ストレイ・ラム

Motoki-rhapsodos

第52話

それから数日たったある日。俺は珍しく寝坊をして朝の道路を学園に向かって走っていた。

小さな公園の前を通り過ぎようとした時、俺の名を呼ぶ声に立ち止まった。キョロキョロと周りを見回す。すると公園の中、ブランコに腰掛けた松岡がこっちに向かって手を振っている。

俺はチラリと腕時計を確認すると、急いでブランコに駆け寄った。

「――何、それ」

彼の腕には、三匹の子猫が乗っている。片手の掌に充分乗りそうなその子猫達を抱えた松岡が、ニッコリと俺に微笑みかけた。

「子猫。拾ったんだ」

「ああ、ああ、そうだろうな。でも、もうすぐチャイムが鳴るってこの時間に、なんで子猫を抱いてんだ?」

イライラと言った俺に、松岡がのんびりと声を出す。

「だって。あの茂みの前を通ったら、ミャーミャー何か鳴いてんだぜ。気になんだろ?」

「だぁー! 子犬の時とおんなじパターンじゃねぇか! それも、一時限目は地理……」

目眩をおこした俺は、大きく溜め息を吐き、取り敢えず彼の腕を掴んで歩き出した。

「帰りまで置いといて帰りに拾う、じゃ駄目だったのか。しかも三匹も……」

「だって、こんなに小さいんだぜ。犬とかに襲われるかもしれねぇし、車に轢かれるかもしれねぇ。そーなったら、寝覚め悪いだろ?」

「そりゃ、そうかもしれないけど……」

言った俺に、松岡はハタと足を止めた。

「あっ、そういや知ってるか? 佐藤なんだけどよ、あの事故に遭った時、確かに見たって言ってるそうなんだ」

「何を?」

俺も足を止めて松岡を振り返る。その俺から視線を逸らし、彼は眉間に皺を寄せた。

「鎧武者」

「なんだと?」

「先回りしてた新崎の後ろに、確かに刀を抜いて立ってたって言ってるらしい。今にも新崎に切り掛かろうとしてたって……。それともう一つ――」

「まだ、あるのかよ?」

俺に顔を近付けた松岡が、そっと声を顰める。

「あのカーテン。佐藤が見た時、二枚カーテンが開いてたよな、まるで佐藤に鎧武者の映像を見せるかのように。だが高科先輩の話では、あの晩、確かにカーテンは閉まっていたそうだ」

「高科先輩? ……お前、あれから高科先輩としゃべったの?」

「ああ」

俺は意外な面持ちで松岡を見つめた。

「いつ? ってか、お前手ェ早くないか?」

「早くねぇよ。先輩が昨日うちの店に来たんだ」

「――何しに?」

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