楓と葉霧のあやかし事件帖〜そろそろ冥府へ逝ったらどうだ?〜

高見 燈

第19夜  来栖宗助

 ーー男が立ち寄ったのは蒼月寺そうげつでらだった。

 昼下りの事だ。住宅地を歩き回り最後に行き着いたのはここであった。

「………仕方ない。」

 男の名前は【来栖宗助くるすそうすけ】警視庁捜査一課 警部である。

 立派な門づくりが目の前に立ちはだかる。
そこに【玖琉くりゅう】の黒曜石の表札。

 はぁぁ…………

 深い溜息が男のけして細くは無い肩を揺らす。年齢にしては、ガッチリしている。
自身ではそう思っている。

 柔道に剣道。
警視庁に勤めてから欠かさない。
体力勝負の仕事だ。

 門戸を開ける。

 カラカラ………と。

 玖硫家は門にインターホンが無い。

 用件がある者は必ずこの寺社のある敷地に足を踏み入れなくてはならない。

(相変わらず………デカい家だ。)

 古寺がまず目に入る。
 本堂だ。

 今は開放されていないので賽銭箱と鰐口が出迎える。

 桜………。

 来栖は足を止めた。

(まだ咲いてるのか………)

 美しく淡桃の花を満開にさせている一本桜は見事であった。来栖は、暫し見惚れていた。

「あのー。どちら様です??」

 縁側だ。

 優梨がそこから声を掛けた。
柔らかそうなその物言い。縁側から覗くその可愛らしい顔。

 遠目でもその顔立ちが、整っている事はわかる。

 淡いブラウンの髪が、昼下りの陽射しで煌めく。

「あ。すみません」

 来栖はその声に母屋に向かった。

 優梨はその様子を見ると縁側から玄関に向かう。

 からから………

 戸を開けたのは来栖である。

 薄手のグレーのコート。
その胸ポケットから手帳を取り出した。
玄関を、降りて戸の前にいる優梨に掲げたのだ。

「警視庁の来栖です。」

 手帳を開き見せた来栖に、優梨は一瞬。
 大きな黒い瞳を、見開いた。

「警察………」
(え?? 楓ちゃん?? 何かしたの??)


 咄嗟に浮かぶのはその名前。

 俄に……優梨の顔色は少し悪くなった。
可愛らしい顔が、強張ったのだ。

「ああ。今日は……鎮音。しずねさんに、話を聞きに来たんですよ。」

 来栖は手帳をポケットにしまった。警視庁………と、名乗って訪問すれば大抵は、この反応だ。来栖は、その為事情を説明した。

「あ。そうなんですね。」

 優梨はピンクのカーディガンを、直した。肩から少しズレたのだ。
ふんわりとした、白のブラウス。


 その下は、細身の蒼系のデニムだ。スレンダーなのだが、柔らかそうな印象を与えるのは、このふんわりとした雰囲気だろう。

「どうぞ」

 玄関にあがるとスリッパを置いた。

 ピンクのカーディガンの裾を、ひらっとさせながら、通路を歩く。

 健康そうな素足で、とたとたと。

 優梨は来栖を和室に案内したのだ。


「おや。珍しい」

 和室の奥の席には、紅い布地に金牡丹の刺繍が入った着物姿の、鎮音がいた。

(こりゃまた………派手だね……)

 来栖は度肝を抜かれる。年齢は定かでは無いが、明らかに自分より一回りは上であろうからだ。

 真紅だ。本当に。

「お邪魔します」

 下座。

 来栖はそこに座った。
 鎮音からすれば斜め前だ。

「あんまり良さそうな話じゃないね?」
「俺は……警視庁勤めですから。」

 優梨は緊迫感を感じたのかそそくさと、台所に向かった。

(何だろう? あ。この前の事件の事よね。)

 台所で、お茶の支度をする優梨。


(誰か来たな………)

