痴漢されている美少女を助けたら一緒に登下校するようになりました
第十八話 球技大会4
試合が始まり、華恋がジャンプボールで奪い取った。
すぐに、仲間たちが動き出す。
指示は華恋が飛ばしているようだった。
浩明はその光景を楽しんでみていた。
始まってから一分ほどが経ち、浩明はその光景に驚いていた。
華恋は自分でシュートまで持っていくことは少なかった。けれど、仲間を使うのがうまかった。
仲間へのボール回しとディフェンスをメインに、華恋はあくまで周りを輝かせるための動きをしていた。
周りが気になる、そういっていた華恋の言葉がまさに動きとなったように見えた。
(凄いな。……全員で楽しんでる)
相手のチームには明らかに経験者がいた。その経験者にボールを回して、戦うというのを主にしているようだった。
それが普通だ。上手い人を頼りにすれば、それだけ点につながる。
しかし、華恋はあくまでみんなが楽しめるように、というのを主にしている。それでも、もちろん、試合に勝つために自分で動くときもある。
ただ、相手チームの方が強い。
「経験者二人いるって聞いてたし、やっぱ厳しいかー」
幸助がそういった最後、華恋がヤケクソ気味にボールを放った。
もしも入っていれば――そう思わせるギリギリのゴールは外れてしまい、試合終了となる。
悔しそうな顔で、2-1の面々がコートを出た。
それを、迎える人々の輪から少し離れたところで、浩明は背中を向けた。
もう試合は終わったので、空き教室に戻ろう。そう思っていた時だった。
「おっ、斎藤の奴。声かけてるぞ?」
「やっぱり周りも意識してるねぇ。斎藤くんが声かけた瞬間に、周りの人もちょっと距離あけてるし」
美咲と幸助の言葉に、思わず浩明は足を止めた。
遠くで見えた二人の談笑している姿に、浩明はぐっと胸を掴まれた思いをした。
(……やっぱり、お似合いのカップルだよな)
断るつもりと話していた華恋だったが、楽しそうに斎藤と話をしていた。
斎藤は自然な様子で話をしている。その姿に、浩明は羨ましいと思った。
(ああいう、コミュ力のある人はいいよな。……俺には自然な会話なんて、難しいし)
「すげぇカップルだよな? 本当に誕生したら」
「そうだよね」
「くー、斎藤の奴羨ましいぜ!」
「へぇ……そう?」
美咲がすっと冷えた視線で幸助を睨む。
「冗談だって。オレには美咲以外いないぜ」
「うは、気持ち悪ーい」
(いちゃつくなって)
呆れて二人を見ていた浩明は、その視線をすっと華恋たちに向けた。
斎藤が何かを言うたび、華恋は楽しそうに笑っている。
それを見るたび、体の奥がずきんと痛んだ。様々な感情が湧き上がってきたが、浩明はそれを唇をかんで押さえた。
(関係ないだろ、俺には)
「それじゃあ、俺はそろそろ適当な教室にでも行ってくる」
「えー、浩明、私の応援はしてくれないの?」
「そこは、彼氏の出番だろ」
浩明は幸助の肩をトンとたたいて、その場から逃げ出した。
空き教室に戻った浩明は、耳にワイヤレスイヤホンを差し込み、好きなゲームの音楽を流していた。
初めは目を閉じ、これから先の展開をどのように書こうか頭の中で練っていた。
時間にして五分ほど、頭の中での整理が終わったところで書き始める。
浩明はキーボードを叩きながら、とにかく書くことに集中していた。
仮に、誰かが廊下を通っても構わない。そんな思いとともに書き進めていると、教室の扉が開いた。
もともと、華恋が来ることは予想していたが、それでも、完全にタブレットに集中していた浩明は少し驚いた。
耳からイヤホンを外すと、華恋が片手をあげて教室へと入ってきた。
「ごめん、邪魔しちゃった?」
「……いや、大丈夫だ」
いつも以上に集中できていた浩明は、一度タブレットとキーボードの電源を落とした。
華恋が控えめに教室へ入り、席に座った。
「……試合は見たぞ」
「うん、知ってる何度か見えたし」
(試合中に客まで見る余裕があったのか?)
