悪役令嬢を目指します!
第十五話 教会2
教会は貴族街と平民街の間――塀の一部と同化するように建っている。貴族街と平民街の両方に入口を設けていて、基本的には顔を合わさないように設計されているらしい。
遠目に見たことはあるけど、これまでこれといった怪我もなく過ごしてきた私は教会のお世話になることがなかった。礼拝したりといったこともしていない。女神様絶対な世界なのに教会に祈りを捧げたりしなくていいのかと以前お兄様に聞いたことがある。
そのときお兄様はきょとんとした、何を言っているんだろうという顔をしていた。「節目で女神様に祈りを捧げているのに、どうして教会に行ってまで?」とそう逆に聞かれてしまった。
治癒魔法を受けにいくとかの用事がない限り、教会にはあまり行かないのだと教えてもらったのもこのときだ。
この世界の神様は女神様しかいない。邪神とかの亜種みたいなものもない。だから女神様を崇拝しているということを示す必要もないのだと、私はそう推測した。
女神様を崇めるのは当たり前なのだと誰もが考えている。理解できるような、できないような、微妙な気分にさせられた。
考えている間に馬車が門を抜けていく。誕生祝は平民街側の入口から入るのだとさっき教えてもらった。貴族街は貴族や商会、兵士ぐらいしか出入りを許されていない。
そして平民街からの入口は教会内の一部しか開放されていないので、どなたでもお気軽にご参加くださいと謳っている誕生祝を貴族街側で行うと平民が参加出来ないからという理由があるらしい。
白い塀と一体になるように聳え建つ教会は、荘厳だった。高い位置に飾られている一対の羽を模した石飾りが神々しさを醸し出している。
下から見てもわかるぐらい大きい羽は光石で作られているのか、陽の光を反射して輝いているようだった。
あの光石でいくらかかっているんだろう。そんな無粋な発言を飲みこむ。
馬車を教会の前に止めてもらう。大きな扉は開かれていて、自由に出入りできるようになっている。
お兄様に手を取られながら馬車を降りる。
教会を前にして、私は思わず唾を飲みこんだ。
女神様を敬ってもいないし、魔族と生活しているし、教会に足を踏み入れる資格が私にあるのだろうか。
そんな考えが脳裏を過った。
だけど躊躇したのはわずかの間だけで、お兄様に手を引かれて私は教会に入った。
教会の中は広かった。奥に祭壇があり、壁には外と同じように一対の羽が飾られていた。さすがに光り輝いてはいなかったけど、白く滑らかな石で精巧に作られている。
祭壇があるということはここは元々は聖堂だったのかもしれない。今は椅子も何もない、広いだけの空間になっている。
でも礼拝をするのが普通ではないのだとすると、元々椅子とかは置いていなかったのかもしれない。普段の様子を知らないから、これが正しいのか、今日のたに用意したのか判断がつかない。
おそらく聖堂らしい場所にはすでに人がちらほらと集まっていた。だけど私のような子供は見当たらない。ほとんどどが大人ばかりで、大人同士で話している。見たことのない顔ばかりだから貴族ではないと思うけど、それなりに高そうな服を着ているから、商会の人とかだろうか。
「レティ、あまりきょろきょろするものじゃないよ」
「……はい、お兄様」
小さく叱責されて私は顔を正面に固定させる。だけど好奇心を抑えることはできず、聞き耳を立てる。
何人かの声が入り混じって聞き取りにくいけど、最近の情勢とか仕入れとかの話をしていることはわかった。やはり商会の人たちで正しそうだ。
「おや、そちらにいらっしゃるのは」
右側にいた集団から声が上がる。きょろきょろするなと言われたけど、この場合はいいだろうと考えて、私は声のしたほうに顔を向けた。
少年と青年の間のような男性が、私たちに向けてにこやかに笑っている。以前お邪魔した、魔道具屋の人だ。
結局あの日は何も買わずに帰ったから、悪い印象を抱かれていないかと不安だったけど、あの様子からするとその心配はなさそうで安心する。
「先日は足をお運びいただききありがとうございます。またいつでもご利用ください」
男性の周りにいる人たちの目が一瞬光ったように見えた。
だけどすぐににこやかな笑みを浮かべたので、気のせいだったかと首を傾げる。
「……シルヴェストル公爵家のご令息ではございませんか。そちらにいらっしゃるのは――妹君でいらっしゃいますか?」
「ああ。今日は従弟の誕生祝ということで来ただけだから、商談などは父か母を通すようにしてくれるかな」
「このようなめでたい席で無粋なことなどいたしませんとも。ですが、我が商会は染めに力を入れておりますので、お声かけいただける日をお待ちしております」
少しふくよかな男性が集団の中から一歩前に出た。
「着るものなどはすべて母が見繕っているので、私では決められないよ」
「そうでしたか。……おっと、これは失礼いたしました。私はアキャール商会のアゼマと申します。今後ともどうぞよろしくお願いいたします」
深く礼をする男性に、お兄様は眉をひそめるだけでうんともすんとも返さなかった。
しかし、教会の中には裕福そうな人しかいない。平民にも門を開いていると言っていたのに、どういうことだろうか。
首を捻って考えていた私は、リューゲが「一般市民は殆ど訪れませんし」という言葉を思い出す。
もしかしたら、毎回こんな感じなのかもしれない。商魂たくましい商会の人たちが集い、あわよくば商売の手を広げようと狙っている。