 二階の楓の部屋だ。

 ベッドの上に座り楓は、読書中。
 明日は、土曜日だ。葉霧とようやく念願の図書館に行ける。

 その為に、今借りている本を読破中だ。

 “しおり”を、はさみ本を綴じた。

(葉霧が帰ってくるワケねーしな。今日は遅くなる。って言ってたし……)

 ベッドから降りると、部屋のドアに向かった。

 一階へ向かう。


 優梨は来栖の前にお茶を差し出した。

「どうも」

 来栖は軽く頭を下げた。

 テーブルの上には茶菓子も並ぶ。

「それで?」

 鎮音は、湯呑にお茶を注がれながらそう言った。

 腕組みして座るその様は、まさに威圧感が満載だ。

 楓はこそっ。と、和室の外から様子を伺う。部屋にいたからか、黒のパーカーに、薄い水色のジーパン。

 だぼっとした格好。
 それに裸足。

(ん? アレは。この前の警察か? オレを、捕まえに来たのか? 犯人殺したからな。)


「実は……」

 来栖が話そうと口を開いた時だ。
 鎮音が、来栖に手を向けた。
 制止するかの様に。

「楓。いるなら入りな。盗み聞きをするな。」

 鎮音は、廊下に視線を向けていた。
 この口調は、葉霧が良く似ている。

「え? いるんですか?」

 来栖は驚いていた。

(平日だし……会えんと思っていたが……。学生じゃないのか?)

 楓はそんな中に、へらっと入って来たのだ。

「あ。バレた?」
「座りな。」
「はいは~い。」

 ぎろっと睨まれて楓は座る。
 優梨の隣に。

 ささっと。

「ん? え?? それ………」

 来栖の目は楓を見てまん丸くなった。

「あ!! やべっ!!」

 楓はその視線に頭を手で覆った。
 角を隠したのだ。

「楓。構うことはない。コイツの用件は“その事”だ。」

 鎮音は楓に視線を向けるとそう言った。ダークブラウンの瞳が、穏やかに楓をみつめている。

「あ。そう。」

 楓はすんなりと手を離した。頭の上にはちょこん。と、角が生えている。

「そうか………“繋がった”……」

 来栖は顔を手で拭うと、お茶に手を伸ばした。

 ずずっ……

 お茶を啜る。

 ほっ………と、安堵したかの様な表情をしたのだ。

「あの~………どうゆう事ですか??」

 暫く見守っていた優梨だったが、耐えきれなくなったのか口を開いた。


「この前の……“城南進学塾”の事件の事で、聴き込みに回ってたんですが……」

 来栖は湯呑を置いた。

(あ。やっぱり。バレたか?? 角見せちゃったし!)

 楓だけはヒヤヒヤしていた。

「生徒……十五名のうち二名は死亡が確認されました。生存者は……生徒十三名。行方不明者が一人。当時の講師……三戸航平。」

 来栖は静かに語りはじめた。

「当時の状況からすると、他に事務員と社員が二人。居るはずでしたが、三戸に帰宅してもいいと言われ帰っています。ご両親が迎えに来たら子供たちを引き渡して帰るだけ。そう、言われたそうだ。」

 来栖は楓、優梨、鎮音を交互に見ながら話を進めていく。三人とも黙って聞いていた。

「その後で……❨事件❩は起きた。何らかの状況で子供達が“教室に監禁”され、二人……殺害された。死因は“不明”。監察医によると、極度の餓死に近い。との見解だ。」

(………餓死……)

 楓は来栖を見据えていた。

「その後で……葉霧くんとお嬢ちゃんが駆けつけて、生き残っている子供達を救い出した。犯人及び講師の、三戸航平は行方不明だ。」

 来栖はそこまで言うと、お茶を口に流し込んだ。

 優梨は、常に適温を心掛けている。

「生き証人とも言える子供達から聞けた話は、三戸先生が蜘蛛に食べられた。航平先生が蜘蛛になったと、それだけだ。全員。共通して“蜘蛛のオバケ”とやらを見ている。」

湯呑を置く。

「現場検証でも確かに、“蜘蛛の巣”らしきものは発見されている。だが……系統は似ているが、全く別の成分質だと、報告を受けている。」

来栖は鎮音を見据えた。
真っ直ぐと。

「何の事やらさっぱりだったが………納得がいった。“人外”が、またしても事件を起こした。そう言う事ですよね? 鎮音さん。」

(ん? 知ってんのか? このおっさん。)

