痴漢されている美少女を助けたら一緒に登下校するようになりました
第二十八話 お出かけ2
華恋の手が離れたのは、一緒に店にはいるときだった。
「ご、ごめん。つい、手を握っちゃってた」
華恋は慌てた様子で手を引き、頬を真っ赤にうつむいた。
「別に、嫌じゃなかったから」
「そ、そう……それならよかった」
浩明は首を振って、そう答えるしかなかった。
(……早水に手を握られていやがる人なんて、そうそういないだろうな)
浩明は彼女の感触を思いださないように、店へと視線を向けた。
ショッピングモールに会ったレストラン街。あまり混んでいなかったが、ちらほらと客が増え始めていた。
イタリアンの食べ放題だ。
二人で店に入り、席についた。
浩明はウェットティッシュで手を拭きながら、ちらと周囲を見た。
「早水は何度か来たことあるのか?」
「うん、花ちゃんと何度かね。ゆっくりできるし、結構おいしかったよ?」
「へぇ。セルフサービスでいいんだよな?」
「うん。好きにとっていっていいみたい」
浩明が席をたち、華恋もその隣に並ぶ。
「あっちにドリンクがあって、ここがパスタだね」
「へぇ、色々あるんだな」
「うん。あとはピザが向こうだね」
ちらと華恋が指さしたほうにはピザが並んでいる。トマトやチーズといったよく見る者から、フルーツなどが乗ったピザなど、結構な量があった。
「それで、こっちに野菜かな? 一応、カレーとご飯もあるよ?」
「……本当、色々あるんだな」
浩明はきょろきょろとそれらを見ていると、華恋が口元を緩めた。
「目が輝いているね。普段外で食べないの?」
「まったく、な」
「けど、家で料理するわけでもない、と」
「……うるさい」
からかうように言ってきた華恋に、浩明も軽い調子で返した。
「まあ、今日はたくさん食べられるけど、少しくらい野菜も食べなよ?」
「親みたいなこと言うなって」
「健康的に過ごしてもらわないと心配になっちゃうからね」
華恋が近くの皿を掴み、サラダを盛り、浩明のほうに渡した。
浩明は顔を顰めたが、華恋がくいっと押しつけてきて仕方なく受けとった。
ドレッシングをかけ、ウーロン茶を持って席に戻る。
「それじゃあ、いただきます」
華恋とともに食べ始める。野菜の後は、パスタやピザを食べていく。
「おいしいな」
「うん」
出来立てのものを一口サイズで取りに行く。
おいしかったものはさらにとっていくといった感じで、浩明は食べていた。
そして、対面に座る華恋を見て、驚く。
「そういえば結構食べるよな、早水って」
健康的で悪い気はしていなかった浩明だったが、その言葉を聞いた華恋は耳まで真っ赤になって首を横に振った。
「べ、別に食べないよ! 普通だよ」
(いや食べるだろ……)
浩明は彼女の家での食事量を知っていたからこその指摘だった。
「まあ、食べないよりかは食べてるほうが俺としても見ていて楽しいし」
「そ……そう?」
華恋は頬をかいて、それから控えめに席を立つ。
「あと、ちょっと……ちょっとだけ。とってくるね」
(まだいけるのか)
浩明は僅かに苦笑しながら、共に向かう。
デザートコーナーもあり、浩明はそれをさらにとっていく。
「この甘いピザも結構おいしいんだな」
「うん、デザートピザとかドルチェピザとかいうんだけど、普段なかなか食べられないよね」
「ああ」
ピザのふわふわな生地にチョコレートソースなどがかかっている。甘いピザ、と聞いた浩明が僅かに二の足を踏んだが、ケーキのような感覚で食べることができた。
そうして、二時間ほどゆっくりしたところで、店を出た。
浩明は少し食べすぎたかもと、腹をさすっていた。同じペースで食べていたにも関わらず、華恋はまだまだ余裕がありそうだった。
「おいしかった?」
「ああ、また来たいくらいうまかったな」
「そっか。でも行くとしたら今度は別の店も行ってみたいね」
(……次、あるってことか?)
