ストレイ・ラム

Motoki-rhapsodos

第43話

俺達を指差し叫んだ新崎に、松岡はハハハッと笑い声をあげた。

三人の視線を一身に浴びた彼は、驚く俺達を眺めるように見回し、頬杖をついた。

「先生、あんた明日も教師続けてるつもりなの? おめでたいねぇ。あんたが何故、処分されてないと思うんだ? それはそれは、愛情深い高科先輩のお陰さ。彼女はあんたの事を理事長である父親にさえ黙ってる。健気だよな、あんたみたいな奴を庇うなんて。――だが。なぁ、先生。俺達はあんたに怒りを覚えこそすれ、庇う義理なんてないんだぜ。理事長はどっちを選ぶかなぁ? 妻も子もいるのに自分の娘に手を出したあんたと、その教師を殴り付けた俺達と……。なんなら明日、直接理事長に訊いてみるか?」

「……貴様。俺を脅すのか?」

「いえ、とんでもない。これは現実問題の話ですよ」

大胆不敵な松岡の笑みに、なんだか俺も笑いが込み上げてきた。

「そりゃ、ごもっとも」

「だろ?」

ハハッと笑い合う俺達を、恨みの籠った目で新崎が見つめる。しかしその顔は蒼ざめ、言い返す気力もないようだった。

「そうは言っても、先生。あんたの家族にはなんの責任もない事だし、折角の高科先輩の心遣いも無駄になってしまう。一度だけチャンスをあげますよ。明日、辞表を提出なさい。理由なら、なんとでも思いつくでしょう。――兎に角すぐ教師を辞めろ。俺は、あんたの顔さえ見ないで済むようになりゃ、いいだけだからな」

最後は吐き捨てるように言った松岡の言葉に重なるように、スマホのバイブの音が聞こえてきた。素早くズボンのポケットからスマホを取り出した松岡は、相手が誰か確認して耳にあてた。

「はい。こっちはもうすぐ終わりそうだよ。――え? ホントに? ……うん、……うん。……そう……。――いいタイミング。じゃ、後で寄る。ありがと」

スマホをポケットへとしまった松岡は、俺達に笑いかけた。

「いい知らせだ」

そう言って、慌てて付け足した。

「ああ、新崎先生にとってはそうでもなさそうだけど……」

クスクスと笑って、上目遣いに新崎を見遣る。

「佐藤の意識が戻った。何日も意識がなかった割にはしっかりしててね、彼女。綾香にあんたに追いかけられた事を告げたそうだ」

床に両手をついて呆然とする新崎に、松岡の笑いを含んだ声が降り注いだ。

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