ストレイ・ラム

Motoki-rhapsodos

第6話

「大体の事は今、保が伺ったようですが、あと一つだけ私からも質問があります。その鎧武者以外に、何か不審なモノを見たり、気付いたりした事はありませんか?」

「不審なモノ、ですか?」

「そう――例えば何か、いつもと違っていたモノとか」

眉を寄せた佐藤は、目を閉じて真剣に思い出そうとしていた。そして小さく「あっ」と声を出すと、依羅さんを見上げた。

「何か――ええ、確かに何かがいつもと違っていました。だから、校舎が気になったんだと思います。でも、凄く感覚的なモノだったのでそれが何かまでは……。あと、いつもと違う事といえば、黒い車でしょうか」

「ほう、車……」

「はい。鎧武者を目撃して逃げ出した時に、裏門の角を曲がった所で停まっていた車に、ぶつかりそうになったんです。いつもは、そんな所に車なんて停まっていません」

「ふん」

チラリと松岡と視線を交わし合った依羅さんは、佐藤に向かって告げた。

「では明日の夜から、調査を開始いたします。結果が出次第、綾香さんを通して連絡させていただきますので、お待ち下さい」

「私も行く!」

突然ガタンッと立ち上がった綾香に、全員の驚いた視線が注がれた。

「明日の夜って事は、校舎に忍び込むつもりでしょ! 松岡、私も連れてって」

「綾香っ!」

目を剥いた友也さんに、彼女は見向きもせず更に言葉を続けた。

「お母さんになら、お兄ちゃんの所に泊まるって言えばいいし、私幽霊とか信じないから、全然平気!」

「馬鹿! お前何言って――」

語気を荒げた友也さんに、依羅さんが制するように右手を一振りした。それだけの動作であったが、その場にいた俺達全員の注意を惹きつけるには、充分だった。

「恐れ入ります、子羊ラム。依頼されたからには、こちらの指示に従っていただかねば困りますね。お聞き入れ願えないのでしたら、残念ですがこのご依頼、お引き受けし兼ねますが」

佐藤を見つめながら薄く微笑んだ依羅さんに、綾香の顔が蒼ざめた。その笑顔はいつもと変わらぬように見えたが、体から出す威圧的な雰囲気はいつも以上で、決して反論は許さなかった。

「……ごめんなさい」

小さく呟いて、綾香が椅子へと腰を下ろす。

これ以上ないくらいに消沈した彼女は、その後もずっと元気がなかった。

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