ストレイ・ラム

Motoki-rhapsodos

第44話

その声に顔を上げた松岡は、椅子から立ち上がりドアを振り返った。カランと控えめな音がして、ドアが開く。入って来た依羅さんは俺達を眺め、薄く微笑んだ。

「おはよう。丁度いいタイミングで来たようだ。私の分も、ちゃんと含まれているんだろうね? 友也」

コーヒーを注ぐ友也さんに、首を傾げるようにして訊く。

「勿論だ」

その答えに満足したように頷いて、依羅さんは松岡の隣に腰を下ろした。

「眠そうだね、保。私と一緒だ」

指で松岡にも座るよう示した依羅さんが、緩慢な動作で前髪をかき上げる。

「頼むから二人共。その顔でお客の前に立つ事だけは、止めてくれ」

俺達四人の前にコーヒーを置いた友也さんが、腕を組んで依羅さんと松岡を見下ろした。

それにククッと笑った依羅さんが、「了解」と片手を上げる。

「それで? 保。昨日の成果を聞かせてもらおうか」

味わうようにコーヒーを飲んでいた依羅さんは、不意に松岡に顔を向けた。それに頷いた松岡が、試合の様子やドッペルゲンガーが出現した事など、昨日あった事を何一つ洩らす事なく、依羅さんに話して聞かせた。その話し振りは的確で、無駄がなく余分な事も含まれていなかった。

意外な松岡の一面に驚きながらも、俺もその話にジッと聞き入る。しかし昨日同様、俺には事件の真相はさっぱりと掴めなかった。

だがさすがに依羅さんは違うようで、無言で松岡の話を聞いていたが、最後に一言。「解った」とだけ答えた。

「それで、これ」

ズボンのポケットから松岡が小振りの黄色い封筒を取り出し、それを依羅さんに渡した。封筒から便箋を取り出して、それにザッと目を通した依羅さんがコクリと頷く。

「そうだな、これでいいだろう。――友也」

人差し指と中指で挟んだ手紙を友也さんに渡して、肘をついた依羅さんは両手の指を組みその上に顎を乗せた。窺うように、上目遣いで友也さんを見上げる。

依羅さんと違って丁寧にそれを読んだ友也さんは、引き出しから赤い蝋を取り出した。手紙を戻した封筒に封をすると、その中心に蝋を垂らし、中指に嵌めた指輪を押し付けた。

「上出来だ」

ポンと松岡の頭を叩いて、友也さんは封筒を彼に渡した。「どうも」というように友也さんに頭を下げると、今度は松岡がその封筒を俺へと差し出した。新田に渡すよう、顎で示す。

「これが、昨日約束した護符だ」

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