お隣さんの可愛い後輩が俺にだけ滅茶苦茶優しい

木嶋隆太

第二話



「……先輩、それマジです?」
「マジです」


 俺たちは下校しながら、先ほどの話をしていた。
 とりあえず教室で誰かに聞かれたらまずいからな。


「……ということは、二人は両想いということになりますね」
「だな。ってことは、お互いにそれを伝えたら終わりだな」
「先輩、バカですか?」


 バカとはなんだ。
 こちらを見るナツは信じられなーい……といった様子で肩をすくめ、息を吐いている。


「どういう意味だ」
「先輩。お二人は確かに好きあっているのかもしれませんが、わかりきった状況での告白では本当の愛は証明できないでしょう? 二人が本当に素直になってこそ、告白というのは意味があるのではないでしょうか?」
「なんだ意外と可愛らしい考えをお持ちなようで」
「でしょう、カワイイでしょう。もっと褒めてもいいですよ」
「カワイイカワイイ」
「はい、もっと褒めてください」
「超カワイイ、ナツは世界で一番カワイイ」


 言ってて恥ずかしいな。半分くらいはちょっと気持ちを込めて、そういった。


「よし、今の録音っと……」
「おいこら」
「先輩。私たちは二人の恋愛を陰ながら応援することにしませんか? 二人が、実際に告白しあえるように、です。……二人は私にとって大好きな先輩たちですから、末永くお幸せになってほしいです」
「……なるほど」


 確かに彼女の意見も一理ある。
 二人は顔を突き合わせれば喧嘩ばかりだ。なんなら拳と拳の戦いにまで発展することもある。
 今のまま、二人に「相手もおまえのこと好きみたいだよ?」とか教えてもな……それはちょっと。


「「面白くない」」


 俺たちは顔を見合わせ、にやーっと笑いあう。


「だよな。あいつらが本当は好きあっているのに喧嘩している状況……そんなツンデレたちは見ておきたいに決まっている」
「さすが先輩、性格悪い」
「いやいや、ナツほどじゃねぇよ」
「先輩にはかないませんよ」


 お互いの意見は一致した。
 この、不格好なラブコメを、見守り続けてやろうじゃないか! いつか告白できるそのときまでな。


「先輩、まずは状況の確認といきましょう。アキ先輩って、きっかけがあったら告白できるような性格なんですか?」
「いやあいつはあれで案外チキンだからな。確信できない限り無理だ。それで、部長のほうはどうだ?」
「そうですね。部長も無理だと思います」
「さすが幼馴染」
「はい。姉みたいな存在ですからね、詳しいですよ。部長もチキンですからね。確信できない限り、絶対告白なんてことしませんよ」


 それなら、しばらくは大丈夫そうだな。


「先輩……というわけでです。これからは、二人の距離を近づけるためのミニゲームでも考えて、部内で提案してみませんか?」
「……なるほどな。あれか、ポッキーゲームとか王様ゲームとかか?」


 よくある定番のものをあげてみる。
 ナツがにやりと口元をゆがめる。


「いいですねそれ。うまく誘導すれば二人にやらせる機会も出てきそうですね」
「間違えた時が悲惨だから、念入りに作戦を立てないとだな。俺とナツでポッキー食い合ってる姿とか誰得なんだか」


 俺にとっては嬉しいが、ナツからしたら最悪なのではないだろうか。
 俺の言葉にナツはポリポリと朱色の頬をかいていた。


「えー、そんなこといって先輩にとっては得なんじゃないですか?」
「まあ、美少女と食えればそりゃあな」


 精一杯の言葉を口にしてみると、ナツは視線を下にさげた。


「……ふ、ふーん」


 妙な空気だ。なんとも言えない空気感があり、俺は咳払いでごまかした。
 アパートについた。
 なかなか年季の入ったアパートで、女子高生が一人暮らしをするには少し不安だ。鉄製の階段を歩くたび、音が響く。
 一階に四部屋、二階にも四部屋。俺は204号室でナツ203号室だ。


 荷物だけをおいたナツがすぐさま俺の部屋にやってくる。今日も夕食を作ってくれるらしい。本当、良い子だよな。


 将来、彼氏ができても問題ないだろう。その場面を想像して一人落ち込んだ。
 部屋に置かれていたエプロンを掴んだナツがすぐに料理を始めた。
 俺も隣にたち、料理の準備をしていく。


「先輩。裸エプロンというのは鉄板じゃないですか」
「何の鉄板だ」
「そりゃあ美少女が出るゲームですよ」
「今時中々なくないか?」
「じゃあエッチなゲームですかね?」
「それをおまえがいうなよ」


 女子高生なんだから。察してしまえる俺も問題だな。


「先輩もそういう妄想したことありますか? ていうかもしかして今私でしてますか?」


 余計なことを言わないでくれ。ひらっと、ナツがエプロンを揺らす。


「裸エプロンはあれだろ。ある程度こう体つきの良い子じゃないとだめじゃないか?」
「誰の胸がまな板代わりに使えるですか?」
「おまえの胸だ」


 笑顔で包丁を構えられたので、俺は本物のまな板を渡す。
 昨日購入しておいた野菜を洗い、彼女に渡すとさっと切っていく。


「相変わらずうめぇな」
「先輩基準だと誰でも上手ではありませんか?」
「俺だって料理できるぞ? なめんなよ?」
「そういって壁に貼ってあるピザ〇ラのチラシ見るのやめてくれます?」
「そういや、今月の食費って渡したっけ?」
「きちんともらっていますよ」


 一人分作るのも二人分作るのもあまり変わらない、というのがナツの言い分だ。


「先輩、米炊いておいてください」
「わかった。今日の夕食は?」
「野菜炒めと生姜焼きですかね?」
「おっ、肉かラッキー」


 俺は急いで米を研ぎ始める。
 俺が料理をするようになったのは、ナツが来てからだ。つい一か月前くらいからか。


 とりあえず、明日からのこと、色々考えないといけないな。
 ……それにしても、あの部長がアキのことが好きなんてな。


「ぷっ」
「屁こかないでください」
「ちげぇよ。思い出し笑いだ。部長ってどんな感じでおまえに相談したんだ?」
「え、先輩なんですか。まさか、部長が赤面しながらあわあわとしながら私に相談した場面想像して笑ったんですか? 人が一生懸命に話しているのにそれって人として最低じゃないですか?」
「……そんな可愛らしくか」


 それはぜひとも見てみたかったな。
 あの冷たい顔の部長がそれ以外の表情を見せるとか……写真でもとって売り出したら滅茶苦茶売れそうだ。


「ぷっ」
「なんだ、今度はおまえが屁こいたのか?」
「女子に屁をこいたとか失礼極まりないですよ」
「女子?」


 ……包丁を持つ手があがった。
 女子なのはわかっている、嫌というほどな。それを認めたくない男心もあるんだよ。察してくれ。


「そうだな。失礼だったな」
「まったく。それで? あのクールで澄ましたアキ先輩がどうやってユキ先輩に相談したのか気になりまして」
「おまえな……まさか結構深刻そうに、ちょっと頬を染めて頑張って言いましたっていう感じのアキを想像して笑ったのか? 失礼な奴め!」
「それは……見てみたかったですね。きっとそんな顔するのって、部長関係以外でないですよね」
「……だろうな」


 お互い顔を見合わせ、


「明日から、二人の仲を近づける作戦実行だな」
「はい。先輩、ドジ踏まないでくださいよ」
「おまえこそな」


 ナツはたいそうな悪人面であった。
 そして、たぶん。俺もそんな顔だっただろうな。







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