お隣さんの可愛い後輩が俺にだけ滅茶苦茶優しい
第二十二話
「ユキ先輩。楽しそうですね」
「当たり前だ。まだ世に出ていないゲームができるんだぞ? こんな楽しいことないだろ」
「確かに」
ナツだって人のことを言えないくらいワクワクしている顔である。
以前、部長と約束したとおり、今日は部長の家で新作ゲームをやる予定だった。
部長の家についた俺たちは、ここ日本ですか? と言いたくなるような屋敷を歩いていた。
ある一室に集まった俺たちはすでに設置されているゲーム機器に目を向ける。
部屋ですでに準備を整えていた部長が、大きなテレビ画面の前で、ゲーム機器を手に持っていた。
「一応これが新作になるわね。ヘッドマウントディスプレイはワイヤレスで情報を持ってくるようになっているわ」
「コードレスってことか。それはちょっといいな」
現在発売しているVRヘッドマウントディスプレイはどれもコードがあるからな。
あれらは体を動かす際に結構気になるからな。
試しに持ってみるが、軽い。
長時間つけていても首が痛くなる、というようなこともなさそうだ。
「こっちのコントローラーが武器になったり、盾になったりするって感じね」
「なるほどな」
自分の動きに合わせて反応するコントローラーは珍しくない。
それを両手に持って、敵の攻撃に合わせて振るということだろう。
「それじゃあ始めましょうか。お互いぶつかってもあれだから、距離を空けるわね」
……このなにもない体育館みたいな部屋で、俺たちは準備体操でもするくらいの距離を空ける。
……こんなに距離が必要になるのか? そう疑問に思いながらも、距離を空け準備を整える。
さっそくヘッドマウントディスプレイを装着する。ゲームの音声は耳元のスピーカーで聞こえてきた。
自分の耳に届く音は、それだけになり、心臓が高鳴る。
今か今かと流行る気持ちを抑えながら、ゲーム開始を待ち続けた。
真っ暗だった視界に映像が流れた。
初めは美しい空。そこから辺り全体を映すように映像が流れていく。
見える景色は俺の想像している中世ヨーロッパ風の風景だ。
そんなタイトル画面を眺めながら、手に持ったコントローラーを動かし、ゲームを進めていく。
まずはキャラクターメイキングをする必要があるようだ。ただ、まだベータテストということもあってか、それほどパーツはないようだ。
いかしたおっさんキャラクターにしてみようか。
作り終わったら職業を選択するようだ。
今回やるゲームは簡単にいえば、異世界で冒険者になって生活するだけのゲームだ。
冒険者になって依頼を受けたり、世界を旅したり、他の冒険者と一緒に高難易度ダンジョンに挑戦したりするのが、基本的な遊び方となる。
まだオンラインモードは追加されていないが、オフラインモードで四人同時プレイは可能だそうだ。
事前に話していた通り、俺はアタッカーっぽい職業である戦士を選択する。
そうして基本的な情報を決め終えたところで、ゲーム世界にログインし――。
「あれ、ユキ先輩……ですか?」
「その声は、ナツか?」
そこには絶世の美少女がいた。ボンキュッボンな肉体を持つ彼女は、少しばかり肌色が多めだ。
「なんですかそのおっさんキャラは」
「渋いおっさんが好きなんだよ。おまえこそなんだその現実離れした肉体は」
「将来きっとこうなりますからね。今のうち経験しておこうかと」
「杞憂だな」
「む」
ナツが頬を膨らませる。次に現れたのはアキだ。
アキもまた渋いおっさんキャラになっていた。
爽やかな声とのギャップが凄くて笑いそうになる。
「みんな待たせたわね」
最後に現れたのは部長だ。部長は……今とそう変わらない雰囲気のキャラクターだ。見た目は魔女っぽいローブを身に着けていた。
「私は魔法が使えそうな魔法使いにしたわ」
「僕はタンクっぽい騎士にしておいたよ」
「私は僧侶ですね」
「俺は戦士だ」
事前に話していたとおりに分かれることはできたな。
それにしても、こうして会話して驚いたのは、自分のゲーム内にいる場所によって声の大きさも変化する。
本当に正面や背後から声が聞こえてくるのは凄いな。
「それじゃあ、早速戦闘に行ってみましょうか」
「そうだね。それで部長……これ移動はどうするの?」
「足を動かすのよ」
「……そうなんだ」
いやいや、マジで言ってんのか?
