語られない物語~異界の天使たちによる異聞禄~

新たな武器

 ジャングルの中を走り抜けながらオーブは呟いた。

「結界を張りたくても手持ちのナイフだと数が足りないし……」

 そう言いながらオーブが弓に視線を向ける。
 矢を使って結界を張ることもできるが、この黒い影全てを封じるためには広範囲に相当な数の矢を打つ必要がある。広い場所であれば問題なく矢を放ちまくることができるのだが、今は一回矢を放つことも難しい状況だ。

 対策を考えているオーブの背後から黒い影のような手が伸びてきた。

 オーブが慌てて走っていた進路を変えて黒い影のような手を避ける。振り返ると黒い影の蛇から何本もの黒い影のような手が生えて、自分に向かって伸びてきていた。

「どこのホラー映画だよ!」

 オーブが思わず弓をかまえる。だが木に弓が当たりバランスを崩した。

「うわぁ!?」

 体勢が崩れて放たれた矢が上空へと飛んでいく。そこに黒い影の蛇から伸びた手がオーブにおおいかぶさるように迫ってきた。

「しまっ……」

 あと少しで黒い影の手がオーブに触れるっといったところで、目前に橙色の光の輪が現れた。ショートカットの黒髪が風に揺れ、無防備な背中がある。

「蘭雪!」

 無数の黒い影の手がオーブではなく蘭雪に襲いかかった。逃げる間もなく蘭雪の姿が黒い影の手に包まれて視えなくなる。その瞬間、オーブは左手を突き出して叫んでいた。

「蘭雪に触るんじゃねぇ!」

 怒声と共にオーブの両手が輝き、左手から光が一直線に伸びる。その光は黒い影の手と蛇を消し去り、その場には現れた時と同じ姿勢で蘭雪が立っていた。

「蘭雪!無事か!?」

 オーブが慌てて立ち上がり怪我がないか蘭雪の体を確認する。
 盛大に心配しているオーブに対して、蘭雪は不機嫌そうに答えた。

「まったく。そろそろ時間切れになるから注意しに来たのに、なに苦戦しているのよ?」

「時間切れ?」

 蘭雪がオーブの首を指さす。

「もうすぐ一時間よ。浄化装置の効果が切れるわ」

「あ、もうそんな時間か」

「あとは私が片付けておくから、先に帰っていなさい」

「片付けるって、そんな簡単に出来るのか?」

 蘭雪はジャングルの上空をおおっている黒い影を見た後、オーブの両手に視線を移した。

「さっき私が片付けてきたのより数は少ないから問題ないわよ。でも、その武器があれば私が一人で片付けるより早く終わると思うわ」

「その武器って……なんだ、こりゃ!?」

 オーブは自分の両腕を見て思わず声を上げた。小型のクロスボウがオーブの両手首から肘にかけて固定されていたのだ。

「いつの間に!?どうなっているんだ!?」

 両手を上げて様々な角度からクロスボウを観察しているオーブに蘭雪が声をかける。

「手伝う気はあるの?ないの?」

「いや、手伝う気はあるけど、どうするんだ?」

「海で魚を捕る方法と同じよ。その矢で偵察機の逃げ道を塞ぐだけでいいわ」

 簡潔な説明だがオーブはそれだけで理解したらしく頷いた。

「このクロスボウなら、ここからいくらでも矢が打てるからな。けど、それをするには蘭雪が偵察機より上空にいないといけないだろ?出来るのか?」

 蘭雪は言葉で答えずに右手首を軽く下から上に捻った。それだけで蘭雪の足元から水柱が遥か上空へと打ちあがる。

「じゃあ、あとはよろしく」

 そう言うと蘭雪は水柱の中に入り、そのまま偵察機より上へ登っていった。

「あの偵察機は水の中までは入ってこれないってワケか。さて、時間もないし、さっさとするか」

 オーブが遥か上空を見上げながら、両手を上空に向ける。クロスボウには常に矢が装填されており、あとは発射するだけだ。

「いちいち矢を装着しなくていいから楽だよな」

 オーブは水柱の周辺に集まってきた黒い影に矢を放った。二本の矢が数十本に分裂して黒い影の一角を消し去る。地上からの攻撃に黒い影が動きを変えて一か所に集まってきた。
 攻撃対象を地上に変更した黒い影に対して、オーブが再び矢を放つ。矢は黒い影の外側を囲み、逃げ道を塞ぐとともに黒い影を小さくまとめる。そこに空から巨大な白い網が降ってきた。

「本当に漁をしているみたいだな」

 水柱の中から現れた白い網が黒い影を一網打尽で包み込む。そのまま白い網が収縮して中にある黒い影を圧縮していく。

「糸って意外と使い道があって便利だよなぁ」

 オーブが呟いていると水柱が地中へと消え、白い袋を持った蘭雪が現れた。偵察機は圧縮されたことにより鉄屑となっている。

「じゃあ、これを持って先に帰っといて」

 オーブは浄化装置の残り時間を考えて、素直に白い袋を受け取った。

「さっさと戻って来いよ」

「紫依次第ね」

「そうだな」

 オーブが頷いて見上げると、青空の下に三つの影があった。

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