ストレイ・ラム

Motoki-rhapsodos

第33話

勢い込んでいた俺達は、次の日登校して肩透かしを食らわされる事となった。

何故なら、肝心な高科先輩が学園を休んでいたからだ。理由は体調をくずしてとの事だったが、翌日も更にその翌日も、彼女は登校して来なかった。その間松岡は不機嫌だったが、頻繁に職員室に寄っては、普段は話などしたがらない担任の山本に親しげに話しかけていた。その内容は学園内の教師達についての他愛ない話だったが、何かを探っている様子だった。

何故そんな事をするのかと俺が訊いても、「確信の持てない事だから」と何も教えてはくれなかった。

次の週になって、やっと高科先輩が登校して来た。

「休み時間では駄目だ」と松岡が言うので、俺達は放課後になるのを待って高科先輩のクラスへと向かったが、先輩は既に帰ったとの事だった。仕方なく靴を履き替えて帰ろうとした俺達は、外の雨の中、ポツンと立ち尽くす高科先輩に気が付いた。

「どうしたんだろ、また傘でも忘れたのかな」

「さあな、只濡れてみたいんだろ」

素っ気なく言った松岡の台詞に顔を顰めて、俺は高科先輩へと走り寄った。

「どうしたんですか?」

傘をさし掛ける俺に振り向いた彼女は、一瞬驚いてから顔をほころばせた。

「たまには、濡れてみようと思いましたの」

そう言って暗い空を見上げる。その横顔が、俺には異様に蒼白く感じられた。

「そんな量の雨じゃないでしょ。それに……病み上がりなんですよね?」

「ええ、でも大丈夫ですわ。……これくらいで、死んだり出来ないでしょう?」

幾筋もの雫が滴り落ちる顔を、俺に向ける。その彼女の言い方が気になって、俺は食い入るようにその虚ろな瞳を見つめた。

「私は、あなたにやさしくしてもらっていい人間ではありませんわ。あなた方は小さな命を救いましたけど……。私は――」

グッと手で口を押さえた彼女は、吐き気を堪えるようにそのまましゃがみ込んでしまった。小刻みに震えるその背中を見下ろした俺は、一緒になってその横に座り込んだ。

「どうしたんですか? 先輩。佐藤の事、気にしてるんですか?」

覗き込む俺に、先輩は顔を背けたままで何も答えなかった。

仕方なくその沈黙に付き合いながら、俺はあの日と同じ、濡れた地面に視線を落とした。


――そう。あの時もこんなふうに、地面で跳ねた雨が顔に当たっていたんだ……。

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