邪神の力の一部で不死になったんだが!?

Mikuzi

屋敷を探索しよう


 僕は荒れ果てた庭を通って屋敷に向かう。


 「ここは僕の土地になったんだから、いつかは綺麗にしないとね。あと花壇にも花か何か植えないと。なんの花がいいかな?」


 この世界の花など知らないから、選ぶことなどできるはずもないのだけど、僕は歩きながら考える。


 「うぅ〜ん・・そういえば・・」


 僕は腰のホルスターに挿しているジーヴィルを手に取り表面の柄を見た。


 「ジーヴィルのモチーフになってるこの花はどんな花なんだろう?名前に氷が入っているぐらいだろうから、寒い地域に咲くのかな。」


 寒いといえば僕がいる場所の近くには巨大な山脈が存在するけど、その山脈の表面は雪に覆われていて、今のいる場所も日が沈みそうになっているからか、少し肌寒苦感じる。


 「あそこに見える山脈に行けば、ジーヴィルのモチーフの花が咲いているのかもしれない。時間ができればそっちの探索にも行ってみたいな。」


 そんなことを言いながらも足は動き続け、屋敷の裏口と思われる扉の前に到着した。

 扉もまた荘厳な様相であったんだろうけど、今はボロボロになっている。

 僕は一様警戒しながら、ドアノブに手をかけ扉を開けた。

 先ず目には映ったのは薄暗い廊下だった。廊下もまた何年も放置されていたためかホコリやなんやらが積もっている。

 目の前には扉が存在している。さらに右側の廊下の奥には二つ扉があるのが微かな日の光に照らされて見える。


 「さてと、どこから探索しようかな。取り敢えず目の前の扉の先に入ってみようか。」


 僕は何かあった時を警戒しながら扉のドアノブに手をかけ捻った。

 扉の先は広いホールになっており中央には、二階に繋がる大きな階段がある。と言っても僕が入ってきたのは裏口だから、目の前には階段の裏側が見えている。階段の裏には特に何もないため警戒しながら階段の周りを左側に向かって進む。

 僕から見て左手には扉が二つある。周囲を見回し警戒しながら、手前の扉から開ける。


 「なんですかね、ここは。それなりの広さがありますが。」


 部屋の中は目立った物がなく、壁に何かを入れる棚がいくつか設置されている。中央には机だったものと思われる残骸が残っている。そこにもホコリなどが積もっていて長年放置されていたことを窺わせる。


 「奥にも扉がありますね。しかも何故か曇りガラスがはめ込まれた扉ですね。」


 慎重に行動しながらも少し早歩きで進む。そして扉の前に着くとそっと中を覗く。


 「ここは・・もしかしてお風呂ですかっ!?おお〜とても広いですね!」


 僕は興奮した様子で周囲を見回す。
 扉の先には綺麗に磨かれていただろう石床に、白いだったと思われるくすんだ色の壁。中央には小さなヘリに囲まれた窪みがあり、広さはちょっとした大浴場ほどはある。

 
 「あっ、外にもお風呂がありますね。いいですね。是非綺麗にして使いたいです。」


 外の風呂はまるで日本の天然温泉を真似て作ったかのように、どことなく雰囲気があった。


 「ここのお風呂ってどうやってお湯を用意したんでしょうか?」


 この世界にはもちろんガスで水を沸騰させる、なんて便利な装置は存在しない。では何故お風呂が存在するのかと言うと、理由は単純である。この世界には魔法という便利な技術が存在するためである。


 (火魔法の系統でお水を温めてお風呂にしているんでしょうか?それともお湯を出す魔道具か何かがあるんでしょうか?)


 「うぅ〜ん・・・うん?何でしょうあの赤く光っているのは・・?」


 僕が見つけたものは、お風呂の中心の底に埋め込まれていた、赤く光る石のようなものだった。


 「これは・・微かに魔力の反応がありますね。もしかしてこれが魔道具?」


 赤い石にそっと触れながら、これが一体なんなのか考える。


 (何かわかるかもしれないから鑑定を掛けてみましょうか。)


 そう思いついた僕は早速鑑定のスキルを発動した。


    ーーーーーーーーーーー

 【沸騰石(風呂用)】•••魔道具の一種で貯められた魔力を使うことで、水を人が入ることができる適度な温度に熱することができる。
 Class: MagicTool〔魔道具〕
 Rarity:5[Rare〔レア〕]
 Quality:B
 Durability:B
 Magic 3/1000
 〈沸騰〉•••貯め込まれた魔力を消費して水を40度まで温めることができる。