 来栖の言葉は断定的であった。
 だからこそ、楓は驚いていた。

「そこまでわかってるなら話は早い。それで? 少し前の❨猟奇殺人事件❩はどうなったんだ?」

 鎮音はそう質問した。
 来栖は膝の上で手を握る。

「あれも同じです。現場に残されていたのは僅かな死体でした。それもかなり損傷が酷く……。死体の部分すら判別がつかないものばかりでした。それに腐敗が酷い。」

 優梨は顔を顰めた。
 悍ましそうに目を細めた。

「唯一……手掛かりとして遺された頭蓋骨から被害者の身元を割り出し中です。それでも……全ての被害者の身元が特定されるのは
かなり無理があるでしょう。解る範囲でも時間は掛かります。」

 来栖は苦い表情をしていた。
 噛み締める様であった。
 眼鏡の奥の眼はずっと険しいままだった。
  

「犯人の手掛かりは?」
「ありませんよ。残念ながら。」

 来栖は眉間にシワを寄せて吐き捨てる様に言葉を出した。

 鎮音は、その答えを聞くと来栖を見ていた。

「ああ。でも、あの部屋の奥にボイラー室があるんです。そこに……❨白骨死体❩が一体、ありました。かなり……年数が経過してるんで……身元はわかってませんが」

 来栖がそう言うと

「その奥には他に何も無かったのか?」

 楓がそう聞いた。

「いや。何も無かった。」

 来栖はそう答えたのだ。

(ん? 何でだ? あの“獅子”みたいな化け物はあの部屋の奥から出てきたんだ。それならそこで飼ってた。って事だよな? 何で……何も残ってねぇんだ。)

 楓の顔はしかめっ面であった。

(……難しい顔してるわね。なに考えてるのかしら?)

 優梨は隣で楓に視線を向けていた。

「俺は……この二つの事件とも❨人外❩による
殺人だと踏んでます。特に……猟奇殺人事件の方は“5年前”に起きた事件と似ている。」

 来栖は鎮音を見据えながら断言した。

「五年前?」

 楓が、来栖に聞き返す。

「奥多摩の森の中で……散策中の学生五人が、殺された事件だ。全員……頭を噛み砕かれ身体は食い荒らされていた。ほとんど……死体として残っていない子もいた。その死体の脇で、一匹の猪が死んでいたんだ。」

「猪?」

 来栖に楓が聞くと頷く。

「ああ。とてもじゃないが……猪には出来ない芸当だ。それに、猪は頭を撃たれて死んでいた。その“犯人”も、わかってない。
俺は……あの死体を見て思った……。この世界にはまだ、知らない“生物”がいる。」

 来栖は楓を強く見据えると、頭の上の角を見つめた。

「だが。それも今日で説明がついた。つまり……人じゃない者が、存在している。それも……動物でもなく生物でも無い……化物だ。」

 楓は一瞬だけ目を丸くしたが直ぐに来栖を睨みつけた。

「化物じゃねぇ。あやかしだ。因みにオレは鬼だ。」

そう言い切ったのだ。

(……そうハッキリ言われてもな……。まあ。しかし。ここは……事件解決にはどうしたって知る事になる……か。)

 来栖は楓の蒼い眼を見据える。自分を強く見ているその妖しく煌めく眼を。

「そのあやかしとやらが……つまり絡んでいる。君の力が借りたい。知ってる事を教えて欲しい。」

 来栖は楓に向かいそう言った。
 楓は来栖の顔を真っ直ぐと見つめる。

(……このおっさんを……信用してもいいものか。けど……オレはもう鬼だと言ったんだ。オレが、殺したのは間違いねぇし。)

