お隣さんの可愛い後輩が俺にだけ滅茶苦茶優しい

木嶋隆太

第二十五話



 体育の授業が、球技大会の練習となった。
 体育はニクラス合同で行っているので、結構な人数だ。
 とはいえ、競技ごとに分かれているから、問題はなさそうだが。


 今は練習時間。もう少ししたら試合をするはずだ。


 球技大会のバスケでは、24秒ルール――まあ、雑に説明するならシュート等をうたずずっとボールを持ったままだと相手ボールになるというルール程度しか適用されないらしい。
 ある程度、ファールとかは見逃してくれるらしい。
 だったら、多少暴力的な攻撃をしても良いのでは? とアキに言ったら、みんなの前ではそういうこと言わないように、と念を押されてしまった。


 ダンダン、とバスケットボールの音を聞きながら、俺はゴールネットを揺らしていた。


 うちのクラス、バスケットボール経験者がいなかった。チームに集められているのは……言い方をするなら真面目な子たちだ。
 悪い言い方をするならオタク集団の集まりである。
 みんな似たような見た目をしている。俺もたぶん、そういう理由で集められたんだろうな。


 といっても、だ。バスケがこうなったのは、うちのクラスが本気で勝ちに行きたいからである。
 バスケを捨てたの? というわけではない、アキという公式チートがいるからだ。


 アキは合同クラスの人たちとワンオンワンをやっているが、どこぞのバスケ漫画ばりのスーパー技を連発している。
 やろうとすればダンクもできるんじゃないだろうか? 身長はバスケットボールの選手と比べたら決して高いわけではないが、黒人ばりのバネを持っているスーパー野郎だ。
 あの瞬発力も化け物級。友人の俺も引くレベルだ。


 神様というのは不公平だ、とよくネットの記事で見る。
 めっちゃカッコイイのに、さらに運動もできる! なんてのはよくあることだ。運動できなくても、ギャップがあってカワイイともなるんだから、一つ優れたものを持っている奴というのはそれだけで人生勝ち組だよな。


 俺がぱすっとシュート練習をしていると、同じチームの四人がやってきた。四人ともオタクグループで仲が良いらしい。


「あの……宗川、くん。ちょっといいかな?」


 そういえば俺の苗字は宗川か。みんなユキって呼ぶから忘れてたぜ。
 ……みんなというか、関わりあるのがゲーム部だけだからな。


「なんだ?」
「バスケ、得意なの?」
「いや別に」


 運動全般は得意だ。わざわざ言うこともないと思ったので黙った。


「そ、そうなんだ。さっきからシュート全部入ってるから何かコツがあるのかと思ったんだけど……」
「体育の先生が言っていたようにやってるだけだな」


 言われたことは素直に実践する。
 ゴールの後ろにある白い枠にぶつけてシュートしているだけだ。


「そうなんだ」
「まあでも。いきなりあれもこれもできるようにするのは難しいから、ある角度からだけなら決められるっていう風に練習しておけばいいんじゃないか?」


 どうせ球技大会程度だしな。


「そ、そっか……ちょっと教えてもらってもいいかな?」
「ああ、まあいいけど……」


 教えるのならアキのほうがうまいんだがな。
 彼のほうを見ると、頑張れよと視線を返された。
 あいつめ、いらんお節介を。


 アキは俺がクラスメートと仲良くやれるようによくいらんお節介をする。これもその一つだろう。
 基本だけ教えて四人にシュート練習をさせる。


 チームは六人編成で、今ここにいる俺を含めたオタク5人集団と最強のパリピであるアキの六人チームだ。
 球技大会では試合中に必ず一度は交代するというルールである。


 試合時間は五分。2分10秒を過ぎたあと、ボールがコート外に出た瞬間、誰かひとりが必ず交代するという決まりだ。


 球技大会ということを考えたら仕方がない部分もあるだろう。
 そのため、このうちの一人は試合の半分ほどしか出ることはない。
 ……最初は俺がベンチを温めていようと考えたのだが、それはアキが許さなかった。
 まったく。


 俺と組めばアキが一人でも勝てる自信があるから、このチーム編成になったのだ。


 人に頼るなってんだよな。
 練習を十分にしたところで、練習試合となる。まずは女子チームからである。


「ほら、みんな頑張ってね」
「もちろん。秋にいいところ見せないとね」


 クラスで人気の女子がからかう調子でそんなことを言っていた。
 俺があくびをかいていると、隣に座ったアキが背中を叩く。


「ほらちゃんと女子応援しないと」
「応援ごときで強さが変わるなら世の中弱小校なんてないんだぜ?」


 応援で強くなれるのはスポ根のキャラだけだ。
 仮に応援で力を発揮できたとしても潜在的にそんな才能を持っているというわけだ。限界を超えて力を出せるわけではない。
 つまり、裏を返せば応援されるまで手を抜いていたということになる。


