邪神の力の一部で不死になったんだが!?

Mikuzi

とある冒険者の邂逅


 二ヶ月も空いてしまい、申し訳ありません。先月はいろいろと忙しく、執筆する時間があまりとれず、投稿が遅れてしまいました。
 次話もこのくらい空いてしまうかもしれません。できる限り早く投稿できるよう頑張りますので、これからもよろしくお願いします。
 今話は、サイドストーリーです。主人公は次話で登場する予定なので、主人公を待っていた方はすみません。

 ・改訂
  セリフに武技を入れるのを辞めました。
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 俺は今、幻覚を見ているのかもしれない。

 今、俺たちの前には、紅い血だまりが複数点在するこの場所では不釣り合いな、雪のように白いワンピースを着る彼女は、月の光を凝縮したような美しい白銀の髪をなびかせて、俺たちを守るようにその男の前に立ちはだかって居る。

 彼女の手には職人が氷塊から削り出したかのような、凍えるほど寒そうな冷気を纏った細身の剣が握られている。その刀身には、名前も知らない薔薇によく似た花が描かれており、まるで一つの芸術品のように美しい。

 彼女の前に立つ男は、俺たちが束になっても、手も足も出なかった双剣使いが、狂喜の笑みを浮かべている。

 しかし、そんな笑みの前に彼女は動じること無く、男の発する威圧にも全く恐怖を感じていないのか、その小さな後ろ姿のからは凜とした、洗礼された闘気のようなものが見て取れる。

 「少し来るのが遅れました。・・・すみません。・・・後は私に任せてください。」

 その言葉は、俺たちが本来守るべきであるはずの少女から発せられたが、俺は何故か彼女の言葉に安心感を感じた。

 そして、俺の意識はゆっくりと闇に落ちていく。

 視界が霞み、まぶたが閉じられていく間に、俺は数日前の彼女との出会いを思い出していた。


    〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


 俺の名前はヘンリ。Cランクの冒険者パーティー『誓いの剣』のリーダーを務めている。

 俺たちはリカレオの町を拠点とする冒険者パーティーで、今は一ヶ月ぶりの依頼を受けている最中だ。

 以来の内容はゴブリン・ジェネラルの討伐依頼。そのため、俺たちは町から歩いて二日ほどの距離にある、サルトレアの森に来ている。


 「・・・レオナっ!攻撃魔法の準備を!」

 「了~解っ!任せなさいっ!」


 俺が今声をかけたのは、俺たちのパーティーの火力を担当する、魔法使いのレオナだ。

 彼女は魔法使い特有の黒いローブと、魔法の発動媒体の魔道具である杖を両手に持ち正眼に構え、魔法詠唱をするために、目をつむり集中力を高めている。

 そう、俺たちはちょうど今、依頼の討伐目標であるゴブリン・ジェネラルとその取り巻きのゴブリンと、戦闘の真っ最中だ。

 戦闘開始から、すでに数十分は経過している。

 少し離れた先頭では二メートル近い巨体を持つ魔物ー今回の討伐目標であるゴブリン・ジェネラルが、その剛腕で両手斧を片手で軽々と振り回して、暴れている。

 そのジェネラルと真っ向から向かい合い、自らの身の丈程もある大きな盾を持って、注意を引きつけ、渡り合っている頑丈そうな鎧を着た仲間の男ーカイに指示を出す。


 「カイはそのまま、レオナの魔法が準備出来るまで、ジェネラルを足止めしてくれっ!」

 「オウッ!任せろっ!魔法が準備出来るまではしっかり保ち堪えてみせるぜぇっ!」


 カイはパーティーの中で最も危険な役割である、モンスターの攻撃を受け止める盾役だ。彼の頼もしい背中があるからこそ、俺たちは安心して自分たちの役目を行うことが出来る。