    ーーーーーーーーーーー


 「ほぉ〜これは便利ですね。魔力を貯めておけばいつでもお風呂に入ることができるんですね。とても便利です。」


 微かに魔力を感じたのはこの魔道具に魔力が残っていたからなんだね。

 本来はこのような魔道具は、この世界では高価でそれこそ貴族や大商人でもなければわざわざ家に設置されないぐらいである。さらに、このような魔道具は繰り返し使うことができるので家を引越しする際や売る際は全て外され、また別の人に売られるのが普通であるが、どうやらこの屋敷の前の持ち主は売らなかったようだ。しかも、品質・耐久値もそこそこあるので今日まで長持ちしていたのだろう。


 「今はまだ浴槽などが汚れているので、取り敢えず魔力だけでも注いでおきましょうか。」


 僕は沸騰石に触れジーヴィルを発動する時と同様に魔力を注いだ。するとものの数秒で魔力が流れなくなった。


 「・・っとと、もういっぱいまで入ったんですか。意外と少ないですね。」


 蘇りの指輪やジーヴィルに注いだ時とは違いすぐに魔力が限界までいっぱいになってしまった。

 それもそのはずである。そもそもの魔道具としての格が違いすぎるのである。蘇りの指輪は女神アストルティアが自らが作り出した神器である。そしてジーヴィルも異世界の金属で構成され、吸収した魔力によって性能が変わるので、魔力の限界は基本存在しない。

 正確には存在しない訳ではないのだが、魔力を限界まで注ぐには、それこそ一般人の魔力が何万人、何十万人分も必要になるためほとんどないに等しいのである。


 「取り敢えずここはいいでしょう。次に向かいますか。」


    〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


 ・・・その後、僕は一階の部屋を全て見て周ったけど、ある一つの部屋の前で立ち往生していた。


 「うぅ〜ん・・この部屋扉に鍵が掛かってて中に入れない。」


 その部屋は、僕が最初に屋敷に入った所の右側の廊下にある二つ扉のうちの手前の所にある部屋だ。

 一階にあった部屋を要約すると、僕が入ったお風呂部屋の隣に、もう一つ同じ作りのお風呂部屋があった。恐らく男湯と女湯で別れていたんだと思う。

 他には僕が入ってきた裏口から見て左側に、トイレとお手洗いの部屋と応接室と思われる部屋があった。

 そして、裏口からそのまま正面、階段などを無視した先には両開きの荘厳な扉があった。これが正面玄関だと思う。

 正面玄関から見て左側の方には図書室と食堂、調理室、食糧庫があった。

 そして、一階にある最後の部屋が、今僕が立ち往生している部屋だ。


 「しかもこの鍵、魔法で鍵が掛かってる。どうしようか・・僕の屋敷になるんだからどんな部屋があるか知って置きたかったんだけど、しかたない後回しにしよう。もしかしたら二階に鍵があるかもしれないし。」


 僕は次に二階には上がるため、正面のエントランスホールにある大きい階段を登った。

 二階に上がると左右に分かれていて、見た限り同じ構造のようだった。

 振り返ってみると、正面にはベランダがあるのが見える。さらに左右にそれぞれ行くことができるようだった。


 「先ずは・・左に行きますか。」


 正面から見て左には二つの扉が見える。手前の扉から開けてみると、そこは書斎と思われる部屋だった。

 目の前にはソファーが机を挟んで設置されており、奥にはいかにも書斎で貴族が座ってそうな椅子と机が置かれている。


 「ここには特に何も無さそうですね。一様机の中に何かあるか確かめますか。」


 ソファーを避けて机の裏側に周り、備え付けられていた引き出しを開けてみる。


 「あっ・・何かありますね。これは日記帳でしょうか?だいぶ痛んでいますね。ボロボロすぎてほとんど読めなくなっていますね。」


 引き出しの中にはボロボロになったこの屋敷の持ち主だった者のものと思われる日記帳が入れてあった。

 でも日記帳は永い時間が経過したためか、紙がやべれていたり、文字が滲んでいたりと、実際に読めるのはほんの数ページだった。


「読んでみましょうか。」


 ・・・

 神暦1472年夏の2月赤の4日
 私は遂にあの魔法を見つけることができた。あとは素体を造るだけだ。

 ・・・

 神暦1474年春の3月青の3日
 先日やっと素体の材料が揃った。今日はいよいよ素体を造る。外見は未だ記憶に鮮明に残るあの子の姿を思い出して造ろう。もう少しであの子が・・・

