お隣さんの可愛い後輩が俺にだけ滅茶苦茶優しい
第四話
「ごめんね、みんな待たせちゃって」
さわやかな笑顔とともに現れたのはアキだ。
彼はいつもの微笑を全員に向けたところで、部長とにらみ合った。
おっ、始まった。俺とナツは彼らの喧嘩をラジオに、ゲームの準備をはじめる。
「今日も相変わらずの不愛想な顔だね、部長」
「そっちも。媚びを売りまくった爽やか笑顔ね」
「人間関係に悩みのない人は楽でいいね。部長は友達ゼロだもんね」
「あら。ゼロではないわ」
「でもほぼゼロだよね?」
「友達というのは数ではないわ。質よ。あなたのようにへらへら笑って数だけ増やしているのとは違うのよ」
「質? それじゃあ、聞いてみたいね」
「ええ、まず第一の友人……っナツ!」
「あっ、私巻き込まれるんですね。ていうか、友達?」
「ち、違うの!?」
泣きそうな顔になる部長。
彼女は外では鉄仮面をはがさないが、実はかなり表情豊かである。あわあわとした彼女が泣きそうな目でこちらを見てくる。
「と、友達二人目! ユキ!」
「いえ、別に……ただの部員です」
「え……う、あ……」
「どうやら、友達の質とやらも負けているようだね、部長」
ふっと、勝ち誇ったような顔になるアキがさっと手を伸ばす。
「まあ、僕くらいは部長の友達になってあげてもいいよ?」
「……いや」
ふんっと部長が涙目で首をぷいっとやる。すると、今度はアキが泣きそうな顔になる。
こいつら面白いんだけど。
「部長、すみませんでした。私と部長は友達ですよ」
「ナツ!」
部長がさっとナツに抱き着いて頬をこすりつける。
ナツも部長の胸をもみながら幸せそうである。
「先輩もアキ先輩を慰めにいったらどうです?」
嫌だよ。おまえらは女同士だからある程度華があるが、俺とアキが同じようにやってみろ。地獄絵図じゃねぇか。
俺は黙ってゲームの準備をした。
しばらくして、部長とアキも復活する。ちょっとばかり普段より元気がないようには感じたが。
「今日のゲームって恋愛ゲームだったかしら? 選んだのは……珍しくナツよね?」
「はい。昔から気になっていたタイトルでしたので、一度やってみたかったんです。ただ、私あまりこういったゲームをしたことはないので」
「私も……男性同士のものはあるけれど、こういったものは初めてね」
男同士はあるのか? 今日は普通の恋愛ゲームだ。いわゆるギャルゲーと呼ばれるもの。
いや、ギャルゲーは普通じゃないのか? オタク的には普通だ。
俺は昨日ナツと作戦会議を開き、このゲームを選定した。
こういった恋愛ゲームをしながら、部長とアキの関係をつつくのはどうだろうか、ということである。
楽しそうではないだろうか。
絶対面白いことになる、とそのときのナツの顔はそれはもう悪人であった。
「恋愛、かぁ。僕にはよくわからないなー」
嘘つけアキ。俺がジトっとみると、彼は慌てた様子で首を小さく振る。
「部長には絶対ばれないようにしてくれ」、という意思表示だな。
「珍しく同意見ね。私も、恋愛をしたがる人の心というものは理解できないわ」
ナツがジト目で部長を見る。部長はさっと首を振っている。
部長とアキ、まったく同じ反応である。おまえらもう結婚しろよ。
俺とナツがこっそり笑いあいながら、口を開いた。
「そういえば、アキはまだ告白されまくってるよな? 部長はどうなんだ?」
「私はそうでもないわ。最初の一か月は忙しかったけれど……勘違いした愚かな人間共は消え去ったみたいよ」
「何その魔王的言い方。アキは……まだ勘違いさせまくってる感じか?」
俺がアキに振ると、彼はこくりと頷いた。
「そうだね。……ああ、そういえば。ごめんね、ナツちゃん。今回も断らせてもらったよ。友人に恨まれたりしないように最善の注意を払ったつもりではあるけど」
ナツがいえいえ、と首を振る。
「大丈夫ですよ。私も事前に、うちの先輩たぶん断ると思うけど? とは伝えてありますから」
「今回告白したのってナツの友人か?」
「はい。アキ先輩にラブレターを渡してほしいと言われましたので、キューピッドになったんです」
えへんと胸を張るキューピッド。
「なれてねぇだろ。ラブレターねぇ。今時渡すもんなんだな」
LI〇Eとかで伝えるほうが楽なんじゃないか? まあそれで既読スルーされたら泣きたくなるが。
「そうだね。でも結構あるよ? 僕としては直接言われた方が好感度あがるんだけどね」
「そうか。部長的にはどうなんだ?」
恋愛ゲームのオープニングを夢中になってみていた部長に振る。
「私も直接言ってくれた方がいいわね。その場で断れるから」
「わかるね」
アキと部長が頷きあっている。こいつら……。
と、そこで部長がアキをジトリと見た。
「それにしても、あなた随分とモテるみたいね。部活に支障が出ないようにしなさいよ」
「ご心配なく。というか、モテたくてモテてるわけじゃないんだよ。あくまで、みんなに優しくしていたら自然と今のようになってしまってね」
「それが原因じゃない。普通誰にでも優しくなんてしないわよ」
「仲良くなっておくと便利だよ。宿題を忘れても写させてもらえるし、グループ活動の時に余ることもないからね」
「……確かに後者に関しては、辛い、わね」
部長は俺のほうを見てくる。何を同意求めてきているんだこの部長は。
「ちなみに部長。俺はアキと同じクラスだ」
「……なっ! 苦しんだことがないというの!?」
「まあな」
「ユキはもうちょっと自分で友達作る努力しようね」
アキの声なんて聞こえなーい。
「交友関係で言えば、ナツもすさまじいよな? おまえも結構な相手に告白されてるだろ?」
「イエス。私カワイイですからね。あっ、先輩もうちょっとそっちに椅子動かしてください。画面見えにくいので」
「俺だってこれ以上動けないんだが」
「じゃあ椅子になります? それでもかまいませんよ?」
「このわがままのどこがカワイイんだか……」
俺が呆れていると、アキがナツを見る。
「けど、ナツちゃんは凄い人気だよね。僕の友人たちもナツちゃんと仲良くしたいっていう子たくさんいたよ? 何か趣味とかってないの? よく聞かれるんだけど」
「趣味ですか? ゲームとかですかね?」
「そっかー。ってことは中途半端なゲーマーはお断りだね。僕の友人たちでは無理そうだ」
「あとはあれですかね? アキ先輩くらいのルックスがあれば多少興味もてるかもしれません」
「そっか。それも無理かな」
「すげぇ自信だなおい」
アキはよく毒を吐く。ここにいるメンバー以外にその姿は一切見せないが。
ある意味ゲーム部は彼にとってオアシスみたいなものだ。
結局、ナツは俺にくっつくようにして体を詰めてきた。別にそこまでしなくてもテレビ見れるだろ。
「ドキドキしますか先輩」
「いつやられるかひやひやしてる」
そう言っておくしかないだろう。
俺は顔を顰めておいた。
「そうですか」
『ですが、この距離ならこっそり作戦会議もできますね』
二人に聞こえないようにぼそりと彼女が呟いた。
……なるほど。そういうねらいがあったのか。あったまいーなこいつ。
「とりあえず、そろそろゲーム始めるか?」
もう何回目かわからないくらいオープニングを繰り返していたからな。
俺の言葉に全員が頷いた。
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