語られない物語~異界の天使たちによる異聞禄~

白と黒の戦争 1

 荷台の中でガラガラと転がされ、体を他の荷物にぶつけ続けること小一時間。

「降りろ」

 袋から出されると同時に太陽の光が差し込み、子どもは思わす白銀の瞳を細めた。
何もない赤茶けた荒野に夕日が反射して世界が赤一色に染まっている。それはまるで世界を血で清めたような光景だった。

 子どもが黙って景色を眺めていると、乱暴に両足の拘束が解かれた。

「こっちだ」

 呼ばれて振り返ると、そこには大きな岩山があった。ところどころに、通気孔らしき小さな穴が開いている。

「来い」

 黒髪の大人たちに促されるように、岩の影に隠れるようにある地下への階段を降りて行く。階段を降りていくにつれて空気が冷たく湿ってきた。あれだけ輝いていた太陽の光も少しずつ届かなくなり、薄暗くなる。
 明かりのない階段を無言で下りていく。太陽の光が届かなくなり、周囲が薄暗闇から暗闇へと変わる頃、ようやく階段の終わりを告げる重そうな鉄の扉が現れた。

「開門!」

 号令とともに重い音を響かせながら扉が開く。
 そのまま扉の中に入っていくと、岩がむきだしとなっている広いロビーの中央に底の見えない大穴があった。大穴の壁には窓があり、中でヒトが生活している姿が見える。
 ここは天然の洞窟を人工的に加工した地底住居だった。だが、住居といっても千人単位で生活できるだけの広さがある。

 青年が歩いていると、少し見栄えのいい服を着た黒髪の男達が駆け寄ってきた。そして、そのまま並んで両膝を地面につけ、頭を下げた。

「お待ちしておりました。ゼウ王が第四王子、ラウ様。出迎えが遅れて申し訳ございません」

 青年は黒い瞳で周囲を眺めながら、足元の男達に感情の見えない声で命令した。

「白一族を一人、捕まえました。明日の昼、公開処刑をしますので、最下層の牢へいれておいて下さい」

 それだけ言うと、青年は再び歩き出した。すぐに男達がついて行こう立ち上がったが、青年は手の動作だけで拒否をして洞窟の奥へと姿を消した。

「おら、おまえはこっちだ」

 声とともに、いきなり両手を縛られている紐を引っ張られ、子どもがバランスを崩して前に倒れる。その見事なこけっぷりに、周りの大人たちからバカにした笑い声が溢れた。

 だが子どもに周囲のあざけりと憎しみのこもった視線を気にする様子はない。顔についた土を払うことなく、無表情で立ち上がる。その顔には恐怖も苦痛もなく感情さえ見られない。

 そんな子どもの様子に紐を持っている男が舌打ちをした。

「その強がりも、いつまで続くか楽しみだな」

  男はそう言うと、通気溝の穴らしき場所の前に子どもを連れて行き、穴を塞いでいる柵を外した。

「入れ」

 言葉と同時に背中を押され、子どもは無理やり穴の中に押し込まれた。穴の中は急斜面になっており、 そのまま小さな体は強制的に螺旋状になっている坂を転がり落ちていった。




 どこまでも広がる白い世界。全てが白く、どこまでが床でどこからが壁か分からない。

 そんな白一色の世界にヒトが一人立っていた。

 どこかで見たことあるような、初めて見るような、曖昧な光景。

 白い世界に立っているヒトは、世界と同じ白いローブを身にまとっていた。そのため長いオレンジ色の髪がよく映えている。線が細く男性か女性かよく分からない体型をしており、顔は長い髪で隠されていた。
 性別は不明だが、前髪の間からオレンジからパロットグリーンへと変わる不思議な色の瞳が見える。

 ずっと無言で立っていたヒトが細く白い両手をゆっくりと胸の前に持ってくると、手の中に茶褐色の惑星が現れた。

 特徴的な瞳でまっすぐ両手の中にある惑星を見つめたまま、ゆっくりと細い指を曲げる。
 力も入れていない軽い動作なのだが、手の中の惑星が簡単にパラパラと乾いた音を立てて崩れ落ちていった。

「……また、星が一つ死んだ…………」

 切なく小さな呟きは静かに白い世界に溶けていった。




 目覚めた白銀の瞳が始めに見たものは岩の天井だった。真上には、そこから転がり落ちてきたと思われる小さな穴が一つある。ベッドも椅子も何もない、岩をくりぬいただけの小さな牢。出入り口に太い鉄格子があるだけで、見張りさえいない。

 子どもはとりあえず体を起こすと、全身についていた土埃が地面に落ちた。

「あれは……誰だ?夢?いや、どこかで見たことがあるような……」

 子どもが俯いたまま考え込む。先ほど見た夢の中のヒトの顔を思い出そうとするが、思い出せない。
考えこんでいると、どこか幼さの残る明るい声に呼びかけられた。

「ねぇ、あなたの名前は何ていうの?」

 焦点の合っていなかった白銀の瞳に光が戻る。
 子どもが視線を動かすと、鉄格子の前に十代中頃ぐらいの少女がいた。長いまつ毛と大きな黒い瞳に、切りそろえられた黒髪が特徴的な可愛らしい少女だ。

 少女は黒髪の間から出ている豹のような耳をピクピクさせながら、大きな瞳をますます大きくして興味津々に話しかけてくる。

「私の名前はキウ。あなたは?」

 人懐っこい笑顔で警戒心がない。両膝を地面につけて、無邪気な子どものように話しかけてくる。
だが白銀の瞳は黒い瞳を見た後、興味なさそうに視線を逸らした。

「あ、ちょっと、聞こえているんでしょ?私……」

 そこに慌しい足音と、かん高い声が聞こえた。

「キウ様、探しましたよ!何故、このようなところに、おられるのですか!?このことが知れたら……」

 侍女の小言をキウと呼ばれた少女が慣れた様子で聞き流す。そして、今までの無邪気な雰囲気を消して、毅然とした態度で立ち上がって言った。

「わかりました。もう、いたしませんわ。用件は?」

 キウの言葉に侍女は仕事を思い出して用件を言った。

「ラウ様が呼んでおられます」

「お兄様が?わかりました」

 キウは頷いたが侍女はそわそわと手を動かしながらチラチラと後ろを見ている。
 その様子にキウが声をかけた。

「他にも仕事があるのでしょう?すぐに戻りますから、そちらへ行って下さい」

 侍女は少しだけ驚いた顔をしたが、一礼をすると足早にその場を離れた。
 キウは侍女の姿が見えなくなると、服の中から銃とポーチを取り出して牢の中に置いた。

「今度、会った時には名前を教えてね。約束よ」

 そう言うと、キウは手を振りながら走り去っていった。
 子どもはキウの姿が見えなくなると、ポーチを腰につけて銃を手に取った。銃を一通り点検して、地面に銃口をむける。すると銃口の先の地面が少し盛り下がり、そのまま穴が開いた。

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