダミーの彼氏はほしい。けど、自分に告白してくる相手じゃダメだった。だから、俺にしたというわけだな」
「はい。先輩だったら、私でもどうにかできそうですし」
「舐めんなよ。俺、キレたら、怖いんだぜ。記憶飛んじゃうからな」


 イキってみると彼女が鼻で笑った。……悔しい。


「それに、ちょうど先輩に秘密を知られたわけですし。その口封じというのもありましたね」


 なるほどね。彼女はあの一瞬でそれらを考え、俺を脅してきたわけか。
 そんなことを校門近くで話していたときだった。
 藤村の表情がびくりと引きつった。普段人をからかうような笑みばかり浮かべている彼女には珍しい。


 藤村が見ている方を見ると、何やら女子生徒たちがいた。
 あまり好意的な視線ではない。
 それで、ビビっているってところか? 案外カワイイところがあるもんだな。


「ほら、さっさと帰るぞ」


 彼女らの間に入り、俺が藤村の背中を押す。


「は、はい……」


 藤村は一瞬だけ俺の顔を見て、視線を下げた。
 男子寮に到着する。寮の庭で、バスケをして遊んでいた男が、こちらに見とれ、パスを受け取り損ねた。


 鼻血が噴き出して倒れる彼。誰も彼を助けることなく、藤村に見とれている。
 大丈夫だろうか彼。けど、満足そうな顔だし放っておこう。


「ふ、藤村さんと……その隣になんかいるけど……あれがまさか噂の彼氏か!?」


 なんかってなんだ。一応人間だぞ。


「な、なんであんなどこにでもいるような冴えない男と藤村さんが付き合っているんだ!?」


 えへん、藤村の彼氏です。そんな風に軽く胸を張ろうとして、けど背筋をぴしっとするのは疲れるのでやめた。


「……先輩。さっき、気づきました?」
「何がだ?」
「何がって」
「知らん。ほら、さっさと行くんだろ?」
「……はい」


 別に気を遣ってほしいわけじゃない。


「……一応、お礼言っておきますね。ありがとうございます」


 なんだ、意外と素直なところもあるんだな。
 部屋にたどり着く前に、何人かの男子生徒を仕留めた藤村を部屋にあげる。


「汚いですね」


 素直に感想を言うんじゃない。


「ゴミはまとめてある。ただ、捨てに行くのが面倒なだけだ」


 ゴミ袋の山を見て、藤村が眉を寄せている。
 それから部屋まで歩いたところで、藤村がぽつりとつぶやいた。


「……先輩って趣味はあるんですか?」
「一応本を読んだり、ゲームしたりか?」


 最低限、テレビとゲームくらいはある。本はほとんど電子版。紙で読むとしたら図書室か。
 いつでも引っこしできるようにと、あまり荷物をそろえずにいたら、殺風景な部屋になってしまった。


 藤村はフローリングに座り、それから肘をテーブルにつける。
 ……しまった。飲み物はあるが、コップが一つしかない。
 今まで友達なんて連れてきたことがなかったからな。というか、彼女は友達なんだろうか。彼女(偽)ではあるが、友達ではないよな。


「なんですか先輩」
「すまん。俺がいつも使ってるコップしかないから、飲み物は我慢してくれ。最悪水道水から直接な」
「嫌ですよ。水道水なんてまずいです。自販機で買ってきます、気にしないでください」
「じゃあ俺はオレンジジュースで」
「何勝手に奢ってもらおうとしているんですか?」


 藤村が眉尻をひくひくと動かす。
 俺がぺろっと舌を出すと、近くに転がっていた消しゴムを投げられた。それを掴んで片手で遊びながら、座った。


「何かゲームでもしますか。私も結構やるんですよ」
「そうか」


 彼女がゲームを起動する。ダウンロード版ばかり買っているのだが――二人でできるようなゲームってあったか? そもそもコントローラーも一つしかないぞ。
 RPGばかりだから、ちょっと遊びにきたから……でやるものじゃない。
 しばらくして、藤村が不満そうな顔をした。


「この部屋、やることないじゃないですか!」
「まあな。読書でもするか?」


 俺はタブレットを彼女のほうに渡す。不満そうに唇を尖らせた彼女は、タブレットを操作する。俺も彼女の向かいでスマホをぽちぽちといじった。







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