語られない物語~異界の天使たちによる異聞禄~

早朝の来訪者

 翌日の朝。
 蘭雪が欠伸をしながら朝食を食べるために食堂に入ると、紫依がテーブルの上に皿を並べていた。

「おはよう。オーブは?」

 いつもならオーブが朝食を準備しているのだが、その姿がない。

「おはようございます。オーブは一人で考えたいことがある、と言われて先に朝食を食べてから、どこかへ行きました」

「まったく。まだ引きずっているのかしら?それとも打開策でも考えているのかしら?」

「何かありましたか?」

「オーブ個人の問題だから紫依は気にしなくていいわよ」

「はぁ……」

 紫依が軽く首を傾げていると、瞳が半分しか開いていない朱羅が入ってきた。

「おはようございます」

「………………あぁ」

 紫依の挨拶に朱羅がどうにか答える。朱羅が朝弱いことはいつものことなので、紫依は気にすることなく朱羅の朝食も準備していく。

「手伝うわ」

「下準備はオーブがしてくれていましたので、あとは並べるだけですから。座って待っていて下さい」

「わかったわ」

 蘭雪と朱羅が椅子に座ると、紫依が手際よく朝食を並べた。

「いただきます」

 紫依の声に合わせて二人も朝食を食べ始める。半覚醒の朱羅も事務的に手と口を動かして朝食を消化していく。

 そんな朱羅を置いて、蘭雪は紫依に話しかけた。

「オーブがいないと結界が弱くなるから午前中は力を武器にする練習ができなさそうね」

「はい……ですが、その前に武器のイメージが違うところを直さないと、具現化できないんですよね?私は、そこがまだ出来なくて……」

 そう言いながら紫依が朱羅に視線を向ける。だが朝が弱い朱羅は声をかけたとしても、すぐに返事はない。むしろ、こちらが忘れた頃に返事をしてくるほどだ。

 蘭雪が困ったように微笑む。

「そうよね。紫依はラファエルじゃないんだから、ノーヒントで同じ武器を想像しろって言っても無理な話よね。まったく何を考えているんだか」

 蘭雪が朱羅に呆れたような視線を向けるが予想通り反応はない。

「今日のことは朱羅の頭が起きてから考えましょう」

「そうですね」

 二人が納得して朝食を食べていると、巨大なスクリーンが空中に出現した。映っているアークが慇懃に一礼する。

『お食事中に失礼します』

 丁寧ながらも、どこか焦りを含んだ声に蘭雪が手を止める。

「どうしたの?」

『先ほど神からの攻撃を確認しました。偵察が目的のようで少々厄介な相手です』

 半分しか開いていなかった翡翠の瞳が鋭く光る。

「どういうことだ?」

『虫のような小型機で、まとめて駆除をしようとしても飛散して逃げるのです。かと言って、一機、一機を落とすには小さい上に数が多すぎて苦慮しています。このままでは基地に侵入されてしまいます』

「場所は?」

『この基地の上空と、ここの一番近くにある基地の上空です』

「偵察機ってことは、攻撃能力はないだろうから、朱羅が全部燃やせば終わるんじゃない?」

 そう言って蘭雪が朝食を再び食べ始める。そこにアークが言いにくそうに口を開いた。

「それが、この基地の上空にはルシファーがいまして……」

 その一言で紫依が立ち上がり食堂を飛び出した。

「紫依!?」

 追いかけようとする朱羅を蘭雪が止める。

「紫依の瞳の色が変わっていたわ」

「まさか……」

「私は隣の基地の上空にいる偵察機を殲滅してくるわ。朱羅はこの基地の上空にいる偵察機を殲滅して。こんな時にオーブはどこに行ったのよ?」

 いら立ちを顔に出している蘭雪にアークがすまなそうに報告をする。

「オーブは三十分ほど前にこの基地の上に出て行きました」

「もう!浄化装置だって数に限りがあるのに勝手に使わないでほしいわ」

 自分が勝手に使っていたことは、しっかり棚に上げて文句を言う。朱羅はアークに指示を出した。

「紫依はルシファーのところに行ったと思う。オーブに連絡を取って、地上で紫依を捕まえるように言ってくれ。行くぞ」

「すぐに殲滅して、そっちに合流するわ」

 二人は部屋から飛び出して行った。

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