 楓はぎゅっ。と、手を握り締めた。すると、黙って聞いていた鎮音が口を開いた。

「来栖警部。話すのは構わないが……今後、協力して貰うことになるよ。全てを知ると言うなら。」

 鎮音は来栖を鋭い眼で見つめている。

(ここで警察を味方につけておくのは得策だ。今後……何が起きるかわからないからね。葉霧と楓を護る為にも……この男には働いて貰う)

 涼し気な表情で、来栖を見据えている。

「わかりました。俺はただ……何があったのかを知りたいんだ。子供達が口を揃えて嘘をついてるとは思えない。それに、あのビルの地下で見つけた死体……。被害者たちが、何故殺されたのか。それを知りたいだけだ。」

 来栖は鎮音ではなく、楓を真っ直ぐと見据えていた。その眼差しは確固たるものであった。

「わかった。オレが知ってる事を話す。」

 楓は真っ直ぐと来栖を見つめた。

 鎮音はそんな楓を見つめていた。


「まず……あのビルの地下だ。あそこには獅子に似たあやかしがいた。地面に転がってた死体は、ソイツが喰ったモンだとは思う。見てねぇからわかんねーけど。」

楓が言うと来栖は

「喰う……と言うのは?」

そう聞いた。

「死体を見てんならわかるだろ? そのまんまだ。人間が肉を喰うのと同じだ。」

 来栖は口を手で抑えた。

(……そうなると“五年前”のあの惨殺死も……)

 表情はとても暗く信じ難い。
 そう言いたげな表情だった。

「オレはその獅子を殺したんだ。殺らなきゃオレが殺されてたからな。」

(葉霧の事は……言わない方がいいな。)

 楓が間を置いていると

「葉霧くんはいなかったのか? ビルで高校生の男の子を見たと、証言してる人がいるんだが……」

 来栖はそう聞いたのだ。
 口から手を降ろした。

(あー。そーいやぁ……人間いたな。)

 ビルから出た時に、確かに数人の男女がいたのだ。葉霧は、声も掛けられていた。

「あー。いたよ。けど……葉霧は何もしてねぇ。オレが殺ったんだ。」

 楓のその言葉に来栖は目を伏せる。

(これは本当の事だろうか? 葉霧くんは……。本当に何もしていないのか?)

「おっさん。次な。」

 来栖は顔をあげた。

(おっさん?? そりゃそうかもしれんが……。鬼の方が歳上だろう?? どう考えても……)

少し悔しそうである。

「あの塾の時は……確かに蜘蛛だ。ガキどもの言ってることはウソじゃねぇよ。信じてやっていい。その蜘蛛に二人、殺されたのは
オレのせいだ。オレがもっと早く気づいてれば……」

(脚を切り落とす前に……助けてやれたのに……)

 蜘蛛は再生する為に、子供を喰らったのだ。

「ちょっと待ってくれるか? その子供の事だが、死因はどうなんだ?」
「喰われたんだ。蜘蛛に」

来栖は言葉を失くした。

(“捕食”。あやかしは、完全に人間を捕食する為の存在なのか……?)

「その後……蜘蛛を殺して子供を助けた。逃したのは、葉霧だ。」


 来栖は顔をあげた。


「殺した? とは……どうやって? その蜘蛛もそうだが、獅子の化け物も、現場には死体が無かったんだ。だからこそ、わからなかったんだが……?」

 楓は鎮音を見る。
 鎮音は頷く。

 立ち上がったのは楓だ。
 和室から出て行った。

「彼女は?」
「殺した道具を取りに行ったんだ。」

鎮音はそう答えた。

(楓ちゃんも、葉霧くんも……人助けをしただけなのに。何か……犯罪者みたい。)

