語られない物語~異界の天使たちによる異聞禄~

決戦開始

 次の日。

 朝が弱い朱羅と蘭雪が珍しくそろって早起きをして転送装置がある部屋に入ってきた。その姿を見てオーブが口元だけで笑う。

「さすがに今日は自分から起きてきたな」

 朱羅はいつもより不機嫌な表情で周囲を見た。

「紫依は?」

「おまえな、眠いからってそんな顔するなよ。紫依はウォーターと獅苑のところに行った」

「なんのために?」

「中心部にある神を破壊した後の操作をお願いしに行ったよ。いくら住民が避難していても、あれが墜落するのは地上へのダメージが大きいから電脳空間から操作してほしいって」

 蘭雪が欠伸をしながら言った。

「と、いうことは電脳空間からウォーターと獅苑のサポートが入るのね」

 そこに紫依が部屋に入ってきた。

「おはようございます」

 微笑みながら頭を下げる紫依の後ろからアークが声をかける。

「おはようございます。みなさん、お揃いですね」

「おはよう」

 オーブは明るく挨拶をしたが朱羅と蘭雪は眠そうにしており無言のままだ。アークは気にすることなく話を続ける。

「こちらから先制攻撃をしかけますが、すぐに神からの反撃があるでしょう。そうなったら、こちらは自分達の基地を守るだけで精一杯です。申し訳ありませんが、あなた方を手助けする余裕はありません。最初だけは援護しますが、後は自力でお願いします」

 そこまで言ってアークはまっすぐ四人に茶色の瞳を向けた。

「必ず生きて帰ってきて下さい」

 オーブが笑顔でアークの肩を叩く。

「もちろん。今生の別れじゃないんだから、そんな顔するなよ」

「そうよ、また会えるわ。みんな、これを付けて」

 蘭雪が配った銀色の首輪をそれぞれ装着する。オーブは明るく笑顔で言った。

「じゃ、行ってくる」

 オーブが軽く手を振るが、アークは何も言わず深々と頭を下げる。
 そのまま四人は転送装置に入り、標高四千メートルの上空に転送された。四人はすぐに背中に白い翼を出して落下を防ぐ。眼前には全体が把握できないほど巨大な銀色の球体が浮かんでいた。

 地平線から太陽が昇り、植物の緑と海の青が輝いている。反対側の空には星が残っており、ほんのりと薄暗いが確実に夜明けが近づいていた。

「こういう状況じゃなかったら素直に楽しめる絶景なんだけどな」

 残念そうに言うオーブに蘭雪が不機嫌そうに首に付けている首輪を弾いた。

「そんなものは、あとでいくらでも見れるでしょ?一時間っていう時間制限付きなんだから、さっさとするわよ」

「へい、へい。じゃあ神が気づく前にとっとと侵入するか……って、言ったところからコレかい!」

 銀色の壁の一部が開いて次々と捕獲機が出てきた。あっという間に銀色の壁が見えなくなるほどの捕獲機が全面を覆う。

「数が多いのは厄介だな。近づくだけで時間と力が削られる……って、それが目的か?」

 オーブが分析していると、紫依が地上の一点を見て三人に叫んだ。

「ここから離れて下さい!」

 地上から一本のレーザー砲が飛んでくる。

「嘘だろ!?」

「高度な武器は造れないはずなのに、どうやって!?」

 慌てて避ける四人の前を通過してレーザー砲は神に命中した。もちろん神は無傷だがレーザー砲が通った後に捕獲機の姿はなく綺麗な一本道が出来ている。

「アークって意外と大胆なことをするのね」

 一歩間違えば直撃を食らっていただけに、蘭雪が頬をひきつらせる。

「いや、それよりどうやってレーザー砲なんて造ったんだよ!?リミッターがかかっているんじゃなかったのか!?」

 味方にも吠えるオーブに蘭雪が考察する。

「資源採掘で山を発掘するためとか、整地するためとか、どうにか理由をつけて造るだけならいくらでも造れると思うわよ。ただ、それを対象ではない空に向けるというのは、なかなか難しいでしょうけど」

