ストレイ・ラム

Motoki-rhapsodos

第11話

傘をその場に置いて、俺達二人は真っ暗な廊下を中央階段に向かって進んだ。小さなペンライトだけで進む学園の廊下は、普段は歩き慣れているのに、まるで知らない場所のように感じられた。只でさえ、夜の学園なんて怪談話の恰好の餌食にされるくらい恐怖心を煽ってくれるモノなのだ。

その上、外はお誂え向きに雨ときている。耳を澄ませば、ザァーという雨音が耳に届く。それに混じって、時折ビクリとさせられる程の大きな雷の音までが聞こえてくるのだ。この雨と雷が目的の内の一つなのだから文句は言えないが、「また、あの不思議な手並みを見られるかも」と単なる好奇心だけで同行した事を、俺は少々後悔し始めていた。

――これじゃ、友也さんを笑えない……。

それでも前を歩く松岡は、暗い事も雨や雷の音などもお構いなしで、ボスボスと水を含んだ靴の音をさせながら、闇でも目が見えるかのように平然と歩いていた。

「さあ、いよいよ中央階段だ。楽しみだなぁ、山下。鬼が出るか、じゃが出るか――」

振り返った松岡が、嬉しそうに肩を震わせているのが気配で判る。「何が嬉しいんだ」と心の中でボヤきながら、俺は既に「さっさと終わらせて帰りたい」という心境になっていた。

「出てくるとしたら、『鎧武者』だろ」

もう、どうでもいいと半ば投げやりに言った俺に、松岡はハハハッと笑い声をあげた。その声が異様な程階段に響き、俺はゾクリと背中を強張らせた。

「大きな声出すなよ」

大して役に立たないペンライトで階段を照らし、一歩一歩足を踏み出す。相変わらず松岡は、不気味に響く足音など少しも気にならない様子で、軽やかに階段を上がって行った。

二階から三階に続く踊り場で足を止めた松岡は、何も無い暗闇を見上げた。宙を見つめたまま動かずに、それでも何かを探るように目を細める。

シンと緊張感を伴った静寂が、辺りを包む。それに加え微かに聞こえる雨音が、恐怖心を煽るには絶好の役割を果たしていた。雨音に混じり、『鎧武者』のカシャカシャという廊下を歩く足音までが、聞こえてきそうな気配だった。

「なんだよ。何かあるのか?」

「ああ。――鎧武者だ」

予想だにしない松岡の答えに、目を剥く。

「そっかぁ」

彼は歓喜の声をあげると、俺の事などお構いなしで、跳ねるように階段を駆け上がった。

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