ストレイ・ラム

Motoki-rhapsodos

第59話

確認するように言った松岡に、小西が「当然だ」と頷く。暫くの沈黙の後、フイッと俺達に顔を向けた小西は、力ない笑みを浮かべた。

「なんであんな事、したのかって思うよ。今更だけどな」

今にも泣きだすんじゃないかと思える彼の顔には、明らかな後悔の念が染み出していた。きっと誰にも言えず、今まで過ごしていたに違いない。此処に来たのは、誰かに話したかったからなのかもしれない。

――それこそ、『懺悔』でもするように。

「バレる前に、目が覚めてよかったじゃん。――ああ、キャプテンにはバレたか。でもあの人は、他の奴にしゃべったりしないんだろう?」

「ああ。狩野は、しゃべったりしないな。そういう奴だから、キャプテンに選ばれた」

「なるほど」

ぎこちない二人の会話は、始まっては途切れ、また再開される。――ゆっくりと。

「ああ、そうだ。これだけは誤解しないでくれよ。お前達は信じないかもしれないけど、俺が映画館で見たっていうあれは、嘘じゃない」

「判ってるよ。だが、あれがキッカケになったのには、違いないんだろう?」

「……そうだな。――それに最近、思うんだ。俺が見たあれは、武田のじゃなく、俺の『ドッペルゲンガー』だったんじゃないかってな。お前があの時言ってただろ? 『幻想に取り込まれた奴は、自分の幻に逆に操られちまう』って」

不安げに言った小西に、松岡が小さく笑みを洩らした。

「俺はあの時、こうも言ったぜ。『幻想世界の住人は、現実世界では生きていけない』ってな。あんたが映画館で見たのが人違いだったのか、ドッペルゲンガーだったのか、調べようもなけりゃ興味もない。だがドッペルゲンガーが振り向かなかったのなら、本体であるあんたの勝ちだ。言ってたじゃないか。『声をかけたのに、振り返りもしなかった』って。向こうが避けたんだろうぜ。……きっとな」


松岡の言葉を最後に、二人の会話が途切れた。店に流れるバイオリンの音楽が、二人の会話を引き継いだように、そっとその沈黙を埋めていた。





          

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