 優梨は溜息ついた。
 少しだけ。

 暫くすると楓は戻ってきた。
 その手には刀を持っている。

 来栖の前に座るとその刀を差し出した。

「刀……?」

 来栖は刀を掴むと少しだけ鞘から、抜く。刃が光るのを見ると、鞘に戻した。

「本物だな……」
「そりゃそうだ。オレはずっと使ってんだ。」

 来栖が刀を楓の前に置く。
 楓はそれを取ると立ち上がる。

「その刀で……獅子の化け物や蜘蛛を殺した。そうなんだね?」

 来栖は優梨の隣に戻る楓を目で追いながら聞いた。

 楓は刀を畳に置きながら、膝をついた。
座るーー。

「ああ。そうだ。何度も言うが殺ったのはオレだ。葉霧じゃない。」

(本当は……オレがいなければこんなことになんなかったんだ。葉霧は……フツーにあの、幼馴染みとかと暮らしてたんだ。可愛い娘とかと……デートとかしてたんだ。)

楓は、膝の上で固く両手を握り締めていた。

(オレがいるから……眼までおかしくなったんだ。視なくていいモンが視える様になったんだ。葉霧は……普通に暮らしていけたんだ。おっかねぇ思いなんてしなくて……すんだんだ。)

 優梨は隣で肩が少し震える楓に驚いていた。

(楓ちゃん……)

 膝の上に視線を向ければ白くなるほど。その手をぎゅうっと握りしめていた。

 表情は何ら変わらなかったが、それでもその瞳は、少し潤んでいた。

 スッ……

 優梨は楓の左手の上に手を乗せた。

「!」

 楓は驚いた様な目を向けた。

「大丈夫よ。楓ちゃん。きっと。」

 優梨は優しく笑った。
 楓はその微笑みに力無く笑った。

「来栖警部。他に何か聞きたい事はあるか?  

私もそろそろ出掛けないとならん。」

 鎮音はそう言うとお茶を啜った。

「ああ……あ。塾の講師の三戸航平さんは
見なかったか?」

 来栖は楓にそう聞いた。

「いや。見てねぇよ」

 楓はそう答えた。

「そうか……。彼は何処に行ってしまったんだ……。借りていたアパートにも帰って無いし……。家族はご両親を亡くしていて身寄りもなく、一人っ子だったから兄弟もいないんだ。」
「それは……寂しいわね。」

 来栖の声に優梨は楓の手を握ったままそう言った。

「ええ。せめて見つかるといいんだが……」

 来栖はそう言った。
 呟くように。

(ムリだろうな。ソイツがきっと“依り代”だ)

 楓は目を伏せた。



 玄関に送ったのは楓と優梨だ。

 来栖は、桜を見上げながら言った。

「あやかしとは……何処から来て、何処へ行くのかね? 楓ちゃん。彼等は……ずっと“彷徨い”続け、人間を喰う為だけに生きてるんだろうか……」

 遠い眼をしながらそう言ったのだ。

 楓はそれには答えなかった。


           


 部屋のベッドから窓の外の月明かりを見上げていた。

 月はもう上弦。
 楓はその月を見上げていた。

ガチャ……

「どうした? 電気もつけないで。」

 ドアが開いたのだ。

 葉霧が部屋に入ってくると、電気をつけた。

「お帰り」
「ただいま」

 葉霧は部屋に入ると鞄をデスクの上に置いた。

 ここは、葉霧の部屋だ。

「楓。着替えるから」
「あっち向いてる」

 楓は窓の方に身体を向けた。胡座かいて、葉霧のベッドの上に座っている。

 葉霧はジャケットだけをハンガーに掛けると、ベッドに向かった。

 腰掛けた。

 楓の直ぐ後ろに。

「どした?」

 楓は俯く。
その優しい声に。顔は見れないが、きっと心配そうに、微笑んでいるであろう。

「着替えねーの?」
「着替えるよ。」

 葉霧は、全く向く気配の無い楓の頭を撫でるとベッドから立ち上がる。

 その優しい手の感触に、楓は俯く。


(……葉霧……。ごめん……)


 楓の瞳から“一滴の涙”が、零れおちた。

 月明かりはとても優しく照らしていた。


















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