「それ言ったらリミッターなんか関係ないだろ!なんのためのリミッターだ!?」

 朱羅が叫ぶオーブを無視してレーザー砲が作った道を指差す。

「行くぞ。早くしないと塞がれる」

「なんか納得いかねぇが、今はそれどころじゃないしな。後ろに注意しながら行くか」

 オーブの発言と同時に後方から再びレーザー砲が飛んできた。
 ゆっくり振り返った淡い金髪が微かに焦げている。

「アークのやつ、オレ達がいるって忘れてないよな」

「……たぶんね」

 蘭雪が珍しく苦笑いを浮かべる。一方の朱羅もこの状況には絶句していた。

 ただ一人、紫依だけは平然と遥か正面にある神を見つめながら平然と声をかけた。

「早く行きましょう。いくら理由をつけても対象がない空に向けてレーザー砲を何度も打つことは出来ませんし、地下基地への攻撃も始まるでしょうから」

「そうね」

 捕獲機が埋め尽くす中、その中央にぽっかりと空いた道を四人が進む。そこに捕獲機が集まって攻撃をしてきた。

 オーブは両手についているクロスボウを構えると、すぐに矢を放った。矢は無数に分裂して集まっていた捕獲機に突き刺さり爆発していく。そしてオーブが落としそこなった捕獲機を朱羅と紫依が大剣と大鎌で斬っていった。

 四人は勢いよく神の元へと突き進む。銀色の壁が目前に迫ってきたところで、オーブが止まって勢いよく叫んだ。

「本番いくぞ!」

 オーブが武器をクロスボウから弓に変えてキリキリと力いっぱい矢を引く。
 その間に朱羅と紫依が大きく武器を振り下ろして、先にいる全ての捕獲機を風圧で爆破させた。そこに蘭雪が手袋を装着している両手の指先から糸を出して、銀色の壁まで続く巨大なトンネルを編み上げる。

「いけ!」

 オーブの手から離れた矢は分裂して銀色の壁に円を描いて突き刺さった。そこに朱羅が大剣で外壁を無数に斬りつける。そして紫依がとどめを刺すように大鎌で外壁を殴りつけた。
 すると金色の矢が突き刺さっている円形の内側部分の外壁がパラパラと崩れ落ちていった。

「よっしゃ!」

 握りこぶしを掲げるオーブに蘭雪が忠告する。

「喜ぶのは、まだ早いわよ」

 外壁の内側部分の金属が生きているかのように動き出した。そのまま三人が破壊した外壁を閉じようと形を変えていく。

「閉じさせないわ」

 蘭雪が動いている金属に向けて両手の指先から糸を飛ばして絡みつかせた。

「これで自己修復はできないわね」

 糸が蜘蛛の巣のように細かく張り付いて金属の動きが止まる。

 蘭雪が振り返って三人に声をかけた。

「さて、入りましょうか」

「待って下さい」

 紫依の声に内部に侵入しようとしていた三人の動きが止まる。紫依は地上を睨んだ後、三人に視線を向けた。

「もう一発きます」

 その言葉の意味を瞬時に理解した三人は急いでその場を離れた。
 レーザー砲が破壊された外壁から内部へ一直線に入っていく。そのまま神の中の建造物を破壊して消えた。

 この攻撃にオーブはレーザー砲が飛んできた方角を見て呆然と言った。

「なんか神に殺される前にアークに殺されるような気がする」

「奇遇ね。私もそう感じたわ」

 フォローのしようがないため朱羅は黙っているが、紫依だけは平然と神の内部を指さした。

「時間がありません。行きましょう」

「そうだな」

 それ以上は誰も何も言わずに神の内部へ入っていった。

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