悪役令嬢を目指します!
第十三話 領地
ゲームでの王太子は名前すら出てこないけど、重要な立ち位置にいる人物だ。
王太子が隣国のお姫様と恋に落ちて駆け落ちする。そのせいで王子様は王位継承権第一位に繰り上がるし、隣国との仲が悪くなる。
王太子の駆け落ち騒動は誰を相手役に選んだとしても絶対に起こる。それまでは王太子のおの字も出なかったのに、彼が駆け落ちすると物語が急激に動き始める。
とんだお騒がせ王太子だ。
「……王太子殿下がわざわざご足労いただくような場所ではないかと思います」
「弟と何やら面白いことをしていると聞いたから、というのは遊びに来るのに十分な理由になるだろう」
「面白いとおっしゃられても、ただ日記をやり取りしているだけで、王太子殿下の気を惹くようなことはございません」
話している間にも王太子は椅子に座ってリューゲの淹れた紅茶を飲みはじめている。自由奔放すぎる。
本当に、こんな王族でこの国は大丈夫なのか心配になってくる。
「中々よい茶葉を使っている。それとも淹れ方がいいのかもしれないな。……焼き菓子もほどよい甘さだし、これは弟が入り浸るのにも納得だ」
紅茶を飲み、焼き菓子を頬張り、感嘆の声を上げている。ここまで寛がれたら帰れとは言いにくい。
マリーにお父様かお母様に王太子について伝えるように指示を出して、私も椅子に座ることにした。騎士様も少し悩んだ後、同じように着席した。
「ああ、君が今年から来たという従者かな。弟の婚約者をよろしく頼むよ」
「お声かけ頂き光栄です、殿下。レティシア様が弟君に相応しくあれるよう、精進致します」
深く首を垂れるリューゲを見て、王太子が鷹揚に頷く。
「さて、とりあえず弟から預かったこれを渡しておこう。忘れて帰ったりしたら怒られる」
王子様とやり取りしている日記帳が机の上に置かれる。私はリューゲに目配せし、日記帳を寝室に運んでもらった。
今のところは三日に一回の頻度日記帳を交換している。つまり、三日置きに騎士様がやってきていた。
「それでは、また三日後にお返しいたしますわ。それでよろしくて?」
騎士様に一応確認を取ろう。今回王太子が遊びに来てるし、事情が変わっている可能性がある。
「ルシアン殿下はできれば毎日がいいとおっしゃっておりました……けど、頷きませんよね」
「そうですわね。さすがに日参していただくわけにもいきませんもの」
「それなら俺が持ってこようか」
ぐいっと話に割りこんでくる王太子。本当に、これが王位継承者でいいのか。
「いえ、殿下のお手を煩わせるようなことではございませんので……」
「いや、遠慮しなくていい。弟が喜ぶ顔が見たいという兄心からの申し出だからな」
爽やかに笑っているけど、こちらとしてはたまったものじゃない。本当は一週間置きが良かったのに、一頁丸々使って懇願されたから間を取って三日置きにしただけだ。
毎日とかになると、書くことがない。日々同じような生活を送っている私では、毎日の献立ぐらいしか書くものがなくなる。
王子様も我が家の献立に詳しくはなりたくないだろう。
「……毎日となると義務となってしまいます。私は、義務からではなく心のこもった文をしたためたいのです」
さすがに献立ぐらいしか書くものがありませんと言うことははばかられた。それを口にしてしまったら、私が面白味のない人生を送っていることが露見してしまう。
悪役たるもの、日々波乱万丈じゃないといけないはずだ。だから王子様との交換日記の内容も大袈裟なものになっている。
前回は、サミュエルを連れてきたお兄様が、勝手なことをするなとお父様に叱られた――という夢を見たと書いたはず。
夢で見た内容とは書かなかったけど。
ちなみに実際にはとても和やかに過ごしている。
「弟が愛されているようで何より。俺にも君のように可愛い子が嫁に来てくれたら嬉しいのだが……」
ふぅ、と小さく溜息を零し憂いに満ちた表情を浮かべた
「殿下にはまだ好い方がいらっしゃらないのですか?」
「他国から迎えるか、国内から迎えるか、まだ結論が出ていない。俺の年と合う高位貴族の娘といえば君だが……弟の婚約者を取るわけにはいかないからな」
私の家は四大公爵と呼ばれている。騎士様のところと、宰相子息のところと、我が家、そして後ひとつ。
騎士様と宰相子息は男だし、後ひとつのところは確かまだ子に恵まれていなかったはずだ。
「侯爵家から娶るというのはいかがなのでしょう。私の友人のクラリス・アンペールにはまだ婚約者はおりませんけど」
「アンペール家か……。俺のところに来るとなると、親族から養子を取ることになるが、あの土地を望む者は少ないからなぁ……」
「アンペール侯爵領に何かあるのですか?」
ちなみに私はアンペール侯爵領の場所すら知らない。
「地震の起きやすい土地だから、管理が大変らしい」
「特に最近は頻発しているそうですね。アンペール候が領地との行き来で相当疲弊していましたよ」
王都は揺れたことがない。同じ国内にあるというのに差があるのはどうしてだろう。アンペール侯爵領の広さも位置も知らないけど、行き来しているということはそれほど遠い場所ではないと思う。
「まあ、そういわけでアンペール家と縁づくことはないだろうな」
「そうでしたか。不勉強からいたらない質問をしてしまい、申し訳ございません」
「追々学んでいけばいいだけだから、気にすることはないさ」