VRゲームだと、視線で向けた場所にワープするとか、コントローラーを向けた先に移動するとかいろいろあるじゃんか。
なんて原始的な。
俺たちはその場で足踏みを開始する。そうすると目的の方角へと動き出した。
確かに、リアルっぽさはあるが、体力使いそうだな。
「今気づいたが、俺たちはフィールドにログインしたんだな」
「みたいですね。あっ、あっちに町がありますね」
ナツが指さした方には、一つの町が見えた。
「おお、リアルな造りだ。これは確かに異世界転移した気分が味わえるな」
「でしょう? この辺りの作りこみはかなり気合入っているわよ」
部長が我がことのように楽しそうな声をあげる。
と、少し歩いたところで目の前の空間に魔物が出現した。
なんだろう。泡のようなものが空中に現れ、それが魔物の形になるような感じだ。
現れたのはゴブリンだ。多少ゲーム用に可愛らしくデフォルメされている。
「これで、戦闘はどうやってやるんだ?」
「とにかく動いて戦うのよ」
クソゲーかよ!
ゴブリンが飛びかかってきて、俺は横にとんでかわす。
先ほどまで俺がいた場所にゴブリンが攻撃している。ここまでリアルにしなくてもいいだろ!
「僧侶にしておいてよかったですねー」
ナツが暢気な声をあげている。
「ナツ、前に出てこい! フォローはしてやるから!」
「先輩、頑張ってください」
ていうか部長もこれ分かってたんじゃないか!? だから、女性二人は後衛にしたのではなかろうか。
俺とアキはぜーはー息を吐きながら、ゴブリンと戦っていく。
「アキ、ちょっと時間稼げるか? 一気にぶっ潰す」
「……了解」
ああ、わかってるっての。
ゴブリンたちはわりと素早く、普通においかけるのは難しい。
だから、俺はさらに速く動いてやることにした。
普段怠けているが、こちとら動けないわけじゃない。アキが言っているように、運動は得意だ。
アキがゴブリンたちの動きを止め、俺がその隙に距離を詰める。
反応したゴブリンの首へと剣を叩きつける。手にぶるりと、肉を切ったような感触がコントローラー越しに伝わってきた。
無駄にリアル! ただ、こんなことで怯むような俺じゃない。
おらよっ。背後にいたゴブリンに跳びかかるように腕を振る。
その首をたちきると、ゴブリンの体が沈んだ。
「うっし。こんなもんか」
いえーいとアキとハイタッチする。
実際にハイタッチしているわけではないが、プレイヤーに触れた瞬間にそんな感触がコントローラーごしに伝わってきた。
体感ゲームとしては、かなりの出来だと思う。
俺の想像していたVRよりも随分とハードだが。
「部長どうしたんだ?」
「い、いえね……このゲームかなりバランスが悪くて、今のところ近接でゴブリンを捉えるのってかなり難しいのだけど……よく倒せたわね」
そうだったんだな。
確かにまだまだ改良の余地はかなりありそうなゲームという感じだな。
「ユキ先輩って、基本運動神経いいですよね」
「ユキは怠け癖さえなければ、ね」
「あー、それが一番ネックですよね」
うるせぇよ。
くすくすと笑うナツとアキ。
「そういえば、以前聞いたけれど、確かご両親がスポーツをしていたのだったかしら?」
「まあな」
両親ともに、昔からの運動好き。将来はプロになるのでは、と言われる程度には才能があったらしい。
ま、両親と違って真面目さはなかったが。
「それでも……ゴブリンを倒せたのは本当驚きね」
「部長はどうだったんだ?」
俺が責めるようにいうと、部長ははて? と首を傾げた。
「……なんのことかしら?」
「いや、部長やったことあるんだろ? だから、魔法使い選んだんだろ?」
「そうだね。気になるところだね。部長のその悔しそうな顔から察するに……ゴブリンに惨めにやられたんじゃない?」
「そ、そんなことないわ!」
ぶすっと部長は腕を組んだ。……部長も運動神経はいいが、体力は比較的少ない。きっと、スタミナが切れて負けたのではないだろうか? そんなことを勝手に考えていた。
軽く伸びをしてから、近くの街を見る。
「とりあえず町まで行ってみるか」
「ちなみに、町はまだ出来上がっていないから遠くからしか見ることができないわよ」
「……おい」
ならやれることは魔物狩りだけなのか……楽しいからいいけどさ。
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