彼女は無意識に放った言葉なのだろうが、浩明はドキリと心臓が高鳴っていた。
ずるい奴、と浩明は胸の奥で言うしかなかった。
「あっちに本屋あるよ、行く?」
「行く」
即答すると華恋が口元を緩めた。
華恋とともに向かった本屋。
人はそれほどいなかった。午後一番で有名人を招いたトークショーが行われる影響もあってだろう。
遠くのほうは騒がしかったが、本屋は比較的静か。浩明はその空間でじっくりと本を見ていく。
久しぶりにたくさんの本に囲まれていたことで、浩明はきょろきょろとかたっぱしから視線を向けていった。
「子どもみたい」
「……そうでもないだろ」
「そうでもあるよ。何かいいのあった?」
「ああ、新刊がいくつか。どれ買おうかな……」
「あはは、服選ぶときの私みたい」
浩明はああ、と納得する。
「……まあ、それなりにはな。悪い、ちょっと時間かかるかも」
「大丈夫。私も時間かけちゃったし」
浩明は本を手に取りながら、見ていく。新刊が多く並んでいて、そのどれもを楽しく読んでいく。
ライトノベルであれば、挿絵をちらと見るだけでも楽しい。〇〇賞を受賞! と書かれた本を手に取り、片っ端から読み解いていく。
「これってどんな話なの?」
「ああ、それは異世界ファンタジーだ。男向けのものだな」
「そうなんだ……そういえば、この前戸高くんに借りたあのマルマルくんが出てくる話、結構楽しかったよ!」
「ああ、そうなのか?」
「一気に二巻まで読んじゃって、今三巻読んでるところなんだよね」
「それなら、帰りにでも追加で借りていくか?」
「うん、お願いします」
浩明はふっと口元を緩める。
華恋もまた、浩明と同じように本を手にとっては、浩明に声をかける。
これ面白そう、とか、この絵カワイイ、とか。
絵を見ているときの華恋の表情に時々陰りが入るのは見落としていなかった。
それはきっと、彼女の昔からの思いがあったのだろう。
(絵、か。やっぱりまだ好きなのか?)
彼女の本音を聞きたいところだったが、さりげなく聞き出すということが思い浮かばなかった。
花について話題を出しながら引き出すことも考えていたが、それはそれで難しいものだった。
(神崎が絵を描いてるってこと、早水が言ってくれればどうにかなりそうなんだがな)
「戸高くん、この本って……この前私が読んだ奴と同じタイトルだけど、見たことない奴だね?」
「ああ、それは外伝だな」
華恋が手に取ったのは、つい先日、好きなキャラクターが死んでしまったと言っていた本の外伝だ。
おまけに、華恋が好きなキャラクターがメインの外伝であるため、華恋が目を見開いていた。
「私これ知らないっ」
「……そういえば、俺も気になってたけど、買わなかったんだよな」
浩明の目標は新人賞に受賞すること。そのため、彼が
もちろん気に入った作品は続刊までも購入していたが、それでも読む優先度は低くなりがちだった。
「これ私買う!」
「そうか……あとで読ませてもらってもいいか?」
「いいよー、それじゃあ戸高くんが買ったのもあとで見せてね」
「……ああ、わかってる」
二人でレジに並び、本を購入した。
「それで、服は決まりそうか?」
「……あっ、わすれてた」
「まあ、まだ時間あるんだし、ゆっくり決めればいいんじゃないか?」
「わ、わかった。戸高くんにも色々意見をもらってもいい?」
「ああ」
(実際に試着している姿も見せてくれて、俺としては楽しいしな)
二人が本屋を出てから再び服屋を目指して歩き出した。
ちらと見た華恋の表情が険しいものになっていく。
そして、さっと彼女は顔を沈めた。その動きに浩明が首を傾げていた時だった。
「あれ? もしかして、早水さんじゃないの?」
「うわ、ほんとだー。中学のときと全く違ったから気づかなかったよ」
ニヤニヤとした様子で二人組の女子がやってきた。
そのあまり好意的ではない声と小馬鹿にしたような表情。
何より中学のとき、という言葉に、浩明は嫌なものを感じた。
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