悪役令嬢を目指します!
第四話 魔法
就寝前の憩いのひとときは失われた。私は椅子の上に座らされ、机は部屋の端に追いやられている。目の前には穏やかな笑みを浮かべているリューゲ。
「それじゃあ、とりあえずあの教師が言っていた女神云々については忘れよう」
「前提から!?」
授業の半分を占める女神様について忘れろと言われて、思わず声が裏返った。
「多分だけど、キミにあれは合わないよ。どうもキミは一般常識が欠けてるみたいだからね。あの考えは女神を信望している人にはいいけど、それ以外には効率が悪いだけだよ」
「そうなの?」
「そもそも、魔法を発動させるのに女神は必要ないからね」
寝耳に水というか、今まで聞いてきたことが根底から覆る。この世界の理は女神様が定め、魔法もまた女神様による奇跡の力で、女神様のお力をお借りしているだけだと、そう聞いてきた。
「そもそも魔力は誰にでもあるし、どこにでもある。生まれた瞬間――いや、この世界に存在した瞬間から魔力は纏わりつくんだよ」
「一気に身近な存在になったわね」
「まあ、だから行いどうこうで魔法が使えなくなるってことはないから安心していいよ。魔力は何かに奪われない限りは絶対失われないからね」
それは確かに一安心かもしれないと胸を撫で下ろしかける。よくよく考えてみたら、魔物や魔族も魔法を使っているのだから当たり前だ。
「ここからが本題だけど、魔法というのは自分の中にある魔力と、外にある魔力をかけあわせて発動させるものなんだよ。だから元々持っている魔力が多ければ多いほど外の魔力に左右されにくくなるし、少ない場合は外の魔力に頼らないといけなくなる」
「外の、というのはどういうことかしら」
「たとえば――今この部屋は明るいよね?」
外は暗いが、部屋の中は明かり代わりの光石によって照らされている。蝋燭程度では明かりが足りないときには今のように光石を天井に設置する。
「明るい場所では光属性の魔力が集まりやすくなるから、その魔力を貰うんだよ」
私が首を傾げると、リューゲは少し考えるようにしたあと口を開いた。
「そうだなぁ、魔力は空気みたいなものだよ。目に見えるわけでもないし、触れるわけでもないってところはまさに空気だね。だけど魔力にはそれぞれ属性もあるんだ。火のある場所には火属性の魔力が集まるし、水場には水属性の魔力が集まりやすいんだよ」
なんだか精霊みたいだ。
私の中、前世の記憶によるふわっとした魔法知識だと、精霊の力を借りて発動させるものとかがあった。それみたいなものなのだろうか。
「まあ、そういうものだと思っておけばいいよ。魔法についての話に戻るけど、生き物の中にも魔力はあって、中にある魔力を使って外にある魔力に呼びかけることを魔法と呼んでいるだけだよ」
説明が面倒になったなきっと。さっさと本題に戻るリューゲを呆れたように見るけど、彼は気にすることなく話を続けた。
「魔力が多い場合は外の魔力にそこまで頼らなくてすむんだよ。自分の中にある魔力で補えればだけどね。火のない場所で火を起こすこともできるし、砂漠で水を生み出すこともできるようになる。まあ、外にある魔力を使うよりは威力は落ちるけど」
ランタンの火ぐらいしかなかったあの環境で火の柱を起こした王子様のことを思い出す。
風や水魔法を使ったときよりも疲れていたのは、きっとそういうことだったのだろう。
「それで、ボクが忘れろっていった女神の話だけどー―魔法を発動させるためには明確な意思を持って呼びかけないといけないんだ。外だけに限らず、中にある魔力にもね。だから女神を信じ切っていてそれが当たり前だと思っている人間にとっては、それでいいんだよ」
「でも私には忘れろと言ったわよね」
「だってキミはそれが当たり前だと思ってないでしょ? そうなると、魔法の発動自体が曖昧になっちゃうんだよ」
言葉に詰まる。まだリューゲと出会ってそれほど経っていないのに、女神様の理論についていけていないことがばれている。
