俺(私)のことが大嫌いな幼馴染と一緒に暮らすことになった件

木嶋隆太

第33話 俺は弁当を食べる

次の日から、学校の授業は通常通りに始まった。
予習復習は家でしているし、さらっと授業開始前にも確認している。
一年のときよりも授業スピードが上がった気がしたが、それでも問題なくついていける。

そんなこんなで昼休みになった。
クラスでは昨日のカラオケとか、そのあとの二次会とかの話しがあちこちでされていた。
教室から隔離されている感はあったが、参加していない俺が悪い。そもそも別に気にもならなかった。

……問題があるとすれば、昼食をどこで食べるかだな。
隣では夏希と彼女の取り巻き二人が一緒にいる。
夏希は弁当を広げて、昼食を食べていた。

「あれ、夏希っていつも弁当なんだっけ?」
「今年からはそうしようと思ったんです」

夏希は普段弁当じゃなかったんだな。
両親が家を離れ、自立しようとしての新しい試みなのかもしれない。
凄いなぁ、とのん気に考えながら俺は弁当箱を取り出そうとして、その手を止める。

記憶を掘り返す。……夏希が朝作っていた弁当の中身を思い出し、自分のものと照らし合わせる。
夏希は弁当箱一つにおかずとごはんが入ったものだった。

俺は弁当箱二つ。一つにおかずが入っていて、もう片方にごはんだ。
ただし……おかずは俺も夏希も同じだったはず。
待て待て。さすがにここで展開するのはまずいだろう。

あの花という女は時折俺に絡んでくる。弁当のタイミングで絡まれたら、そこからなし崩し的に色々発覚するかもしれない。
圧倒的危機対応能力の高さだ。俺はそう自分を褒め称えながら、弁当箱を持って席をたった。

「あれ、湊弁当なの?」

俺が席を立つと、花に絡まれた。
……案の定だな。とりあえず、想定はしていたから問題ない。

「まあ、な」
「いつも菓子パンとかじゃなかった?」
「……そうだな」

……実をいうと、俺の親は弁当を作っていなかった。
だから、俺が一年間コンビニ弁当で生活して体を崩そうが、たぶん特に心配することはないだろう。

夏希にそのあたりについて伝えなかったのは――俺が夏希の弁当を食べたかったからだ。
夏希が俺と花を見て、じろっとした目になる。なぜそのことを話さなかったのか、という責めるような視線。ここが教室で良かった。いつもよりも幾分その視線は和らいでいる。

「弁当だなんて珍しい、それ自分で作ったの?」
「いや、別にそういうわけじゃないが」
「え? まさか彼女とか?」

花がからかうようにそう言って、夏希の頬がひくついた。
は、花のやつ余計なことをいうんじゃない! 夏希を怒らせないでくれ!
別に俺と夏希の関係を直接指摘されたわけではないが、夏希からすれば俺が彼氏みたいな扱いを受けたんだ。
そりゃあ気に食わないだろう。

ニヤニヤとしてくる花に、俺は首を振る。

「彼女なんていねぇよ。親が作ったんだ、親が」
「あーなるほどね、彼女いないんだ?」
「いねぇよ」
「へぇ」

そんなに人のことバカにして楽しいですか?
俺はため息をついてから、食堂へと向かう。
食堂で注文しなくとも、食事は問題ない。
俺は食堂の隅へと移動して、食事をすることにした。

夏希が作ってくれた弁当を開く。
……中身はわかっている。ただ、学校でこうして夏希の手料理が食べられるというのが幸せでならなかった。
ありがとう神様。そう祈りながら、俺は噛みしめるように食べていく。
……うまいっ。食事を終えた俺は、それから食堂を出た。

食事は良いのだが、あまり、昼休みに教室を離れたくはないんだがな。
昼休みは平気で人の席を占領する輩がいるからな。
教室に戻ると、案の定花たちに占領されていた。
……こうやって許可してもいないのに椅子を奪われてしまう。

だから俺は基本的に昼休みは教室にいることにしている。
動くとしても、午後の授業が始まる直前だ。

俺がそちらへと視線を向けると、花と目があった。軽く手を振られる。
いや、誰もそんな反応は望んでいない。

「席、座ってもいいか?」
「あー、ごめんごめん。温めておきました!」

そんな秀吉みたいなこと言わんでも……。
むしろ座りにくくなったのだが、花はそんなこと気にしていない様子だ。
夏希は「私の友達を何ジロジロ見てんの?」とばかりにこちらを見ている。

……俺と夏希の仲を深めるのはまだまだ先になりそうだった。


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