ストレイ・ラム

Motoki-rhapsodos

第47話

「賢い犬というのはね、むやみに鳴いたりしないものだよ。――それより保。彼にはちゃんと、説明した方がいいように思うんだけどね」

チラリと俺を見遣った依羅さんは、諭すように松岡に言った。

「ああ、そうか。じゃあ順番に話す」

松岡はカウンターに両肘をつくと、右手の人差し指を立てた。それを振りながら、ゆっくりと話し出す。

「最初、あの新田の話を聞いた時。依羅さんが言っただろう? 『注目すべき点が何処か気付いたか?』って。あの『ドッペルゲンガー』の話の『注目すべき一番の点』は、  武田しか持っていない 筈のレギュラーのユニフォームを、ドッペルゲンガーが 着ていた という処なんだ。何故なら、新田も言っていただろう? 『一つしかない筈のユニフォームを着ていたのだから、武田でしかあり得ない』って。

だがあれは、両刃の剣だぜ。つまり言い方を変えれば、『そのユニフォームさえ着ていなければ、別人の可能性もある』という事なんだ。それだけが唯一、武田のドッペルゲンガーだという証拠って訳だ。誰もが 後ろ姿しか見ていない んだからな。他にもあの話の中には、ドッペルゲンガーの正体を探るヒントが幾つもあったぜ。『何度もサッカー部員に目撃されている』という事。『自転車に乗っていた』、それと『駅の反対側のホームに出た』という事。『寮の窓に現れた』という事。ドッペルゲンガーが本物でないとしたら、それらの事は、犯人を特定する大きな手掛かりになる」

「――本物かもしれないとは、考えなかったのか?」

俺の質問に「んー」と唸った松岡の向こうから、依羅さんが静かな声を出した。

「私達はね、そういった可能性をゼロとしている訳ではないんだよ。只――確証が持てない限り、『本物』だとは断定しない。そして確証を得る為には、『人間の仕業ではなかった』事を証明しなくてはいけないだろう? それには、『人間の仕業』として調査を開始するのが、一番手っ取り早い方法という訳だ」

「へぇ」

感心する俺をチラリと見遣ってから、松岡は言葉を続けた。

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