ストレイ・ラム

Motoki-rhapsodos

第34話

俺達は確か、この武田にとって一番いい結果を出す為に此処に来た筈だ。それなのに、会っていきなり本人を脅えさせるような事を言うなんて……。

何を言い出すんだと伸ばしかけた俺の腕に、新田の手が触れた。目を向けると小さく首を振り、俺に頷いてみせる。

――いいんだ、これで。

声を出さない彼の唇が、そう動く。

「つまり、自分の影に脅えるような精神では、ドッペルゲンガーに取って替わられちまうって事さ。幻影なんかに、ナメられんじゃねぇぜ」

相手の反応を窺うようにジッと上目遣いで見つめていた松岡は、ニヤリと笑って軽く頭を下げた。

「今更だが、俺は松岡保。そしてこっちが山下一樹。――何にせよ、俺が来たからには大船に乗ったつもりで安心してていいぜ。ドッペルが出ないようにするくらい、どうって事ない作業さ」

自信満々の松岡の台詞に、武田は初めて屈託のない笑顔を見せた。

「ハハ。スゲー頼もしい助っ人ってヤツ? 俺は武田たけだ 昭弘あきひろ。よろしく頼むよ」

「昭弘。彼等が今から、ドッペルゲンガーが出なくなるよう手筈を整えてくれる。俺達は、邪魔だけはしないよう気をつけるべきだよ」

忠実に松岡の指示を守る新田が、武田に向かって言った。それに頷いた武田が、「それじゃ、まず何をすればいい?」と松岡に顔を向ける。

「取り敢えず、一昨日先輩達がドッペルを見たっていう、窓を見せてくれよ」

「お安い御用! ……だけどさ。今更その場所を見て何かの役に立つの?」

「ああ。一歩一歩、ドッペルに近付いていける筈だぜ」

「…………」

絶句する二人の代わりに、俺は二人の気持ちを代弁してみせた。

「近付くんじゃなくて、遠ざけなきゃなんないんだぜ」

それにクスリと笑った松岡が、「判ってる」と右手を振る。

「しかし遠ざける為には、出来るだけ近付いて、思いっきり突き飛ばしてやるのが一番の方法だと思わないか?」

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