 ・・・

 神暦1474年冬の1月黄の2日
 なんてことだっ!素体に一番重要なコアが適合しないっ!もっと上位の魔力媒体が必要だ!どうにかして手に入れなければ・・・

 ・・・

 神暦1481年秋の2月緑の7日
 素体が完成してから7年未だにコアに適合する魔力媒体が手に入らない。もう随分とお金を使った。もう財産も底を尽きかけている。すでに召使のほとんどをクビにしてしまった。早く見つけなくては・・・

 ・・・

 神暦1483年夏の1月青の4日
 ようやく光明が見えた。近々凍てつく山を超え、神話の地に調査をするため、騎士団と冒険者の混合部隊が近くのリカレオの街から出発する。
 神話の地は未だ未知の領域、何があるかわからない。だが未知ということは、未だ発見されていない魔力媒体が手に入るかもしれない。
 私も騎士団に交渉して同行できるようにしてもらった。これでも私は元騎士団の魔法師だった者だ、少しでも戦力にはなる。
 無事にコアに適合する魔力媒体を手に入れて帰ってくることが出来たら、すぐに素体を完成させ、儀式を成功させてやる。待っていてくれ・・・

 ・・・

 神暦1483年冬の3月緑の2日
 神話の地の調査は失敗に終わった。
 私たち調査団は四ヶ月をかけて凍てつく山を越えていた。最初は問題もなく順調に調査は進んでいた。しかし突如としてソイツは現れた。地上最強の種族《竜種》が私たちを襲った。竜種は基本的に人間の生活圏に姿を現すことはない。だがあそこは人が気軽に立ち寄ってはいけない領域であった。しかし私たちは神話の地の調査のため、この竜種が生息する領域を超えなければいけない。そう思っていたが、結果は調査団の壊滅で終わった。生き残った私を含め調査団のものは五ヶ月の時間をかけてリカレオの街に戻ってきた。しかし生き残ったものたちは、皆重傷でかく言う私も調査の間に病にかかりもう長くはない。
 結局私は悲願を達成することが出来なかった。
 もしこの日記を読む者がいるのなら、どうか私の代わりに悲願の達成を・・・




 私の娘を生き返らせてくれ。




 ・・・


 日記はここで終わっていた。


 「この屋敷の持ち主は永い時間をかけて、娘さんを生き返らせようとしていたんですね。厳しい道のりだったんでしょう。」


 (娘さんを生き返らせようと神話の地にまで行ったのに。結局目的は果たせず、道半ばでその生涯を終えた。
 悔しかったんでしょうね。その気持ち僕にはわかります。僕も人生の目標を達成することが出来ずに、こうして新しい人生を送ることになっていますからね。)


 そんなふうに感慨深く共感していると、日記帳の最後のページの隙間から何かが落ちた。僕は地面に落ちたそれを拾い上げた。


 「これは・・鍵?かな。もしかして一階の鍵のかかった部屋の物かな。取り敢えずポーチにしまっておいて後で開くかどうか試しますか。」


 ・・・その後、二階にある部屋を全て回ったが特にこれといったことはもの無かった。

 部屋は大部屋が四つあり中部屋が二つあった。それと、一階と同じ間取りの場所にトイレもあるのを確認した。


 「一様鍵が掛かっていない部屋は全て見て回ったけど、やっぱり魔物の類はいなかったなあ。」


 最初に魔力感知で屋敷には潜んでいないと分かっていたけど、それでも僕ははまだ転生したばかりだったので、ずっと無意識の内に警戒していたようだ。そのせいか、酷く疲れている。


 「今日は色々なことがあったから、すごく疲れたよ。適当な部屋で寝ようかな。鍵のかかった部屋は明日にしよう。もう外も暗くなってるしね。」


 僕は二階の奥、ベランダ側のトイレに近い部屋に入り簡単に掃除をして、今まで設置されていたベットのシーツを剥がし、ポーチの中に入っていた新しいシーツを一枚取り出してベットにセットした。


 「この世界の夜空は、すごく綺麗ですね。日本では絶対に見ることが出来ないような星空です。」


 部屋にある窓のそばによって外を見上げれば、そこには、夜空の一面に綺麗な星たちがキラキラと輝いている。この世界では空を照らす明かりが存在しないため、自然の夜空を見ることができる。


 「ふぅ〜また明日にはやることがたくさんありますね。取り敢えずまず先にお風呂を掃除して、お風呂に入りながらこれからのことを考えよう。」


 明日最初にやることを決めると、ベットに横になってゆっくりと目を閉じた。


 「それと、アストルティア様にお祈りもしましょうか。・・・アストルティア様、おやすみなさい。」


 そう言うと僕の意識は深い微睡の中に消えていった。


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   次回もよろしくお願いします。

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