お隣さんの可愛い後輩が俺にだけ滅茶苦茶優しい

木嶋隆太

第十三話





「アキ先輩がホラーへの耐性がないと聞いて驚きましたね」
「小学校の頃、臨海学校があったんだよ」
「はい」
「そのときの肝試しで、ガチでビビらせられてからトラウマになっているらしい」
「またカワイイ理由ですね」
「だな」


 まあ、そのときに驚かせたのは俺なんだが。


「それにしても……部長の交友関係――間違えました。部長のお父さん、相変わらず凄い人ですね」
「そうだな。おまえ会ったことあるのか?」
「何度か家に遊びに行きましたけど……ここ日本? と首をひねりたくなるくらいの豪邸でしたね。メイドさんとかいましたし」
「あそこはな。俺も何度か行ったことあるが、凄かったな」


 ゲーム部で遊びに行ったことがあるんだが、そう何度も行きたい場所ではない。
 部長が友達を連れてくるというのは、家的にも大きなイベントらしく、盛大に歓迎されてしまったのだ。


「そうだった……家に連絡すれば、部長の父さんに繋がるかな?」
「どうですかね。忙しい人みたいでした」
「まあ、最悪伝言だけでも伝えてもらえばいいか」


 俺が部長の家に連絡すると、まもなく渋い声の男が出た。
 使用人だ。事情を説明すると、ちょうど父親が戻ってきていたらしく、電話をかわってくれた。


『どうも桜の父です。いつも娘が同じ部活動でお世話になっています』
「ああ、いえこちらこそ。部長には色々……お世話になっています」


 一瞬迷惑かけられています、と言おうか迷ってやめた。


『それで、今日はまたどうしたんだい?』
「まずはその。遊園地の件、ありがとうございました」
『まあ、そのくらいは別にね。友人に話したら、若者のアンケートが欲しいというのもあったから、答えてくれたら嬉しいよ』
「はい。わかりました。それで本題なんですが」


 そこで俺は、どうして遊園地に行くことになったのかについて話した。


『なるほど……ホラーゲームの延長で、なんだね』
「それで、あの遊園地を提案したところ部長に余裕が出たんですよね。何か知っていませんか?」
『ああ……待って。なるほど。桜、家に戻ってからお化け屋敷の資料を使用人に用意してもらっているね』
「……やっぱりそうですか」


 あの部長……。
 ようはホラーゲームとやることが一緒だ。
 驚くポイントを事前に知っておくことで、耐えようとしているのだろう。


『これは確かにフェアではないね。ゲーム部の部長として、そこは公平にしてもらわないと部員に示しがつかないね』
「はい。それと、一つ提案なんですが……出口付近にカメラとかは設置できませんかね?」
『どういうことだい?』
「部長の泣き顔を見てからかいたいので」
『それは私も欲しい。すぐに話を通しておこう」
「ありがとうございます」
『用件はそれくらいかな?』
「ええ、それでは」
『ああそうだ。……秋くんにもよろしく伝えておいてね』


 ちょっとだけ声のトーンが怖い。
 ……別に、アキが部長のことを好きであることとかは一切伝えていないが、親としてやはりわかる部分があるんだろうな。
 電話を切ってから伸びをする。相手は一応大企業の社長である。まさか直接電話できるとは思いもしなかった。


「なるほど。だから部長余裕だったんですね。よく気づきましたね」
「露骨に様子がおかしかったからな」
「それですぐに行動するあたり、先輩って無駄にフットワーク軽いですよね」
「まあな」


 それにしても遊園地か。
 レジャー施設に行くこと自体あまりないんだよな。家族も別に好きというわけでもなかったし。


「先輩は楽しみですか?」
「それなりに」
「子どもみたいですね」
「俺もぶっちゃけると遠足以来だからなそういう場所は。ジェットコースター乗りたい」
「はは、たくさん乗れますよ。私いいこと考えちゃいましたから」
「なんだ?」
「途中で、あの二人からいい感じに別れませんか? 二人っきりにさせちゃいましょう!」
「……なるほど」


 それは確かにいい案だ。
 午前中くらいは一緒に行動して、二人の様子を楽しめばいいだろう。


「私も久しぶりですね」
「おまえなんて陽キャだし毎日のように行っている気がしたんだが」
「中学のときは、家族も好きだったから行っていましたけど最近は全然ですね。高校入ってからは初めてですね」
「そうか。ま、おまえも乗りたいものとかあったら事前に調べておけよ」
「それじゃあ、名物のメリーゴーランドはどうですか?」
「なんだそりゃ」
「通常のものより大きいサイズみたいで、カップルで結構乗っている方がいるみたいですよ? あの二人に乗らせたら面白くないですか?」
「絶対面白い反応するな」
「でしょう? ついでに一緒に乗りましょうね」
「まあ、別にいいが」


 楽しそうだなこいつ。
 そんなに行きたかったのか。


「先輩、服とかちゃんと持ってますよね? デートですからね?」
「おまえと前に買いにいった奴があるはずだ」
「そうですね。あれからファッションに興味をもちましたか?」
「ズボンをパンツというくらいは覚えたな」
「初歩も初歩ですね」


 別に着られればなんでも良くないか?
 とはいえ、部長とアキにも何度か服は選んでもらったことあるから、自分にあった服自体は色々持っているほうだ。


 スマホを見ていたナツがこちらにその画面を見せる。


「コーヒーカップもありますね。これって座る距離が近いですし、嫌でも向き合いますからあの二人にぴったりですね」
「おまえ、本当大好きだな部長たち」
「見ていて楽しいですからね」
「おまえが乗りたいものとかはないのか?」
「私はなんでもいいですよ。どれも楽しみですから」


 人によっては他人を優先しているようにも聞こえるだろうが、彼女はそれを本気で言っている。
 これはナツの持つ才能の一つだと俺は思う。
 一緒に行動していて、嫌というオーラをださないんだから凄いものだ。


 とりあえず、明日晴れることを祈っておくかね。

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