決して浩明は見やすい位置にいたわけではなかった。
彼女の視界の広さに驚かされていた。
「惜しかったな」
「うん、けど負けは負けだよ。完敗」
「みたいだな」
「結構頑張ったけど、やっぱり相手が経験者だとさすがに辛いよね」
「そこは仕方ない」
(相手が悪かった。せめて、こちらにもう少し動ける人がいればまた変わってたんじゃないか? まあ、動けない俺がいえる立場でもないけど)
「もう私たち試合終わっちゃったね」
「そう、だな」
浩明はぽつりぽつりと返事をしながらも、あのとき華恋が斎藤に見せていた笑顔が頭から離れないでいた。
(いつまでも、考えてるなって。意識していると気持ち悪いぞ俺)
浩明は自分に言い聞かせ、小さく呼吸を行っていた。
「このあと、戸高くんは誰かの応援とか予定あるの?」
「……別にないな。美咲はまだ試合あるみたいだけど、それは幸助に任せているし」
数少ない友人たちの名前をあげると、華恋が頷いた。
「確かに。ていうか、美咲のバレーボールはたぶんあれ優勝できるよ? バレー部ばっかで、美咲も中学のときやってたって言ってたし」
「……だろうな」
経験者が四名だ。
バレーボールが六名チームであり、経験者だけで攻撃、防御を行うだけの余裕がある。
「戸高くんはこの後ずっと、小説に励むって感じ?」
「まあ、な」
「そっか……見てていい?」
「え?」
予想外の申し出に浩明は驚く。
「そういえば、そうやってやってるところ見たことなかったから。ちょっと気になったんだ」
「……まあ、別にいいけど」
(いや、よくないだろ俺。緊張してロクにかけたもんじゃないぞ? けど……ここにいてくれるのなら、それはそれで悪い気はしなかった。って何を考えてるんだ――)
浩明は頭をかきむしりたくなったが、ここでそんな行動をすれば華恋には奇行としか映らない。
結局浩明は諦めるようにタブレットとキーボードを取りだした。
「今ってどういうの書いてるの?」
「……この前貸したライトノベルあるだろ?」
「うん、あんな感じ?」
貸してから一週間ほどが経過していた。
華恋は一冊読み終えたものがえらく気に入ったらしく、今は二巻を読み始めていたところだった。
それでも、普段あまり本を読まない彼女は結構時間がかかっていた。
「それを男向けにしたような感じ、だな」
「そうなんだ? 見せてもらうというのは……?」
「……今は書いてる途中しかないから」
「じゃあ、完成したら一度見せてもらったりできる?」
「……」
(完成したとき、か。実をいうと、もう少しで書き終わりそうなんだよな。……一度、見てもらうか)
本気で賞を取るのなら、送る前に第三者の意見は欲しかった。
けど、それ以上に自分の作品を見せることへの羞恥があった。
(……何を恥ずかしがっているんだ。いざ、賞に送れば第三者に見られるんだ。そんなところで、恥ずかしがってなんているなんて、バカらしい。もしも、出版になったら未成年の俺は家族にも相談するんだ。……今さら、だろう)
ずっと、誰かに見せることは恥ずかしかった。
(それに、きっと――斎藤がもしも俺と同じ立場だったら、見せるはずだ。……斎藤は関係ないだろ)
「いい、よ」
「え、ほんと!?」
「あ、ああ。その、前にネットで見たけど……やっぱり第三者の意見って貴重だから、な。事前に早水に見てもらえれば参考になる」
「嬉しい! できたらすぐに読むね!」
「あ、ああ。気になったところとか、変だなって思ったところ、きちんと指摘してくれたら嬉しい」
「うん、私も戸高くんに絶対賞をとってほしいから! 厳しくみるね! マーカーとかも引く!」
「……あ、ああ」
嬉しそうに笑う華恋の笑顔に、浩明が見とれるのは十分すぎるほどだった。
慌てて視線をそらし、浩明は頬をかく。
(小説を見せるって言ったことが恥ずかしかったことにしておこう)
決して、彼女の笑顔に見とれていたとは気づかれないように。
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