「まったくユキはそういう冷めたところあるんだから。応援で人の強さは変わらないというのは同意だけど、気持ち的に嬉しくなるものだよ」
「アキの応援ならな」


 彼に応援されればそれだけで女子たちは盛り上がるだろう。


「そう思ってもらえるように、そう自分に価値が生まれるように生活すればいいんだよ」
「俺はおまえのようにはなれねぇな。というわけで、トイレにいって誤魔化してくる」
「はいはい。練習試合、ユキは加減していいからね? あくまで楽しくでいいから」
「了解」
「けど、本番は本気でやってね」
「ほどほどにな」


アキはゲームが好きだ。そして、ゲーマーに多いのは負けず嫌いが多いこと。
 だから彼は、普段は温厚であるが勝負ごとになると結構怖い部分がある。


 そして、球技大会でも本気で勝ちに行く。そのために、事前の練習試合ではそこまで本気でやるつもりはないそうだ。
 すげぇ根性。そしてめっちゃ期待されてる俺。


 小さいころは両親がアスリートだったのもあって、だいたいのスポーツを経験したから、不得意なものはないが、それにしたってブランクがあるからな。


 トイレで時間を潰して戻ると、ちょうど男子の出番になった。


「頑張ってね、みんな!」


 女子のアキみたいな奴が、俺たち全員に声をかける。
 明るい太陽のように微笑む彼女に、アキはさわやかに返し、他のオタク仲間たちも少しだけやる気を見せていた。


 試合が始まった。
 相手は一人バスケ部の人がいるようだ。
 かなりうまいのだが……それ相手から問題なくボールを奪えるあたり、アキすげぇな。


 相手はアキに二人以上ついている。
 おまけにドリブルで軽くぬくし、俺のほうにパスしてきやがった。
 さっき教えたオタク仲間たちを見る。位置をすべて把握したあと、先ほど練習していた位置にいたオタク仲間にボールをパスする。


 受け取った彼は驚いたようにそのままシュートした。
 結果はゴール。


「練習の成果出たな」
「あ、ありがとっ。ちょうど誰もいなかったから、そのいいパスだったよ」
「自分の得意な場所からシュートできるように移動してくれたら適当にパスだすぞ。みんなにも伝えておいて」
「うんっ!」


 軽く声をかけると、彼は嬉しそうに返してきた。
 アキに最低二人のマークがつく関係上、誰かしら余る。
 俺からボールを奪おうと一人がくれば、実質二人マークがいない。


 そして、全員が全員めっちゃうまいわけではないので、さらにうまく誘導すればもう一人くらい浮く。


 あとはその中から、ずっと同じ位置から練習していたオタク仲間たちはそれなりに才能があるんだろうな、50%くらいで入れてくれるからやりやすい。


 点差がつくと、アキへのマークもゆるくなるからあとはアキにパス出してワンマンプレーで終わりだ。


「うわー! やっべぇ! アキがめっちゃつえぇ!」
「やっぱすげぇなアキ! 本当バスケ部来いよ!」
「いやいや。そんなに体力はないからさ。5分で助かったよ」


 試合が終わったとき、点差は圧倒的だ。おまけに後半はアキが無双してたから全員の印象はアキ一色だ。


 ただ、得点はアキが8点、オタク仲間たちが6点をとっている。
 なので、実際はそれほどではない。


 そして結構楽しかった。
 俺的には育成ゲームをしている感覚だ。オタク仲間たちが点を決めてくれるのが嬉しい限りだ。
 何より、ほとんどディフェンスにもオフェンスにも参加していないので、俺のスタミナは削られていない! 最高だ!


 軽く伸びをしながら歩いていると、俺のほうに女子がやってくる。
 先ほどから目立っていた女子だ。


「おつかれさま。あれ? ユキくんってバスケ得意なの?」


 ……その呼び方をされるとは思わなかった。
 たぶんアキの真似をしているんだろう。


「なんで?」
「さっきの試合。ユキくんのパスが凄いうまかったから。なんか試合全体見えてるって感じだしー」
「もともと視野が広いほうだからな」
「そうなんだ! 凄いね! この調子で頑張ろうね!」


 ばしんっと背中を叩いてくる。
 それからからっとした笑みとともに手を振ってきた。
 よく周りが見える人ってのは、彼女もそうみたいだな。


 やはり、カースト上位にいる人は周りを見れる必要があるんだろう。


 とりあえず、球技大会はなんとかなりそうだな。

コメント

コメントを書く

「恋愛」の人気作品

書籍化作品