我が家の領地はどうなのだろう。今のところ難があるみたいな話は聞いていない。
物心ついた頃から王都で暮らしているから、いつか遊びに行ってみたいものだ。
王太子が隣国のお姫様と恋に落ちて駆け落ちする。そのせいで王子様は王位継承権第一位に繰り上がるし、隣国との仲が悪くなる。
王太子の駆け落ち騒動は誰を相手役に選んだとしても絶対に起こる。それまでは王太子のおの字も出なかったのに、彼が駆け落ちすると物語が急激に動き始める。
とんだお騒がせ王太子だ。
「……王太子殿下がわざわざご足労いただくような場所ではないかと思います」
「弟と何やら面白いことをしていると聞いたから、というのは遊びに来るのに十分な理由になるだろう」
「面白いとおっしゃられても、ただ日記をやり取りしているだけで、王太子殿下の気を惹くようなことはございません」
話している間にも王太子は椅子に座ってリューゲの淹れた紅茶を飲みはじめている。自由奔放すぎる。
本当に、こんな王族でこの国は大丈夫なのか心配になってくる。
「中々よい茶葉を使っている。それとも淹れ方がいいのかもしれないな。……焼き菓子もほどよい甘さだし、これは弟が入り浸るのにも納得だ」
紅茶を飲み、焼き菓子を頬張り、感嘆の声を上げている。ここまで寛がれたら帰れとは言いにくい。
マリーにお父様かお母様に王太子について伝えるように指示を出して、私も椅子に座ることにした。騎士様も少し悩んだ後、同じように着席した。
「ああ、君が今年から来たという従者かな。弟の婚約者をよろしく頼むよ」
「お声かけ頂き光栄です、殿下。レティシア様が弟君に相応しくあれるよう、精進致します」
深く首を垂れるリューゲを見て、王太子が鷹揚に頷く。
「さて、とりあえず弟から預かったこれを渡しておこう。忘れて帰ったりしたら怒られる」
王子様とやり取りしている日記帳が机の上に置かれる。私はリューゲに目配せし、日記帳を寝室に運んでもらった。
今のところは三日に一回の頻度日記帳を交換している。つまり、三日置きに騎士様がやってきていた。
「それでは、また三日後にお返しいたしますわ。それでよろしくて?」
騎士様に一応確認を取ろう。今回王太子が遊びに来てるし、事情が変わっている可能性がある。
「ルシアン殿下はできれば毎日がいいとおっしゃっておりました……けど、頷きませんよね」
「そうですわね。さすがに日参していただくわけにもいきませんもの」
「それなら俺が持ってこようか」
ぐいっと話に割りこんでくる王太子。本当に、これが王位継承者でいいのか。
「いえ、殿下のお手を煩わせるようなことではございませんので……」
「いや、遠慮しなくていい。弟が喜ぶ顔が見たいという兄心からの申し出だからな」
爽やかに笑っているけど、こちらとしてはたまったものじゃない。本当は一週間置きが良かったのに、一頁丸々使って懇願されたから間を取って三日置きにしただけだ。
毎日とかになると、書くことがない。日々同じような生活を送っている私では、毎日の献立ぐらいしか書くものがなくなる。
王子様も我が家の献立に詳しくはなりたくないだろう。
「……毎日となると義務となってしまいます。私は、義務からではなく心のこもった文をしたためたいのです」
さすがに献立ぐらいしか書くものがありませんと言うことははばかられた。それを口にしてしまったら、私が面白味のない人生を送っていることが露見してしまう。
悪役たるもの、日々波乱万丈じゃないといけないはずだ。だから王子様との交換日記の内容も大袈裟なものになっている。
前回は、サミュエルを連れてきたお兄様が、勝手なことをするなとお父様に叱られた――という夢を見たと書いたはず。
夢で見た内容とは書かなかったけど。
ちなみに実際にはとても和やかに過ごしている。
「弟が愛されているようで何より。俺にも君のように可愛い子が嫁に来てくれたら嬉しいのだが……」
ふぅ、と小さく溜息を零し憂いに満ちた表情を浮かべた
「殿下にはまだ好い方がいらっしゃらないのですか?」
「他国から迎えるか、国内から迎えるか、まだ結論が出ていない。俺の年と合う高位貴族の娘といえば君だが……弟の婚約者を取るわけにはいかないからな」
私の家は四大公爵と呼ばれている。騎士様のところと、宰相子息のところと、我が家、そして後ひとつ。
騎士様と宰相子息は男だし、後ひとつのところは確かまだ子に恵まれていなかったはずだ。
「侯爵家から娶るというのはいかがなのでしょう。私の友人のクラリス・アンペールにはまだ婚約者はおりませんけど」
「アンペール家か……。俺のところに来るとなると、親族から養子を取ることになるが、あの土地を望む者は少ないからなぁ……」
「アンペール侯爵領に何かあるのですか?」
ちなみに私はアンペール侯爵領の場所すら知らない。
「地震の起きやすい土地だから、管理が大変らしい」
「特に最近は頻発しているそうですね。アンペール候が領地との行き来で相当疲弊していましたよ」
王都は揺れたことがない。同じ国内にあるというのに差があるのはどうしてだろう。アンペール侯爵領の広さも位置も知らないけど、行き来しているということはそれほど遠い場所ではないと思う。
「まあ、そういわけでアンペール家と縁づくことはないだろうな」
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