女神様第一の世界でこんなあっさりばれるとなると、将来真っ当に生きていけるのか不安になる。
「だからキミの場合は女神よりも、キミ自身が意識しやすい理論で組み立てたほうがいいよ。どういった事象を起こしたいかを思い浮かべて言葉にするだけだから、そんな難しいことじゃないしね」
「思い浮かべる……」
思い出したのは呪文を唱えることなく発動させた風魔法。王子様を襲った三つ目狼に対して、私はただ吹き飛べとしか言わなかった。
なるほどーーそれなら私のふわっとした魔法知識が役に立ちそうだ。
「後は相性のいい魔力とかあるけど、それについてはまた今度にしようか。あまり遅くなって明日の朝食に間に合わないと、ボクが駄目な従者扱いされるからね」
そう言うと、リューゲは端に寄せていた机を元の位置に戻した。なんのために移動させてたのかとか色々聞きたいことはあるけど、とりあえず。
「机は片手で持つものじゃないと思うわよ」
「片手ですむものに両手を使うなんて無駄だよ」
リューゲは細い。顔立ちも相まってか剣よりもレイピアのほうが似合いそうな見た目をしている。
魔族の腕力はどうなっているんだ。構造からして人間とは違うのだろうか。もしも私が解剖学を嗜んでいたら、リューゲにちょっと中を見せてとお願いしていたかもしれない。
「それじゃあお休み」
ひらひらと手を振って自分の部屋に引っこむリューゲに解剖させてとは言えなかった私は、同じように就寝の挨拶を返した。
次の日、朝食を終えた私のもとにお兄様が遊びにきた。少年を引き連れて。
「レティは初めて会うよね。従弟のサミュエルだよ」
おどおどとした様子でお兄様の後ろに隠れている少年の髪の色は――黒。
この国で珍しいとされている黒髪を持つ人物を、私は三人知っている。
一人はお母様。
もう一人は私。
最後の一人は――教皇子息。
やっぱり結局ハートフルとよばれるルートの、隠しキャラ。
「それじゃあ、とりあえずあの教師が言っていた女神云々については忘れよう」
「前提から!?」
授業の半分を占める女神様について忘れろと言われて、思わず声が裏返った。
「多分だけど、キミにあれは合わないよ。どうもキミは一般常識が欠けてるみたいだからね。あの考えは女神を信望している人にはいいけど、それ以外には効率が悪いだけだよ」
「そうなの?」
「そもそも、魔法を発動させるのに女神は必要ないからね」
寝耳に水というか、今まで聞いてきたことが根底から覆る。この世界の理は女神様が定め、魔法もまた女神様による奇跡の力で、女神様のお力をお借りしているだけだと、そう聞いてきた。
「そもそも魔力は誰にでもあるし、どこにでもある。生まれた瞬間――いや、この世界に存在した瞬間から魔力は纏わりつくんだよ」
「一気に身近な存在になったわね」
「まあ、だから行いどうこうで魔法が使えなくなるってことはないから安心していいよ。魔力は何かに奪われない限りは絶対失われないからね」
それは確かに一安心かもしれないと胸を撫で下ろしかける。よくよく考えてみたら、魔物や魔族も魔法を使っているのだから当たり前だ。
「ここからが本題だけど、魔法というのは自分の中にある魔力と、外にある魔力をかけあわせて発動させるものなんだよ。だから元々持っている魔力が多ければ多いほど外の魔力に左右されにくくなるし、少ない場合は外の魔力に頼らないといけなくなる」
「外の、というのはどういうことかしら」
「たとえば――今この部屋は明るいよね?」
外は暗いが、部屋の中は明かり代わりの光石によって照らされている。蝋燭程度では明かりが足りないときには今のように光石を天井に設置する。
「明るい場所では光属性の魔力が集まりやすくなるから、その魔力を貰うんだよ」
私が首を傾げると、リューゲは少し考えるようにしたあと口を開いた。
