ストレイ・ラム

Motoki-rhapsodos

第35話

追いかけようとする先輩に、振り返り手を振る。

「いいんです、風邪ひかないように」

そう伝えて俺は松岡の傘に走り込んだ。

「濡れるつもりがないなら、他人に傘なんか渡すんじゃねぇよ」

ブスリと不満げに言った松岡だったが、そう言いながらも俺にも傘をさし掛けてくれている。

「本人が濡れたいって言ってんだから、放っときゃいいんだよ」

「いいんだ」

俺は袖で眼鏡を拭きながら、心底そう確信していた。

「今更傘なんてさしても一緒だろうに。あんだけ濡れてりゃな」

「いいんだ。濡れてても、傘一本がとんでもなく有難い時って、あるんだから」

「…………」

フンと鼻を鳴らした松岡は、俺に傘を渡すとズボンのポケットからスマホを取り出し、画面を押した。

「あ、依羅さん。俺。そう、今日登校して来たよ。今日はそっちへ行くの遅くなると思う。うん、そう。忍び込む。――あ、そっちじゃなくて、佐藤を事故に遭わせた奴を突き止める。……ああ、動くね、絶対。兎に角、帰りに寄るよ、じゃ」

驚きの瞳で見つめる俺に、スマホをしまった松岡はクスリと笑って顔を向けた。

「何?」

「資料室を調べるのは、明日なんだろ? それに何? 佐藤を事故に遭わせた奴って……。どういう事?」

「勿論、明日になるだろうな。資料室を調べるのは。――さっきの彼女の態度を見ただろ? 何かするつもりだぜ、今夜。彼女には当然、心当りがある筈だしな。謎の追跡者の」

「なんで先輩が知ってるんだ? 謎の追跡者の正体を」

「それは、一緒だったからさ。先輩が佐藤の傘に入った理由と、謎の追跡者が佐藤を追いかけた理由がな」

「でも、先輩が佐藤の傘に入った理由って――鎧武者じゃないか」

「そう、だが違う。厳密には、佐藤が『あの窓に鎧武者を見た』と言った処に、高科先輩があそこまでした理由があるんだ。彼女は信じていなかったのさ、佐藤が見たのが鎧武者だなんてな。あの、最初に俺達が高科先輩に話しかけた時、彼女言ってただろう? 『まさか、本当に鎧武者を?』ってさ。彼女は別の何かを佐藤に見られたと思い込んだんだ、あの場所でな」

「別の……何か?」

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