お隣さんの可愛い後輩が俺にだけ滅茶苦茶優しい
第二十三話
三十分やった俺たちは、ヘッドマウントディスプレイを放り投げるように外した。
「暑いし! 蒸れるし、疲れるわ!」
俺の感想が全員の気持ちを代弁していたと思う。
このゲーム、かなり面白いのだがリアルすぎるのだ。
体力めっちゃ使うので、普段から体を動かしている人しか楽しめないと思う。
リアルとゲーム。それをもう少し追及するべきだと思った。
ゲームをプレイした感想をあとで書いてほしいそうだが、たぶん俺たち四人の思っていることはだいたい一緒だ。
体力に自信のある部長とアキでさえ、三十分やって部屋に倒れているんだ。
あまり動いていないはずの僧侶のナツも疲れた様子で膝をついていた。
「皆様方。お風呂の準備をしておきました」
部屋に執事がやってきてそう言ってくれた。
……もともとこうなると予想していたようだな。
体を起こした俺は未だ倒れているアキに近づいた。
「も、もう動けるんだね……」
「まあな。あのゲームの感想は俺が書いておくから、シャワーでも浴びてきたらどうだ?」
「そう、だね。わかった……あとで僕も書き足しておくね……」
アキがふらふらと体を起こし、歩き出す。
まだ死んでいる部長をちらと見てから、俺は使用人へと駆け寄る。
まさにセバスチャン、とでも呼ばれていそうな老人がこちらに気付き目を細めた。
そんな彼と、廊下で話をする。
「ユキさん、どうされましたか?」
「いえ、ちょっとある悪戯をしたいんですが協力って可能ですか?」
「……なんでしょうか?」
「確か、ここの風呂って男女で別れていますよね。旅館みたいに」
「はい」
「アキが入った後に男女逆にして部長を放り込むとかできますか?」
「……ほほぉ」
セバスチャン――佐藤さんの目が無邪気な子どものように細くなる。
とはいえ、彼は部長側の人間だ。協力は難しい可能性もあるが……。
「わかりました。意図的にラッキースケベイベントを起こそうということですね?」
……この人やるな。
すでに二人の関係性を把握してるようだ。
「ええ、そうです」
にやりと、俺たちは笑いあう。
男同士、年は違っても考えることは同じようだ。
「わかりました。お任せください」
「お願いします。部長の親父にばれたら俺がやったってことにしていいですからね」
「いえいえ。私の首をかけてでも、お嬢様とアキさんの関係を発展させてみせましょう。お嬢様、将来が心配になるくらい男に興味を示しませんからね……。
男同士の恋愛とかに興味があるようですが」
そりゃあ、執事さんも心配になるか。
それにしても、なんという心意気だ。佐藤さんは一礼のあと、この場を離れた。
俺が部屋に戻ると、ようやく体を起こした部長とナツがいた。
「あれ、アキはどこに行ったのかしら?」
「風呂を借りるって言ってたぞ。おまえはいいのか?」
「そう、ね。私も少し浴びてきましょうか……ナツも一緒に行く?」
「いえ、まだ少し休もうと思います……」
「そう。それじゃあまたあとでね……」
ふらふらと、体を起こした部長が風呂場へと向かう。
入れ替わりに佐藤さんが戻ってきた。ぐっと親指を立てている。
「ミッション達成です!」
「ありがとうございます!」
それでは、と佐藤さんは去っていった。
「やっぱり何かしたんですね」
ナツがちらとこちらを見て首を傾げてきた。
「風呂場の暖簾……? なのかはしらないが、それを入れ替えてもらった。よくあるラッキースケベだな」
「……また古典的ですね。けど……二人の反応が見てみたいですね」
「なら、ナツも行って来たらどうだ?」
「いえいえ。それではせっかくのラッキースケベが台無しじゃないですか」
「そうだな。それでナツ。おまえはシャワー浴びに行くのか?」
「……そうですね。さすがに、汗すごいかいちゃいましたし」
ぱたぱたと彼女は服を引っ張って風を送っている。
健康的な彼女が今は随分と扇情的に見える。
あれだな。汗をかいている女子というのはそれだけで魅力が数倍あがる気がする。
「なんですか先輩。みたいんですか?」
こちらをからかうような流し目だ。
俺はじっと彼女の胸を見てから、首を振る。
「見るものがないだろ」
「む。まあ、私はまだちょっと休んでますから、先輩先に風呂いってきていいですよ」
「そうか?」
二人がラッキースケベイベントをやっている以上、もう片方の風呂を使うしかない。
俺は汗を流すだけで終わる予定なので、さっさと行ってきてしまおうか。
風呂に移動する。
相変わらずすげぇ家だな。
銭湯や旅館のような大きな風呂といくつものシャワーが並んでいる。これが自宅にあるのだから凄い。
掃除は行き届いていて、まるで新品同然。
普段は使用人たちも使っているとかなんとか言っていたよな。
おっと。いつまでもみとれてはいられない。
隣の風呂に耳を充てて状況をうかがいたい部分もあったが、仕方ない。
俺はさっさと頭を洗うためにシャンプーへと手を伸ばしたところで、がらりと扉があいた。
「ぎゃっ!? ナツ?」
「そんなゴキブリとでも遭遇したような声は」
なぜかタオルを体に巻いたナツがそこにいた。
すげぇな。タオルがぴっちり肌に張り付いている。タオルが剥がれ落ちる心配が一切ないな。
「……なんでおまえがここにいるんだ? 俺が入っているの気づかなかったか?」
「ラッキースケベです」
……恥ずかしそうに言うんじゃない。
俺もさすがに、女性の裸なんてそういう本でしか見たことないため、ちょっと心臓がバクバクとなっていた。
……それでも、表にだすつもりはない。
「それじゃあなんだ。この後俺はナツに、キャー変態! とかいわれて桶を投げられるとか?」
「大丈夫です。私は間違えていません。自らの意思でここにいます」
「そんなバトル漫画で聞きそうなかっこいいセリフで盛大に一緒に入りに来た宣言する奴初めて見たんだが」
「私も……男性の裸は父親以外では初めてみましたね」
「……きゃ」
俺は近くの桶をとって大事な部分を隠した。
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