 俺はそのまま他のメンバーにも指示を出していく。


 「イリーナはカイに支援魔法を頼むっ!もしカイが怪我したら、すぐに回復魔法をかけてくれ!」

 「はいっ、分かりました!カイさん!貴方のことは私たちが助けますから、安心してください!・・・主よ、我らにご加護を・・・」

 「いや!?それは俺の言葉なんだがぁッ!」


 イリーナの応援?にカイが何やら叫んでいたが、それは無視して・・・

 イリーナは魔法の詠唱をしているレオナの側で、彼女と同様に目を瞑り、杖を握って祈りを捧げながら支援魔法の準備を始めた。

 彼女は神官の職で、このパーティーの回復役を担当している。

 彼女が居れば、俺たち前衛が多少の無茶をしてもすぐに回復してくれるから、とても心強く、安心して無茶が出来る。

 まあ、無茶しすぎれば後で説教が待っているから、重傷を負う程無茶をすることは滅多に無いが・・・


 「俺は取り巻きのゴブリンを片付けるッ!ラティナさんはカイの援護をしながら余裕があれば取り巻きの方もお願いしますっ!」

 「分かったわ。」


 今短く返事をしたのはラティナさんと言う、今回の依頼で臨時的にパーティーを組んだ冒険者だ。

 彼女は冒険者には珍しいエルフのソロ冒険者で、弓をメインで使っている。彼女の弓の腕は流石はエルフ、腕はとても良く、今回は依頼の間はパーティーの中で、遊撃役を引き受けてもらっている。

 戦闘中には、適切なタイミングで援護射撃が飛んでくるため、いつもより戦闘が楽に感じる。

 臨時のパーティーなのがとても残念で、是非、今後も一緒に冒険をしていきたいが、彼女は誰ともパーティーを組まないので有名で、恐らく断られるだろうが・・・まあ、それでも帰り道で一度くらい誘ってみるのもいいかもしれない。とても美人であるし・・・

 そう思っていると、取り巻きのゴブリンの中から一匹、錆びれたショートソードを持って切りかかってくる。

 その動きはCランク冒険者である俺にとっては大振りで単調な一振りで、いとも簡単によける事が出来る。

 そして、攻撃が空振り、よろめいて無防備になったゴブリンの首を横薙ぎに斬りつけた。

 ゴブリンはそのまま地面に倒れ、動かなくなり、死んだ。

 ゴブリンはFランクのモンスターで、比較的弱い部類に入る。が、しかし、それはゴブリンが単体での話で、実際は3~5匹の集団で行動するため、舐めてかかると痛い目を見るモンスターだ。

 そこを勘違いしている冒険者がたくさんいるが、だいたいそういう奴はあまりいい冒険者とは言えない。

 それに、奴らは武器を使う程度の知能はあるため、だいたいは短剣や錆びた剣などを持っている。剣などの武器を持っていなくとも棍棒や石などを武器に襲ってくるため、とても厄介だ。

 新人冒険者がよくFランクであること理由に侮り、返り討ちにあう者が毎年出るほどだ。

 しかし、俺たちはCランクの冒険者で、これまでにも何度もゴブリンの討伐の依頼を受けてきたため、自惚れでは無いがゴブリンだからと油断することは無い。

 戦闘では錆びた片手剣などリーチがあるゴブリンは、出来るだけ相手が武器を振るう前に素早く近づいて首を狙い、一突きで仕留める。短剣などリーチの短い武器を持つゴブリンには、剣のリーチを生かして出来るだけ安全な距離を保って仕留めるとか、そう言う事を意識しながらいつも戦っている。

 俺たちはそんな風に慎重な戦い方であるがために、同じ若手の冒険者などからは『憶病者』などと揶揄されるが、ゴブリンの厄介さをよく知る先輩のベテランの冒険者からはよく褒められるため、俺たちはこのままでいいと考えている。

