語られない物語~異界の天使たちによる異聞禄~

守護者と主

 釘を挿すような言葉に紫依が手の主を見ると、そこには獅苑がいた。

「あ……」

 紫依の声を聞いて、獅苑がブローディアに向けていた鋭い視線を消す。そして穏やかに黒い瞳を細めて紫依を見つめた。

「先ほどは長話をしてしまい、失礼しました。体は大丈夫ですか?」

 温泉ではしっかり顔を見ることが出来なかったため、紫依は改めて獅苑の姿をしっかりと確認した。月がない夜のような闇夜と同じ黒い髪と瞳に端整な顔立ち。それでいて体格は男性とわかるぐらい、しっかりしている。

 紫依は顔を少し上げて黒い瞳と視線を合わせた。

「はい。辛い記憶であったのに、私のわがままでお話しして頂き、ありがとうございました」

 頭を下げる紫依に獅苑が首を横に振る。

「いえ、あなたに助けて頂いたことに比べれば些細なことです。このご恩をお返しするためにも、力を貸させて下さい」

「ご恩というほどのことはしていませんよ」

「いえ、貴女は私の命の恩人です。微力ですが、お手伝いさせて下さい」

 押し一点の紫苑をブローディアが止める。

「それぐらいにしとけ。それにおまえは、まだ調整中だろ?さてはウォーターに内緒で出てきたな?」

 ブローディアの鋭い指摘に獅苑の表情が固まる。そこに鈴の音のような澄んだ声が響いた。

「獅苑!」

 水のように流れる水色の髪と、髪の色より少し明るいアクアブルーの瞳をした十六、七歳ぐらいの少女が部屋に飛び込んできた。

「まだ身体に資材が定着していないのですから、勝手に動いたらダメですよ」

 自分の体を心配する少女に獅苑はすまなそうに弁解した。

「先ほどお会いした時は礼を言えなかったので……」

「その気持ちはわかりますけど、自分の体の状態も考慮して下さいね」

 そう言うと、少女は獅苑の前に立っている紫依を見て、嬉しそうに顔をほころばせた。

「あなたが紫依さんですか?獅苑から聞いた通りの方ですね」

 少女は一歩下がってスカートの裾を掴み優雅にお辞儀をした。紫依に負けず劣らずの可愛らしい顔立ちと優雅な立ち振る舞いは王侯貴族のような雰囲気がある。

「ラファエル博士製作、人間型ロボット、ウォーターと申します。この度は私の弟である獅苑を助けて頂きありがとうございました」

「弟?あ、そうでしたね」

 紫依が獅苑から聞いた話を思い出して頷く。ウォーターがダメ押しのように説明をした。

「同じ製作者から造られたのですから姉弟になりますでしょう?人間で言うなら同じ親から生まれたことと同じですから」

「確かにそうですね」

 紫依が頷いていると、ウォーターの後ろからもう一人、部屋に入ってきた。

 それは年齢が十歳ぐらいで男の子にも女の子にも見える子どもだった。プラチナのように輝く銀髪と猫のように丸い白銀の瞳をしていたが、それ以上に特徴的なモノがある。
 銀髪の間から猫のような大きな耳が生えているのだ。ピクピクと音のする方に動くそれは紫依が見る限り本物のように見えた。

 そんな紫依の視線を知ってか知らずか、子どもが紫依の近くに歩いてくる。

「賑やかだな」

 子どもの呟きにオーブが身を乗り出して声をかける。

「おや、珍しい。なんでこんなところに?」

「守護者たち全員が仕事を投げ出して、ここに集まっているからな。私の立場としては守護されなければならないから、ここまで来たんだ」

 子どもの憮然とした言葉を聞いてブローディアが頭をかきながら謝る。

「あー、悪い、悪い。まさか獅苑とウォーターが来るとは思わなかったからさ。でも、本当は紫依ちゃんを見たかったんじゃないの?」

「それもある」

 そう言って子どもがまっすぐ紫依に視線を向ける。話が見えない紫依は説明を求めて目の前にいる獅苑を見た。

 獅苑が心得たように頷いて子どもを紫依に紹介をする。

「こちらはプアール、賢者の住む城ファースの主です」

「あ、獅苑さんが仕事をされている場所ですね?」

「はい」

 頷く獅苑に対してプアールが平然と補足を加える。

「と、言っても今は城を追われた逃亡者だがな」

 そこにアークが申し訳なさそうに話に入った。

「神の情報を提供してもらっていたのですが、そのことが神に発覚しまして。今はここに身をひそめているのですよ」

「大変ですね」

 無表情ながらも、どこか心配そうな紫依に対してプアールは気にした様子なく平然と言った。

「仕方あるまい。獅苑、そろそろ帰れ。体が崩壊し始めているぞ」

 プアールが指さした床には黒い鉄くずが落ちている。獅苑はそれを見て苦笑いをした。

「長居をしすぎたようですね。今日はこれで失礼します」

 獅苑は紫依に一礼するとウォーターとプアールと一緒に部屋から出て行った。

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