ストレイ・ラム

Motoki-rhapsodos

第42話

「我が学園随一の問題児。学校はサボる、子犬を持ち込んでは授業を妨害、二階の窓からは飛び降りる。その上、今度は校内暴力か……」

「ご存知いただいていたとは光栄ですよ、先生」

余裕の笑みを浮かべていた松岡は、次の新崎の言葉に、サッと顔色を変えた。

「やはり、片親ではまともな子は育たないようだな。君の母親も心中ではさぞや嘆いている事だろう、こんな事なら産むのではなかった、とな」

ニヤリとする新崎に松岡は歯を食いしばり、組まれた両手は、筋が浮き出る程強く両肘を掴んでいた。俺の隣では高科先輩が、嫌悪をあらわにして新崎を見つめている。

俺は一人、反応が遅れてしまった。彼が何を言っているのかも、理解出来なかった。

二人が何に、憤っているのかも……。

だが――。

松岡の、あの表情。

一瞬。ほんの一瞬だけあいつは――。泣き出しそうな顔をしたんだ。まるで迷子の子供のように、不安に怯える瞳を、俺に見せたんだ。

俺が行動を起こすには、それだけで充分なようだった。

知らぬ間に右手で拳を握り、それを新崎の頬に向けて、力任せに繰り出していた。

ゴチッと厭な音をさせて拳は新崎の頬骨に当たり、予想もしない所からの攻撃に、今度は床へと直接倒れ込んだ。

「いってぇ!」

拳を擦りながら叫ぶ。

高科先輩は半分腰を浮かした状態で俺と新崎を交互に見つめ、松岡は驚愕を顕わにした顔つきで俺を凝視していた。

暫くは誰も何も言わなかったが、やがて力を抜くように細く息を吐いた松岡は、呆れた声を出して言った。

「こんくらいで、熱くなんじゃねぇよ。俺は平気だぜ、こんな奴になんと言われようがな」

「――ああ、そうかよ」

薄く微笑みを浮かべた松岡に鋭い視線を向ける。

「なんだ。今度はヤツ当たりか」

「うっせぇッ」

――でも。

でもそれなら、俺にあんな顔を二度と見せんじゃねぇ……。

心臓が疼くような怒りに、声が震えていく。

なんでこんな奴に、あんな事を言われなきゃなんないんだ。なんで松岡に、あんな表情をさせるんだ。


――なんで、こんな奴が!


初めて抱く感情に、全身の毛が逆立った気がした。

睨み付ける俺の前で体を起こした新崎は、今度は笑いを浮かべる余裕すらなく俺達に目を剥いた。

「憶えてろよ、貴様等。教師を殴っといて、只で済むと思うな。退学を覚悟しておけ!」

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