 そんなことを考えながらも戦闘は順調に進み、幸いなことに怪我をすることなく、ゴブリン・ジェネラルの取り巻きのゴブリンを全て片付け終えることができた。


 「よしッ!こっちは片付け終わったな。次は・・・」


 『ガアアアァァァァッーーーーー!!!』


 その時、カイが足止めをしているゴブリン・ジェネラルが、取り巻きがやられたことに怒ったのか、空気が振動するような雄叫びを発した。


 「クッ!・・・威圧のスキルかッ!?」


 雄叫びが止みジェネラルを見ると、ちょうどカイがジェネラルに、片手に持った両手斧を横殴りのように振り抜かれ、吹き飛ばされた。


 「カイッ!!」

 「カイさんッ!?・・・ッ!すぐに回復しますっ!」


 カイが吹き飛ばされるのを見ていたイリーナが悲鳴を上げるが、さすがの経験で直ぐに回復魔法の詠唱に移った。

 しかし、そうしている間にも、ジェネラルは次の行動に出る。

 奴は、盾役の居なくなった戦場で、最大の危険分子である、魔法職のレオナへと標的を変えた。

 レオナは魔法がまだ完成していなくて、未だに魔法の詠唱を行なっている。

 彼女の発動しようとしている魔法は、上級魔法にあたるもので、高威力であるものの、その代償としてたくさんの魔力と詠唱が必要になっている。そのため、今もその場所から動けていない。


 「レオナッ!危ないッ!」


 ジェネラルがレオナに近づこうとしたその時、ジェネラルに向けて軌跡を描きながら矢が飛来した。


 「アレは、ラティナさんかッ!」


 レティナさんによって射られた矢は正確にジェネラルの右目を捉えていた。しかし、ジェネラルは矢を手に持っていた両手斧を顔の前で盾のように構え、ラティナさんの攻撃を完全に防いだ。

 両手斧によって遮られた事でラティナさんの攻撃は防がれたが、ジェネラルは矢を防ぐためにレオナに向かっていた足を完全に止めていた。

 ラティナさんは矢継ぎ早に矢を連続で撃ち、ジェネラルの動きを阻害していた。

 俺はその隙にレオナの盾として彼女の前に躍り出る。そして、ジェネラルの全体の姿を視界にとらえて、その一挙一動に注意深く視線を向ける。

 ジェネラルは次々と飛んでくる矢の攻撃に苛立たしげにうなり声を上げている。しかし、少しでも両手斧を下げようものなら、すかさずラティナさんの正確な射撃によって、被弾してしまう事を理解しているためか、行動に出ようとしない。


 「よし、このまま時間を稼いで、レオナに魔法を・・・」


 しかし、俺がこのままラティナさんの牽制で、「レオナの魔法が完成するのを待とう」と言おうとしたその時、それよりも先にジェネラルが行動に出た。

 ジェネラルは矢を射かけられているにも関わらず、矢を両手斧で無理矢理なぎ払い、矢がはじかれたその隙を突いて、一気に俺の方ーー正確にはレオナの方に向かって距離を詰めてきた。

 ラティナさんは、ジェネラルが一瞬で俺との距離を詰めてきたのを見て、俺に
矢が当たる可能性を示唆してか、矢を放つことが出来ないようだ。


 「クッ!うぅおおおおおおおッ!!!!」


 俺はラティナさんが援護することが出来ないのを理解した。それならーーと、俺はジェネラルを迎え撃つために、雄叫びを上げながら自ら前へと足を踏み出した。

 ジェネラルは俺が戦いを挑んでくると理解したのか、その凶悪な顔を更に凶悪に歪め、俺を迎え撃つために、両手斧を上段に振りかぶった。

 俺はそれを目で見ながら、ジェネラルの一挙一動を注意深く観察する。

 ジェネラルの動きは大振りで読みやすく、一見躱す事が簡単そうに見えるが、ジェネラルの攻撃は単純であるが故にその一撃は空中に斬撃の軌跡を残すほど速い。侮って油断すれば、一瞬で何が起こったかも理解できずに胴が上下に分かたれ死亡するだろう事は想像に難くない。

 俺はその一撃を冷静に観察する。その時が来るまで・・・

 そして、俺がもう一歩前へ踏み出し、ジェネラルの攻撃範囲に入ったとき、ジェネラルは上段からの一撃を放った。

 俺は迫り来る斧に全神経を集中させる。

 一瞬で斧が俺の顔の目と鼻のすぐ先に迫った時、俺は左腕に装着された小楯を迫り来る斧の側面をなでるように密着させ受け流す。

 普通であれば、小楯で両手斧ほどもある大型武器を正面から受け止める事は自殺行為そのもので、盾も攻撃に耐えられず一撃でつぶれてしまうだろうが、俺の日々の鍛錬と実践での経験によって、火花を散らしながらも受け流していく。

 そして、その時が来た。

 ーー今だッ!