「そうだなぁ、魔力は空気みたいなものだよ。目に見えるわけでもないし、触れるわけでもないってところはまさに空気だね。だけど魔力にはそれぞれ属性もあるんだ。火のある場所には火属性の魔力が集まるし、水場には水属性の魔力が集まりやすいんだよ」
なんだか精霊みたいだ。
私の中、前世の記憶によるふわっとした魔法知識だと、精霊の力を借りて発動させるものとかがあった。それみたいなものなのだろうか。
「まあ、そういうものだと思っておけばいいよ。魔法についての話に戻るけど、生き物の中にも魔力はあって、中にある魔力を使って外にある魔力に呼びかけることを魔法と呼んでいるだけだよ」
説明が面倒になったなきっと。さっさと本題に戻るリューゲを呆れたように見るけど、彼は気にすることなく話を続けた。
「魔力が多い場合は外の魔力にそこまで頼らなくてすむんだよ。自分の中にある魔力で補えればだけどね。火のない場所で火を起こすこともできるし、砂漠で水を生み出すこともできるようになる。まあ、外にある魔力を使うよりは威力は落ちるけど」
ランタンの火ぐらいしかなかったあの環境で火の柱を起こした王子様のことを思い出す。
風や水魔法を使ったときよりも疲れていたのは、きっとそういうことだったのだろう。
「それで、ボクが忘れろっていった女神の話だけどー―魔法を発動させるためには明確な意思を持って呼びかけないといけないんだ。外だけに限らず、中にある魔力にもね。だから女神を信じ切っていてそれが当たり前だと思っている人間にとっては、それでいいんだよ」
「でも私には忘れろと言ったわよね」
「だってキミはそれが当たり前だと思ってないでしょ? そうなると、魔法の発動自体が曖昧になっちゃうんだよ」
言葉に詰まる。まだリューゲと出会ってそれほど経っていないのに、女神様の理論についていけていないことがばれている。
女神様第一の世界でこんなあっさりばれるとなると、将来真っ当に生きていけるのか不安になる。
「だからキミの場合は女神よりも、キミ自身が意識しやすい理論で組み立てたほうがいいよ。どういった事象を起こしたいかを思い浮かべて言葉にするだけだから、そんな難しいことじゃないしね」
「思い浮かべる……」
思い出したのは呪文を唱えることなく発動させた風魔法。王子様を襲った三つ目狼に対して、私はただ吹き飛べとしか言わなかった。
なるほどーーそれなら私のふわっとした魔法知識が役に立ちそうだ。
「後は相性のいい魔力とかあるけど、それについてはまた今度にしようか。あまり遅くなって明日の朝食に間に合わないと、ボクが駄目な従者扱いされるからね」
そう言うと、リューゲは端に寄せていた机を元の位置に戻した。なんのために移動させてたのかとか色々聞きたいことはあるけど、とりあえず。
「机は片手で持つものじゃないと思うわよ」
「片手ですむものに両手を使うなんて無駄だよ」
リューゲは細い。顔立ちも相まってか剣よりもレイピアのほうが似合いそうな見た目をしている。
魔族の腕力はどうなっているんだ。構造からして人間とは違うのだろうか。もしも私が解剖学を嗜んでいたら、リューゲにちょっと中を見せてとお願いしていたかもしれない。
「それじゃあお休み」
ひらひらと手を振って自分の部屋に引っこむリューゲに解剖させてとは言えなかった私は、同じように就寝の挨拶を返した。
次の日、朝食を終えた私のもとにお兄様が遊びにきた。少年を引き連れて。
「レティは初めて会うよね。従弟のサミュエルだよ」
おどおどとした様子でお兄様の後ろに隠れている少年の髪の色は――黒。
この国で珍しいとされている黒髪を持つ人物を、私は三人知っている。
一人はお母様。
もう一人は私。
最後の一人は――教皇子息。
やっぱり結局ハートフルとよばれるルートの、隠しキャラ。
「恋愛」の人気作品
書籍化作品
-
-
127
-
-
1359
-
-
59
-
-
353
-
-
439
-
-
140
-
-
337
-
-
4503
-
-
4
コメント