それなら貴族や一般市民が来ないのも頷ける。
遠目に見たことはあるけど、これまでこれといった怪我もなく過ごしてきた私は教会のお世話になることがなかった。礼拝したりといったこともしていない。女神様絶対な世界なのに教会に祈りを捧げたりしなくていいのかと以前お兄様に聞いたことがある。
そのときお兄様はきょとんとした、何を言っているんだろうという顔をしていた。「節目で女神様に祈りを捧げているのに、どうして教会に行ってまで?」とそう逆に聞かれてしまった。
治癒魔法を受けにいくとかの用事がない限り、教会にはあまり行かないのだと教えてもらったのもこのときだ。
この世界の神様は女神様しかいない。邪神とかの亜種みたいなものもない。だから女神様を崇拝しているということを示す必要もないのだと、私はそう推測した。
女神様を崇めるのは当たり前なのだと誰もが考えている。理解できるような、できないような、微妙な気分にさせられた。
考えている間に馬車が門を抜けていく。誕生祝は平民街側の入口から入るのだとさっき教えてもらった。貴族街は貴族や商会、兵士ぐらいしか出入りを許されていない。
そして平民街からの入口は教会内の一部しか開放されていないので、どなたでもお気軽にご参加くださいと謳っている誕生祝を貴族街側で行うと平民が参加出来ないからという理由があるらしい。
白い塀と一体になるように聳え建つ教会は、荘厳だった。高い位置に飾られている一対の羽を模した石飾りが神々しさを醸し出している。
下から見てもわかるぐらい大きい羽は光石で作られているのか、陽の光を反射して輝いているようだった。
あの光石でいくらかかっているんだろう。そんな無粋な発言を飲みこむ。
馬車を教会の前に止めてもらう。大きな扉は開かれていて、自由に出入りできるようになっている。
お兄様に手を取られながら馬車を降りる。
教会を前にして、私は思わず唾を飲みこんだ。
女神様を敬ってもいないし、魔族と生活しているし、教会に足を踏み入れる資格が私にあるのだろうか。
そんな考えが脳裏を過った。
だけど躊躇したのはわずかの間だけで、お兄様に手を引かれて私は教会に入った。
教会の中は広かった。奥に祭壇があり、壁には外と同じように一対の羽が飾られていた。さすがに光り輝いてはいなかったけど、白く滑らかな石で精巧に作られている。
祭壇があるということはここは元々は聖堂だったのかもしれない。今は椅子も何もない、広いだけの空間になっている。
でも礼拝をするのが普通ではないのだとすると、元々椅子とかは置いていなかったのかもしれない。普段の様子を知らないから、これが正しいのか、今日のたに用意したのか判断がつかない。
おそらく聖堂らしい場所にはすでに人がちらほらと集まっていた。だけど私のような子供は見当たらない。ほとんどどが大人ばかりで、大人同士で話している。見たことのない顔ばかりだから貴族ではないと思うけど、それなりに高そうな服を着ているから、商会の人とかだろうか。
「レティ、あまりきょろきょろするものじゃないよ」
「……はい、お兄様」
小さく叱責されて私は顔を正面に固定させる。だけど好奇心を抑えることはできず、聞き耳を立てる。
何人かの声が入り混じって聞き取りにくいけど、最近の情勢とか仕入れとかの話をしていることはわかった。やはり商会の人たちで正しそうだ。
「おや、そちらにいらっしゃるのは」
右側にいた集団から声が上がる。きょろきょろするなと言われたけど、この場合はいいだろうと考えて、私は声のしたほうに顔を向けた。
少年と青年の間のような男性が、私たちに向けてにこやかに笑っている。以前お邪魔した、魔道具屋の人だ。
結局あの日は何も買わずに帰ったから、悪い印象を抱かれていないかと不安だったけど、あの様子からするとその心配はなさそうで安心する。
「先日は足をお運びいただききありがとうございます。またいつでもご利用ください」
男性の周りにいる人たちの目が一瞬光ったように見えた。
だけどすぐににこやかな笑みを浮かべたので、気のせいだったかと首を傾げる。
「……シルヴェストル公爵家のご令息ではございませんか。そちらにいらっしゃるのは――妹君でいらっしゃいますか?」
「ああ。今日は従弟の誕生祝ということで来ただけだから、商談などは父か母を通すようにしてくれるかな」
「このようなめでたい席で無粋なことなどいたしませんとも。ですが、我が商会は染めに力を入れておりますので、お声かけいただける日をお待ちしております」
少しふくよかな男性が集団の中から一歩前に出た。
「着るものなどはすべて母が見繕っているので、私では決められないよ」
「そうでしたか。……おっと、これは失礼いたしました。私はアキャール商会のアゼマと申します。今後ともどうぞよろしくお願いいたします」
深く礼をする男性に、お兄様は眉をひそめるだけでうんともすんとも返さなかった。
しかし、教会の中には裕福そうな人しかいない。平民にも門を開いていると言っていたのに、どういうことだろうか。
首を捻って考えていた私は、リューゲが「一般市民は殆ど訪れませんし」という言葉を思い出す。
もしかしたら、毎回こんな感じなのかもしれない。商魂たくましい商会の人たちが集い、あわよくば商売の手を広げようと狙っている。
それなら貴族や一般市民が来ないのも頷ける。
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