 「はぁああああッ!!!ーー『パリィ』ッ!!!」


 俺が叫んだ瞬間、盾に青白い光が纏い本来であれば俺の力では弾くことの出来るはずの無い両手斧が、発動した『武技』の力で大きく真横へと弾かれた。

 武技とは、スキルとは違う武器による特殊技のことだ。言ってしまえば戦士版の魔法・・・とでも言うべきものだ。

 スキルとの違いは、最も簡単な所では発動する際の代償の違いだろう。

 《スキル》には使用する際、基本的に代償はなく、一部の特殊なスキルには使用後に代償として一定時間まともに動けなくなるものがあると、聞いたことがある。

 強いて代償として挙げるとすれば、精神的な疲労ぐらいなものだろう。それさえも連続でスキルを使い続けるなどしない限り、疲労はあまり気にすることもない。

 それに対して《武技》には使用する際に、代償として魔力を消費する。この代償が、俺が戦士版の魔法と言ったことの所以だ。

 ー武技とスキルは簡単に言い換えると、武技が『技』で、スキルが『技能』だろう。

 まあ、スキルとの関係は今は置いておくとして、武技には無数の数が存在する。

 例としては、『斬撃』や『防御』などの《基本武技》や、《初級武技》などと呼ばれる、その名の通り基本的な武技や、『斬撃波』や『鉄壁』などの《上位武技》などが存在する。

 俺が今発動した武技『パリィ』は、盾の特殊武技で、その効果は適切なタイミングで発動すれば、ある程度の攻撃であれば、どんな攻撃でも弾くことができるという技だ。

 「ある程度」というのは、あまりに強力な攻撃であれば、弾くことが出来ず、そのまままともに攻撃を食らってしまうからだ。

 さらに、タイミングを外せば武技は発動せず、まともに攻撃を食らってしまう事になる。

 しかし、タイミングが完璧であれば、とても強力な防御手段だ。そのため、俺はこの武技を重宝している。

 ジェネラルは両手斧が弾かれたことで、前のめりになっていた姿勢が崩れる。

 俺はその隙を逃すこと無く、更に前へと踏みだしもう一つの武技を発動する。


 「ーー『刺突』ッ!!!」


 叫んだ瞬間今度は右手に持つ剣が赤い光を纏った。俺はその剣をジェネラルの無防備な胴に思いきりたたき込んだ。


 「グァアアアアアアーーーーーッ!!!!」


 (届けぇえええ~~~ッ!!)



 剣はジェネラルに届いた。

 しかし、それはジェネラルの体を貫通するには至らなかった。

 剣はジェネラルの胴を数センチ刺した所で完全に止まり、それ以上突き刺すことは出来なかった。


 「なにッ!?」


 (一体何だっ!?)


 俺は驚愕のあまり剣が刺さるジェネラルの胴をまじまじと見つめてしまった。

 剣は確かにジェネラルの体に届いた、しかしそれは届いたというだけであり、体を貫通させる事は出来ていない。剣はすでに武技の光を失い、何の効果も無いただの剣に戻っていた。


 (これは、どういうことだっ!?)


 本来であれば今の一撃は殺すことは出来ずとも、剣はジェネラルの体を意図もたやすく貫き、深手を負わせることができるはずだ。

 そこで、俺はあることに気がついた。

 ジェネラルの体が薄らと青色に光っていることに・・・


 (これは、まさかスキル?だが、ジェネラルの資料にはこんなスキルは載っていなかったぞっ。)


「「ヘンリ(さん)ッ!」」


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 最後までお読みくださりありがとうございます。誤字・脱字やアドバイスなどのご意見があればコメントしてください。

   次回もよろしくお願いします。


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