語られない物語~異界の天使たちによる異聞禄~

分散

 避難が完了しているのか居住区に人の気配はなく、紫依達はレーザー砲が開けた穴を飛んでスムーズに目的地に向かっていた。時々、捕獲ロボットなどが出てくるが簡単に倒していく。しばらく飛んでいると四人の前に壁が立ちふさがった。

 紫依が軽く周囲を見回す。

「レーザー砲で壊せたのは、ここまでのようです。中心部へ行く通路はありませんので、ここからは壁を壊して行くしかありません」

 言い終わると同時に紫依は壁を大鎌で斬り崩した。

「行きましょう」

 平然と先へ進んでいく紫依の姿に蘭雪が朱羅に小声で話しかける。

「嫌な予感がするわ。なるべく紫依から離れないようにしなさいよ」

「ああ」

 朱羅も紫依のいつもと違う雰囲気を察していた。敵に対する警戒心があることは当然だが、何故か味方であるこちらも警戒しているように感じる。

 紫依が崩した壁を抜けると、そこは広い通路だった。四人は翼を収めて床に降り立った。

「無駄に広い空間だなって、こいつらのためか」

 オーブの視線の先には三メートルぐらいある人型起動ロボットがいる。外観は箱を積み重ねたような造りで鈍重そうだ。それが隊列を作って、こちらに向かって行進している。

「センスが感じられない外見だな。捕獲ロボットにしては動きも鈍そうだし」

 残念そうに呟くオーブに朱羅が声をかける。

「初めて見る型だが、知っているか?」

「いや、オレも初めて見た。たぶんオレたちを捕獲することを目的に造ったんだろうな」

「そうか。俺が様子をみる」

 そう言うと朱羅は人型起動ロボットに向かって走り出した。

 人型起動ロボットは朱羅の姿を認識すると腕から電撃を発射した。だが朱羅は電撃が当たる前に人型起動ロボットの懐に飛び込み、そのまま中心部である胴体に大剣を斬りつけた。

 鋭い金属音と一緒に朱羅の体が宙を舞う。

「斬れないだと!?」

 朱羅は空中で体勢を整えると、跳ね返された反動を利用して壁を蹴った。
 再び人型起動ロボットに斬りかかるが、表面に少し傷が付くぐらいで致命傷までは与えられない。その間にも人型起動ロボットは攻撃してくるが、見た目通りの鈍重な攻撃は朱羅にかすりもしない。

「朱羅、関節を狙え!」

 オーブの言葉通り朱羅が関節を斬ると意外なほどあっさりと斬れた。予想通りの光景にオーブが頷く。

「オレ達の攻撃が効かない外装を作ったのは褒めるけど、その技術が関節部にまで活かせなかったのは残念だったな。しかも守りに徹しすぎたためにスピードが極端に遅すぎる。捕獲ロボットとしても戦力としても問題外だな」

 オーブの解説中も朱羅は人型起動ロボットの関節部を斬りつけて無力な箱にしていく。その光景を眺めながら蘭雪が呟いた。

「捕獲が目的だから攻撃は電撃とか麻酔銃とか致命傷にならないものばかりね。リミッターがこちらの都合がいい方向に働いているわ」

「前世では、こっちもリミッターがあったけど今回はないからな。その分こっちが有利だ」

 二人が話している間に、朱羅はあっさりと一体の人型機動ロボットを箱の山にした。疲れた様子もなく次の獲物に攻撃を移そうと背中を向けたところで、紫依が叫んだ。

「朱羅、まだ終わっていません!」

 朱羅が振り返って箱の山を見ると、無力にしたはずの箱が浮かび上がっていた。そして、そのまま結合して元通りの姿に戻った。

 驚いている朱羅の前に紫依の大鎌が現れる。

 紫依は結合したばかりの関節を大鎌で切り離した。しかし同じように結合して再び人型起動ロボットに戻る。

「結合した瞬間を狙っても駄目みたいですね」

「どういう仕組みなんだ?」

 朱羅と紫依が人型起動ロボットの攻撃を避けながら攻略法を思案する。そこにオーブが声をかけた。

「朱羅、さっきと同じように壊してくれ」

「わかった」

 朱羅は一瞬で人型起動ロボットの関節を全て斬った。

 支えを失った人型起動ロボットが崩れていく瞬間、オーブは胴体に向けて両手に装着しているクロスボウの矢を放った。関節があった切り口に矢が深く突き刺さって動きを止めたが、他の部分が集まって矢を飲み込むように結合して元の姿に戻る。

 その動きを観察していたオーブは朱羅に再び指示を出した。

「もう一回、同じように壊してくれ」

 オーブがクロスボウをかまえる。朱羅が人型起動ロボットをバラバラにした瞬間、先ほどと同じように矢を放った。矢は空中で分裂して全ての箱の切り口に同時に深く刺さっていった。そして箱が再び動くことはなかった。

 攻略法を見つけたオーブは隣で黙っている蘭雪に説明をした。

「再生の核となっている部分に矢を打ち込んだ。これは同時に全ての核を壊さないと再生するみたいだな」

「時間稼ぎが目的って、ところかしら?」

「だろうな」

「こっちが時間制限付きだからって甘く見られたものね。紫依、朱羅、先に行きなさい!」

 蘭雪の言葉に、他の人型起動兵器の攻撃を避けながら朱羅が振り返る。

「どうするつもりだ?」

 蘭雪は手袋を装着している両手から糸を出して、朱羅と紫依を攻撃している人型起動ロボットの関節に巻き付けた。

「こんなところで足止めされている場合じゃないでしょ!」

 そう言って糸を弾く。すると人型起動兵器の関節が綺麗に斬れた。同時にオーブが矢を放って全ての核を壊す。

「ここはオレ達二人に任せろ」

「わかった」

 朱羅は視線だけで紫依に合図をする。紫依は頷いて同時にその場を離れた。

 オーブと蘭雪が走り去る二人を背中で見送る。

「さっさと終わらすから、タイミング間違えないでよ」

「もちろん」

 笑顔のオーブに蘭雪が怪訝な顔をする。

「なによ?そんなに楽しい?」

「そりゃあね。今度は二人で戦えるんだから。負ける気がしないよ」

 蘭雪は赤くなった顔を隠すように声を出した。

「いくわよ」

 二人の先には最後尾が見えないほど通路を埋め尽くした人型起動ロボットが整然と歩を進めてきていた。

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